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艶麗な女形姿で京鹿子娘道成寺を舞うアルト。
感嘆するシェリル。
「なかなかやるじゃない。アルトは意外性のカタマリね」
舞台を降りたアルトが艶姿のまま肩を怒らせて、腰に手をあてた。
「なんだよ、その言い方。悪いかよ」
「誉めてるのよ」
シェリルは目を細めた。
「舞台の上では体つきまで違うみたい。本当の女の人みたいだったわ」
「ああ、これは"体を殺して"いるんだ」
「…殺す?」
アルトはシェリルに体の正面を向けた。
「肩を、こうして」
ストンと両肩を後ろに落とす。
「撫で肩に見せるんだ。それから」
シェリルに向かって半身に構える。
「こうして、肩幅を狭く見せて女のシルエットを作る」
「すごーい。伝統のテクニックなのね」
きらびやかな衣装をまとったアルトの周りを一周するシェリル。
最後に伸びあがって、アルトの顔を息がかかるほどの近さで見つめる。
好奇心にきらめくシェリルの瞳に吸い込まれるように見つめ返すアルト。
「メイクもエキゾチックで素敵だわ」
「試してみるか?」
「え?」
「化粧」
「できるの?」
「歌舞伎の役者は自分でするんだ。楽屋に来いよ」
「ホントに意外だわ、ふふっ」
楽屋で鏡の前に座るシェリル。ヘアバンドで髪をまとめ、額を出している。
慣れた手つきで、シェリルのメイクを落とすアルト。
かぶり物は外して、袖をたくしあげているが、女形姿のままだ。
「こんなサービス滅多にしないからな、感謝しろよ」
「はいはい、ありがとうアルト」
「感謝の心がこもってない」
軽口を叩きながらも、シェリルの顔に白粉をのばしてゆく。
きめ細かな肌は、化粧ののりが良い。
「顔が重いわ」
「舞台照明がロウソクしか無かった時代のメイクだからな。…ちょっとだけ黙ってろ。目、閉じて」
筆で瞼や鼻筋にピンク色を乗せる。アルトの指が、眼尻や唇に紅を刷いた。
「これで完成」
シェリルはゆっくり瞼を開いた。
「わぁ」
正面から自分の顔を見つめ、続いて、左右に顔を傾けたり、首を振ってアングルを変える。
白人系の要素が強いシェリルの顔が、東洋の美女に変化している。
「いいわね……ジャケットに使えるかも」
「仕事熱心だな」
シェリルの横顔を見つめるアルト。
「もし、本当に撮影するんなら、メイクアップアーティストとして呼んでもらおうか」
「ギャラは弾んであげる」
振り返るシェリル。アルトが指についた紅を拭き取っているのを見て、ふと唇を意識した。
「……」
ここにアルトの指が触れた。
自分の指で唇をなぞってみる。指先に紅がついてしまった。
「ね、アルト。口紅がとれてしまったわ。直して」
「もうとれたのかよ」
アルトは人差し指で紅をすくいとり、シェリルの口紅を引きなおす。
鏡の中の光景は、臈長(ろうた)けた美女が少女に化粧の手ほどきをしているかのよう。
シェリルはうっすらと瞼を開いて、その様子を盗み見た。
感嘆するシェリル。
「なかなかやるじゃない。アルトは意外性のカタマリね」
舞台を降りたアルトが艶姿のまま肩を怒らせて、腰に手をあてた。
「なんだよ、その言い方。悪いかよ」
「誉めてるのよ」
シェリルは目を細めた。
「舞台の上では体つきまで違うみたい。本当の女の人みたいだったわ」
「ああ、これは"体を殺して"いるんだ」
「…殺す?」
アルトはシェリルに体の正面を向けた。
「肩を、こうして」
ストンと両肩を後ろに落とす。
「撫で肩に見せるんだ。それから」
シェリルに向かって半身に構える。
「こうして、肩幅を狭く見せて女のシルエットを作る」
「すごーい。伝統のテクニックなのね」
きらびやかな衣装をまとったアルトの周りを一周するシェリル。
最後に伸びあがって、アルトの顔を息がかかるほどの近さで見つめる。
好奇心にきらめくシェリルの瞳に吸い込まれるように見つめ返すアルト。
「メイクもエキゾチックで素敵だわ」
「試してみるか?」
「え?」
「化粧」
「できるの?」
「歌舞伎の役者は自分でするんだ。楽屋に来いよ」
「ホントに意外だわ、ふふっ」
楽屋で鏡の前に座るシェリル。ヘアバンドで髪をまとめ、額を出している。
慣れた手つきで、シェリルのメイクを落とすアルト。
かぶり物は外して、袖をたくしあげているが、女形姿のままだ。
「こんなサービス滅多にしないからな、感謝しろよ」
「はいはい、ありがとうアルト」
「感謝の心がこもってない」
軽口を叩きながらも、シェリルの顔に白粉をのばしてゆく。
きめ細かな肌は、化粧ののりが良い。
「顔が重いわ」
「舞台照明がロウソクしか無かった時代のメイクだからな。…ちょっとだけ黙ってろ。目、閉じて」
筆で瞼や鼻筋にピンク色を乗せる。アルトの指が、眼尻や唇に紅を刷いた。
「これで完成」
シェリルはゆっくり瞼を開いた。
「わぁ」
正面から自分の顔を見つめ、続いて、左右に顔を傾けたり、首を振ってアングルを変える。
白人系の要素が強いシェリルの顔が、東洋の美女に変化している。
「いいわね……ジャケットに使えるかも」
「仕事熱心だな」
シェリルの横顔を見つめるアルト。
「もし、本当に撮影するんなら、メイクアップアーティストとして呼んでもらおうか」
「ギャラは弾んであげる」
振り返るシェリル。アルトが指についた紅を拭き取っているのを見て、ふと唇を意識した。
「……」
ここにアルトの指が触れた。
自分の指で唇をなぞってみる。指先に紅がついてしまった。
「ね、アルト。口紅がとれてしまったわ。直して」
「もうとれたのかよ」
アルトは人差し指で紅をすくいとり、シェリルの口紅を引きなおす。
鏡の中の光景は、臈長(ろうた)けた美女が少女に化粧の手ほどきをしているかのよう。
シェリルはうっすらと瞼を開いて、その様子を盗み見た。
★あとがき★
“体を殺す”という表現は、新聞記事で女形の方が説明されていたのが印象に残っていて、いつか使おうと思っていました。最初に見た時に、字面でドキッとさせられたものです。
2008.05.15 ▲
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