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■ブログの背景変更しました
ブログのテンプレートをいじっていたのですが、背景画像が眩しいというお声がありましたので、明度を落としてみました。
眼には優しくなりましたでしょうか?
もし変わってないと感じられましたら、一度ブラウザで更新ボタンを押してみてください。
まだ眩しいようでしたら、工夫してみます

■恒例のまったり絵ちゃ
今回も大勢の参加、ありがとうございます。
アルシェリストの情熱は冷めるということがありませんね♪
当ブログの絵ちゃでは、皆様に話題を提供しようとお題を設けています。
今回のお題は、5話のデートで

アルト「なんで人は歌ったり飛ぼうとしたり、果ては宇宙にまで出てこようとしてるのかってね…」
シェリル「そうせずには居られなかったからに決まってるじゃない」


というやり取りがありました。
これに因んで、アルトっぽい台詞を語っていただこう、といものです。

ケイ氏
「何で人は妄想したりとか、果てはSSを書いたりするんだろうなって……」
「そうせずには居られなかったからに決まってるじゃない」


楽しい物語、素晴らしい登場人物を前にしては、問答無用で、そうせずには居られないのですね^^

向井風
「いや…どうして皆、オレ達を男女逆転させたがるのかってね…(遠い目)」
「そんなの『どっかの空バカがフガイなさすぎて』、そうせずには居られなかったからに決まってるじゃない♪」
「……orz」


ちょ、それはっw
がんばれアルト、君の未来は明るい(かも知れない)!

k142
(マクロス・クォーターのブリッジにて)
「どうして艦長はセクハラって言われてもモニカの尻をモミュモミュするのかねぇ」
「そうせずには居られないに決まってるじゃない。サーフィンするような根がナンパな男は『スキンシップ』って便利な単語を知っているものよ」
「あんまりイヤな感じを見せないからなぁ。モニカの恋は成就するのかな…」
「あとは相性…かな」


わー、ワイルダー艦長がダメ男にw

紗茶
「なんで最終回をむかえたのに、人はアルシェリ萌と果てしない妄想を止められないのかってね・・・」
「そうせずには居られなかったからに決まってるじゃない」


ええ、妄想は止まりません。ロマンティックも止まりません(古)。

姫矢咲楽
「何故、ランカの左右の髪は生き物みたくピコピコ動くのだろう?」
「そうならずには居られなかったからに決まってるじゃない」


まあ、答えは「ランカだから」ですね^^

でるま
「なんで人は、何度も見てるのにスロー再生したり繰巻き戻し再生したりしたりしてしまうんだろうってね・・・」
「そうせずには居られなかったからに決まってるじゃない」


ええ、ブルーレイディスクと本放送の録画を比較して見てしまうんですよね^^

春陽
「なんでアルシェリストは寝不足になってまでも深夜に絵チャで語るんだろうってね」
「そうせずには居られなかったからに決まってるじゃない」


そう、ここは目を見開いて見る夢の国。
今宵もアルシェリストたちの舞踏会が繰り広げられます。
……何か悪いものでも食べましたか→自分。

番外:辻音楽士
「なあ、シェリル。お前、あの島で、何で俺にキスを…」
「馬鹿…そうせずには居られなかったからに決まってるじゃない」


辻音楽士さまからは、ブログ拍手のメッセージでいただきました。
馬鹿、アルトは大馬鹿よっ!

なんか、最近、笑点の大喜利みたいなノリになってきた当チャットですが、その空気を読んで向井風さまが、司会風の和装シェリルと座布団運びのアルト君を描いてくださいました。

そして、ハロウィーンをテーマとして、参加者の目を楽しませてくださった、mittin様、向井風さま、紗茶さま、春陽さまありがとうございます。

■mittin様のお許しが出ましたので
試写会』のお話に素敵な挿絵が追加されました。
どうぞ、ご覧ください。

2008.10.31 
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2008.10.30 
地球型惑星インティ7は、厳しい乾燥と極端な気温変動で植民には向かないとされているが、極めて純度の高い黄金の露頭鉱床があるため、資源採掘拠点として有望視されている。
現在この惑星には、ガリンペイロ社とフォーティナイナーズ社の2社が入り、採掘プラントの設置と試掘を行っていた。

フロンティア艦隊から派遣されてた治安維持任務群の旗艦サドガシマ艦上。
「公演は中止だ」
今回の艦隊派遣で予備役から呼集され、少佐に昇進の上、現役復帰した早乙女アルトは妻に告げた。
「冗談でしょ? 私はやるわ」
銀河系音楽チャートの最上位、ユニバーサルボードで不動の地位を築いているディーバ、シェリル・ノームは首を横に振った。
「連中、発破用の反応弾まで持ち出している」
インティ7の地上では、採掘会社に雇用されているゼントラーディの巨人たちが、待遇改善を求めて物騒な労働争議を繰り広げていた。
背後には、星系外から反政府勢力の工作があるとされるが、詳細は分かってない。
「やると決めたら、やるのよ」
シェリルは頑なだった。
インティ7行政府は、ゼントラーディ用の懐柔策として、トップアーティストによる公演をフロンティア行政府に依頼した。一方で、治安維持部隊の派遣も要請している。
フロンティアがゼントラーディと地球人類の共存に関して実績と経験があるための判断だった。
娯楽の乏しい辺境の鉱山惑星で、ゼントラーディを過半を占める住人たちの緊張を緩和するには、最も効果的なのがコンサートというわけだ。今回は、フロンティア在住のトップアーティストとして、シェリル・ノームに白羽の矢が立てられた。
「それだけは絶対に譲れない。バルキリー分捕ってでも降りていくわ」
柳眉を逆立てたシェリル、その眼差しは力に満ちて美しい。
「お前一人ならそれでいい。バルキリーは俺が操縦してやる……だが、悟郎やメロディも居るんだ」
30代後半になったアルトシェリルには、成人した息子・悟郎と娘・メロディが居る。
悟郎はギタリストとして、メロディはバルキリーのパイロットとして今回の作戦に参加していた。
シェリルが無茶をしたら、子供達も黙っては居ないだろう。
「絶対、お前を守るためにやってくる。そういう子達だ」
アルトは言葉に重みを込めて言った。
もし、命令を無視するなら確実に犯罪者になってしまう。特にメロディは新統合軍での昇進の道を閉ざされる。
シェリルは不機嫌に黙ると、ディスプレイを見た。
褐色の大地に僅かな青い海、更に僅かな白い雲。インティ7のリアルタイム映像だ。
今この瞬間、バルキリーに乗ったメロディが偵察に大気圏内へと降下している。
「ガリア4か」
アルトの言葉に、シェリルは振り返った。
「違うわよ……アーティストとしてのポリシー」
言い返したが、言葉に勢いが無い。
「まだ治安維持部隊がインティ7を離れると決定したわけじゃないんだ。チャンスはある」
アルトはシェリルの肩を抱きしめた。

メロディ・ノーム少尉は、インティ7の政府機能が集中しているマイダス・シティの上空をVF-31に乗って偵察飛行をしていた。
主翼にぶら下げたセンサーポッドが情報を収集している。
「ここからでも見えるな。ドンパチやってるの……なんてこった」
タンデム配置の後席に座っているのは早乙女悟郎。流される血を思って吐き捨てた。
ゼントラーディサイズを前提に作られた巨人街のあちこちで、銃火や、火災の黒い煙、発炎筒の白い煙が見られる。
行政府の警察部隊が鎮圧に出ているが、作業用のパワードスーツ(クァドラン・ローやヌーデジャル・ガーの民生型)まで持ち出している暴徒に対して、旗色が悪そうだ。
「暴徒は対空火器を持ってないと思うけど、油断しないでよ」
センサーポッドから流れ込んでくる情報をモニターしながら、メロディが言った。
本来は民間人がこのような事態で軍用機に便乗できる筈は無かったが、今回の作戦ではシェリルと並ぶVIPという立場を利用して、悟郎はメロディ機に同乗した。
「何か打つ手はある?」
必要な偵察飛行を終えると、メロディは機を上昇させた。
軌道上で待つサドガシマを目指す。
「戦場が広過ぎる……たとえばVF-31にスピーカーを積み込んで鳴らしても、戦場全域に曲を響かせるなんて難しいな」
悟郎は野外ライブの経験から考えた。広過ぎる会場では音を隅々まで行き渡らせるのは難しい。
「ねえ」
メロディが言った。
「何だ?」
「お母さん、様子が変じゃなかった?」
「ヘン?」
悟郎は重力を振り切って加速するVF-31のパワーを感じながら答えた。
「上手く言えないけど……ものすごく力が入っているみたい」
メロディは自動巡航モードに切り替えて、操縦桿を握っている手を緩めた。
「多分、ガリア4のこと、思い出しているんじゃないか?」
悟郎はアーティストとして、シェリル・ノームのディスコグラフィを調べていた。
「ガリア4?」
「シェリル・ノームが唯一、体調不良で公演を取りやめた星だよ。それで、自治派のゼントラーディ兵が反乱起こしたって言う」
「あ」
メロディの中で記憶が繋がった。
2059年、メロディたちが生まれる前の事件だ。
反乱部隊はシェリルとスタッフ(アルトを含む)を人質にして新統合政府に自分たちの宇宙船を要求したと言う。
「ランカさんの……」
反乱はランカ・リーの歌声で鎮圧された。あまりに劇的な展開は、超時空シンデレラ・ランカの名声を、この上なく高めた。
「きっと、すげー悔しかったんじゃないか。ランカちゃん、プライベートじゃ母さんの友達だし、今でも仲良いし……でもな。知ってるだろ?」
悟郎は惑星からの光を浴びて浮かび上がるサドガシマや他の艦艇の姿を眺めた。
メロディは無言だったが、悟郎の意見には賛成している。
歌うために行ったのに歌えなかった。
反乱を鎮めたのは他人の歌だった。
「誇りを取り戻すため……?」
歌手としての自分に強烈な自負心を抱いているシェリルを幼い頃から見てきたメロディは、母親に憧れと反発を同時に感じていた。
「絶対、歌わずにはいられないだろうな。賭けたっていい」
悟郎は覚悟を決めていた。
「親子公演は、大荒れになりそうだ」
シェリルと同じ舞台に立つのは、9歳でデビューしたての頃以来だ。

任務群の司令官は早乙女家の面々や、主要メンバーを集め、急変する状況に合わせて作戦の変更を検討した。
副官の中佐は、惑星全体図と、最も大きな騒乱が起きているマイダス・シティの地図を表示させた。
「現在、マイダス市域で10万人規模の暴動が発生しています。問題なのは、デモのような形で団体行動するのではなく、散発的に各地で小競り合いが間断なく起きています。この為、地元の警察部隊も勢力を分散させなければなりません」
司令官が顎に手をやった。
「どうも、事前にかなり準備をしたようだな……反統合勢力による組織的な関与があるのではないか?」
「はい。これに関しては行政府の情報部門も認めています」
副官は当初の作戦案をディスプレイに表示した。
「シェリル・ノームさんのライブを開き、沈静化したところで、我々の海兵部隊で武装解除、兵力の引き離しをする予定でした。しかし、この状態ではライブを開いても、耳を傾ける者は少ないでしょうし、アーティスト、スタッフの安全も保障できません」
「私の安全に関しては、考慮していただなくてけっこうです」
シェリルが断言した。
隣に座っているアルトは苦笑気味に唇をゆがめたが、会議卓の下でシェリルの手を握って励ました。
シェリルも握り返す。
ブリーフィングルームにどよめきが広がった。
「お気持ちは、ありがたくお受けします。しかし、命をかけるのは軍人の職分。民間人の協力者を危険に晒すのは、軍人としてのモラルに反します」
司令官が敬礼した。
「この状況では、暴徒をどこかへ誘導するか、都市全体に同時に効果を発揮する手段を用いなければなりません。現状では、高濃度の沈静化ガスの使用も検討されていますが、事故や後遺症を考えると望ましくありません」
副官は状況を総括した。
「発言してもよろしいですか?」
手を上げたのは悟郎だった。
「どうぞ」
副官が促す。
「ええと……これは、野外コンサート用の機材として持ってきたサウンドボールです」
立ち上がった悟郎は、サッカーボールよりやや大きめの白い球体を手に持っていた。
母親似のストロベリーブロンドと青い瞳の青年は、そこにいるだけで注目を集める。
「球形のスピーカーで空中に浮かべて使います」
手を離すと、サウンドボールはテーブルの上で浮遊した。ボール全体が小刻みに振動してロックのビートが流れ出す。
「ゼントラ用の野外コンサートということで、かなりの数を持ってきてるんです。これを市内に飛行機から投下してはどうですか?」
本来の用途は、広い会場の野外コンサートでメインのスピーカーを補助する機材だった。音速の性質で、会場の端と端で聞こえる音に時差が生じるような会場では、普通に使用されている。
「悟郎……」
シェリルは息子の横顔を見上げた。
「曲は、こんな感じで流します」
悟郎は携帯音楽プレイヤーを操作し、サウンドボール経由で別の曲を鳴らしてみた。
バスドラの重低音が響き渡る。
そこにベースの響きが重なり、甲高いギターの音色がかぶさる。
聞く者に期待感を抱かせる音。
「サウンドボールの表面に文字もディスプレイできます」

無政府状態に陥って3日目の夜。
暴徒となったゼントラーディ達は、低空を降下するVF-31の編隊飛行を目撃した。
VF-31が航過すると、空から白いボールが降ってくる。サッカーボールからアドバルーン並みの大きなものまで、さまざまなサイズのサウンドボールから音楽が流れ出す。
バスドラとベースの重低音に重なって、ギターの高音が雄弁に語りだす。
サウンドボールには矢印が表示され、一部の市民がそれに釣られてマイダス・シティ中央に広がるセントラル・パークへと誘導された。
サウンドボールが赤く輝いて、ここから立ち入り禁止の文字を表示する。
天空から轟音。
何事かと空を見上げる者。
うずくまる者。
遮蔽物を探す者。
舞い降りてきたのは、頑丈を形にしたかのような機体VB-6ケーニッヒモンスター。
公園の中央に着陸すると、ケーニッヒモンスターの広い背面の上に立つ人影が現れた。
早乙女悟郎が超絶のテクニックでギターをかき鳴らす。
曲は『突撃ラブハート』。
上空からVF-31が翼下に下げたスポットライトで照らす。
光条が交差する箇所にシェリル・ノームが登場した。

 LET'S GO つきぬけようぜ
 夢でみた夜明けへ
 まだまだ遠いけど
 MAYBEどーにかなるのさ
 愛があればいつだって

可変爆撃機の上を即席の舞台にして、ディーバの歌声が響き渡る。
立体映像の投影システムが、拡大したシェリルと悟郎の姿を乾いた夜空に映し出した。

 夜空を駆けるラブハート
 燃える想いをのせて
 悲しみと憎しみを
 撃ち落としてゆけ
 お前の胸にもラブハート
 まっすぐ受け止めてデスティニー
 何億光年の彼方へも
 突撃ラブハート

サビは二人のコーラスだ。
背中合わせで歌う姿に、戸惑っていたゼントラーディ達も拳を振り、足を踏み鳴らして曲に乗る。
「メロディ、スモーク・オン」
“ラジャー”
コンサート会場上空をアルトとメロディの操る機体が、背中合わせでコークスクリュー回転を繰り広げる。
蛍光を発するスモークが夜空に描くラインに、歓声がひときわ大きくなった。
VF-31が航過すると、轟音の後に沈黙が訪れる。
夜気を震わせてギターがコードを奏でる。

 耳をすませば
 かすかに聞こえるだろ
 ほら あの声
 言葉なんかじゃ
 伝えられない何か
 いつも感じる
 あれは天使の声

静寂に響き渡るスローナンバー。
熱気バサラのヒット曲を知っている者も多く、声を合わせて歌う者も増えてきた。
ゼントラーディの巨体から生み出される声の響きが街に広がってゆく。

 耳をすませば
 いつも聞こえるだろう?
 ほら あの声
 あれは天使の声

最後のフレーズの余韻が消えると、シェリルが大きく手を振った。
「ようこそ、シェリル・ノームのライブへ!」
トップスはビキニの上に、フライトジャケット。ボトムはデニムのホットパンツで衰えを知らない脚線美を惜しげもなくさらす。スポットライトの中でジャケットに縫い込まれた発光素子がキラキラと輝いた。
「今夜は、リスペクトしている熱気バサラのカバーから……聞こえたかしら、あなたの天使からの声?」
マイクをオーディエンスに向ける。
歓声が応えた。
「OK、じゃあ、次の曲は……判ってるわよね? うちのギター馬鹿クン」
黒のジャケットにジーンズ姿の悟郎は苦笑すると、ギターを鳴らし、高音を強く歪ませた。
「私の歌を聴けぇ!」
『射手座☆午後九時Don't be late』が始まる。

“暴徒が所持していた反応弾、無力化に成功しました”
“扇動者を摘発”
この機に乗じて、地元警察部隊が暴動をコントロールしていた組織を制圧にかかった。

 持ってけ 流星散らしてデイト
 ココで希有なファイト
 エクスタシー焦がしてよ
 飛んでけ 君の胸にsweet
 おまかせしなさい
 もっとよくしてあげる アゲル
 射手座☆午後九時Don't be late

アルトは、マイダス・シティの一画から急上昇するVF-19Cを発見。
「メロディ、不審な機体を発見。押さえるぞ」
2機のVF-31は挟撃するべく急行した。
特徴的な前進翼を持つVF-19Cは、気圏内で高い機動性能を誇る。
アルトからの警告にも関わらず、強引に飛び続けた。
パイロットはよほど技量に自信があるのか、それとも破れかぶれになっているのか。
“行きます!”
メロディが叫ぶ。父親譲りの琥珀色の瞳に輝きを宿す。
VF-31の大推力にものを言わせ、VF-19Cの頭を塞ぐように遷移。
回避しようとしたVF-19Cの行く手をアルト機が抑えた。
演習モードに設定して出力を落としたレーザー機銃が、VF-19Cの機体を撃つ。
慌てて逃れようとしても、メロディからのレーザー機銃が照準されて、逃げようが無い。
2機のVF-31に挟まれて、VF-19Cはマイダス宙港へと誘導されていく。
後に判明したことだが、パイロットはガリンペイロ社やフォーティナイナー社とはライバル関係にある企業が派遣した工作員だった。

夜明け前。
アルトはVF-31の後席にシェリルを乗せて惑星インティ7の高緯度地帯を飛行していた。
「どこへ向かってるの」
ライブの余韻に頬を火照らせながらシェリルが言った。
「観光スポット……ここの行政府の人に教えてもらった」
座標を確認しながらアルトが言った。
「3時方向……右を見てろよ」
地平線からキラリと曙光が見える。
その光が地上で反射した。
「何、これ?」
シェリルの青い瞳を黄金の輝きが染めた。
「この星で、最大の金露頭鉱床」
直径10kmを超えるクレーターの底に、鏡のような黄金の平原が広がっている。
そこに主恒星の光が反射して、滅多に見られない光の競演が現れる。
さすがのシェリルも言葉を失った。
「よくやったな、シェリル」
アルトは黄金の平原がよく見えるようにと、機体を傾けた。
「でっかい金メダルみたいだ」
アルトが言うと、シェリルはくすっと笑った。
「首に下げるには大きすぎるわ」
「ああ」
アルトもひとしきり笑った。
笑い合ったあと、シェリルがポツリと呟くように言った。
「……一人前になったのね」
悟郎のことを言っているのだろう。
シェリルが行き詰まった時に、解決策を出してくれた。
「ああ」
アルトもメロディの働きを思い返してうなずいた。
「ちょっと寂しいわ」
子供達が手を離れたのを実感するシェリル。
「いいさ、また二人きりになったって思えば……それとも、もう一人ぐらい作るか?」
「それもいいわね」
シェリルはこちらを肩越しに見つめているアルトに投げキスを送った。
「その前に、もっとデートするわよ。素敵なコース考えなさい」
「了解」
VF-31は翼を翻し、軌道上の母艦へとコースを変更した。

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2008.10.29 
さーて、最近の絵ちゃでは、皆様に話題を提供するため(建前)に、お題と称してテーマに沿った短い文章を考えていただいております。
今回は本編5話で印象深かったあのシーンに題材をとってみました。
ゼントラ・モールでデートするアルトとシェリル。
シェリルに霊感が降ってきて、手近なものにフレーズを書き記します。
その様子にアルトが呆れたような、感心したような口調で言います。

「なんで人は歌ったり飛ぼうとしたり、果ては宇宙にまで出てこようとしてるのかってね…」

シェリルが応えて。

「そうせずには居られなかったからに決まってるじゃない」

今回は、この時のアルトのセリフっぽくネタを語っていただきましょう。
例文を下に挙げておきます。

「どうして8話で脚本家の吉野さんはパンツにこだわったんだろうってね…」
「そうせずには居られなかったからに決まってるじゃない」


絵ちゃに参加される皆様のチャレンジをお待ちしてます♪
時間は30日24時から。
お暇な方はどうぞいらしてください。

2008.10.28 
愛機VF-25Fは傷ついた翼で懸命に風を捉え、揚力をかろうじて生み出していた。
コクピットのディスプレイにはアラートのサインが満ちていた。
いまや、完全に機能しているパーツを探す方が難しい。
アルトはキャノピー越しに肉眼で浅海に着水したアイランド1と、バトルフロンティア、マクロス・クォーターの姿を捉えた。
そしてシェリルのイヤリングを経由して伝わってくる、シェリルランカの存在感。
バジュラ女王の惑星を巡る戦いは終わった。
澄んだ大気の中をVF-25Fが駆け下りて行く。
ひときわ大きな警告メッセージがヘッドアップディスプレイに表示された。
飛行姿勢維持不能。
アルトはバイザーの破れたヘルメットを脱ぎ棄て、緊急脱出のレバーを引いた。
キャノピーが吹き飛び、EXギアごと射出される。
空中で反転し、落ち行くVF-25Fに向けて敬礼を捧げる。
(ありがとう、メサイヤ)
VF-25Fは、機体を守るエネルギー転換装甲用のパワーを使い尽くし、白く美しかった表面は無残に焼け焦げていた。プラズマの名残りを炎のように閃かせながら錐揉み回転しつつ青い海面に消える。
アルトはEXギアの翼を展張した。
すぐに風を捉えた。
惑星の風を全身で感じながら飛ぶ。
(これが空……シェリルランカが開いてくれた、本物の空)
シェリルランカは海岸にある小高い丘の上に立っていた。
ふと悪戯心を出して、急降下。風を巻き起こし、二人の上空を加速しつつ航過した。
振り返れば、二人が髪を押さえてこちらを見上げている。
反転して緩降下。
少し離れた所に着陸した。
過熱したバックパックを切り離して、シェリルランカの元へ駆け寄る。
アルト君!」
ボールみたいに弾むランカ
アルト!」
豊かなブロンドと衣裳のフリルをなびかせてやってくるシェリル
二人の手を取って輪になる。
「シェリル……ランカ……!」
今はその言葉しか出てこない。
達成感・安堵・歓喜そして哀悼……あふれ出そうになる感情が、言葉を失わせていた。
最初に口を開いたのは、ランカだった。
「あの……お兄ちゃん…ブレラお兄ちゃんの所に行くね。また、後で…」
ランカは小走りに駆けだした。

重装甲を誇るVF-27は傷つきながらもガウォーク形態で惑星表面に着陸し、ブレラを送り届けてくれた。
(傷だらけだな……これでよくもってくれた)
地表に降り立ったブレラは愛機の装甲を掌でいとおしむように撫でた。
この機体にそんな感慨を覚えたのは初めてのことだった。自分の変化に戸惑いながらも、感動を味わう。
鏡面処理された部分にブレラ自身の顔も映る。
「ふっ」
端正な顔は左半分が焼け爛れていた。
マクロス・クォーターが放った主砲の衝撃波に巻き込まれた時に、機内で発生した誘導電流で負った傷だった。
痛覚は遮断しているので、どうということはないが、その結果として外部からの強制コマンドを受信するレセプターが破壊されたのは、まさに怪我の功名と言えた。
「お兄ちゃん!」
振り返ればランカが駆けてくる。
ルビー色の瞳に涙をためている。
「どうした、ランカ……どこか怪我でも……」
「ううん」
ランカは兄の胸に飛び込んだ。手を伸ばしてブレラの髪をかきあげる。
「お兄ちゃんこそ、ひどい傷」
「ああ、なんという事はない。すぐに補修できる。痛覚も遮断した……それより、お前」
ブレラは指でランカの睫毛を濡らす滴を拭った。
「ううん。大丈夫。ちょっと心が痛いけど……でも、こうした方が良いと思うから」
ランカはブレラの胸に顔を埋めた。

微かな胸の痛みとともにランカの背中を見送っていると、シェリルが言った。
アルト、追いかけなさい! ランカちゃん……」
「その前に」
アルトは振りかえった。
「続き……聞くんだろう?」
シェリルは、はっとした。
出撃前、アルトが告げようとした言葉をキスで遮った、その言葉だ。
「俺は、お前と飛びたい」
言葉は短かったが、アルトにとって空がどんなに大切なものかを知っているシェリルには、万感の思いが伝わった。
「でも…」
想いを受け入れることに戸惑うシェリル。
アルトは、ふっと唇を笑みの形にした。
「ビビってんのかよ」
シェリルはキッとアルトを強い眼差しで見つめた。
「何よ、アルトの癖に……アルトの癖に、偉そうな事、言ってるんじゃないわよ」
最初は激しい語気も、次第に尻すぼみになった。
「ビビってないなら、返事しろよ」
アルトは自分の耳からイヤリングを外すと、シェリルの耳朶につけなおした。
「くっ……」
シェリルは反射的に何か言い返そうとして、唇を噛んだ。
アルトは外していたバックパックをもう一度背負うと、シェリルを横抱きにして飛び立つ。
「きゃぁ! 何するのよ!」
急激な加速度に悲鳴を上げるシェリル。
「体に判らせてやる!」
上昇気流に乗って高度を稼ぐ。たちまち、マクロス・クォーターのブリッジの高さを超え、バトルフロンティアのブリッジより高く飛ぶ。
「これが……シェリルとランカがくれた空……そして、あのガリア4から続く本物の空だ」
アルトの言葉にシェリルは胸がいっぱいになった。
アルトの誕生日プレゼントとして贈るはずだった空を、今、惑星を代えて二人で飛んでいる。
シェリルは体をEXギアの腕に預けて言った。
「判ってるの? その……私、アルトの思いを受け止められないかも知れないのよ」
V型感染症がどうなったのか、この時点では判らない部分が多い。シェリルの体調は嘘のように良くなっているが、それが今後も続くものかどうかは断言できない。余命も判らない。
「絆はいろんな形がある」
アルトは脳裏に父母の絆を思い浮かべていた。
EXギアは緩やかに高度を上げ、着水したアイランド1の天蓋の上に着陸した。
シェリルはアルトの手を借りて降り立った。
風に乱れる髪を押さえながらアルトを振り返る。
「いつから、一人で飛んではいけないって思った?」
アルトは蒼穹を仰いだ。
青空を透かして、宇宙空間に浮かぶバジュラの巨大な“巣”が見える。
「美星学園でランカのライブがあっただろ? あの時、飛んでて……何もかもが完璧にできた。ルカやミシェルとのチームワークで」
ミシェルの名前を口にするたびに、取り返しのつかない喪失感が胸を突く。
「ええ、素晴らしかった」
シェリルも頷く。
「その後、恋人ごっこしてた頃に…」
アルトはシェリルの言い回しを借りて言った。
シェリルは、くすぐったそうな表情になる。
「訓練や任務から帰投する時に、お前、桟橋公園で待っていただろ」
「迷惑だったんでしょ?」
「まぁな。照れくさかった……嬉しかった。飛んで、帰る場所があるのが」
シェリルはアルトに背中を向けた。
「あのアパート、時々アルトの方が、先に帰ってたことあったじゃない」
フロンティア行政府がシェリルのための住まいとして提供したアパートの鍵は、シェリルとアルトが一つずつ持っている。
「ああ」
「自分が帰る部屋に明かりが灯っていて、ドアを開けると部屋の空気が暖かいって素敵な事ね。オカエリって……最初聞いた時には変な言葉って思ったけど」
フロンティアの社会でも、“お帰りなさい”という挨拶は日系人しか使わない。
「でも……聞けないと寂しいわ」
アルトは背中からシェリルを抱きしめた。
「たとえ同じ場所にいなくても、お前は俺と一緒に飛んでたんだ……これからも、一緒に飛びたい」

バトルフロンティアの戦闘指揮所で通信オペレーターが声を上げた。
「司令! アンノウン(未知の相手)からの通信を受信。相手は……バジュラと名乗っています!」
指揮所全体がどよめいた。
「通信回線開け。セキュリティチェックを三系統で独立して走査せよ」
音声とデータによる通信が流れ込んでくる。意外なことに、新統合軍が運用しているフォールド通信プロトコルに完全に則したデータ形式だった。
“私たちは、伝えたいことがある。あなた達に”
穏やかな女性の声で始まるデータが戦況ディスプレイに表示される。
「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ……グレイス・オコナーめ、自分たちがバジュラのプロトコルを解析しているつもりで、自分たちも解析されていたのだな」
フロンティア艦隊司令はニーチェの言葉を引用して状況を要約した。
バジュラからのデータ内容は多岐に渡っていた。
整数の数列と円周率のデータ。
基礎的な物理単位。
バジュラ女王の惑星の天文学的な諸元。
バジュラと人類の間で通信プロトコルの策定に関する提案。
バジュラ側からの大使の派遣。
人類側の窓口についての質問。
戦後処理……等々。
「我々も変わらねばならん」
仮にも、言葉が通じて人型のゼントラーディとさえ軋轢が消え去ったわけではない。
その上、人の形でもなく知性の種類さえも違うバジュラとの交渉をしなければならない。
艦隊司令は遥かに続く道のりを思った。
だが、その先に微かな希望の光が見える。
子供たちに伝えるべき未来がある。

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2008.10.27 
■ブログが便利だと感じる瞬間
贖罪・前編』を書いていてバサク中佐の所属をどーするか考えていました。
切れ者っぽい所属ということで参謀本部ということにしました。頭が良くて家族思いのお父さんが犯罪に走ってしまう、というシチュエーションを用意して、物語の悲劇性を高める効果を狙います。
や、モノカキとは、ひどい人種ですよねぇ。

ところが、ブルーレイディスクの3巻を購入して視聴。
6話でキャシーが自分の所属を幕僚本部と言ってます。
ありゃ?
参謀本部じゃなかった?
でも参謀と幕僚ってどー違うんだろ?
なんか同じような仕事みたいだけど。

調べ物開始。
どうやら、参謀と幕僚では語源は違うが、現在では似たような意味で使う国もあるとのこと。例えば日本とかアメリカ。
参謀は作戦立案を担当する職で、作戦の結果については責任を追わない
幕僚は作戦実行の補佐をするスタッフ、らしい。

マクロス・フロンティア船団の規模(東京都ぐらいの人口だっけ?)からすると、参謀本部と幕僚本部を別に運用するメリットはないだろうから、バサク中佐の所属は幕僚本部にしよーっと。
こんな風に修正できるのがブログのいいところですね。

■矛盾
マクロスFのアバンタイトルで、この時代の移民政策を『人類播種計画』と呼んでいました。
グレイスたちが企画したゼロタイム・インプラント・ネットワークって本質的に矛盾する思想なのですが、グレイス(とマクロス・ギャラクシーの資本家たち)は、これをどう解決するつもりだったんでしょうか?

最初の星間戦争となった第一次星間大戦の結果、地球人類は壊滅的な打撃を被りました。
リン・ミンメイの歌でかろうじて勝利を得ましたが、次に同じ規模の戦争が起これば耐えきれない。
そこで、保険として銀河系の各所に植民し、どこか一か所が全滅しても他所で生きながらえる戦略を採用したのが『人類播種計画』。

どころが、ゼロタイム・インプラント・ネットワークを採用すると、情報は銀河の端と端でリアルタイムに接続できる。
これは利点ですが、同時に“敵”に利用されれば命取りです。
また、タイムラグ無しの通信システムで人類社会が均質化するのですが、これも同じく危険な側面もあります。銀河系社会全体が同じ原因で崩壊する危険性を内蔵することになるからです。

丁度、今のサブプライム問題で大きく動いている経済問題を想起していただくと判り易いでしょう。
地球全体がアメリカと同じ経済システムを採用していれば、同じ原因で経済危機を迎えます。
しかし幸いなことに、経済システムは国境で分断されています。この状況で日本が比較的ノホホンとしてられるのは、分断のおかげなのですから。

2008.10.26 
■絵ちゃへの参加、ありがとうございました
先日10月23日24時より開催されました、まったり絵ちゃへのご参加ありがとうございました。
放映終了にも関わらず、多数の参加、うれしかったです。
さて、最近の絵ちゃでは“お題”と称して、マクロスFに因んだ川柳などを作って、入室時に発表していただいてます。
今回は“今の心境をマクロスFの次回予告っぽく語って下さい”というものでした。
力作ぞろいですので、ここで発表します。

extramf
「シェリルの宇宙兄弟船には遠藤綾さんのMCは入るのか? 徳川さんの元祖宇宙兄弟船はシングルカットされるのか? 次回マクロス・フロンティア。兄弟船の歌、銀河に響け!」
クリスマスには『シェリルの宇宙兄弟船』や『ランカとボビーのSMS小隊の歌』などが収録されたマキシシングルが出るとのこと。楽しみですね♪

salala様
「風邪をひいたsalalaにニンジンは効くのか!? 次回マクロス・フロンティア、ニンジーンの歌、銀河に響け」
素敵なMADで楽しませて下さるsalala様。
急に冷え込んできました。どうぞ、ご自愛ください。

春陽さま
「底辺を這いずるやる気。 それでもアルシェリを叫びたい厨脳が救われる日が来るのか!? 次回マクロスフロンティア アルシェリストの魂の歌、銀河に響け!!」
なーんか、最終回後の虚脱感をよーく表しています。
アルシェリスト魂の叫びですね。

ケイ氏
「銀河に轟く劇場版。新しいシーン。新しい場面。人はそこに何を見るのか。シェリルはそのまま駆け込めるのか。ランカはひっくり返せるのか。そしてアルトはキチンと決断を出来るのか。次回マクロスフロンティア劇場版 アルシェリよ永遠に~ 愛の歌、銀河に響け!」
今回初参加のケイ氏は、ハードでシュート(真剣勝負)な戦闘シーンを描かせたら右に出る者無しの字書きさんでいらっしゃいます。
“腸時空ランカちゃん”のシリーズ楽しみにしてます。

k142様
「…ナナセを想うルカ、そして腐女子まっしぐらのナナセ、すれ違う想いはナナセの視線の先にあるランカとアルトの関係に何を投げかけるのか… 次回 マクロスフロンティア『熱視線』妄想の歌、銀河に響け!」
こちらも初参加のk142様。
ルカは報われて欲しいですよね。
本編ではナナセからオウト・オブ・眼中っぽい扱い方されてましたけど、25話のラストで彼女の元へ駆けていく一途なルカを見て、彼の幸せを祈らずにはいられません。

bon様
「シェリルとアルトの熱愛スクープはいつなのか?次回マクロス・フロンティア。スキャンダルの歌、銀河に響け!」
次に記者会見が待ってるんですね。判ります^^
よく女性芸能人が婚約発表会見でやる、指輪を見せるポーズをしているシェリルが目に浮かびます。

ゆき様
「一夫多妻?、お前達は俺の翼だ!アルトはどっちを選ぶのか?!映画で結論はでるの?次回マクロスフロンティア、アルシェリストの歌銀河に響け!!!」
劇場版、どーなるんでしょーねー?
とりあえず私は、観に行って、OSTは買って、ブルーレイも購入すると思います。
……すっかり河森総監督の術中にハマってます><

紗茶さま
「アルトの二人とも俺の嫁発言はくつがえるのか!? アルシェリラブエンドは見れるのか!? アルシェリストの心臓はもつのか!? 次回マクロスフロンティア映画。アルシェリストの思い、監督に届け!」
紗茶さまには、素敵なイラストで当ブログの拍手2200hitを祝っていただきました。ありがとうございます。

extramf
「小説3巻では、結論は出るのか? 小太刀右京先生の目指す方向は? 次回マクロス・フロンティア、バトロイド歌舞伎の歌、銀河に響け!」
小説版2巻を読了して、運命の惑星ガリア4でアルトが見せるバトロイド歌舞伎の印象が強かったもので、つい(笑)。

朝英さま
「それはアルシェリストの気持ち。映画でこそ!小説でこそ!次回、アルトの決断。シェリルの歌、映画で響け」
初参加の朝英さま、最終回っぽい感じですね。
やっぱり劇場版に期待(恐怖?)する気持は、みんな共通のようです。

kuni様
「RADIO MACROSS で行われたバサラとランカの邂逅 もしFに出現したら即話が終わると言われたバサラの出現は、皆に何を感じさせるのか 銀河に響けバサラの熱唱 次回“オレの歌を聞けー!”」
ラジオで放送されている『RADIO MACROSS』面白いですよねー。マクロス関連の情報はアテにならないけど(笑)。
2059年現在、マクロス7シリーズの主人公・熱気バサラは、どこで何をやっているのでしょうか?

姫矢咲楽さま
いつも楽しい考察ありがとうございます。
執筆が止まっているというショートストーリー、完成を心待ちにしております(とさりげなくプレッシャーをかけてみる…笑)。

向井風さま
「シェリルの幸せを願うアルシェリスト達の想いは河森監督に届くのか?  次回マクロスフ・ロンティア、ウェディング・ベルよ、銀河に響け!!」
「DVD (or ブルーレイディスク)は果たして発売されるのか?  次回マクロス・フロンティア、ライブの歌、銀河に響け」

絵ちゃは寝過して参加できなかった向井風さま。後で、メールにてお題をいただきました。
ライブのDVDは見たいですね~。参加された向井風さまと、感動を共有したいです。

ええ、決してブログ更新のネタに困って、参加者さんをネタにしようなんて、そんな料簡持ち合わせてませんヨッ(視線をあさっての方向にそらしつつ)。

■ブルーレイディスク3巻を購入
初回特典は卓上カレンダー。
キャラクターデザイン担当の江端さんが描くシェリルのスケッチが入っています。
さらに、2009年と2059年のカレンダーが裏表になっています。
2059年の面にはシェリルのスケジュールが手書きで入っていて、シェリル・ファンならニマニマできるはず。

ディスクの中身は、前半の山場5話から7話までを収録。
5話のアルトとシェリルのデートは言うまでもなく素敵なのですが、6話と7話、シェリルのライブシーンが綺麗になっている? 特にシェリル、美人度がアップしてます。入手された方は、ぜひ確かめていただきたいところ。

付録のオーディオコメンタリーは、アルト役中村さん、ミシェル役神谷さん、ルカ役福山さん。
5話から7話にかけては、声優陣はシナリオの先を教えてもらってなかったので、誰か先に死ぬんじゃねーかと、戦々恐々してたとの由(笑)。
特に、オズマとルカが死ぬんじゃないか。7話でバジュラにルカが拉致されるシーンを台本で見た時は、福山さんはルカが死ぬと思ったそうです。

2008.10.25 
■心残りを片づけて
贖罪』を書き終えて、ちょっと、ほっとしているextramfです。
さー、次はリクエスト話にとりかかるぞぉ。

■絵ちゃ
今夜24時から恒例の絵ちゃをします。
絵が描けなくても歓迎です。まったり、マクロスFネタで盛り上がりましょう。
先日はアイランド・オーサカでライブがありましたね。
ライブに行った方のご参加をお待ちしてます。
行けなかった民草にお話聞かせてくださいm(__)m

2008.10.23 
(承前)

惑星近傍で繰り広げられる戦闘。
大出力・強武装・重装甲を誇るVF-27SF同士の決戦は互角だった。
互いに命中弾を与えながら、致命傷は無い。
機体の扱いはスコルツェニー少佐に一日の長がある。
この宙域についてはブレラの方が詳しい。
“やるなアンタレス1。不意打ちじゃなくても、戦えるんだな!”
「くっ」
サイボーグとは言え、脳髄は生身。激しい機動のもたらす加速度がストレスとなる。
戦場は大気圏ぎりぎりの高度まで下がってきた。機体にわずかながら大気分子の抵抗が感じられる。
(あと3.25秒)
ブレラは脳裏に刻み込まれた恒星系の位置関係を確認した。
“どした、フラついてんぞぉ!”
スコルツェニー少佐のサディスティックな罵声と共に、出力を上げた重量子ビームが放たれる。
ディスプレイ上でブレラ機の反応を示す数値が急激に上昇した。
“殺った!”
光学センサーで見れば、急激に膨れ上がる光芒が見える。
ブレラ機が爆散した!)
しかし、その光芒の中から必殺のビームが放たれた。
勝利を確信したまま、スコルツェニー少佐は愛機と共に爆発・四散。
残骸と破片は重力に引かれて大気圏へと落ちてゆく。
惑星表面から見上げれば、夜明けの空に時ならぬ流星雨が見えただろう。
ブレラは、ほっとした。
自分の機の位置と日の出のタイミングを合わせて、スコルツェニーを欺いた。
相手が戦いに逸っていたのを見越した賭けだった。
“アンタレス1、無事か?”
「ピクシー1、無事だ」
クランクランとネネ・ローラのクァドラン・レアが接近してくる。
“遺恨は晴らしたか?”
「ああ。ありがとう」
ブレラはピクシー小隊が決闘が終わるまで手出しをせずに見守ってくれたことに対して礼を述べた。
“そんな殊勝な台詞がお前から出てくると、びっくりするな。今しがた、アルトから通信が入った。ランカは無傷だ。マクロス・クォーターに収容されている”
「了解、これよりマクロス・クォーターに向かう」

マクロス・クォーターの居住区画。
空いている士官用の部屋にランカは収容された。
パイロットスーツ姿のブレラが駆けつけると、部屋のドアが開いて白衣を着たカナリアが出てきたところだった。
「どうした、何かあったのか?」
ブレラが詰め寄ると、カナリアは淡々と説明した。
「健康だ、肉体的には。しかし、心にダメージを受けている。そばに居てやってくれ」
「心に?」
「ああ。ランカの目の前で、誘拐犯の一人が射殺、一人が服毒自殺した」
ブレラは部屋に飛び込んだ。
ゆったりとした寝台の上で、艦に備え付けの寝巻きに着替えたランカがうつ伏せになっていた。
ランカ……」
ランカは顔を伏せたまま、こっくりと頷く。
ブレラはベッドのそばでひざまずいて、ランカの手をそっと握った。
ランカも握り返してくる。
時計の長針が半周する程の時間、兄妹はそうやって寄り添っていた。
「お兄ちゃん」
長い沈黙の後、ランカがようやく口を開いた。まるで喉が錆び付いているかのように、ぎこちない喋り方だった。
「辛いなら、話さなくていいぞ。いつまでだって付き合ってやる」
ブレラは平板な口調で言った。
こんな時、オズマなら、アルトなら、どんな風に声をかけるだろう。想像もつかない。
そんな自分が嫌になる。
「あたしのした事、間違ってたのかな?」
くぐもった声は、今にも泣き出しそうに聞こえた。
「誰もが間違っていた。誰にとっても予想外の出来事が続けて起こったから……間違いが少ない人間が生き残った」
「でもっ……あたしのせいで自殺した女の子は、何を間違ったの?」
ランカはバサク中佐が語ったことを伝えた。
「もし、そのラクシュミという子に間違いがあるとしたら、安易に絶望したことだ。父親に相談してたら、他の人に相談していたら、別の道があったかもしれない」
ブレラは心の中で自分を罵った。
(言いたいことはこんな事じゃない。ランカを癒せる言葉が欲しいのに、なんでこんな戦果評価みたいな言い方しか出来ないんだ)
ランカは泣き腫らした顔をブレラに向けた。
「でも、そんなの……お兄ちゃんだから言えるんだよ。だって、あたしと同い年の女の子なんだよ。あたしが同じ立場なら……死んじゃっても不思議じゃない」
「では、お前は何故、死ななかった?」
「歌があったから……歌があって、シェリルさんが居て、アルト君が居て、オズマお兄ちゃんが居て……それに、お兄ちゃんがどこまでもついていてくれたから」
「今でも変わらないぞ。お前が行きたいところに連れて行ってやる」
「ありがとう……でも…」
ランカの言葉は弱弱しかった。
ブレラは続きを待ったが、泣き疲れたランカはカナリアが投与した鎮静剤に導かれて浅いまどろみに落ちていた。

ニュースはおおよそランカに同情的で、バサク中佐の行動を予防できなかった新統合軍に厳しい目を向けた論調だった。
一方でワイドショウなどでは、ランカの行動をつぶさに検証して、疑問を呈する向きもあった。
誘拐事件が一応の解決を見てからしばらく、ランカは休養という形で芸能界から身を引くことになった。美星学園も休学する。
人との付き合いも、親しい友人であるナナセやルカ、アルトシェリル、心を許しているエルモ社長に限った。

ランカの住まいにシェリルが訪ねて来たのは、新学期が始まる頃だった。
「ちょっとご無沙汰ね。元気にしてる?」
シェリルさん」
今のランカには航宙科の制服を着たシェリルが眩しかった。
銀河の妖精は、かつてのアイドルから脱皮して、より多くの人々の心に響くシンガーになっていた。
「ねえ、ランカちゃん、美星の制服に着替えてよ。面白いものが見れるわよ」
シェリルは少しばかり強引にランカを説き伏せて街へ連れ出した。
「ど、どこに行くんですか?」
「もちろん、制服に着替えたんだからガッコよ」
二人並んで歩く街並みは、完全ではないにせよ戦禍の傷跡が消えつつあった。真新しい建物が建ち、弾痕も補修されて目立たなくなっている。
美星学園も校舎を建て直し、かつてのように生徒たちが賑やかに行き交っている。
ランカは身がすくむ思いだった。
「シェ、シェリルさん……」
「遠慮しないで。誰にも文句は言わせないわ。休学中でも、ランカちゃんはここの生徒なのよ」
言い放つと、シェリルはランカの手を握って芸能科棟へ向かった。
途中すれ違う生徒の中には、ランカの顔を覚えているものが居て、遠慮がちな視線を向ける。
微妙に居心地が悪く、ついシェリルの影に隠れるようにして後をついていった。
「こっちよ。見て」
講堂には本格的な舞台があり、芸能科演劇コースの学生たちが練習に励んでいる。
シェリルとランカは講堂の壁に巡らされているキャットウォークから舞台を見下ろした。
今日は衣装や小道具から見ると、日本の伝統芸能を学ぶ授業らしい。
ランカは演劇コースの知り合いは少なかったが、何人か見知った生徒も舞台の上に居る。
指導する講師の傍らにいるのは……
アルト君」
「そうよ。やーっと、やる気を出したみたいね」
アルトは講師と何事か話すと、舞台の中央に進み出た。タンクトップを脱ぎ捨てて、上半身裸になる。
「きゃっ」
シェリルがはしゃいだ声を上げた。
「何を…」
ランカも見つめてしまう。
アルトは、瞬時に姿勢を変えると女形の動きを見せていた。しゃなりしゃなりと舞台の縁まで歩き、ターンして同じ歩きを見せる。
肌を露わにした背中は筋肉がうねり、男の体を女に見せるためにどれだけの鍛錬が要るのかを表していた。
次に、衣装の和服を着て同じ動きをする。裸の時には、余程の力を入れているのが分かったが、ひとたび衣装を着こなせば、その力感は隠れて、しとやかな動きだけが観客の目に映る。
演技指導の助手を務めているらしい。
「結局、芝居が好きなのよ……強制されてなくてもね」
アルトを見つめながら言うシェリルの横顔からランカは目をそらした。
「お家に戻るのかな」
「さあ、どうかしら」
シェリルは目を細めた。
「今は、どっちでも自分で選べるって、気づいてるはずよ」
しばらく、二人は舞台の上を眺めていた。
やがて、練習が終わり、舞台の上から人が居なくなった。
誰も居ない講堂で、シェリルはランカを見た。
「ランカちゃん……言いにくい事だったら、答えなくても良いわ。一つ質問させて」
「……はい」
ランカは胸の鼓動が早まるのを感じた。
「あなたがフロンティアから離れて、バジュラ女王の星……この惑星に向かうちょっと前に、アルトと会ったわね」
シェリルの口調は穏やかだった。
「はい」
ランカは頷く。
「その時、何故フロンティアを離れるのか、この惑星を目指すのか、アルトに伝えた?」
「あ……」
ランカは言葉に詰まった。
「どう?」
シェリルはそっとランカの肩に手を回して抱き寄せた。
その胸に頬を寄せるランカ。
「何故かって、その時は自分でも上手く言葉に出来なくて…確信も無かったし……アイ君を群れに戻すって、それだけ言ったんです」
「そう。アルト、ずいぶん苦しんでた」
ランカはシェリルの肩に額を押し付けた。
「行きがかり上、盗み聞きみたいになったんだけど……だから内緒にしてね。アルト、言ってた。SMSに入るきっかけはランカちゃんだったって。ランカちゃんを守るため、フロンティアを守るためSMSに入ったって」
ランカの目頭が熱くなる。これ以上、聞かされたら涙がこぼれそうだ。
「でも、ランカちゃんが飛び出して、バジュラの元へ行ったって軍で聞かされて……決心したの。フロンティアを守るためなら……どうしても必要なら……その時は、ランカちゃんを殺すって」
「…うっ」
嗚咽をこらえ、震えるランカの肩をシェリルが強く抱きしめる。
「すごく悩んでた……ランカちゃんは、アルトを信用していなかったんじゃない?」
「そんなこと!」
涙で濡れた目でシェリルを見上げる。
シェリルは、どこまでも穏やかな瞳で眼差しを受け止めた。
「だったら、上手く言葉にできないなりに、あの時アルトに説明してあげて欲しかった。ランカちゃんは、どうせ理解されないって諦めてなかったかしら? 自分の抱えている思いをアルトが受け止めてくれないって決めつけてなかった? 考えてみて」
ランカの視線が下を向いた。
「アルトはギャラクシーとの戦いで…」
シェリルは故郷の名前を苦々しい思いで発音した。
「あの戦いで、ランカちゃんが本当に敵になったんじゃないって判って……だからね、あんなにのびのびと飛んだの。目指すものと求めるものが、一つになって」
(ああ、やっぱりこの人にはかなわない)
ランカは、その想いを熱い涙と共に受け入れた。
シェリルが抱き寄せる。
その胸に縋って、声を殺して泣いた。

講堂のトイレで、シェリルが濡らしたハンカチを差し出す。
「さ、これ目に当てなさい」
ランカは瞼に当てた。
「復帰はいつかしら?」
「え?」
ランカは右目を冷やしながら、顔を上げた。
「歌うんでしょ」
「あ……」
「私たちは歌うことしかできない。償いも、贖いも……アルトから聞いたわ。誘拐犯の軍人さんの手を取って歌ってあげたんですって?」
シェリルはランカの顔をのぞきこんだ。
「だって……他にできることは無いから」
「その人、娘さんの名前を呼びながら逝ったそうね。どうしようもなく嫌な事件だったけど、少しだけ救いがあったんだわ。最期に娘さんと会えたのよ」
「そうかな……そうだといいな」
「きっとそうだわ」
シェリルはランカの手を取った。
「歌い続けるなら、これから先、辛いことも多いと思う。でも、ランカちゃんは一人じゃない」
「はい」
「伝えるのを忘れないで」
次の日、ランカはエルモに復帰する旨を伝えた。

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2008.10.23 
(承前)

ブレラ・スターンとオズマ・リーは脅迫状が指定した座標へと徒歩で向かっていた。
そこはアイランド1からさほど離れていない原生林のただなかだった。
「あった」
ブレラは脅迫状の二次元バーコードに含まれていた暗証番号を送信した。
原生林の茂みに、熱光学迷彩で溶け込んでいたVF-27SFが姿を現す。ガウォーク形態で着陸姿勢を維持していた。
「やはり、スローター・フォース(屠殺部隊)」
ブレラの呟きにオズマが振り返った。
「間違いないのか?」
「ああ。この機体が配備されているのは、ギャラクシー艦隊の中でもスローター・フォースだけだ」
ブレラはうなずいた。
スローター・フォースとは、全てがサイボーグで構成された最精鋭部隊の一つだ。特殊作戦を担当し、高度なステルス機能を備えたVF-27SFで敵地深くへ侵入、破壊工作を行う。
新統合政府によるギャラクシー船団解体の際に、巡洋艦をハイジャックして脱走を試みたが、追尾され、新統合軍連合艦隊の集中砲火を浴びて全滅したはずだった。
VF-27SFはキャノピーを開いた。中は無人だった。ご丁寧にパイロットスーツ一式が、座席の上に置いてある。
「これを着て、飛べ、ということか」
オズマの言葉にうなずくと、ブレラはコクピットに乗り込んだ。
誘拐犯のグループが予めプログラミングしていた通りに、VF-27SFは離陸した。アクティブステルスモードで大気圏を出る。
残ったオズマ・リーは背負ったレーザー通信機で報告した。
電波ではなく、指向性と出力を絞り込んだレーザー通信機は、使用条件が限られるが、理論上、傍受がほとんど不可能と言える。
「こちらスカル1、座標は以下の通り。アンタレス1の追跡は可能か?」
打てば響くような返信があった。
“こちらスカル3、現在、光学観測でアンタレス1を捕捉。予想軌道を絞り込んでいます。事前のシミュレーション通り、デルタ1の演習宙域と重なっています”
久しぶりにEXギアを着用したルカは、オズマの部下に戻った口調で言った。
ランカを頼む」
“最善を尽くします”
オズマから話を聞いた段階で、ルカは誘拐犯が軌道上にいる可能性が高いと見込んでいた。
この惑星上で人類が居住するのは、まだアイランド1か、その周辺に限られている。監視の目も行き届いているので、長期に潜伏可能な場所は少ない。
ましてや、人類の他にバジュラたちもいる。
ブレラの見立てによれば、実行犯はギャラクシー船団の高度なアクティブステルス機能を搭載したサイボーグによる犯行の可能性が強いとのことだった。ブレラの鋭敏な感覚器官に捕捉されずに、目と鼻の先で誘拐を実行できる存在は、銀河中探しても数少ない。
更に、このタイプの軍用サイボーグであれば、消費エネルギーは桁違いだ。アイランド1周辺で不自然なエネルギー消費の偏りがあれば、これもすぐに察知される。犯行グループはフロンティアの社会から独立したエネルギー供給系を持っている可能性が強い。
結論、軌道上に高度なステルス機能を持った艦が潜伏している。

キャサリン・グラス中尉は憲兵隊の捜査に同行していた。
「ソーニー・バサク中佐は、昨日付で退職届を出し、受理されているのですか? では、計画的な犯行に関わっている可能性が高い?」
捜査を指揮する憲兵少佐はうなずいた。
「そうだ。ブレラ・スターン少佐の提供してくれた情報によれば、犯人グループはギャラクシー艦隊所属・第1841独立飛行中隊、スローター・フォースと呼ばれる特殊部隊か、その経験者だと言う。だが、ギャラクシーは船団ごと解体接収された。そんな幽霊みたいな連中がウロウロしているとしたら、外部に協力者がいなければ説明がつかない。補給も必要だろう。おそらくは接収の際に、バサク中佐と接触を持ったと推定される」
「それにしても、どうして協力なんか……」
キャシーは、両者を結び付ける接点が思い浮かばなかった。
「まだ確認ができていないのだが、バトルギャラクシーとの戦闘で、ブレラ少佐が、本来味方であるはずのVF-27を撃墜したな。撃墜されたパイロットと関係のある人間が、スローター・フォースに居るらしい。今、関係者に照会している」
「それで、ランカさんが囮に? だとしても、バサク中佐は……」
「バジュラとの戦争中に娘さんが自殺している。奥方はバジュラの攻撃による減圧で亡くなって、息子さんは戦死だ。これと何か関係があるのかも知れない」
「自殺? あっ」
憲兵少佐が軍用携帯端末に表示させた情報をのぞき見て、キャシーは小さく叫んだ。
「どうした、グラス中尉?」
「いえ、この日付は……なんでもありません」
バサク中佐の娘が自殺したのは、キャシーがオズマとともに、レオン三島が差し向けた追手から逃れて潜伏していた頃だ。レオンが手を染めたハワード・グラス大統領の暗殺の真相を、なんとかして世に出そうとしていた辛い日々。
潜伏していた時に、ささくれ立つ気持ちを紛らわせようと、オズマが話していた。
“幕僚本部のお偉いさんから、ランカのサインをねだられたっけ。バサク中佐、情報部のカミソリがあだ名だったが、娘さんには弱いみたいだな”
「もしかして……亡くなった娘さん、ランカさんのファンだって聞いたのですが……でも、こんな事が犯行に結び付くわけもありませんよね」
キャシーの言葉に憲兵少佐は眼を光らせた。携帯端末を操作する。
「まさか、それが……ビンゴ(当たり)だ、グラス中尉」
「え?」
「娘さんが自殺したのは、ランカ・リーが放送で、もう歌わない、と発言した次の日だ。娘さんが死んで、バサク中佐は最後の家族を失った」
「ええっ」
「あの当時、ランカ・リーは、我がフロンティア船団にとって希望の歌姫だった。その彼女が歌えないと言い、その上、船団を離れたのだからな。無理もない。私でさえ、バジュラとの闘いがどうなるか、不安に思ったものだ」
「ああ……」
キャシーは天を仰いだ。
異類のバジュラとさえ和解を成し遂げたのに、同じ人類同士が刃を向け合う。終わったと思ったのに、どこまで憎しみの連鎖は続くのだろう。
ランカの無事を祈る気持ちと、彼女を思うオズマやブレラの心中を察して、キャシーのため息は重かった。

ランカは暗い部屋の片隅で膝を抱えていた。
視界の隅に光の筋が走る。筋は徐々に太くなった。ドアが開いたらしい。
「お食事よ、希望の歌姫さん」
見上げると、パイロットスーツを身につけた女性がトレイを手にしていた。頬に走るメタリックな色彩のラインは、ブレラと同じような軍用サイボーグであることを示していた。
「あの……」
ランカはおずおずと声をかけた。
「なに?」
女性は気さくな口調で返事すると、しゃがみこんでランカに視線を合わせた。
「あの……どうなるんですか?」
「心配しなくていいわよ。あなたは無事に帰してあげる。もうすぐよ」
「何が、もうすぐなんですか?」
「うちのスコルツェニー少佐と、ブレラ・スターン少佐の一騎打ちが終わったら、解放してあげるわ。バサク中佐殿も、あなたには生きていて欲しいみたいだし」
「一騎討ちって…」
「ブレラ少佐にね、同期の相棒を撃墜されたのよ。だから、オトシマエをつけるんだって。男ってしょうがないわよね。そんなコトしたって、相棒が生きて戻るわけでもないのに」
女性は皮肉な口調で言うと、クスクス笑った。
「まだバサク中佐の方が合理的に思えるわ。ランカ・リーの心にトラウマを刻み込んで、長い人生、後悔しながら生きていくようにって。死んだら、それっきりだもんねぇ」

大気圏を抜け、衛星軌道に到達すると、今は懐かしくさえ思えるギャラクシー船団専用プロトコルの通信を受け取った。
“アンタレス1、ようこそ舞踏会へ”
ブレラの頭脳にダイレクトに届く圧縮データ。
「スコルツェニー少佐、貴官か」
“ああ。土壇場で裏切りやがって。フィルビーの仇だ。条件は同じVF-27SF、これなら文句あるまい。文句言っても受け付けないけどな”
2機のVF-27SFは互いを正面に捉え、重量子ビームを放つ。

「スカル3よりデルタ1へ。敵の座標を確認、指向性フォールドウェーブの照射、願います」
マクロス・クォーターではトリガーを握っていたボビー・マルゴ大尉が、送られた座標を確認し大出力フォールド波を照射した。
「敵艦の反応をキャッチ! 効果ありと認む!」
ルカはRVF-25の機上でデータを収集していた。
出現したのは、特徴的な双胴船体を持つデネブ改級シャマリーだ。ギャラクシー船団から接収したデータによれば、スローター・フォースの母艦として、オリジナルのデネブ級から大幅に改装されているらしい。テストとして搭載された新型フォールド機関の事故により廃棄、標的艦として処分されたはずだった。
「反応が鈍い? チャンスです!」

呼び出し符丁デルタ1ことマクロス・クォーターのブリッジで、ジェフリー・ワイルダー艦長が発令した。
「全艦、接舷移乗戦闘用意! マクロスアタックだ!」
「アイアイサー!」
ボビー大尉の操作でマクロス・クォーターは強攻型に変形。左腕にあたる部分にピンポイントバリアを集中して、シャマリーの舷側に叩き込んだ。
食い込んだ部分から艦載デストロイド(歩行戦車)の部隊が殴り込み、シャマリー艦内を制圧する。
シャマリー側の反応は鈍く、対空砲火を除けば積極的な対応は無かった。
EXギアを装備した部隊がデストロイド部隊の随伴歩兵として続く。
早乙女アルトも、その中にいた。
手近の端末に接続して、艦内の状況を調べる。
一部の居住区画にエネルギー消費が集中している。それ以外は、艦の運行に関する部分にエネルギーが注ぎ込まれているだけだ。
「ほとんど自動操縦で動かしているのか?」
アルトが率いる部隊はEXギアのローラーダッシュで目的の居住区に迫った。
時折立ちふさがる隔壁はルカが支援するハッキングで開放する。

「!」
サイボーグ女性が立ち上がった。
どうかしたのだろうか。
「予想より、かなり早かったわね」
次の瞬間、床が激しく揺れた。
歯を食いしばって耐えるランカ。
「ちっ、手の内は知られているか」
サイボーグ女性は卓越したバランス感覚と反射神経でかろうじて立っていた。
サイレンが鳴り響く。何かの警報だろう。
スピーカーから聞きなれた声がした。
“艦内は制圧した。抵抗は無駄だ。投降せよ!”
アルト君!)
ランカは救いを求めるようにスピーカーのある辺りを見上げた。
ドアが開いた。
いくつもの銃口が現れた。
「ゲームオーバーね」
サイボーグ女性は両手を上げる。
EXギア姿のSMS隊員たちが現れた。
「ランカ、無事か?」
ヘルメットを上げて顔をさらしたアルトに、ランカは思わず涙がこぼれた。
アルト君」
ランカの元に駆け寄るアルト
次の瞬間、アルトの表情が険しくなった。ランカを突き飛ばす。
「きゃあ!」
閃く銃火。
ランカに熱い液体が降りかかる。白い人工血液はサイボーグのものだ。
「ど、どうして!」
人工血液にまみれたランカは叫んだ。
アルトはライフルの銃身で示した。
全身に対物ライフルの銃弾を浴びて仰向けに倒れているサイボーグ女性、その両手首から幅広の刃が飛び出している。内蔵した武器で最後の抵抗を試みたのだろうか。
脱力して床に座り込んだランカを傍観者にして、事態はなおも進行していた。
ドアでつながった隣の部屋に突入したSMS隊員が大声で叫ぶ。
「バサク中佐発見! 毒を飲んでいる!」
カナリア中尉を!」
EXギアを着けたカナリア・ベルシュタイン中尉が駆けこんできた。その場でEXギアを解除すると、ベルトのパックに詰め込んだ医療キットで応急手当を試みる。
「バイタルサイン低下! 中和剤をっ……!」
カナリアは横たわったバサク中佐にまたがって心臓マッサージを施した。
その横で、いつの間にかやってきたランカが床に座った。顔にこびりついた人工血液を拭う様子も見せずに、力なく投げ出されたバサク中佐の手を握った。

 わたしのなまえを
 ひとつあげる
 大切にしていたの
 あなたのことばを
 ひとつください
 さよならじゃなくて

ランカの唇から『蒼のエーテル』が流れ出た。
周囲は号令や、指示、怒号が飛び交っていたが、静かな歌声は不思議によく聞こえた。

 攻撃でもない
 防御でもない
 まんなかの気持ち
 きらめきと絶望のあいだの
 まんなかの気持ち

バサク中佐の瞼が震えた。震えながら、瞼が開く。
焦点のあってない瞳がランカを見る。
「…ラ……ラクシュ……ミ…」
切れ切れに紡いだ言葉は娘の名前だ。その顔は、切れ者として知られた情報将校のものではなく、ありふれた父親の顔になっていた。
ランカの手がそれに応えて握り締めると、中佐も握り返した。
思いがけず強い力にランカは両手で中佐の手を包みこむ。
そして、ソーニー・バサク中佐は全てから解放された。
瞼は落ち、手から力が抜け、血圧が低下し、脈拍、呼吸が止まる。最期に、唇からため息のような呼気が漏れた。
「死亡を確認」
カナリアが立ち上がる。
アルトが敬礼を捧げた。
周囲の隊員たちも、続いて敬礼をする。
ランカの歌声は涙に溶けて行った。

(続く)

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2008.10.22 
かつてアイランド1と呼ばれた都市型宇宙船は惑星上の都市として機能を始めていた。
戦禍からの復興と、新しい惑星への適応、ふたつの仕事を同時にこなしながら、フロンティアの日常は慌ただしく過ぎていった。
市民は忙しい日々に、心や体に負った傷を、しばし忘れることができた。
しかし、消え去ったわけではない。
何かの弾みに、ふっと生々しい傷痕が顔をのぞかせる。

オズマ・リー家が新しい家族ブレラ・スターンを迎えてから、約一年が経過した。
夕食後の団欒と呼ぶには、オズマブレラの間には、少しばかり緊張感があった。
いつもなら、明るい笑顔で間を取り持ってくれるランカは、仕事で遅くなると連絡があった。帰宅は真夜中近くになるだろう。
テレビの画面は無難な選択として、シェリル・ノームの復興チャリティライブの様子を放映していた。
(こいつ、本当にテレビを見てるのか?)
オズマは端正なブレラの横顔を見て思った。
マクロス・ギャラクシー製の高度な全身義体は、その気になれば周囲には気づかせずに、別の番組にアクセスすることも可能だ。

ギャラクシー船団が新統合政府により解体接収された後、ギャラクシー艦隊に所属していたサイボーグ兵士たちに二つの選択肢が提示された。
軍籍を離れ民生用の義体に換装する。
もう一つは、軍籍に残る道。こちらは、高度な軍用義体を使用できる代わりに、位置確認用のトレーサーを埋め込むのが条件だ。
トレーサーの機能は強力で、ゼロタイム通信により銀河のどこにいても新統合政府が所在を確認できる。また犯罪や命令違反を感知すると、義体の動きを拘束することも可能だ。
この決定は、少数の反乱を除いて、受け入れられた。

ブレラは軍籍に残ることを選んだ。
バジュラ女王の惑星を巡る決戦で、ブレラは最終的にフロンティア船団の側について戦った。その功績を認められ、ギャラクシー船団解体後の帰属はフロンティアとなった。
オズマ・リーと一緒に暮らしているのは、唯一の肉親ランカ・リーと共に生活できるように、とのフロンティア行政府の配慮だ。同時に、所在の確認をしやすくするため、という側面もある。

オズマは、ブレラとフロンティアの関係に思いを巡らせた。
テーブルの上に置いてある携帯端末が振動した。
「お、悪い」
オズマは携帯を手にして、席を立った。自分の部屋へ戻る。
“今晩は。どうしてた?”
コールしてきたのはキャサリン・グラスだった。
「夕食後の一家団欒さ。ブレラと二人で」
ランカさんは?”
「あいつは仕事……下見してきたのか?」
“ええ、素敵な式場だったわ。でも、予約が再来年までいっぱいなの”
オズマはキャシーとの結婚を決めていた。
「そりゃそうだろう。戦争で延ばし延ばしにしていたカップルが一斉に式を挙げるだろうし」
“そうなの。だから、式場にはこだわらずに、どこか借りて身内だけでささやかな式にしても、って思うんだけど、どう?”
「お前が良いなら、それでいいぞ。本作戦に関しての指揮権はキャサリン・グラスが握っているんだ。会場なら心当たりが無いことも無い」
“本当?”
「ああ。エルモ社長にも当ってみる。あれで顔が広いから、いい場所知ってるかもな」
“そうね。期待してるわ。ところで、ブレラは、どうしてる?”
「今は、おとなしくテレビを見ている。最近は記憶の連続性も回復してきて、そうだな、人間らしくなった、って言ったら失礼かもしれないが、以前に比べれば周囲に合わせるようになったな。あとは笑うようになった」
記憶を奪われ、その記憶を盾にグレイス・オコナー技術大佐に服従させられていたことを思えば、ブレラの境遇には同情するべき点は多い。
とは言え、ブレラが部下や自分に対して武器を向けてきたのも確かだ。その事実は消せない。
そうした複雑な事情がブレラとオズマの間に緊張感を生み出す原因だ。
“よかった……ね、今度の週末はどう?”
キャシーが話題を変えた。
「ああ、予定に変更は無い」
“じゃあ、楽しみにしてるわ”
「またな。愛してる」
“私も…オズマ”
通話を切って、リビングに戻ると、ブレラはじっとテレビを見ていた。
番組が変わっている。
「お、映画か」
オズマがソファに座ると、ブレラが言った。
「すまん、チャンネルを変えさせてもらった」
「構わない…さ……って」
放映されている映画のタイトルは『Bird Human』ノーカット版。ランカが映画デビューした作品だ。
早乙女アルトがスタントマンとして参加していて、そのアルトとのキスシーンがある。そのためにオズマが絶対に見ないと誓っていた映画でもある。
「やっぱ、チャンネル変えてくれ」
ブレラは画面を見たまま言った。
「どうしてだ。ランカが出ているのに……っ」
抑揚のないブレラの声。その語尾が乱れた。
映画は、青い熱帯の海、水中のシーンになった。ランカ演じるマオ・ノームが、シン工藤(このシーンではアルトが水中スタントをしている)の手を引いて、素潜りでサンゴ礁の挟間で横たわっている先史星間文明プロトカルチャーの遺物へと導いていた。
プロトカルチャーの遺物が思わぬ動きを見せ、驚いたシンが水中で呼気を吐き出して、溺れかける。
マオが口移しで息を与える、その横顔が大写しとなった。
「あ……ああ」
絶対に見まいとしていたのに、うっかり目にしてしまったオズマは、少しの間固まった。
シーンが切り替わり、ようやくソファに座った。
「き、キスシーンがあったんだな」
ブレラが溜息とともに言った。
「だから変えろって…」
その後は結局、二人揃って映画をエンディングまで見てしまった。
ランカの唄う主題歌『アイモ』に続いて、シェリルが提供したイメージソング『青い惑星』が流れ、スタッフロールが画面を埋めていく。
「帰ってきた」
ブレラが呟いた。
少し遅れて、オズマにも車が家の前で停止する音が聞こえた。
たぶん、マネージャーがランカを送ってきたのだろう。
「おかしいな」
オズマは首をひねった。いつまで経っても玄関のドアが開いた音が聞こえて来ない。
「様子を見てくる」
ブレラが立ち上がり、玄関へ向かった。

玄関には誰もいなかった。
ランカを送ってきた車と思っていたが、間違ったかとブレラは考えた。
しかし、それはあり得ない。
軍用サイボーグの強化された聴覚は、ランカがマネージャーに挨拶する声と、足音をひろっていた。
「ランカ?」
ドアを開けると、玄関前のポーチに靴が一足、置いてあるのを見つけた。
ランカが履いていたパンプスだ。
ブレラは義体に備わったセンサーの警戒レベルを上昇させた。
近所の猫の足音や、オズマの心音さえ捕捉できる。
赤外線視覚でランカの靴を観察した。
ほのかに熱を放っているのは、ランカの体温の名残だろう。
周囲に何者かが潜んでいる気配はない。
ブレラは慎重にしゃがみこんだ。
ランカの靴の下に封筒がある。合成紙製の封筒はどこでも見かける市販品だった。
慎重に封筒をとりあげ、封を開く。
“ブレラ・スターン少佐殿 ランカ・リーは預かった。無事に帰して欲しければ、以下の座標にまで指定時刻に来い。他言は無用”
レポート用紙に記された文章はそれだけだった。文章の下には、二次元バーコードが記されていた。
「オズマ・リー!」
声をあげると、オズマが駆け付ける気配がした。
これが、植民後初の重大犯罪として知られることになるランカ・リー誘拐事件の幕開けとなった。

ランカは目覚めた。
周囲は暗い。
「えと……」
状況が飲み込めずにいた。
ランカは記憶をたどる。
(マネージャーさんに送ってもらって……それから、家に入ろうとして)
そこで記憶がない。
意識を失う瞬間、うなじに何かがチクリと刺さったような覚えがある。
「お目覚めかな」
男の声がした。スピーカー越しの音声だ。
「あの、あ、あたしは……どう、なったんですか?」
「現在時刻は、銀河標準時0622時。君が誘拐されてから6時間ほどが経過した」
「ゆ、誘拐?」
「私は誘拐犯…と言っても、ミス・ランカ・リー、君を傷つけるつもりはない。少なくとも、身体的には」
「何が目的なんですか?」
ランカは自分の声が震えていないことに驚いた。
今までの経験で、それなりに度胸が据わってきているらしい。
「それを説明するには、私が何者なのか自己紹介が必要になる」
やや、もってまわった話の運び方に、ランカは美星学園で演劇概論を担当する講師を思い出した。
「私は新統合軍、フロンティア艦隊幕僚本部、情報2課課長ソーニー・バサク中佐」
「軍人さん…」
ランカは相手が名乗った意味を考えた。理解できない。
単なる誘拐犯なら、人質に対して自分の正体を隠そうとするはずだ。相手が言った内容が本当なら、軍人が民間人を誘拐したことになる。とんでもない不祥事だ。
「私には娘がいた。ラクシュミ。ちょうど、君と同じ年頃だ」
過去形で言ったということは、ラクシュミという娘は死んだのだろう。
バサク中佐はよどみのない口調で続けた。
「あの子は宇宙に身を投げて自殺した。ミス・ランカ・リー、君がテレビカメラの前で歌わないと逃げ出した日の翌日のことだ」
そこで言葉を切った。
ランカは胸が締め付けられた。
「君には君とっての、よんどころ無い事情があったのだと推察する。しかし、何故そんな行動を選んだのか、説明が欲しかった。そうであれば、あの子も将来に絶望せずにいられたかもしれない」
ランカは肺に残った空気を吐き出した。
苦い。
息が苦い。
生きているのが苦い。
あの時、選んだ行動は間違ってなかった、と思う。
誰もが戦いに進んでいく中、それ以外の道を探したことは間違いではないはずだ。
間違っていたとしたら、説明が足らなかったことだろう。
(でも……)
バジュラの惑星へ向かうことが、バジュラの幼生・アイ君を群れに戻すことが、本当に和平につながるのか確信が持てなかった。
直観は強く命じていたが、それを他者に伝える術(すべ)を知らなかった。
「ラクシュミはね、君の大ファンだったよ」
バサク中佐は、そこでスピーカーのスイッチを切ったようだ。

(続く)

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2008.10.21 
■次のシェリル新曲/新作CDが出るのが待ち切れず…
マクロスシリーズのサントラやら、アルバムを片っ端から借りて聴いています。
我ながら重症だ(汗)。
初代マクロスのエンディングテーマは『ランナー』という曲で、男性ボーカルが♪僕はもう、追いかけはしない、君の走る影のあと♪と歌います。
最終回だけは、リン・ミンメイが『ランナー』を歌うのですが、主人公と別れて、歌姫へと歩み出すミンメイのことを思えば、なかなか心憎い演出です。
そのミンメイは、その後、どうなったかと言えば恋敵であった早瀬未沙大佐が艦長を務めるメガロード01に乗り込みます。
メガロード01は第1次星間大戦後、初の大規模移民船として2012年9月に地球を出発します。この船には護衛部隊として一条輝が率いるスカル大隊が就いています。
ところが2016年7月に地球との連絡が途絶。以降、行方不明となっています。
メガロード級の外見は、マクロスF第3話でのアバンタイトルで登場するガラス張りの宇宙船です。
リチャード・ビルラーが、24話潤オ25話で因果律を超えてリン・ミンメイとの再会を夢見る描写がありますが、こういう前史を踏まえているのですね。

■23日24時に恒例の絵ちゃを催します
今回も、お題を設けます。
あいさつ代わりに、今の心境をマクロスFの次回予告ナレーションっぽく
「○○○○○○、次回マクロス・フロンティア、○○の歌、銀河に響け」
っと語っていただきます。

例:ピンク・モンスーン、バイロエレクトロニカ。シェリルのアルバムはいつ販売されるのだろうか? 次回マクロス・フロンティア、リクエストの歌、銀河に響け

ご協力お願いします^^

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2008.10.20 
■『真空を震わせて』に携帯電話からコメントいただいた方へ
前後編に分割してみました。
今度は大丈夫だと思うのですが、閲覧できなかったら、またお知らせ下さい。

■まったり絵ちゃでは…
『マクロスF ギャラクシーツアーFINAL』パシフィコ横浜公演に参加した方々からの臨場感溢れるレポートをうかがえました。
向井風さま、Kuni様、たかしば様、素晴らしい記憶力と語り口で有意義なチャットになりました。本当にありがとうございます!
劇場版が上映される頃には、またツアーとかやらないかなぁ。
大阪や、武道館(ブドーカン?)に参加する予定の方も、土産話楽しみにしております。
春陽さま、綾瀬さま、mittin様、min様、bon様、楽しいおしゃべりをありがとうございました。皆様の楽しいお話は、私がショートストーリーを書くための原動力です。

■痛飯
全国各地のマクロス関連のイベントでは、劇中に登場したマグロ饅やらパインケーキが販売されている模様。
これは痛車に因んで『痛飯(イタメシ)』と、個人的に命名します。

2008.10.17 
現在。
『マオ・ノーム記念物理学研究所』、通称ノーム研究所は、富豪リチャード・ビルラーが私費を投じて創設した大規模なフォールド物理学の研究センターだった。惑星軌道を巡る実験施設は、同じくビルラーが創設した『蘭雪美(ランシェ・メイ)記念疫学研究所』と並んで、バジュラ戦役後の疲弊しきったフロンティア船団を復興させるための雇用促進事業でもあった。
マオ・ノーム研究所の特色は、惑星軌道を丸ごと使用した巨大な粒子加速装置だ。これで惑星上では不可能なスケールの実験を可能にする。
2061年10月、ひとつの壮大な実験が始まろうとしていた。
「Dマイナス60、エネルギー規定レベルまで上昇。安定状態です」
「観測機器群、オールグリーン」
「カウントダウン、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0!」
惑星破壊砲に匹敵するエネルギーを注ぎ込まれた粒子と反粒子が衝突。
素粒子をまき散らして崩壊していく様子を観測機器が克明に記録した。
「おかしい……衝突時の放出エネルギーが予測値より大幅に少ない」
「フォールド空間構造に変化!」
「これは…」
「通常空間からフォールド空間に……いや、時間でエネルギーが消費されたのか!」
実験が生み出した爆発エネルギーは“時震”となって、現在を起点に過去と未来へ向かって衝撃波を広げていった。

過去。
無人の遊園地では、鮮やかな色彩で彩られたパビリオンが虚しくたたずんでいた。
バジュラとの戦闘に疲弊し、戦時統制下にあるフロンティア船団では、全ての商業施設は休止、一般市民の外出時間も制限されていた。
「なんで、こんな所に……?」
軍から休暇を与えられたアルトは、早乙女家の離れで寝泊まりしているシェリルにねだられて、遊園地に案内した。
ゲートは閉ざされている。
「曲のイメージを煮詰めようと思って、ね」
シェリルはゲートの前をうろうろした。
「入れないのかしら」
「当たり前だろ」
アルトは肩をすくめた。
「あの…シェリルさん、ですか」
ゲートの向う側から、若い女性がためらいがちに声をかけてきた。施設の保守点検をするスタッフなのだろう。遊園地のロゴマークが入ったツナギを着ていた。
「ええ、そうだけど…」
「本人さんなんですねっ。あのあのっ、ファンです。新曲の『妖精』聴きました。もう、いつ聴いても涙が出るほど素敵で…」
女性は、いたく感激した様子で熱く語った。
「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいわ。今度、またライブを開くから、来てね」
シェリルの言葉に天にも昇らんほどの心地で、繰り返し頷く女性スタッフ。
「そうなんですかっ。ぜひ、行きます!」
「ところで、お願いがあるんだけど」
「できることなら、なんでもします!」
「遊園地に入れて欲しいの。遊びたいのではなくて…そう、新曲のね、曲想を練りたくって。施設に触らないから、許可してもらえないかしら?」
「そ、そうですね……」
女性スタッフは少しだけ考えてから、腰につけた通信機のスイッチを押して通話した。上司に許可をもらったようだ。
「どうぞ」
従業員用のドアを開けてくれた。
「このバッジをつけていてください。帰る時は返却してくださいね」
女性スタッフはシェリルにバッジを渡す。それからアルトの方を見た。
「彼にもお願い」
シェリルが頼むと、もう一つバッジを出してくれた。
「あの…シェリルさん」
「何かしら?」
女性スタッフはシェリルの耳に口を寄せると、何か囁いた。
シェリルも女性スタッフの耳元で囁く。それから唇に人差し指を当てて、内緒の仕草。
女性スタッフは目を丸くして、ガクガクうなずいた。それから、またアルトを見る。
アルトもバッジを受け取って、人の気配が無い園内に足を踏み入れた。
「さっき、スタッフと何を内緒話してたんだよ」
アルトはシェリルを振り返った。
「新曲…『妖精』について、ちょっとね、聞かれたのよ」
「ふーん」
何気なくうなずいてから、アルトは少し照れくさい気持ちになった。自分でも理由はよく判らない。
「まるで時間が凍りついたみたい」
中央広場は、バジュラの度重なる襲撃にも関わらず、塵一つなく整備されていた。
一部の遊具には埃避けのカバーがかけられている。
広場の真ん中でシェリルが周囲を見回した。
「お客さんの来ない真夜中の遊園地で、遊具たちが人間のコントロールから離れ、遊び出すのよ」
くるりとターンすると、青いミニドレスの裾が翻った。
作りかけの旋律を唇に乗せてハミングする。
「くるみ割り人形みたいだな」
アルトがチャイコフスキーのバレエ曲を口にすると、シェリルが唇を尖らせた。
「だめよ、そんなメジャーな曲持ち出されたら、引きずられてイメージ変わっちゃうわ」
「あ、すまん」
「ラ・ラララ・ラ・ラ・ラ・ラ・ラー」
シェリルのハミングは、くるみ割り人形の旋律に変わった。
警報が鳴った。
“アイランド1のフレームに大規模な亀裂発生。破断する可能性あり。最寄りのシェルターに避難してください”
園内だけではなく、この辺のブロック一帯に発令されている広域警報だ。
「シェリル!」
アルトが振り返った瞬間、シェリルとの間の地面に亀裂が走った。
地面を突き破ってアイランド1の枠組みを形作るフレームが聳え立つ。その断面は人がいっぱいに手を伸ばしても足りないほどの太さだった。
別の場所はで地割れが出来た。
立っていられない振動で、アルトはその場にしゃがみこんだ。
濛々たる埃や水蒸気が裂け目から噴き出し、視界を閉ざした。
「シェリルーっ!!」
声を限りに叫んだが、噴出音で自分の声さえ聞こえない。
バジュラの襲撃により、アイランド1は構造体にまでダメージを負っていた。
襲撃直後は応急処置で形を保てても、損傷の生み出すひずみが集中し、時間が経過してから思わぬ場所が破壊される可能性もあった。
どれぐらい時間が過ぎただろう。
アルトは携帯端末を取り出した。時刻の表示は、ほんの5分ほどしか経過していない。アンテナのアイコンを見ると、電波は受信できないようだ。構造体だけではなく、通信系にもダメージが発生したのか。
耳の感覚は、轟音の名残りでかすかな耳鳴りがする以外は正常だ。不幸中の幸いと言うべきか、減圧は発生していないようだ。
「ったく」
埃を吸って、口の中がジャリジャリする。
アルトは唾を吐き捨てると、亀裂やフレームの山を迂回して、シェリルを探そうと歩き始めた。
濛々とした埃が風に吹き散らされると、建物の影でうずくまっている小さな人影を見つけた。
「え?」
休止中の遊園地に、アルトたち以外の人がいるなら、保守点検要員ぐらいなものだ。
訝しく思ったものの、アルトは声をかけてみることにした。
「大丈夫か?」
こちらを見上げたのは、3~4才ぐらいの女の子だった。人種的な特徴は東アジア系で、もしかしたら日系人かもしれない。手入れの行き届いた黒髪を長くのばし、赤い組み紐でポニーテールにくくっていた。チェック柄のワンピースを着ている。
涙をたたえて見上げた琥珀色の瞳と整った顔立ちに、アルトは何故か見覚えがあるような気がした。
「立てるか?」
アルトはしゃがみこんだ。
「はい…」
女の子は頷くと、立ち上がろうとした。しかし、足が震えている。
アルトは背中を向けた。
「ほら、おんぶ」
「え……」
女の子はためらったが、アルトの背中に体を預けた。
軽い。
アルトは立ち上がった。
「お父さん、お母さんは?」
「はぐれました」
女の子はハッキリした声で言う。
「判った。後で探す……その前にツレを探さないと、病人だからな」
アルトは女の子を背に、瓦礫の山と亀裂を大きく迂回する。
一方、シェリルは…
「ごほっごほっ」
咳の発作が止まらない。
シェリルは目から涙をこぼしながらうずくまった。
粉塵をたっぷり含んだ空気から逃れないと。
よろめきながらも風上と思われる向きに歩く。
「ア、アルト! ゴホゴホッ……」
叫べば、激しい咳を誘発してしまう。涙もこぼれる。
街路樹にすがって、なんとか息を整えようとする。
「だいじょうぶ?」
背後から男の子の声がした。
「これ……」
何かコップのようなものがシェリルの手に押し付けられた。
シェリルは受け取って、手の中のものを見た。
水筒のフタらしい。中には麦茶が満たしてある。
ありがたく好意を受け取ることにして、それを口にする。麦茶は、よく冷えていた。
最初の一口は口の中の埃を洗い流すために吐き出したが、後は飲み下した。
「あ、ありがとう……楽になったわ」
振り返れば、3~4才ぐらいの男の子だった。ふわふわしたストロベリーブロンドと青い瞳で、外見は白人系の要素が多い。チェック柄のシャツに半ズボンをはいて、肩から水筒を下げている。
シェリルは幼いながらもはっきりとした顔立ちの男の子に既視感を覚えた。
「あなた……そ、そうよ。ここは閉園してて……お母さんは? 他に大人の人は?」
気丈そうにふるまっていた男の子は、急に不安な表情になった。
「わかんない。いつの間にかはぐれて」
「そう……」
シェリルは涙目で周囲を見渡した。
視界を閉ざしていた埃や水蒸気は風が流していったらしい。
アルトが居たと思われる方向は、飛び越えられそうにない亀裂や、突き出したフレームで遮られていた。
無事だろうか?
携帯端末を取り出してみたが、電波をほとんど受信していない。
まず、アルトを探そう。距離は遠くないはずだ。
シェリルは立ち上がって、男の子の手を握った。
「一緒に行きましょ」
「うん」
握り返した男の子の手は暖かかった。
シェリルを見上げて、勢いよく言った。
「泣かないでね、おねーちゃん。ボクがついているからさ」
シェリルは心の中が温かくなった。
自分も不安だろうに、元気づけようとしてくれている。
「頼りにしてるわ」
長い睫毛に残った涙の滴を指で振り払う。
とりあえず、被害が少なそうな左方向へ向かってみることにした。
「そうだ、あなた、お名前は?」
「ゴロー。おねーちゃんは?」
外見の割には日本風の名前、とシェリルは思った。
「私は、シェリルよ」
「おかーさんと、おんなじだ」
「そうなんだ」
「うん。すっごい歌がうまくて、あーてぃすと」
「アーティスト……どんな歌?」
「ええとね、こんなの」
ゴローは歌い始めた。

 空の青
 海の青
 ブルー同士でも
 混ざり合うことはない
 鳥は魚に恋をして
 魚は鳥を愛した
 空と海とのはざかいで
 触れ合える
 ほんの一瞬

この年齢の子が歌うにしては、ひどく難しい曲だった。
それを自信を持って歌っている。
シェリルは驚いた。
(この子……?)
曲の難易度もさることながら、未知の曲なのに聞き覚えがある。
(ほら、ここで転調して…)
シェリルの作る曲と癖が似ていた。
不意に立ち止まると、ゴローは腹に手を当てた。シェリルを見上げ、目を輝かせて断言する。
「こっち」
「え?」
「こっちにいるよ」
ゴローはシェリルの手をとって力強く引っ張った。
シェリルは周囲の様子を確かめながら、ゴローの後をついてゆく。
瓦礫の向こうから、聞き覚えのある声がした。
「シェリル!」
「アルト!」
シェリルが名前を呼ぶと、こちらを振り向く気配がする。
「そこか!」
アルトは小走りにやってきた。女の子を背負っている。
「無事か……その子は?」
「迷子よ。アルトこそ、おぶっているのは迷子?」
「ああ。おかしいな。閉園しているはずなのに」
アルトは背中の女の子を、そっとおろした。女の子は、ゴローに駆け寄る。
男の子は女の子を抱きしめて、ポンポンと背中を叩いた。
「兄弟? 双子、かな?」
アルトが言った。
見れば、二人の服は形は違うが同じ布を使っている。
「シェリルは大丈夫か?」
「ええ、ゴロー君がお茶をくれたおかげでね」
「そうか。ありがとうな、ゴロー」
アルトは男の子の頭を撫でて、礼を述べた。
振り返ると、シェリルの足もとがふらついていたので、慌てて支える。
「とりあえず、ゲートに行こう。この子たちの親も探さないと」
アルトの腕の中でシェリルは頷いた。それから、子供たちを見る。
「え?」
ほんの一秒前までいた男の子と女の子は、そこに居なかった。
「どこだ?」
アルトも周囲を見る。
遠くから大人の声がした。男女の声が交互に聞こえてくる。
「悟郎! そこにいたのか」
「もう、手離しちゃだめよ、混んでるんだから」
それに応える男の子と女の子の声。
「はぁい」
「ごめんなさい、お父さん、お母さん」
いくら目を凝らしても、姿は見えない。
やがて、さっきゲートに居た女性スタッフが、シェリルとアルトを探しに来た。
「ご無事でしたか!」
アルトが手を振ると、女性スタッフは胸を撫で下ろした。
「二人とも大丈夫……今、ここに子供がいなかったか?」
アルトの質問に、女性スタッフは首を横に振った。
「いいえ。入場者が居れば、バッジやIDカードでリアルタイムに位置を把握できます。もし着けてなくても、動体センサーがチェックしてますので……」
もう耳を澄ませても、親子の声は聞こえなかった。
シェリルはアルトと顔を見合わせた。
「まあ、でも無事に両親と会えたみたいだったわ」
「そうだな」
二人はスタッフの案内に従って、ゲートへ向かった。

未来。
遊園地の名物であるパレードがクライマックスを迎えた。
派手なスモークや、花火、ホログラフが童話の世界を繰り広げる。
アルトとシェリルの間に生まれた双子の悟郎とメロディは、人混みの中で少しだけ両親とはぐれてしまった。
すぐに再会できて、今度ははぐれない様に悟郎はしっかりとシェリルの手を握っていた。
メロディはアルトに肩車してもらいながら言った。
「あのね、こわくて、しゃがんでたら、知らないお兄さんにおんぶしてもらったの。お父さんに、似てたの」
「そうか……お礼言わなきゃな」
「おねーさんと歌ったらメロディを見つけたんだ」
悟郎がシェリルに向かって言う。
「歌……やっぱり、この子たちからもフォールド波出てるのかしら?」
シェリルはアルトに向かって言った。
「あり得るな。一度、精密検査しておいた方がいいだろう」
アルトも頷く。
シェリルは悟郎に視線を転じた。
「たぶん、その歌のお陰で、私も悟郎を見つけられたんだわ」
「そっか。歌って、やっぱりスゴイんだね」
悟郎が憧れの目で母親を見上げる。
かつてアイランド1と呼ばれた都市型宇宙船は、惑星上の都市として機能している。
今日は、アイランド1が惑星表面に着水して7回目の記念日。
アドバンスドEXギアを装備したアクロバットチームが、色とりどりのスモークで7の文字を青空に描いた。

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2008.10.16 
■恒例、まったり絵ちゃ
明16日24時頃から開始予定。
絵が描けなくてもかまいません。
お気軽にお越しください。

■と、ゆーことで
お呼び出しを申し上げます。
『マクロスFギャラクシーツアーFINAL』をご観覧の方、ぜひとも絵ちゃにご光臨あそばして、行けなかった民草にレポートをお願いします。
うらやましさのあまり、ハンカチ噛み締めて拝聴する所存。

2008.10.15 
映画『Bird Human』完成披露試写会とパーティーの刻限は迫っていた。
シェリルアルトを急かした。
「早く、早くっ!」
VF-25Tの前席で操縦桿を握るアルトはスロットルを調整した。
これ以上速度を上げると、アイランド1内部での交通法規に抵触する。
「今の速度で精一杯だ。だいたい、お前が衣装に迷って遅くなったんだろうが」
シェリルは唇を尖らせた。
「だって、何着てもしっくり来ないんだもの」
青を基調としたキュートなミニドレス姿のシェリルはキャノピーに映った自分の姿をチェックした。
すぐにホテルが見えてきた。
アイランド1の海辺に建つホテル・ネレイドー・パレスはキャパシティーの大きなホールを備えていて、会議やイベントでよく利用される。
屋上にチカチカと点滅する標識灯を確認。
アルトはホテルが用意したLZ(着陸用スペース)へのアプローチに入った。
ガウォーク形態で慎重に高度を下げる。
フェザータッチのランディングで、着陸した衝撃をほとんど感じさせない。
機械腕が広げた掌に乗って、シェリルが降り立つ。
ホテルのスタッフがすぐに案内に出てきた。
「ミス・シェリル、お待ちしていました。どうぞこちらへ…」
アルトはVF-25Tの動力を落としてから降り立った。パイロットスーツから着替えるため、SMS関係者へと与えられた控え室に急ぐ。

上映直後の舞台挨拶が始まった。
「フレッシュな歌声で我々を魅了してくれた、ミス・ランカ・リー!」
司会が主演女優に続いて、ランカの名を呼ぶ。
スポットライトが客席に座ったランカに当てられる。
純白のミニドレスがほのかにハレーションを起こした。
ジョージ山森監督のエスコートで舞台へ上がる。
万雷の拍手の中、最初はためらいがちに、次第に大きく手を振った。
その傍らで映画にイメージソングを提供したシェリルも微笑みを客席に向けている。
「おめでとう、ランカ
客席のアルトも拍手していた。
静かな嬉しさと、少しの寂しさを感じる。
思えば、かつては舞台の上でスポットライトを浴びる立場だったのだ。
(俺は芝居を辞めたんだ)
自分に言い聞かせ、拍手をより大きくした。

試写会の後は、立食形式のパーティーだった。
着飾った業界関係者たちの間で、ミシェルがシェリルのバックダンサーを口説きながら大皿の上の料理をさらっていた。
洗練された身のこなしのおかげで、がっついているようには見えないが、ミシェルの大食漢ぶりにダンサーが目を丸くしている。
「よくやりますよね、ミシェル先輩」
ルカがノン・アルコールのカクテルグラスを手にしてアルトを見上げた。
「ああ」
アルトは頷いた。
ランカは時折こっちに視線を送ってくるが、山森監督の横で人垣に囲まれて、身動きが取れないようだ。
ランカに向けて小さく手を振る。
ランカが微笑んだ。その瞬間、監督に話しかけられて素早く振り返る。
アルトとしては、とりあえず腹が満足するほど食べたので、後はできるだけ早くパーティー会場から抜け出すタイミングを見計らっていた。
「御曹司、武蔵屋さんの御曹司ですよね?」
アルトに声をかけた初老の紳士がいた。見知った顔だ。それも、そのはず。父・嵐蔵の後援者の一人だ。
「すっかり見違えた。立派になられましたな」
紳士は一歩下がってアルトを頭からつま先まで眺めた。
「お世話になっております」
アルトは丁重に頭を下げた。
今まで避けていたが、映画に関わったことで、どうしても歌舞伎の関係者やファンから声をかけられることが増えた。
「ここに居るということは、舞台に戻るのですかな?」
「いえ、道楽が過ぎまして、嵐蔵から勘当された身です」
「それは、もったいない。不世出の女形が、二度と拝めないとは」
紳士の言葉は心からのものだったが、アルトには息苦しくてかなわない。
朝から晩まで舞台のことを考えていたあの頃、華やかな笑顔の下では、ご見物から、父から、矢三郎から、求められるままに演じ続け、自分を見失って人知れずのたうちまわっていたのだ。
ようやく空というよすがを掴んで、今の自分がある。
「とんでもない。不肖の倅です」
「きっと火事息子のようなオチが待ってますよ」
紳士は落語のネタを持ち出して、期待を表明してくれた。
大店の放蕩息子が勘当され、火消しになった。実家が火事に巻き込まれて、息子が火消しに向かうという人情噺だ。
「ええ、まあ」
アルトはあいまいな笑みで言葉を濁した。
「アルト!」
聞き覚えのある声がした。
これ幸いとばかりに、アルトは紳士に頭を下げた。
「ツレが呼んでますので…失礼します」
声のした方を見ると、鮮やかなパープルのイブニングドレス姿で装ったシェリルが手を振っていた。
人混みをすり抜けて向かう。
「お前、また着替えたのか」
「ファンに色んな姿を見せてあげないとね。夢を与えるのが私の仕事よ」
シェリルは営業用の笑みを浮かべて言った。
「はいはい、さすがシェリル様。で、どうしたんだ?」
「パーティー抜けちゃいましょ」
シェリルは自然な仕草でアルトに腕をからめた。

夜。
ホテルのプライベートビーチには他に誰もいない。
シェリルは砂浜に足を踏み入れると、歩きづらいヒールを脱いで手に持った。
ストッキングの足で波打ち際まで行く。
「きゃぁ!」
ドレスの裾を空いている手でたくし上げながら、シェリルは波と戯れた。
「アルト! これ持ってて」
ポーンと投げられたヒールをアルトは受け止めた。
両手でドレスの裾を持ったシェリルは、波に足を踏み入れる。
「いいのかよ、こんなところで遊んでて」
「必要な挨拶は済ませたわ。グレイスにもOKとったし……それより、アンタ、お礼は?」
「え?」
「困ってたんでしょ? 昔の知り合いかなんか?」
シェリルは紳士との会話を見ていたらしい。
「あ……ああ」
アルトは黙りこんだ。
気がつくと、シェリルが見つめている。
「ありがとう」
「素直でよろしい」
シェリルは波打ち際から離れると、アルトの上着を引っ張って、砂浜を指し示した。
「はいはい」
アルトはジャケットを脱ぐと、砂浜に敷いた。
その上にシェリルが座って、アルトを見上げた。
「時々ね……銀河の妖精を営業してるのも疲れることがあるわ」
アルトはハッとした。シェリルの隣に座る。
「判る……ような気がする」
「アルトの癖に生意気。アンタなんかの理解から、ずーっとかけ離れているスケールなのよ」
妖精はいらずらっぽい笑みを浮かべた。
「だろうな」
「今夜は、やけに素直ね」
「そうかな」
「そうよ……メディアが伝える私と、プライベートの私。どうやったってズレがあるんだけど、みんな心地よい幻を私に投影する。時には幻を演じて、たまには幻と戦って……」
アルトはシェリルが言わなかった言葉の続きが判るような気がした。
疲れるのだ。期待する人が多ければ多いほど。
「空、いいわね。飛んでいる間、空のことだけ考えられるから」
シェリルはEXギアを操る手つきをしてみせた。
「お前…」
アルトは驚いた。
「なぁに? どうかした?」
「いや、何でもない」
それから二人の間を波の音が満たした。
波の音にまぎれそうなぐらい、小さな声でシェリルが言った。
「女性を演じるって、どんな気持ち?」
アルトは少し考えた。
「難しいな、説明するの。歌舞伎の世界だと、こうと決められた所作があるから、それに沿って演じるところから始まる……背中が疲れるんだ。ものすごく」
「背中?」
「男の体を女に見せるには、背筋を酷使する。出ずっぱりの芝居だと、背中がつりそうになる」
「へぇ……ねぇ、今まで演じてて一番好きな役は?」
アルトは即答した。
「シンデレラ」
「はぁ?」
「美星の中等部の時に、学園祭でやったんだ。男女逆転の配役で……面白かった。自分たちで脚本書いて、衣装も手作りで。和服じゃないドレスを着たのも楽しかった」
「へぇ、見たかったわ」
「はい、お母様……でも、お城の舞踏会へ行ってみたい」
アルトは手を合わせて夜空を仰いだ。
ただそれだけなのに、粗末な服の灰かぶり姫が重なって見える。
「アルト……かぼちゃの馬車は、最新型のバルキリー?」
シェリルは立ち上がった。
「ああ、それ、良いな」
遠くから、ホテルの方から声がした。
「シェリル!」
敏腕マネージャー・グレイスの声だ。
「ふふ、真夜中の鐘が鳴ったわね」
悪戯を見つかった子供のような笑顔で振り返るシェリル。
解けてしまった魔法の時間を惜しむように、アルトの手をとってぎゅっと握りしめた。

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2008.10.14 
■オトナアニメを買ってきた
Vol.10はマクロスF後半の特集。
アルト役の中村悠一さんや河森正治総監督のインタビューなど、濃い内容でした。
背景や動画などを担当された方へのインタビューもあり、シェリルのストロベリーブロンドがいかに手の込んだ画だったのかを知って感動。何しろ手がかかるため、一話の中で使えるカット数が限定されていたとの由。
もうひとつ感動したのは、監督インタビューでラスト、シェリルを殺す(汗)というアイディアもあったけど、情が移って生き残ることになった、というくだりがありました。
すごい。
シェリルというキャラクターは、監督や脚本を、その魅力でねじ伏せて生き残ったんだ。まさに、キャラクターに生命が宿る瞬間を目にしていたんですね。

マクロスFのファンサイトを巡っていますと
「全体でストーリーを見返してみて、ミシェルが死んだ意味が判らない。意味が無いんじゃないか」
というご意見をチラホラと見かけます。
ミシェルという魅力的なキャラクターを惜しむ気持はよく分かります。
しかし、同時にゲーム方面でシナリオ制作に関わっていた私には
「ファンの要望に作者が負けて、死ぬべきキャラクターが生き返えってしまえば、物語が死んでしまう」
という真理も実感を伴って理解できるのです。
ホラー小説の名手スティーブン・キングが『ミザリー』で告白したように、物語を作り上げるという作業は、どこまでも孤独で、かつ利己的なものだから。

だからこそ、シェリルが生き残ったことを祝福したいと思います。
こんなにも魅力的なキャラクターをありがとう、マクロスF。

■劇場版で発表されると言うシェリルの新曲が待ち切れずに
マクロス関連作品のサウンドトラックを聞いているのですが、今日マクロスⅡのサウンドトラックを入手できました。
聴くと、結構、楽曲に注力しています。ボーカル曲も良いし、BGMもエヴァンゲリオンで活躍した鷲巣詩郎さんです。
でも、微妙に黒歴史にされているのでしょうか。オフィシャルから発表されている年表や、PSPのゲームでもⅡは取り扱われていません。最新作のマクロスFから見ても未来の話なので、組み込みづらいのかも知れませんね。

■Podcastで万葉集を聴く
iPodユーザーの方はご存知かと思いますが、Podcastと呼ばれるWeb放送があります。
iPodにダウンロードして視聴するのですが、最近見つけたお気に入りに『NipponArchives 万葉集 ココロ・ニ・マド・ヲ』というチャンネルがあります。
万葉集に収録された和歌を一種ずつ、映像と朗読で紹介しています。

 朝寝髪(あさいがみ)
 我は梳(けづ)らじ
 愛(うつくし)き
 君が手枕
 触れてしものを
  巻十一・二五七八 作者不詳

この句を見て、アルトの腕枕で眠るシェリルの姿が浮かんでしまいました。
アルシェリ脳も重症ですね^^

2008.10.13 
(承前)

「っと言うわけなんデス。ぶっちゃけチャリティーなんで、一銭も出ませんケド、どうか手伝ってもらえまセンかねぇ?」
エルモは音響エンジニアに頭を下げた。
「手伝いたいのは山々なんだがね……いや、銭が欲しいわけじゃない。今の船団じゃ、使い途なんて無いからな。でもなぁ」
硬式宇宙服を着込んだ中年男のベテラン・エンジニアはヘルメットをかぶった。
スピーカー越しの声に切り替わった。
「こっちの仕事がてんてこ舞いなんだ。期待しないでくれ。じゃあな」
環境維持設備の専門家でもある彼は、これから船外活動に出る。

「ってわけでネェ…どうデス?」
エルモは、かねてから目をつけていた若手のキーボード奏者にチャリティーコンサートの話を持ちかけた。
「……」
黙りこくっている若い男は虚ろな目つきでエルモを見た。
そして、利き手である右手をエルモの目の前に差し出した。
エルモは息を飲んだ。
「あ……アア…」
その手は、人差し指と中指、親指が切断されていた。
もう何も言えない。
「す、すみまセン……」
エルモはすごすごと引き下がった。

「久しぶりねぇ。最近バーに来ないから、バジュラに食われて、くたばったんじゃないかって噂してたのよ」
ゼントラーディの女性シンガーの部屋にはアルコールの匂いが漂っていた。
「こりゃ、ご挨拶デスね。実はね、今日は、バックコーラスを頼みに来たんデス」
「仕事?」
シンガーは目を輝かせた。だが、すぐ瞳を曇らせる。
「マイクローン・サイズじゃね……いつもの声が出せないわ」
普段はアイランド3に住んでいたシンガーは、ゼントラーディとしての体の大きさを活かした歌唱法を得意としていた。
しかし、船内で繁殖したバジュラを殲滅する際に、アイランド3自体が一種のトラップとして使用され、次元破壊爆弾『リトル・ガール』の爆縮によって消滅した。
住人だったゼントラーディ達は、マイクローン化され、アイランド1に収容されている。
「アナタの歌声は素晴らしい。体のサイズなんか問題じゃありませんヨッ」
「まあ、そんなのはエルモに教えられなくても知ってたけど、さ。で、誰のバックで歌うことになるのかしら?」
仕事には乗り気らしい。エルモは揉み手をしながら言った。
「銀河の妖精、シェリル・ノーム……どうデス?」
シンガーは眉をひそめた。
シェリル?」
「滅多にないチャンスですヨッ」
「私、あのコ、嫌ぁい」
「そりゃまた、どーシテ?」
「アイドルでしょ? アイドルにしちゃ、声は出てるけどさぁ……なんか、歌がねぇ。いかにも売らんかな、って感じでアレなのよ」
エルモはシェリルが開こうとしているチャリティーコンサートの意義を説いた。
「…ねぇ、今の世の中、皆を励ましたり、慰めたりするものが必要なんデスよ。誰かがそれをしないと」
「そりゃね、判るんだけど、さ。でも、私じゃないと、いけない訳じゃないでしょ?」
シンガーは渋い顔をした。
「もう頼める人は、あなたしかいないんデス。シェリルさんと声質からいって合いそうな人の所を回ったんデスけど、減圧事故で喉を痛めてたり、亡くなっていたり……」
シンガーは押し黙った。
「一度、一度だけでいいから、今のシェリルさんの歌、聴いてあげて下サイ。それから決めて下サイ」
エルモの頼みに、シンガーは頷いた。
「どこに行けばいいの?」

アイランド3から避難したゼントラーディ達は、アイランド1地下2Fの居住区に収容されていた。
居住区の中央には広場があり、そこで所在無さそうにたむろしているゼントラーディたち。
やけに子供の姿が目立つ。
大人たちは船団のメンテナンスに駆り出されているのだろう。
シェリル・ノームはピンクのワンピース姿で、広場の中央に立った。
どことなくくすんだ印象の居住区の中で、ただ立っているだけなのに、スポットライトが当たっているかのように際立って見える。
楽器もコーラスもなしに、アカペラで歌い始める。

 デメルケス
 (何も無い)
 デメルケス
 (何も無い)
 ダカン デ タルニ ダルカーン
 (星さえもない宇宙)
 メルケスザンツ
 (生まれる)
 メルケスザンツ
 (生まれる)
 メナ メルケスザンツ ミーゾーン
 (何かが歌を生み出した)
 マルテス オ カールチューン
 (文化の記録)
 アルマ メルトラン テ
 (全ての女と)
 アルマ ゼントラン
 (全ての男)
 デ テルネスタ ホルト ミーゾーン
 (忘れ難い 新たな歌)

ゼントラーディ語の歌だった。
ネイティブの発音と比べて遜色はない。
歌詞の言葉づかいには、ややぎこちないところもあるだろうか。
メロディは平易で、誰でもすぐに覚えられそうだった。
子供たちが足を止め、すぐに口ずさみ始める。
「ここで開くって決めて、シェリルさんが作詞作曲したんデス」
エルモの言葉に頷くと、シンガーは目を閉じて聴き入った。
ワンコーラス歌った所で、即興のコーラスを合わせる。
シェリルは、歌いながら聞こえてくるコーラスに目を見張った。シンガーとエルモの姿を認めると、微笑んで頷く。
やがて大人たちも足を止めて歌に耳を傾けた。
暖かい空気が、くすんだ街並みを、ちょっとだけ彩豊かなものに変えた。

ストリートライブを終えると、シェリルとエルモ、シンガーはエルモが手配した車に乗って帰路についた。
「エルモ社長……バックコーラスの心当たりって、この人なの?」
後部座席で体を横たえたシェリルが言った。
彼女の体を冒す病は進行していて、ゆっくりと搾り取られるように体力が削がれていた。
「私ね、シェリル・ノームの歌って、嫌いだったの。耳に心地よい歌詞と音……だけど中身が無い感じがした」
助手席のシンガーは断言した。
「そう」
シェリルは自分の額に手を当てた。熱が上がってきたようだ。
「でも、さっきの歌は良かった……引き受けさせてもらうわ」
「本当デスかっ!」
ハンドルを握ったエルモは喜色を浮かべた。
「ええ、二言は無いわよ。ねえ、シェリル……あなた恋をしてる?」
シンガーの言葉に、シェリルは上体を起こして目を丸くした。熱で染まった頬に、はにかんだ微笑みを浮かべる。
「ふふっ」
それだけでシンガーには通じたようだ。
エルモは、話の流れが読めずにバックミラーに映ったシェリルの表情を見る。
「この世で最初に生まれた歌は、きっとラブソングなのよ。あ、ここで止めて」
シンガーは、そう言って車を止めさせた。車から降りる間際、エルモに頼んだ。
「ライブの日時、決まったら教えてね」

ギターとベース、ドラマーはなんとか手配できた。
バックコーラスも来てくれる。
会場も問題ない。
音響エンジニアはエルモが代行することにした。
リハーサルが始まると、右手の指を失ったキーボード奏者がやってきた。
「だ、大丈夫なんデスか?」
エルモが駆け寄ると、キーボード奏者は黙って首から下げたキーボードを示した。左利き用のモデルだった。右手はテープでネックに固定し、残った指で補助的な操作ができるようにボタンを追加してある。
「じゃあ、通しでリハ、行くわよ!」
シェリルがステージの上でマイクを握った。

あと10分でチャリティーコンサートが開かれようとする、その時。
エルモは舞台の袖で汗をかいていた。
スピーカーに原因不明のノイズが入ってしまう。アイランド1の損傷個所のどこかから、強力な電波が漏れているのかもしれない。
こうなっては素人に毛の生えた程度のエルモでは、どうにもならない。
「どうしたもんデスかねぇ」
「もしダメなら、最悪、生の声だけでもやるわ。大きなハコじゃないから、それぐらいの声量は大丈夫」
シェリルはエルモに言った。
「でも、できるだけ頑張ってみマス。せっかくのコンサート……」
接続を変えてテストするエルモ。
「どいたどいた、アンタじゃ無理だって、これは」
ゴツゴツと硬い足音を立てて入ってきたのは、硬式宇宙服姿の男だった。
「ああっ、あなたは!」
音響エンジニアはニヤっと笑った。
「ギリで間に合ったみたいだな。宇宙服脱ぐ暇は無かったから、外殻の洗浄だけ済ませて駆け付けた。どれ、見せてみな」
エンジニアは機材のセッティングをざっと見ると、設定をいくつか変更した。
ピタリとノイズが止まる。
時計を見上げると開演時間ちょうどだった。

「今日は、ライブに来てくれてありがとう。フロンティアに来て、本当にたくさんの素敵な事があったわ。大切な思い出をくれた街でもあるの……だから、そのフロンティアに、フロンティアの皆に少しでもお返しがしたくて」
ステージ上のシェリルは、マイクをスタンドに嵌めこんだ。
「これから歌うのは、フロンティアに来てから作った歌なの。聞いてくれる? タイトルは『妖精』」
繊細なキーボードの旋律から曲は始まった。
エレクトリックなノイズとともに、ギターがコードを奏でる。

 みんなが私のことを
 妖精と呼ぶ
 わたしはそれに応える

高く透き通ったシェリルの歌声。
バックコーラスのウィスパー・ボイス。
疲れきったオーディエンスの心に染み込むように響いていく。
エンジニア席から客席を見下ろすエルモは今まで感じたことのない達成感を味わっていた。

 あなたと出会って
 愛されるため
 ずっと独りでいたんだ
 過去と未来
 結ぶ銀河の夕暮れを
 あなたと見たいから

聴衆はリズムに合わせて肩を揺らしていた。メロディに耳を澄ませ、閉じた瞼の下からこぼれる涙を拭っている人もいた。
(歌は届くんですねぇ)
エルモはランカの事を考えた。
思えば、ランカの歌がバジュラに影響を与えるのも決して不思議なことではないのかもしれない。
(ランカさん……あなたが心から歌いたい歌、歌える日が来るまで頑張りマスよ)

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2008.10.12 
エルモ・クリダニクは目覚めると洗面台に向かった。
鏡の中の男は、どこにでもいる中年だ。
並外れた才能は無い。ただ、自分の思う道を、寄り道、回り道しながら歩んで来た。
口の前で掌を広げ、息を吹きかける。
「よぉし」
酒の匂いは抜けたようだ。
両の頬をパンパンと掌で叩いて気合を入れる。
「文化は愛!」
あの日、エルモは再び目標を見出した。

フロンティア船団内で密かに大量繁殖していたバジュラが船団内部を襲った日、エルモは最近の日課をこなしていた。
昼間から酒を飲んで酔っぱらっていたのだ。
船団社会は超長距離フォールド直後でエネルギーが窮乏し、商業活動が禁じられていた。
となればローカルな弱小音楽事務所ベクタープロモーションとしては通常の営業活動もできない。
市民の義務である船団の維持管理に関する勤労奉仕をこなせば、アルコールの海に溺れる時間はたっぷりあった。
いつも贔屓にしていたバーの店内で常連たちと、世間に隠れるようにして酒を飲む。
まるで禁酒法時代のスピーク・イージー(秘密酒場)だ。
オーナー兼バーテンダーも、電子マネーを使用した商業活動は事実上停止していたので、常連たちが持ち寄ったツマミと物々交換の形で在庫を飲ませてくれていた。
「本業の方はいいのかい?」
同年代のバーテンはグラスを磨きながら言った。
「ええ、このご時世じゃネェ」
エルモはスコッチをあおった。
「でも、歌手さんだからボイストレーニングとかあるんじゃないかい? うちの在庫はフタしておいたらいいが、人間じゃそうはいかんだろ?」
「ウチの人たちはね、ベテランだから自分でなんとかしマス。唯一の新人は、政府に持ってかれちまいましたしネェ」
エルモは酒臭い溜息をついて、カウンターに頬杖をつく。
「そう、そのランカちゃん、スゴイ活躍だ。アンタも先見の明も素晴らしいな」
いつの間にかエルモとバーテンの会話に、常連たちが耳をそばだてている。
今日はフロンティア船団がランカの歌によって、超長距離フォールド作戦を成功させた祭日なのだから。その名も『アイモ記念日』。
「ランカちゃん……」
エルモは涙目になって、スコッチをあおった。
若いくせにやたらと迫力ある兄・オズマを説得してスカウトしたはいいものの、理由がよく分からない妨害でランカ・リーのプロモーション活動は滞っていた。
それでも、ジョージ山森監督の目にとまって映画『Bird Human』で一気にブレイク。
天空門ホールでファーストライブも成功させた。
全てはこれからだったのに。
文化を奪われたゼントラーディとして生まれ、歌に魅入られたエルモは、その感動を人々に伝える仕事をこよなく愛していた。
自分が良いと思ったものが、いつも世間に受け入れられるわけではなかったが、自分がプロモートした歌手の歌が人々の心に届く瞬間にささやかな喜びをおぼえた。
ランカはエルモの会社ベクタープロモーションが初めて扱ったアイドル歌手だったが、その成長ぶり、聴衆からの手応えは桁はずれだった。
しかし、大統領府がランカの歌がバジュラを制するかもしれないと、ベクタープロモーションから取り上げてしまった。バジュラに歌を聴かせるというアイディアが、どんなに荒唐無稽に思われても、バジュラ対策となれば今のフロンティアでは反対できない状況だ。
バーテンは磨いていたグラスを片付けると、自分用のドライマティーニを作り始めた。
エルモは自分の掌でグラスにフタをした。今日はここまでにしておこう。

バーから出ると、街はにぎやかだった。
グラス大統領の凱旋パレードにあわせ、思い思いの仮装をした市民が街を行き交う。
今回の流行はバジュラらしい。着ぐるみを作ってバジュラの扮装をする人が目立つ。
中には、どうやって着ているのか判らないほど奇抜だったり、リアルな形のバジュラ着ぐるみもあった。
祝砲の響き。
歓声。
街のあちこちからアイモの歌声が聞こえてくる。
エルモは悲しくなった。
マーチ調に編曲されたアイモは何か大事なものを損なっているように聴こえるから。

エルモが最初にランカを見たのは、今年のミス・マクロス・コンテストだった。
舞台馴れしていないぎこちなさと、いざ歌い始めてからの声ののびやかさのギャップに、新鮮な魅力を感じた。
次に見かけたのは、ゼントラーディ・モールで路上ライブをしていた時だ。
シェリルのナンバーをアカペラで歌っていたランカ。
近くにいたストリートミュージシャンたちが、自然にその歌声に合わせて持ち合わせていた楽器を奏でていた。
エルモは、その場で名刺をランカに渡した。

(こんなアイモじゃなくて、いつもの歌声を聴きたいデスよ……ランカちゃん)
見上げれば、サングラス越しの青空に花火が打ち上げられている。
酒の匂いをまつわりつかせながら、行くあてもなく街をうろつく。
すれ違う人たちの視線が冷たい。
いくら祝日とは言え、フロンティア船団が逼迫しているのだ。市民は突発的な事態に対応に対処できる態勢にあるべきなのだ。
泥酔寸前まで酔っていたので、いつからかは判然としなかったが、街の空気が変わっていた。
賑やかな感じから、騒がしい感じに変わっていた。
(おかしいデスよ?)
ポケットを探ってピルケースから酔い覚ましのタブレットを取り出して、噛み砕いた。
「うげ……」
ひどい味に呻いた。
即効性でアルコールが抜けて行く。
シャッキリとした目で周囲を見渡す。
空を指差している人が何人もいる。
そちらを見上げた。
黒い雲のようなものが見える。
「アレは?」
雲はチラついていた。
良く見ると、それは大きな昆虫に似た物体の群だった。チラつきは、細かく振動している羽が陽光を反射していたのだ。
「ば……バジュラ?」
悲鳴と怒号、銃声、砲火の響きが遠くから次第に近づいてくる。
「こっちに来るぞ!」
誰かが叫んだ。
人波がこちらに押し寄せてくる。
その頃になって、ようやく避難警報が街頭のディスプレイから鳴り響いた。
「わあ!」
エルモは無我夢中で駆けた。
一番近くのシェルターに飛び込もうとする。
しかし、そこは既に満員になっていた。
「入れてくだサイ!」
伸ばした手の先で、シェルターの気密扉が閉じられた。
次に近いシェルターの位置を思い浮かべながら人波をかき分けて方向転換した。
アルコールのせいで息が途切れがちになる。
「くそーッ」
さっき飲んだスコッチを呪い、よろめきそうになる足を踏みしめた。

四つ目のシェルターに転げこめたのは幸運だった。
軍人が毛布や非常食を配り、軍医が負傷者や急病人の手当を手配している。
比較的空いているシェルターだったので、後から後から避難民が運び込まれてきた。
運び込まれてくる避難民に負傷者が目立つようになってきた。
外はひどい有様なのだろう。あれだけの数のバジュラが艦内部で暴れたら、どうなることか。
エルモは想像するのを止めた。どう考えても明るい気分になるわけではない。
毛布を畳んで座布団代りにすると、膝を抱えて座った。
シェルター内でささやきを交わしている声が聞こえてくる。
「ランカ・リーは、どうしたんだ? あの子が歌えばバジュラは止まるんじゃ…」
「逃げ切れるって言ってたのに…」
「話が上手すぎるって思ったんだよ! 政府の連中……」
爆音と地響き。
近い。
シェルター内部が大きく振動した。
立っている兵士は近くの壁にしがみ付いた。
怪我をして意識を失っている少女を庇って覆いかぶさる別の少女。
抱きしめあう親子。
悲鳴と嗚咽が充満する。
照明が切れて暗闇になる。
すぐに非常用の赤色灯に切り替わった。
「ぼくたち死んじゃうの?」
子供の声がした。
父親が落ち着かせようと囁いた。
エルモは、そんな状況を他人事のように眺めていた。
仕事も奪われた。
街はボロボロになって、誰も歌なんか聞こうとしないだろう。
文化は愛と心に刻んで働き続けたが、もう愛を届ける場所もなくなる。
(死ぬなら、苦しまずに一瞬で……ってなって欲しいデスよ)

 神様に恋をしてた頃は
 こんな別れが来るとは思ってなかったよ

苦痛と絶望に満ちたシェルターの空気を震わせて、清冽な歌声が聞こえてくる。
どこかで聞いた曲だ。

 もう二度と触れられないなら
 せめて最後に
 もう一度抱きしめて欲しかったよ

シェリル?」
シェリルだ…」
うずくまる避難民の中で立ちあがった少女。
非常灯の乏しい明かりを集め、ブロンドの髪がほのかな光を帯びているように見えた。
「銀河の妖精……」
呻くようにつぶやくと、エルモは我知らず立ち上がっていた。
不安な囁きも、怨嗟の声もいつの間にか止まっていた。
この瞬間、すべての人はシェリルの歌声に耳を傾けた。
エルモは魅入られていた。
シェルの頬を涙が一筋伝う、その動きさえ網膜に焼き付けようと見つめ続けた。

 貴方に出逢い
 STAR輝いて
 アタシが生まれて
 愛すればこそ
 iあればこそ

歌声はシェリル自身の深い所から生み出されていた。
最初は自らに向けて、やがて思いは周りの人々へ、更に遠くへと、ありったけの思いを届けようと真空の彼方でさえ震わせていく。
愛は届く。
エルモは背筋を伸ばした。
仕事は、ここにある。

避難警報が解除され、シェルター内の避難民は36時間ぶりに解放された。
シェリルさん、手配ができましたら、連絡いたしマス」
銀河の妖精と呼ばれた少女はエルモに向かって薄く微笑んだ。
「ありがとう。歌う機会をくれて。今は、こちらにご厄介になっているわ」
携帯端末に入力された連絡先をエルモの端末に転送する。
「はい、確かに……ここは」
表示された住所を見て、エルモは目を丸くした。
早乙女嵐蔵宅と表示されている。
「ええ」
シェリルは頷くと、ストレッチャーに乗せて運び出されるナナセにつきそって、搬送車に乗りこむ。
「さぁ、忙しくなるデスよ」
エルモは病院に向かう車を見送ってから、久し振りに自分の会社へ足を運んだ。

(続く)

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2008.10.12 
■まったり絵ちゃ
先日、9日深夜のまったり絵ちゃへの参加、ありがとうございました。
向井風さま、mittin様、瑞樹さま、春陽さま、姫矢咲楽さま、でるま様、salala様、遊んでいただいてありがとうございました。
今回は、マクロスFを漫画化するなら、どの作家さん(主に女性漫画家さん)に描いて欲しいか、という話題で盛り上がりました。

 樹なつみ
 杉崎ゆきる
 金田一連十郎
 桂明日香
 種村有菜
 武内直子
 谷川史子
 森永あい
 よしながふみ
 荒川弘
 大和和紀
 番外:山田章博

皆様の趣味がうかがえる楽しいチョイスでした^^
extramf的に重要なのは、シェリルを魅力的に描いてもらえるのと、オズマの首の太さを描ける方がいいなぁ。

■今回の絵ちゃにおけるアルシェリスト的結論(謎)
シェリル>>(越えられない壁)>>アルト

■リンクについて
当ブログはリンクフリーです。
貼るも剥がすも、報告・許可は無用でございます。

2008.10.10 
さっそくi-Tunesに取り込んで、がんがんヘビーロテ中ですよっ。
やっぱり『妖精』はいいわぁ。

ところで気になるのが未収録曲。
ざっと気がついたところで…

アイモ(ランシェ・メイ ver.)
アイモ(シェリル ver.)
ダイアモンド クレバス 50/50
射手座☆午後九時Don't be late(6話14話 ver.)
宇宙兄弟船
宇宙兄弟船(シェリル ver.)
ニンジーン Loves you yeah !(ボビー ver.)
私の彼はパイロット(ボビー ver.)
SMS小隊の歌(ランカ ver.)
私の彼はパイロット(4話 ver.)

きっと菅野よう子さんのことだから、まだまだ隠し玉があるに違いない。
5話でシェリルが着想を得た曲(俗に言うパンツ曲)も、はっきりと劇中に出てきていないし。
ちょっとだけ補足しておくと、『射手座…』の別バージョンは、6話のリハーサルシーンと、14話でシェリルがVF-25を操縦するシーンの曲。
『私の彼はパイロット(4話 ver.)』は、劇中でランカが歌ってたバージョン。CDに収録されているのとは別録音だそうです。DVD2巻のオーディオコメンタリーで言ってました。

次に発表されるのがOST3になるのでしょうか?
それとも、シェリルとランカの単独アルバム?
劇場版は劇場版でOST出るだろーしなぁ。

9日24時から、毎度恒例のまったり絵ちゃなぞ、催してみます。

2008.10.08 
悟郎とメロディが9歳になった夏。
アルト一家は、夏休みを山中のコテージで過ごすことにした。
楽しいはずの家族旅行は微妙な雰囲気になっていた。

コテージの子供部屋で荷物をほどきながら、ストロベリーブロンドにブルーアイの男の子・悟郎は双子の片割れであるメロディに尋ねた。
「お父さんとお母さん、なんかヘンな感じじゃなかった?」
長く伸ばした黒髪と琥珀色の瞳の女の子・メロディは訳知り顔で言った。
「夫婦ゲンカの真っ最中」
悟郎はトランクから衣服をクローゼットに移す手を止めた。
「なんで?」
「お母さんが、ほら、なんとかって言うダンサーとウワサたてられてたじゃない。雑誌に載ってたわ」
「ああ、アレか。アレぐらいで何で?」
悟郎は不思議そうな顔をした。
その程度のスキャンダルっぽい記事なら、シェリルにとって頻繁ではないが、珍しい話ではない。
家族の間でも深刻な話題ではなかった。
「ちょっとね、言葉の行き違いがあったのよ」
メロディは荷物を片づけて、ベッドの上にポンと飛び乗った。スプリングでほっそりした体が跳ねる。
「夕べ、夜中に目が覚めて、水を飲もうってキッチンに行ったら、ダイニングでお父さんとお母さんが言い合ってたの」
「ふぅん」
「盗み聞きしてたわけじゃないから、そんなハッキリとはわからないけど……お父さんが、こんなニュース子供らが見たら傷つくだろうって言ってて、お母さんが、それぐらいでビビるような教育してないって」
「まあね。ボクなんかしょっちゅうだ」
悟郎の言葉にメロディは肩をすくめた。
「そうね。アイラとトリシアとベラとケイコとウェイとウワサたてられたもんね」
悟郎は唇を尖らせた。手は荷物の整理を再開している。
「バースディプレゼントもらったから、お返ししただけなのになぁ……ったく」
「ハデな花束もいっしょに贈るから、誤解されるのよ」
「だって、ミアにプレゼントしたら喜ばれたからさー」
「ミアは大人なのよ」
メロディはヤレヤレと首を横に振って、窓から外を眺めた。
コテージは尾根伝いに作られた道路の脇にあるので、眺めが良かった。緑豊かな森を見下ろせる。
悟郎は既に歌手として芸能活動を始めていた。
ミアは、最初に発表したミニアルバムを担当してくれた女性プロデューサーだ。
早くからショウビズの世界に入って大人に囲まれていたため、悟郎は子供同士の付き合い方が判っていないところがある。

アルトは買い出ししてきた食品類を倉庫や冷蔵庫にしまった。
「今夜、何が食べたい?」
「……」
夫婦の寝室に荷物を運びこんでいたシェリルは黙々と作業を続けていた。
冷戦続行中だ。
「ビーフシチューにでもするか」
シェリルが好きそうなメニューを口にしながら、リビングの家具にかけられていたホコリ除けのカバーを外していく。
「……ローリエ入れるの忘れないでよ」
ようやくシェリルが口を開いた。少しは機嫌がなおったらしい。
2階から子供たちの足音がした。
「このらへん、探検してきていい?」
悟郎がアルトに尋ねた。
「ああ。でも、携帯は持っておけよ。それと、水辺には近寄らないこと」
アルトはコテージに備え付けの発電機や住宅設備、通信機器の調子をチェックしながら返事した。
通信端末の画面に人工衛星からの監視映像も表示させた。不審な車両などは見当たらない。
有名人の子供ともなると、誘拐などのリスクも警戒しなければならない。
(バジュラたちに突っ込まれるんだよな……同じ種なのに、何故かくも行動規範が違うのかって)
アルトは一人、苦笑しながら、衛星の映像を悟郎の携帯端末に追尾させた。
「メロディも一緒に行くの?」
寝室から聞こえてくるシェリルの声に、メロディが返事した。
「はい、お母さん」
「晩ご飯までには帰るのよ」
「いってきまーす」
双子たちは声を揃えて言った。

尾根伝いに作られた道は、夏の日差しで暑かったが、時折、吹く風が涼しかった。
悟郎とメロディはパワーアシスト付きの自転車でサイクリングを楽しんでいた。
「ねえ、どこまで行くの?」
メロディの質問に悟郎は一言。
「エンジェル・フォール」
この近くにある観光名所の滝だ。
「えー、お父さんから水辺はダメって言われたじゃない」
「でもさ、あそこなら展望台とか通路とか整備されてるから大丈夫だろ? 自然のままの川岸ならヤバいけど」
「そっか。そうね」
ポツンポツンと別荘が間隔をおいて並んでいる道は、車も人通りも少ない。
道路標識に従ってエンジェル・フォールへ向かう道に入った。
少し急な坂を駆け下り、駐車場に自転車を止めて展望台へと向かう。
しばらくすると、遠雷のような轟きが聞こえてきた。
「わあ!」
展望台で悟郎が歓声を上げた。
「凄い……」
メロディも絶句する。
落差1kmを超える断崖から瀑布が流れ落ちている。
太く白濁した水の流れは、あまりの落差に下部では細かい霧のような水しぶきになっていて、滝壺が無い。
「あの下まで行ってみない?」
メロディが悟郎の手を引いた。
「うん」
悟郎も頷いた。
展望台からキャットウォークのような手すり付きの通路が崖に取り付けられている。
進んでいくうちに周囲は霧に包まれていく。この霧は瀑布のなれの果てだ。
衣服が重く湿ってくる。
次第に5m先も見えない程の濃霧に包まれる。手すりに付けられている黄色い明かりを頼りに歩いていった。
エンジェル・フォールの真下は、頭上から降り注ぐ轟音と柔らかく重い霧に満たされた幻想的な世界だった。
周囲の岩を緑の苔が毛足の長い絨毯のように分厚く覆っていた。
「白い闇、ねっ!」
メロディが悟郎の耳元で叫んだ。そうしないと聞こえない。
「うん!」
悟郎は、この眺めを撮影しようと携帯端末を取り出した。
「あっ!」
濡れた手が滑って携帯を取り落とす。携帯は手すりを超え、霧にまぎれて見えなくなった。
遥か下を流れる川に落ちたらしい。

シェリルは荷物をほどき終わって、リビングで寛いでいた。
ピピッ!
通信端末から警報音が鳴る。シェリルは立ち上がって画面をチェックした。
子供たちに持たせた携帯端末に異変が生じたようだ。
川に沿って、かなりの高速で端末が移動している。
「まさか、水に落ちた? アルト!」
キッチンで夕食の下ごしらえを始めていたアルトが出てきた。
「これ見て」
シェリルの指さした画面をアルトものぞきこんだ。
「……流されてる? 体温は……感知してない。携帯だけ落したのか、それとも…」
アルトはエプロンを投げ捨てて、外へ出た。
「俺はバルキリーで探す」
アルトが叫ぶと、シェリルが頷いた。
「判った。こっちは車で」
シェリルもコテージを飛び出て、車に乗り込んだ。アクセルを踏みこむと、背後から自家用に使っているVF-25が飛び立つ噴射音が鳴り響く。
シェリルは悟郎の携帯の現在位置をカーナビに表示させた。
やはり流されているようだ。山間なので、場所によっては電波を拾えずに信号が途切れる。
車のハンドルを握りながら、片手で自分の携帯端末を操って、メロディに連絡を取ろうとする。
呼び出し音がするが、つながらない。
カーナビのディスプレイにメロディの携帯端末の位置を表示させた。コテージの位置で輝点が明滅している。
「忘れて行ったのね」
シェリルは携帯を切って運転に集中した。

「水辺は……って言ったのに」
アルトはガウォーク形態のVF-25を繊細に操った。
現在位置は航法支援システムの画面に表示させた悟郎の携帯の位置とぴったり重なっている。
流れがやや緩やかになったところで、川の中に着陸した。
水蒸気と水しぶきを跳ね飛ばしながら流れの中央に降り立つと、上流から流れてくる携帯を待ち受けた。
機械腕を伸ばし、掌を広げる。
この手の細かい操作は昔から得意だった。
キャノピーに投影されるヘッドアップディスプレイの表示を頼りにすくいあげる。
機械の掌に小さな携帯端末をキャッチ。
しかし見回しても、悟郎の姿はない。
アルトはシェリルの携帯端末を呼び出した。
「こちらアルト……携帯は回収したが、悟郎の姿は無い」
“了解。メロディの携帯にもかけてみたけど、あの子、コテージに忘れてるわ”
「そうか。シェリル、頼む」
アルトの意図するところは、シェリルにも通じていた。
“ええ、歌ってみる”

両親に心配をかけないように早く家に帰ろうと展望台に戻った悟郎とメロディは体の奥底から響いてくる歌声を感じた。
メロディが呟いた。
「お母さん」
“ソ・ド・ラ・ファ・ミ・ド・レ”
一番最初にシェリルから教わった旋律がフォールド波に乗って、双子の心を共鳴させた。
“ドミミ・ミソソ・レファファ・ラシシ”
シェリルの歌声に合わせて、悟郎も歌う。
ハーモニーに乗って、お互いの状況が伝わった。

V細菌と共生関係にあるシェリルから生まれた双子は同じ体質を受け継いでいた。
バジュラ戦役後に生まれた子供たちの中には、同じようにV細菌と共生関係を作り上げている者が多い。
バジュラと人類の仲立ちとなることを期待されている世代と言える。
ただし人体を用いたフォールド波通信は言語情報の伝達効率が良くないので、日常的な要件は通常の携帯端末を通じた音声通話で済ませている。

結局、シェリルが車に双子と自転車を乗せてコテージに帰ってきた。
先に待っていたアルトは、びしょ濡れのまま降りてきた双子をぎゅっと抱きしめた。
「ハラハラさせるんじゃないぞ」
「ごめん、お父さん」
「ごめんなさい」
「ほら、シャワー浴びてこい」
双子の背中を押して、家に入る。

夕食後、子供たちを寝かしつけたシェリルが居間に戻ってきた。
「初日から大騒ぎしたわね」
「ああ」
ソファに座っているアルトは、冷えたビールの喉越しを楽しんでいた。
「お前もどうだ?」
グラスを掲げて見せると、シェリルはキッチンからスパークリングワインのボトルを持ってきた。
「じゃあ、私はこっちでお付き合い」
二人はグラスの縁を触れ合せた。
「お前の歌声に乾杯」
アルトが言うと、シェリルが和した。
「我が家のエースパイロットの働きに、乾杯」
しばらく黙ってグラスを傾けていたが、アルトがポツリと言った。
「悪かったな」
「何が?」
シェリルは質問したが、アルトが何を言いたがっているのかは予想がついた。
「雑誌の記事、子供がどうかってより……その、なんだ…気に入らなかった」
「ふふ。今までも、あんな記事あったのに、どうして?」
シェリルはアルトの肩に頭を乗せた。
「いや、その……相手がハンサムだったから……」
「それだけ?」
シェリルはアルトの瞳をのぞきこんだ。
アルトは目をそらせる。
「まあ、いいわ。私も不注意だったし……これで仲直り」
噂の相手となったダンサーの容姿が、ちょっとだけミハエル・ブランに似ていたのも、アルトが態度を硬化させた原因の一つかも知れない。
アルトの好敵手で、学生時代一度も勝てなかったミハエル。
「アルトほどイイ男は銀河中探しても居ないわよ」
アルトはグラスをテーブルに置いて、シェリルを抱き寄せ、キスする。

シェリルの手がアルトの肩に回ったのを、双子は物影からのぞいていた。
足音を忍ばせて、子供部屋に戻る。
「なんだかんだ言って、やっぱり仲が良いよね」
ベッドに入った悟郎が囁いた。
「そうね」
メロディの声にはうっとりとした響きがあった。
まだ、恋愛というものを明確に意識する年齢ではなかったが、メロディにとって両親は理想の将来像だった。
今夜は良い夢を見れそうだ。
「お休みなさい」
メロディは部屋の明かりを消した。

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2008.10.05 
■なんかアクセス数が
えらいことになってます。
最終回が終わってさまよえるアルシェリストたちが来ていらっしゃるのかなぁ。

■10月4日14時30分ごろ
『川柳デスマッチ! 』への拍手でパスワード申請をしていただいた方、メールが不達になります。
正しいメールアドレスを教えて下さい。

■不覚
執筆途中のを公開してしまっていたあああああああ(絶叫)。
しかも拍手なんかもらったりして(汗)。
わ、忘れて下さい(哀願)。

2008.10.04 
昨夜の絵ちゃに、ご参加ありがとうございます。
今回は少し趣向をこらしまして、入室したらマクロスFっぽい川柳を詠んでいただく、というノルマを課させていただきました。
皆さん、ノリが良くて、快く付き合ってくださいました。
秀作ばかりなので、ここで紹介いたします。
順番は発表順です。

「アルシェリや ああアルシェリや アルシェリや」 extramf
アルシェリ厨の心の内ですw

「妖精さん ビビるなアルト ここにあり」 extramf
最終25話で、うちひしがれたシェリルを励ますアルトっぽく詠んでみました~。

「アルトさん 結婚式は いつですか」 mittin
矢三郎さんの立場から詠んでおられますね。次は“孫はまだか”ですね、判ります。

「アルシェリが 好きすぎてもう 死にそうで」 かぼちゃ
アルシェリファンの心の叫びですね。もう四六時中考えちゃいますよね。

「アルシェリは 心のカイロ あたたかい」 salala
アルトと一緒に居るときのシェリルの笑顔、心がほわわんとしますよねぇ♪

「監督さん シェリルに幸を 下さいな」 extramf
劇場版へのお願いです(血涙)。

「ホントはね あなたが好きよ アルト姫」 salala
冒頭“本当”じゃなくて“ホント”なのがシェリルらしいですよね~♪

「萌えはある なのに何にも 書けないの」 春陽
最終回以降、虚脱状態に陥ったファンの心理を見事に詠み込んでいます。

「どっちなの? はっきりしてよ アルト君!」 salala
25話観て、心の中で叫んだファンは多いハズ!

「脚本で ワリと損する ランカちゃん」 extramf
あと一言言っておけば、そんなにアレな女の子じゃなくなると思うのですが(汗)。

「男なら 押し倒せ~~ シェリルは俺のもんだ~~~」 min
押し倒すアルトが観たいです。
でも、シェリルからカウンターパンチくらって、ノックアウトしそう(笑)。

「アルトには シェリルが似合う これ必然」 とき
ええ、必然です。大宇宙の法則です。

「不意打ちの キスに目が点 腰砕け」 姫矢
10話のエピソードですね。あの時のアルト、落ち着いていたように見えますが、実態は腰を抜かしていたんですね、きっと。
そして川柳を作る速度が、すごく速くてビックリしました。

「アルトくん シェリルさんと お幸せに」 bon
そう言ってランカがハネムーンに飛び立つ二人を見送るんですね。

放映も終わって、まったりゆっくり進行のチャットでした。
そして偉大なる才能が出会うチャットでもありました。
これから、ウチのブログは『出会い系』ってことにしようカシラ?

2008.10.03 
■本放送が終わりますと…
劇場版の情報も入ってきていないので小ネタが続くのですが、ご容赦ください。

■小説版『マクロスF』2巻を入手!
さっそく貪るように読みました。
いいなぁ。
小説の得意技である内面描写でアルトやシェリル、ランカ、ミシェル、ルカの内面を深く掘り下げています。特にランカとキャシーが良い感じ。
他の方も指摘されてますが、アルトは歌舞伎役者としての側面を強調されています。
アニメで言うと、8話から14話にかけてのお話ですが、運命の惑星ガリア4でアルトはバトロイド歌舞伎を演じますよっ♪

■2ちゃんねるで萌えた
シェリル・スレで、うっかり萌えスイッチが入ったやり取り。

707 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 18:51:23 ID:fHg61MIi
うーん…
シェリルがなりふり構わずアルトを追いかける、となるかどうかは疑問だなあ。
やはり、それなりのプライドを見せつつ、隙を見せるととられちゃうからあんまり
ツンもできない、みたいなバランスを取ってやってくんじゃないだろうか。

自分妄想的には、アルトとシェリルは同棲始めそうだと思ってるんだけど、そうじゃ
ないとしたら、アルトが仕事でしばらく顔を見せなかったら、わざわざ宿舎に
夜中に忍び込んで、アルトの体に落描きして帰る、とか凝った技を披露して欲しい。
髪を巻くんでも良い。

で怒られると「あら、しばらく顔見せないから元気かどうか心配になって顔を見に
いったのよ」とかしれっと答えたり。


708 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 18:55:11 ID:F1XQTIiu
額に「肉」か。


709 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 18:57:53 ID:F1XQTIiu
ほっぺにサインして所有権を主張してもいいな。


710 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 19:00:48 ID:IPtDyfLH
首筋にキスマーク付けるとか


711 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 19:02:38 ID:f4SXkY3W
身体中に新曲の歌詞書くとか


712 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 19:14:01 ID:YamcYdDl
耳無し芳一かと驚くアルトがw


713 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 19:14:48 ID:fHg61MIi
ついでに、忍び込む時にはやっぱりセキュリティの頬にキスをやっていて、それを
知ったアルトがむくれたりとかね。


714 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 19:18:46 ID:zCe3pAU0
>>708-711
やりたい砲台じゃねぇかww


715 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 19:23:16 ID:kIEVryEQ
まぶたに瞳を描き入れるのも忘れるなシェリル。


716 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 19:25:18 ID:fJ3kCX5i
いい加減に起きろアルト


717 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 19:28:10 ID:ehmVpONI
>>716
フルメイクされても起きなかったヤツですからw


718 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 19:29:58 ID:yoTIMsp2
アルト分補給後にアルトの息子に「シェリル専用」とペンでイタズラ書きが…。


719 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 19:33:11 ID:orXGQGCt
アルトの背中にひらがなで Jぇりる・のーむ と書いてあるのを見て
腹筋が切れそうになるルカ


720 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 19:36:43 ID:b8cSy0a8
バロスww <Jぇりる・のーむ
頑張ってヒラガナにトライしたのかwww


721 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 19:39:12 ID:wgtJnatt
Jぇりる萌えるwww


722 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 19:42:48 ID:jtS554ls
アルトのために日本語に挑戦するJぇりるカワユス


724 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 19:53:50 ID:iq+ru6X0
Jぇりる・のーむ


やめろよ萌え殺す気かwwwwwwww


725 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 20:21:37 ID:tCUmeLq9
(略)
てか今日のお前ら神がかってるなw


テンポの良いやり取りが、まさに神がかり^^

■その他の萌
Yahoo動画で『ライオン』のビデオクリップが流されました。ライブの映像をフィーチャーした、かっこいいものでしたね。
携帯ゲームでシェリルとアルトのデートゲームが販売されたりしてます。でも、私の携帯電話、スマートフォンなんで、こーゆー携帯ゲームに対応してないorz
雑誌の監督インタビューだと、劇場版は『愛おぼえていますか』と同じように、同じ事件を別の側面から描く予定とか。ううむ、どーなるんでしょーね?

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2008.10.02 
■明日は木曜日なんですが
しみじみと、放送終わっちゃいましたね。
胸にポッカリと穴が空いたような気分です。
放映していた地方では、どこも最終回を迎えたことと思います。
秋の夜長、ほろほろと語り合ってみませんか?
ということで、絵チャを催します。
時間は24時からの予定です。
毎度おなじみ、こちらでお待ちしてます。

■某掲示板からいらした方へ
お世話になっております。
先ほど掲示板にも書きこんだのですが…

ブログの方でパスワードでロックしているのは、普通のサイトから来た人がいきなり18禁の記事を見て不快に思われないための措置です。
こっちは最初っからアダルトサイトなのでオープンに書き込んでいます。
ブログの方は拍手とコメントを送ってもらえると、キリ番をゲットした方からリクエストをもらって話を書いてます。
パスワード申請のための連絡先は捨てアドでもかまわないのでお気軽にどうぞ。


今はこちらのブログが活動の中心になっていますが、元々あの板の住人でしたので、お世話になった恩返し(と言ったら大袈裟ですが)に、偶に書きこんでいます。
ご笑覧いただければ幸いです。

2008.10.01 
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