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小説本文中、▼▼▼と▲▲▲で囲まれた部分をお好きなように改変なさって下さい。

シェリル嵐蔵パパがアルトの誕生日プレゼントを選ぶ話です。あなたの嵐蔵さんは、どんなプレゼントを選ぶのでしょうか?

できれば改変されたお話を私、extramfに見せて下さい。

ということで『あなたならどうする?』本編の始まり始まりぃ。
追記を開いて下さい。

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2010.08.23 
『炎と真空の狭間・完結編』――ジョージ山森監督が、早乙女アルトを主人公にバジュラ戦役を描く大作映画。その後編が撮影段階に入っている。

宇宙空間での戦闘シーンを撮影するため、撮影チームはSMSマクロスクォーターに乗り込んで、惑星フロンティアの近傍宙域を航行中だ。
左舷格納庫では、VF-25FとVF-171EXがバトロイド形態で直立していた。さっと右手を上げて敬礼を決め、手を下ろす。人間であれば、完璧に軍礼則通りの動作だ。
格納庫の壁に設えられたキャットウォークから三十路に入った早乙女アルトは怒鳴った。映画のスタッフ向けに配布された最新型EXギア用アンダースーツを着ている。
「違ぁう! 敬礼に色気が無い!」
VF-25Fのコックピットでは旧式のEXギアを着たマハロ・フセイニが困惑している。17歳のアルトを演じる若手俳優だ。
『色気って言われても…』
マハロの声はVF-25Fに接続された艦内通信網を経由してアルトが持っている携帯端末に伝わった。
「そうか」
敬礼の色気なんて軍内部でしか通じない俗語のようなものだ。
アルトは少し考えた。
ルカ、ちょっと、こっち来てくれ」
整備班長と話し込んでいたルカ・アンジェローニは振り返って頷いた。
ルカが役員を務めるLAIグループは映画のスポンサーとして出資している。また撮影に使用される機材も多く提供していた。
ルカ自身はハードウェアに関するアドバイザーとして参加している。
「何ですか、アルト先輩」
今ではヒゲを蓄え結婚して子供もいるルカだが、アルトと話す時は未だに学生気分が抜けない。
「ヒヨッコたちに色気のある敬礼を教えてやりたいんだ」
アルトはマハロが搭乗しているVF-25を見上げて言った。
「あー」
ルカは口ヒゲの下の唇を笑みの形にした。どのシーンでバルキリーの敬礼を使うのか見当がついたらしい。
シェリルさん、呼んできましょうか?」
バジュラ女王の惑星を巡る最終決戦の時に、アルトがバルキリーでシェリルへ敬礼を送ったのは、古参の軍人の間で語り草になっていた。
「ばっ…いや、それじゃ役の掘り下げにならない」
ルカの察しの良さに声を上げそうになったが、アルトはなんとか取り繕ってみせた。
「ルカだって、軍人と付き合い長いんだから、その辺の呼吸は分かるだろ?」
「ええ、まあ」
ルカは正規の軍人ではないが、軍属としてVF開発部隊に属していた。軍服にも袖を通している。
「マハロ! ジェイムズ! チアパオ! こっち見てろ」
アルトが声を張りあげると、若手俳優達が操るVF-25とVF-171EXのヘッドセンサーがアルトとルカを視界に収めた。
「そうだな、最初は普通の敬礼で」
アルトの指示でルカがさっと敬礼した。アルトが答礼する。
「じゃあ、次は、だ……パイロットがちょっと無理っぽい頼みごとをきいてくれた整備班に、出撃前の挨拶だ」
アルトは、わざと先に敬礼してみせた。軍礼では下級の者から先に敬礼するのが決まりだった。
ルカが慌て気味に答礼する。
アルトは、にやりと唇の端を吊り上げてから敬礼を解いた。
「判るか? こういうのが色気だ」
アルトはVF達を見上げた。
VFの光学センサーなら、かなり細かい表情まで見える筈。マハロはどんな風に課題を咀嚼するだろうか?
『それなら、恋人に必ず帰ってくるから待ってろって敬礼します!』
マハロのVF-25は、さっと敬礼し、右手のマニュピレーターを小指から順番に滑らかに折り曲げる繊細な操作を見せた。
ほんの僅かな違いだが、そこに操縦者の表情が透けて見えるかのようだ。
「そんなもんだ」
アルトは演技指導を切り上げると休憩室へと向かった。内心、マハロの演技力に感心していた。
人間の表情をバトロイドの指先の動きに置き換えるセンスはジョージ山森監督のメガネにかなった新人というだけはある。
アルトの休憩室として割り当てられていたのは士官用の個室だ。
部屋にはシェリルが先に戻っていた。
「お帰り」
携帯プレーヤーで音源をチェックしていたシェリルは立ち上がると、アルトの肩に腕を回した。
アルトもいつも通りにキスをする。
唇が離れた瞬間ふと聞きたくなった。決戦の時、シェリルから見て自分はどうだったろう。
「あの時…」
言いかけたが、気恥かしさを覚えて口を閉ざす。
シェリルの青い瞳がアルトの眼を覗き込んだ。
「ふふっ…カッコ良かったわよ、パイロットさん」

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2010.07.27 
バジュラ女王の惑星が、正式に惑星フロンティアと命名され、行政単位として新統合政府の星図に記録された頃。

透明な天蓋に覆われた惑星首都キャピタル・フロンティアの一角にあるアパートでシェリル・ノームはノートにペンを走らせていた。
静かな室内は紙の上をペン先が擦る微かな音だけが響いていた。
「ねぇっ…」
シェリルは同居人の早乙女アルトに呼びかけようとして、自分の声が思った以上に大きく響いた事に驚いた。
時刻――銀河標準時ではなく惑星フロンティア標準時を手元の携帯で見ると、夜明けが近い。
街は静まり返っているし、アルトは軍務で部屋には居ない。
「…そ…っか」
部屋着姿のシェリルはライティングデスクの上に突っ伏した。手から愛用のペンが転げ落ちる。
かなりの時間、こうしてノートに向かい合っていた。新曲用の作詞に行き詰っている。
所属するベクタープロモーションの社長エルモ・クリダニクから勧められて、バジュラ戦役を振り返る歌に取り組んでいるが、アイディアが枯渇しているわけではない。むしろ溢れ出す言葉が後から後から湧いてくる。
ただ、それがまとまらない。
シェリルにしては珍しい事だった。
アイディアが上手くまとまらなくて手が止まる事はある。だが、思い浮かべば一息に書き上げる。
戦争中の苦しみ。
孤独。
体を蝕む病。
アルトとのままごとのような日々。
戦いの中のささやかな日常が失われる予感に怯えたこと。
最後の決戦を前にしてたどり着いた透明な境地。
そして…
一つの歌には収まらない。いくつものアルバムを制作できるだけの量になるだろう。
目の前のノートに書き散らした言葉の欠片から、最初の一曲となるべきメロディが見えてこない。
シェリルは気分転換しようと立ち上がった。
ジーンズにTシャツというラフな服装に着替えた。そのまま部屋を出ようとして、思い直す。
「ちょっと寒いわね」
上着を一枚重ねようとクローゼットを開けた。
SMSのジャケットを取り出して袖を通す。肩に縫いつけられたワッペンは25の文字をデザインしたエンブレムになっていて、SMSマクロスクォーターの乗組員・早乙女アルトのものである事を示していた。
袖口を折り返して長さを調節すると、シェリルはガレージに降りて自家用車にしているセダンに乗り込んだ。
街灯の明かりが目立つ夜の街を走る。
はキャピタル・フロンティアの市街から離れ、郊外へと向かう。
窓を全開にしてピンクブロンドを風になびかせながら、惑星フロンティアに自生する森の中を駆け抜け、小高い丘の上に整備された公園で車を止めた。
シェリルは車から降りると、わずかに温かいボンネットの上に腰掛けて空を見上げた。
昨日、アルトが言っていた通りなら、もうすぐ訓練空域から新統合軍バックフライト基地へ戻ってくるサジタリウス小隊が見えるはずだ。
見つけられるだろうか?
もうすぐ日の出。
東の空は夜明け直前の深い闇に沈んでいる。
南の空には、太い柱の様な構造が大地から天へと聳え立っている。最上部は静止衛星軌道上にあるバジュラ達が建造した構造物『ハイヴ』まで届いている。
チチッ……
頭上から降ってくる囀りに、シェリルは見上げた。
この惑星原産の小鳥の鳴き声だ。地球起源の鳥類とは違うが、姿も生態も声も鳥に良く似ている。
クランが説明してくれたわね)
異星生物学の学位を持つ友人の事を思い出した。先行進化、それとも平行進化だったろうか。起源の違う生物種でも形が似てくる現象はよくある事だそうだ。
小鳥は東の方へと飛んでゆく。まだ暗くて鳥の姿はハッキリ見えないが、囀リが大まかな位置を教えてくれる。
東の水平線が赤く染まっている。
最初の曙光が青い瞳を射た。
昇る朝日の上にキラリと硬質な輝きが見えた。
シェリルが目を凝らすと、明け方の空を背景にして白い戦闘機の編隊が見えた。数は4。こちらへと向かってくる。
アルトー!」
静寂が支配する公園の空気を震わせ、シェリルの良く通る声が響いた。
叫びながら大きく手を振る。
アルトは気づくだろうか?
戦闘機はみるみるうちに接近してきた。
朝日に照らされVF-25特有の優美に長い機首が見える。
「あっ」
シェリルは息を飲んだ。
再びVF-25がキラリと太陽の光を反射した。先頭の隊長機がガウォークに変形したのだ。
続いて、僚機も変形して編隊は急減速。
シェリルの右手をゆっくりと航過する。
激しく手を振って応えた。
VF-25は再びファイター形態に変形。4機でフィンガーチップ編隊を維持したまま、空中で大きく回転してみせた。
「調子乗り過ぎ!」
隊長機のコクピットに居るアルトには届かないだろうが、笑顔のシェリルは声の限りに叫んだ。
3回目のループへと急上昇するVF-25を見て、シェリルの脳裏にひらめくものがあった。
(夜明け…小鳥…上昇するカーブ……バジュラ達の塔!)
曲想が一瞬でまとまった。
イントロは、高音のキーボードとストリング。
ベースとギターが攻撃的にかぶせてくる。
歌い出しは…
「夜明けの光を小鳥が見つけるように…」
歌が、歌詞が、メロディが、シェリルの唇から溢れ出す。
歌いながら車に乗り込むとアクセルを踏み込んだ。
脳裏には完璧なバンド用のフルスコアが浮かび、歌声に合わせて流れてゆく。
朝の澄んだ空気の中、公園からの一本道を走るシェリルのセダン。
並行してVF-25の小隊も飛ぶ。
やがて車は市域に入り、可変戦闘機も基地へのアプローチコースに入った。
自宅に戻ったシェリルは、一気呵成に曲を書き上げた。
タイトルは『オベリスク』。
バジュラ戦役を戦い抜く強い意志を表す曲として、長く記憶されることになる。

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2010.06.27 
惑星フロンティアの首都キャピタル・フロンティア、ハワード・グラス宙港。
「あれか…」
パイロットとしての経験を積んだ早乙女アルトの視力は、滑走路へアプローチする旅客船の船影を捉えた。
澄んだ青空を背景に、針の頭ほどの小さな点が見えるだけなので、多くの人にはまだ見つけることが難しいだろう。
いささか古びたジェネラル・ギャラクシー製の旅客船は見る見るうちに高度を下げ、接近してきた。
安定した着陸を見せ、ターミナルに横付けする。
きっと機長はベテランなのだろう。
行き交う人々の間を通って、アルトはゲートに向かう。

かつては地球から惑星フロンティアまで、移民船団が18年の歳月をかけてたどり着いたものだ。
今では、フォールドクォーツ技術を応用したスーパーフォールド機関を利用すれば、小型の客船でも1回の超長距離フォールドで到達できる。

入星ゲートをくぐって、様々な年齢層の男女がフロンティアの大地に降り立つ。
地球や、他の惑星から来た旅行者は携帯端末を手にして迎えの人を探したり、タクシーを利用しようと乗り場へ向かう。
(銀河も狭くなったもんだな)
ここ数年で銀河系人類社会を覆った変化に思いを馳せながら、白いシャツにブルージーンズ姿のアルトはゲートの向こうに並ぶ旅行者の列を見た。
どこに居ても目立つスロトベリーブロンドは、探さなくても直ぐ分かった。
ゆったりした旅行用のドレスに、顔の上半分を隠すほど大きなサングラス。つばの広い帽子も外出時の必需品だ。
シェリル・ノームもアルトに気づいて、小さく手を上げた。
ゲートから出ると、アルトシェリルは軽くハグした。
「お帰り」
「ただいま、アルト
アルトの視界の隅で、通行人の一人があっと目を見開いた。シェリルに気づいたのだろうか。
「疲れてるだろ。早く帰ろう」
アルトはシェリルの手を握って、荷物の受け取りコーナーへと向かった。

「窓、開けるわよ」
シェリルの声にうなずくと、パワーウィンドウが全開になった。
吹き込む風が二人の長く伸ばした後ろ髪をなびかせる。
アルトの運転で、キャピタルフロンティア市街へ向かう道路を走るセダン。
「風の匂いで、帰ってきたって感じがするわ」
「帰ったら……ゆっくり横になってろ。晩飯、ご馳走がいいか? それともあっさりがいいか?」
アルトは旅先で体調を崩してないかどうか確かめた。
「うーん……アルトが作ったんだったら、なんでもいい。あ、でもお味噌汁が恋しい」
その一言で、今夜は和食と決まった。
シェリルはシートに深く座って、フロントウィンドウ越しに迫ってくるキャピタル・フロンティア市街の威容を眺めた。
高さ2000mを超えるガラスの山脈。透明な天蓋に包まれて、起伏のある市街が見えた。

キャピタル・フロンティア、かつてアイランド1と呼ばれていた都市型宇宙船は、惑星の浅海に着水した。
ハワード・グラス宙港は天蓋の外に増設されたので、市街地とは橋で接続されている。

車が橋に差し掛かった頃、シェリルがポツリと言った。
「旅客船に乗っている時ね、夢を見たの」
「…どんな?」
アルトは横目でシェリルの様子をうかがったが、助手席のシェリルは窓に顔を向けていたので表情は見えない。
「ファーストクラスを使ったんだけど、シートがらがらだったの……でも夢の中だと混雑してて、隣に同じ年頃の女の子が座ってた」
「うん」
「左の薬指に指輪してて、それを愛おしそうに見てたの。婚約指輪だって。もう直ぐ結婚するって言ってたわ」
「夢の話だよな?」
「そう。たぶん……退屈しのぎに、色んな話をしたのよ」
アルトはハンドルを切りながら、小さく頷いて先を促した。
「結婚相手のこととか、今後のこととか」
「道理で、鼻がむずがゆかった」
噂をされるとくしゃみが出る、という俗信は日系人の間だけで通用しているので、アルトの軽口はシェリルに意味が伝わらなかったようだ。
「風邪でもひいた?」
「いや、大丈夫……それで、その女の子はどうした?」
「目が覚める直前に名前を教えてくれたわ。マヤン・ノーム……お母さんの名前よ。ギャラクシー船団に行くって」
「そりゃ夢だな…」
マクロス・ギャラクシー船団は、新統合政府の管理下で解体されている。
船団旗艦のメインランドは、太陽系の軌道宙港に係留されたままだ。
一般人は立ち入ることも出来ないと聞いている。
「でも、いっぱい話をしたのよ。お父さんが、どんな人かとか。出会ったきっかけとか。私の知らないことも教えてくれた」
シェリルの声はわずかに湿っていた。
「知らないこと?」
アルトは信号待ちで車を止めると、手を伸ばしてシェリルの手を握った。
「プロポーズの言葉。僕の理想の人だって、臭い台詞だって」
握り返してくるシェリルのぬくもりを感じながら、アルトは車をスタートさせた。ここまできたら、家までもう少しだ。
「……フォールド波は時空を超える、か」
アルトは、いつかリチャード・ビルラーが言った言葉を思い出した。
フォールド空間は、通常の時空間を超越する世界だ。
そこでは時間の流れさえも一様ではない。スーパーフォールド機関の普及で、フォールド距離は延伸したが、別の時間への扉にも通じるかもしれない。
まして、シェリルは体内のフォールド細菌と共生関係を作り出している。
だとしたら…
「どうしたの、アルト?」
「いや」
アルトは自宅の車庫に車を入れながら、小さくかぶりを振った。
全ては仮定と想像の話だ。

夜。
二人は久しぶりで同じベッドに入った。
アルトは背後からシェリルを包み込むように抱きしめ、鼻先をストロベリーブロンドに埋めた。
「なあ」
アルトの腕の中で安らいでいたシェリルは、瞼を少し重そうに開いた。
「なぁに?」
「墓参り、付き合ってくれ」
「おはか?」
「母さんの墓参り。結婚のこと、ちゃんと報告してなかったから」
シェリルはグルリと体の向きを変えて、アルトと向き合った。
「いいわよ。いつ行く?」
「明日にでも……シェリルが、お母さんにちゃんと報告したんだから、俺もしないと」
シェリルは、少し寂しそうな微笑を浮かべた。
「単なる夢よ」
「きっと、心配して会いにきてくれたんだ。自分の娘が幸せになっているかどうか…俺は、そう思う」
「ほんとに?」
アルトの琥珀色の瞳が、シェリルの碧眼を睫毛が触れ合うような距離で見つめた。
「誰かが出てくる夢は、向こうがこっちに会いたいって思っているって、昔からの言い伝えがあるんだ」
青い瞳が見る間に潤んできた。
シェリルは黙って唇を合わせた。
キスは少しだけ涙の味がした。

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2010.03.16 
久しぶりにオフが揃った日の朝。
ベッドで横たわっていた早乙女アルトは、瞼に光が当たるのを感じた。
まだ重い瞼をこじ開けると、寝室の窓からカーテン越しに入ってくる日の光が見えた。良い天気になりそうだ。
傍らを見ると、シェリル・ノームは既に起きていて、仰臥したままパッドを見ていた。
パッドはA4サイズぐらいのスクリーンで、タッチパネルと音声で直感的な操作ができる情報機器だ。
アルトはベッドから抜け出して、キッチンへ行こうとしたところ、シーツの下でシェリルが素足を絡めてきた。
アルトが横目で妻を見ると、シェリルはパッドに視線を向けたまま言った。
「まだ朝食には早いわ。子供たちも寝てるし」
上半身は仰向けでパッドを持っているが、伸びやかな両足がアルトの右足を挟んで引き寄せている。
器用なことだと感心しながら、アルトシェリルに寄り添った。右腕を伸ばして抱き寄せる。
頬を寄せて、シェリルがのぞき込んでいるパッドの画面を見た。
「ベム星系…?」
ペルセウス座スパイラルアームにある星系だ。居住可能惑星は無いが、都市がいくつかある。
アルトはベム星系に関するニュースを思い出そうと、記憶を探った。
プロトカルチャーが50万年前に築いた遺跡があることで有名だった。
遺跡の発掘と観光が主要産業のはずだ。交通の便が良くないので観光地としてはあまり人気は無い。
「ふふっ」
シェリルはパッドを胸の上に置くと、アルトを見て微笑んだ。
「バカンスに、ここへ行ってみない?」
シーツの下では、シェリルの素足が膝でアルトの太ももを撫でた。
アルトが腕枕をすると、猫がそうするように頭をアルトの肩口にこすりつける。
「何か面白いものでもあるのか?」
水を向けると、シェリルはパッドを取り上げて記録していたサイトを画面に表示させた。
「ライムマスターですって」
画面に映し出されたのは、個人のブログのようだ。
ざっと斜め読みしたところ、ベム星系ではライムと呼ばれる即興詩を即興の音楽に乗せて歌い、戦っているらしい。戦うと言っても流血沙汰ではなく、より多くの聴衆の支持を集めた方がリスペクトされる、ぐらいの意味だ。
「ヒップホップみたいなものか?」
「ラップが近いわ」
シェリルはブログのページに埋め込まれた動画を再生させた。
独特のリズムと、脚韻を踏んだ言い回しのライムが流れ出した。歌手は男らしい。
ライムに別のライムがかぶさってくる。女性のものらしい声が歯切れよく、早口のライムをぶつけてくる。
次第に女の声だけが残り、オーディエンスの歓声も女に唱和してリズムを揃えている。
「へぇ、他ではあまり聴かないな」
アルトはパッドに手を伸ばして、別のページも見てみた。
「でしょ? レコーディングの時にね、スタッフの若いコに教えてもらったのよ。一部で、ちょっとブームだって」
シェリルは唇をアルトの耳に寄せた。甘い声音で囁くと、リップノイズを立てて耳にキスした。
くすぐったそうに首をすくめるアルト。
次のバカンスシーズンは、高校生になった子供たちが、それぞれの都合で惑星フロンティアを離れる。
美星学園の芸能科に入学した息子の悟郎は、プロミュージシャンとしてマクロス11船団でアルバム制作に打ち込む予定だ。
美星学園の航宙科に進んだメロディは、航宙実習で往復2週間かけて近隣の植民惑星へと向かう。
アルトとシェリルは久しぶりに夫婦水入らずで旅行するつもりだった。
「変わった旅先を見つけてきたな」
アルトはからかうように言った。
「ご不満?」
シェリルは掌でアルトの胸板を撫でた。
「いや……子供連れのバカンスじゃ行けそうにない所だし、いいんじゃないか?」
「良かった。じゃ、そのセンでプラン立ててよ」
シェリルがそこまで言った時、彼女のお腹がグーと鳴った。
「朝飯にするか。パンとご飯、どっちだ?」
アルトは名残惜しさを感じながら、シェリルの腕から抜け出す。
「今朝は、ご飯が良いわ」

2010.02.17 
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