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休日の昼過ぎ。
「こちらスカル・リーダー、スカル2の動向は?」
「スカル3より、スカル・リーダーへ。スカル2はブラボー1から、キロ1へ移動中。ハナウタ歌ってるので上機嫌かも」
「スカル4より、スカル・リーダーへ。鼻歌は『What 'bout my star?』と判明。実はキゲンが悪いかも」
「何っ、それは本当か? スカル4」
「だって、ダーリン近づいて服従とか歌ってるよー、スカル・リーダー」
「うーむ……何かやったかなぁ、オレ? まあいい、作戦決行だ。スカル4は陽動任務。リマ1にスカル2を移動させるな」
「りよかい!」
「スカル3、デルタ1から荷物を運びこむのを手伝え」
「ラジャー」
「カウントダウン開始、3、2、1、ムーヴ!」

キロ1ことキッチンで、スカル2ことキャサリン・グラス・リーは麺棒を取り出して餃子の皮を伸ばし始めた。後で子供達(ハワードとブルース)に包むのを手伝わせようと、算段している。
「お母さん」
ブルースは6歳。オズマの面影を受け継いだヤンチャな男の子に育っている。
「なに?」
「手伝うよ」
「あら、珍しい。じゃあ、この型抜きで餃子の皮を作っていってね」
「りよかい」
本作戦において、スカル・リーダーことオズマからスカル4のコールサインを与えられているブルースは、普段なら嫌がる手伝いを進んでやる。
その時、リマ1ことリビングからガタンという物音がした。
「あら?」
キャシーが腰を浮かしかけたところで、ブルースは叫んだ。
「お母さん、お母さん、あっち、お隣の猫ちゃんがいるよ! 子猫を連れてる!」
「どこ?」
キャシーは振り返って窓から裏庭を見た。
「おしいなー……そこの植込みの下にもぐってちゃったよー」
ブルースは、キャシーの関心をリビングから逸らすことに成功してホッとした。

重々しいケーキをテーブルに置く際に、大きな物音をたててしまった。
「ちょっ……大丈夫かな?」
7歳のハワードの利発そうな目元は、キャシーより祖父によく似ている。口元の黒子が母親と全く同じ位置あった。
「スカル4が上手くやってくれるさ」
三段重ねのバースデーケーキにロウソクを立てながらオズマが言った。
ロウソクを立て終えると、とっておきのお客さん用ティーセットを用意する。
「クラッカーの準備はいいか?」
「もちろん、対母さん用に、紙吹雪が飛び散らないタイプを用意してるぜ」
キャシーの綺麗好きは、オズマも子供達も叩き込まれている。
「クールだな、ハワード」
「スマートって言って欲しいな、父さん」
ハワードは胸を張った。
「準備はいいな。状況開始!」
オズマはAVセットからスティービー・ワンダーのHappy Birthdayを流す。
「え、何? 何なの?」
キャシーの声が聞こえてくる。
「いいからー、母さん」
ブルースに背中を押されて、キャシーがキッチンから出てきた。
「はっぴばーすでー!」
クラッカーの一斉砲火。
目を丸くするキャシー。
「誕生日おめでとう」
オズマがキャシーの後ろに回って、プラチナのネックレスを首にかけた。
子供達が花束を差し出す。
「まあ」
呆然としたまま、粉だらけで白くなった手をエプロンで拭き、花束を受け取るキャシー。
サプライズパーティーは成功したようだ。

デルタ1ことランチャ・デルタ・レプリカのドライバーシートでスーツ姿のオズマはステアリングを握った。
イブニングドレス姿のキャシーがナビゲーターシートに収まると車を出す。
「誰が考えたの?」
「作戦を立案したのはブルースだ。映画かドラマかでサプライズパーティーを見て覚えたらしい」
「まぁ」
「ハワードは小道具類の調達……いつから気づいていた?」
「ケーキをリンデンバウムさんところに注文したでしょ。昨日、買い物で寄った時に教えてもらったの」
「あー、機密保持が甘かったか」
オズマは苦笑いした。
「一生懸命、リビングから注意を逸らそうとするブルースが可愛くて」
キャシーが微笑んだ。
少し早めの夕食後、二人きりでショウへ。
恋人同士の華やいだ気分に戻って、オズマは都心部へと車を走らせる。

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2008.11.03 
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2008.09.02 
オズマはランチア・デルタを運転して、マヤン島のベースキャンプに戻ってきた。
映画『Bird Human』とドキュメンタリー『銀河の妖精、故郷のために銃をとる』に協力しているSMSは、安全面から市街地と離れた場所に臨時の基地を設け、撮影に必要な機体を運用していた。
撮影の合間には、海洋リゾートを楽しむスタッフもいたが、オズマは愛車のステアリングを握って、海岸通りのドライブを楽しんでいた。
普段は駐車場に停めっぱなしになりがちな愛車だが、手入れが行き届いているのでエンジンのレスポンスは良い。
「着いたぜ、ミス・シェリル
助手席のシェリルに向かって話しかけた。
「ありがとう、オズマ少佐」
サマードレスとつば広の帽子のリゾートスタイルを、トップアイドルに相応しく着こなしたシェリルは、礼を言って降りた。オズマのドライブに便乗して、市街地へ買い物に行った帰りだ。
さて、これからどうしようか。もう少しドライブを楽しみたい気もする。
ギアをバックに入れて、車を切り返した。
オズマ!」
女の声にバックミラーを見た。キャシーが小走りに駆けよってくる。
ウィンドウを開けると、ローライズのジーンズにタンクトップ姿のキャシーは運転席を覗き込んだ。
「運転手お願いしてもいいかしら?」
「乗りな」
キャシーは助手席のドアを開けて、なめらかな動きで乗り込んだ。オズマが注意する必要もなく、カチリとシートベルトを着ける。
「どこに行くんだ?」
「街へ」
「そんなら、さっきシェリルを乗せた時に一緒に乗れば良かったな」
「ごめんなさい。オズマが出た後に気付いたの。日焼け止めが切れてて」
「そうか……じゃあ、ちょっとドライブに付き合え」
オズマは、今まで通ったことのないルートに車を乗り入れた。
「いいわ。急いでない…もの……?」
キャシーはシートに違和感を覚えた。手を尻の下に入れて探る。
「何、これ?」
キャシーが手にしたのは、クリップのような形をしたものだった。よく見ると、携帯音楽プレイヤーだ。
「それ、シェリルのだな。後で渡してやらないと」
オズマは横目で見た。そう言えば、シェリルが車に乗り込む時に耳にイヤホンを入れていた。
キャシーは手のひらの上でプレイヤーを転がした。
「どんな曲聴いているのかしら?」
「カーオーディオにつないでみろよ」
オズマがそそのかすと、キャシーはイヤホンを差し込むジャックにオーディオのケーブルを接続した。再生ボタンを押す。
最初に流れ出したのは、歌詞無しのポップミュージックだった。聞いたことのないメロディーなので、新作なのだろう。
「これ、次にレコーディングするのかしら?」
「かもな」
キャシーは選曲ボタンを数回押した。
歌詞の無い音楽以外にも、普通の曲も入っていた。ロック、ポップ、R&B、ジャズ、さまざまなジャンルが流れ出す。
「へぇ……あ?」
オズマが感心して耳を傾けていると、不意にシェリルの肉声が飛び出した。

 ランカちゃん、ランカちゃん
 緑の髪の女の子
 ボールみたいに弾んでる
 お日さまみたいに光ってる

「鼻歌?」
キャシーは首をかしげた。
曲は無く、録音状態も良くないが、声には艶があった。
調子っぱずれのメロディからは、楽しそうに歌っているのがありありと伝わってくる。

 ミシェル、ミハエル、マイケル、ミゲーレ
 どれで呼んだらいいのか判んない色男

オズマは思わずプッと噴き出した。

 フケ顔のオズマ少佐
 仕事は厳しいが妹には甘い
 あんなお兄ちゃんが欲しいかも

キャシーが何か言いたげにオズマを肘でつついた。
ステアリングを切りながら、咳払いするオズマ。

 キャシー、キャサリン、キャサリンさん
 融通が利かない真面目な軍人さん
 スタイル良くて美人なの
 だけど女の武器使わないのは
 かなりカッコいい

キャシーは頬を赤くした。考えてみれば、同性から、こんな風にストレートに褒められた経験は少ない。

 生意気で
 うるさくて
 すぐキレる
 イジりがいがあるのが
 早乙女アルト

これには二人とも爆笑してしまった。
あまりに笑ったので、オズマが路肩に車を寄せて停車した。
「ひー、なんだこれ。すげぇ。ははははははっ」
「周りの人のスケッチって感じね…うふふふ、あはははははっ」
笑いの発作が治まったところで、スピーカーから流れだす曲が変わったのに気づいた。
ミニー・リパートンのInside My Loveをシェリルがカヴァーしている。
しっとりとした甘い歌声が車内を満たした。
ほう、とキャシーがため息をつく。横目でオズマを見ると、視線がぶつかった。
歌声のうねりに合わせてドライバーシートとナビゲーターシートの間に緊張感が高まってくる。
それは決して不快なものではなかったが、二人の間に壁があった。
歌が終わった。
「出すぞ」
オズマはアクセルを踏み込み、ステアリングを切って車を車線に戻した。
キャシーは、シェリルの歌声が生み出した一瞬が失われていくのを惜しまずにはいられなかった。
サイドミラーに視線を移す。
「ここに来たのはSMSのお仕事だけど……なんだか夏休み、ね」
キャシーのつぶやきに、オズマは肩をすくめた。
アルト准尉の歌に続いて、Inside My Loveなのは、何か意味があるのかしら?)
キャシーは、ドアウィンドウを少し開いて潮風を車内に取り込んだ。乱れる髪を押えた。
オーディオからオズマお気に入りのFIRE BOMBERが流れ出す。

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2008.08.22 
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2008.06.16 
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