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今回はショートストーリーではなく、筆者の視点でショートストーリーの作り方をお話ししましょう。
素材は某掲示板の、この書き込み。

317 :名無しさん:2008/06/16(月) 03:01:15
シェリルのブログにあった【ペール・クリーム】って
シェリー酒のことだったのね……。
なんでも、男といるときに『シェリー酒が飲みたい』と言うと
【今日はお持ち帰りしてください】と言ってるようなものなのだとか。
エロはかけないから某所に投下はできないけど、
このネタで1本書いて、どっかで展示できたらいいなぁ。


いいですね。
シェリルの部屋で、アルトと二人、グラスを傾ける。
非常に素敵です。

シェリルアルトにグラスを渡した。
「これは?」
アルトはグラスを照明に透かして見た。薄い黄金色の液体がきらめく。
「ペール・クリーム、よ。飲んでみて」
シェリルもグラスを傾け、一口飲む。
アルトもそれに続いた。
「これ、甘くてすっきりしてるけど、強いな。まるで……」
シェリルのようだ、と言おうとしてアルトは思いとどまった。これ以上、シェリルをつけあがらせると、主導権を握られっぱなしになる。
「まるで、何よ?」
「い、いや。なんでもない」
「はっきり言いなさい」


アルトとシェリルという、筆者が明確にイメージできるキャラクターであれば、これでもそれなりにお話を作ることはできます。
しかし、盛り上がりがない。
それはドラマが無いからです。

ドラマには、色々な定義がありますが、ここでは、
“登場人物が抱えている葛藤が、登場人物の行動によって克服されること”
としておきます。
そこで、アルトがシェリルの部屋でシェリー酒を傾けるまでに葛藤を設定してみます。
葛藤の内容は様々なものが考えられますが、大切なのは葛藤に立ち向かう登場人物が魅力的に見えなければなりません。
たとえば、アルトがバルキリーの性能限界を超える敵と戦う、というのは非常に盛り上がります。父親と対決するのも良いでしょう。しかし、学園の成績を上げようとするのは、コミカルな印象を与えます。切迫感がないですから。
シェリルであれば、歌へのプロフェッショナル意識がうかがえるエピソードがカッコ良いですね。
ここでは、アルトとシェリルの二人を想定していますので、二人の葛藤が重なり合うと、更に劇的でしょう。

ドキュメンタリー『銀河の妖精、故郷のために銃をとる』の編集で、ちょっとした論争が発生した。
「ダメよ! こんなシェリル、見せられない」
シェリルが、いくつかのカットにダメ出しをした。
それまで、静かに編集作業を見ていたアルトが異を唱えた。アルトは軍事関係のオブザーバーとして臨席していた。
「いや、このシーンは入れるべきだ」
画面では、シェリルがVF-25Tのコクピットから降り立った途端、へたり込んでしまった様子が映されている。
「こんなの……シェリルのイメージが傷つくわ。それだけは譲れない」
眉を吊り上げて、アルトを睨むシェリル。
「歌やコンサートの演出だったら、お前の言うことが正しい。だが、これはドキュメンタリーなんだろ? シェリルがどれほどキツい訓練をこなしているのか、それが判るカットじゃないか。入れるべきだ」
アルトも引かすに理詰めで諭すと、シェリルは厳しい視線でモニターを見た。
「パイロットの訓練は厳しい。俺達だって何度も血反吐を吐いてきたんだ。それを、シェリルが涼しい顔をしてクリアしてみろ。経験者には一発で嘘ってばれる」
アルトの言葉に、シェリルは唇を噛んだ。
「オーケイ」
議論が膠着しかけたと思ったプロデューサーが仲裁に入った。
「30分休憩を入れよう。それから、もう一度チェックしてくれ」


こんな葛藤はいかがでしょうか?
シェリルとアルトの間の対立。どちらも、自分の仕事に誠実であろうとするあまりに譲歩できない。
こんなエピソードが一つあれば、ショートストーリーは引き締まり、盛り上がります。
後は、シェリー酒が登場する際に唐突と思われないように、冒頭に少し伏線を入れれば完璧。

さて、これだけの部品を組み立ててみましょう。
下のリンクをクリックなさってください。


ぬるめのお湯にお気に入りの入浴剤を溶かしこみ、長くつかっているのがシェリルの習慣だった。
たまに、シェリー酒を傾けながら、時間つぶしに壁面のテレビをつけてチャンネルをザッピングする。今夜、目に留まったのは、深夜のバラエティ番組。
「その人のことを本当に好きになっているかどうか、簡単な実験で分かります」
テレビの中で白衣を着けた恋愛心理学者と名乗る女性が説明した。
「その人の手で、何か食べさせてもらってください。本当に好きな人であれば、いつも以上に美味しく感じるでしょう」
シェリルは目を細めた。そして、手の中のグラスを眺める。
「試してみようかしら?」

翌日。
ドキュメンタリー『銀河の妖精、故郷のために銃をとる』の編集で、ちょっとした論争が発生した。
「ダメよ! こんなシェリル、見せられない」
シェリルが、いくつかのカットにダメ出しをした。
それまで、静かに編集作業を見ていたアルトが異を唱えた。アルトは軍事関係のオブザーバーとして臨席していた。
「いや、このシーンは入れるべきだ」
画面では、シェリルがVF-25Tのコクピットから降り立った途端、へたり込んでしまった様子が映されている。
「こんなの……シェリルのイメージが傷つくわ。それだけは譲れない」
眉を吊り上げて、アルトを睨むシェリル。
「歌やコンサートの演出だったら、お前の言うことが正しい。だが、これはドキュメンタリーなんだろ? シェリルがどれほどキツい訓練をこなしているのか、それが判るカットじゃないか。入れるべきだ」
アルトも引かすに理詰めで諭すと、シェリルは厳しい視線でモニターを見た。
「パイロットの訓練は厳しい。俺達だって何度も血反吐を吐いてきたんだ。それを、シェリルが涼しい顔をしてクリアしてみろ。経験者には一発で嘘ってばれる」
アルトの言葉に、シェリルは唇を噛んだ。
「オーケイ」
議論が膠着しかけたと思ったプロデューサーが仲裁に入った。
「30分休憩を入れよう。それから、もう一度チェックしてくれ」

シェリルは休憩室で、自販機からブラック・コーヒーを買った。
苦味で頭をすっきりさせようとする。
アルトも遅れてやってきた。
さっきの論争が気まずくて、ちょっと顔を合わせづらい。
アルトもコーヒーを買ったようだ。コーヒーの香りが強くなる。
「な、なあ」
アルトがぎこちなく話しかけてくる。
「何よ?」
「その、だな……お前には色々欠点はあるにしても、だ。高く評価していることがあるんだ」
「……」
「撮影の間、お前と一緒に飛んでて何度も感心した」
「何に?」
「泥臭い言い方だけどな、根性だ」
「何それ?」
「きついマニューバを終えて、機体から降りるお前の後姿を見てた。ふらつきながら、足を踏みしめて……どれだけ一生懸命になってギャラクシーを助けようとしているのか、胸に迫った。だから、お前の為に何かしてやろうって思った。俺だけじゃなくて、スタッフで同じこと感じたヤツは多いぞ」
「ふ、ふぅん」
「俺がそう思ったんだ。視聴者も、きっと同じように感じてくれる。そりゃ、かっこ悪いって思う奴もいるだろうけど、それ以上に感動するヤツも多い。絶対だ」
「そう……考えておいてあげる」
シェリルは空になったカップをゴミ箱に捨てると、休憩室を出た。
アルトはその背中を見送ってから、自分のカップを空にした。

再開された編集作業では、シェリルが幾分態度を和らげた。
“かっこ悪いシェリル”が映っているカットも、いくつか組み込まれることになった。
プロデューサーが頷いた。
「いいね。今までにないシェリルの一面、きっと見たがるファンは多いよ」
「そう」
シェリルはそっけなく言った。

編集作業から解放されたアルトは、うーんと背伸びをしながらスタジオを出た。
慣れない作業で長時間拘束されたので、体が堅くなったような気がする。
携帯端末に文字メッセージの着信。発信者はシェリルだった。
『9:00PM, Don't be late』
(場所を指定してないということは、ホテルの部屋ってことか?)

その夜。
アルトはシェリルの部屋を訪ねて驚いた。
部屋の照明は落とされて、要所要所を間接照明が柔らかく照らしていた。
「こんばんは、いらっしゃい」
テーブルの上にはアロマキャンドルが灯され、名も知れぬ花の香りを漂わせていた。
揺れるキャンドルの炎に浮かび上がるように、シェリルが椅子に座っていた。
カジュアルな私服姿のアルトは、ひどく場違いなところに来た気がした。
シェリルがまとっているのは、黒のパーティードレス。自ら発光するラメが入ったデザインで、星座を着ているかのようだ。
「お前、そのかっこう」
「あの後、音楽関係者のパーティーだったのよ。つまらないパーティーだから、挨拶だけして抜け出してきたわ」
椅子から立ち上がると、シェリルはホームバーの方へ向かった。カウンターに並べてあるボトルのなかから、ひとつ取り上げる。
「今日の編集会議……ありがとう。たまには、アルトも良いこと言うのね。参考になったわ」
シェリルの言い回しに、アルトはなぜかホッとした。
「素直に意見を変えたって言えよ」
「ご褒美、あげる」
シェリルはボトルの中身を二つのグラスに注ぐと、片方をアルトに渡した。
「これは?」
アルトはグラスを照明に透かして見た。薄い黄金色の液体がきらめく。
「シェリー酒……ペール・クリーム、よ。飲んでみて」
シェリルもグラスを傾け、一口飲む。
アルトもそれに続いた。
「これ、甘くてすっきりしてるけど、強いな。まるで……」
シェリルのようだ、と言おうとしてアルトは思いとどまった。
「まるで、何よ?」
「い、いや。なんでもない」
「はっきり言いなさい」
アルトは降参することにした。この雰囲気に流されるのも悪くない。
「……シェリルみたいだ」
シェリルは目を丸くした。そして、頬を染める。
「どうしたの、アルト。何かヘンよ? そんな気の利いた言い回しが出てくるなんて」
「お前こそ、こんな演出して…」
シェリルは頬を染めたまま、微笑んだ。
「嫌?」
「いや、そんなことはないが」
「あ、そうだ。もっと美味しいシェリーの飲み方があるの。知ってる?」
アルトは首を横に振った。
「相手の手で、相手のグラスから飲ませてもらうの。アルト、試してみて」
「ああ」
アルトは自分のグラスをシェリルの唇に触れさせた。慎重に傾ける。
シェリルの艶やかなな唇が開いて煌く液体を飲む。
「んー、甘い。甘くなったような気がする。アルトも、どうぞ」
シェリルはグラスを差し出した。
アルトも一口飲む。
「どう?」
「ん……なんか、甘くなったような気がする。なんでだ?」
「さぁね」

2008.06.16 


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