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■映画版の情報露出してきました
やはり2部構成だそうで、11月21日に上映されるのが前編『イツワリノウタヒメ/虚空歌姫』。
ポスターやチラシはシェリルをフィーチャーしてます。
「歌で銀河が救えるわけないでしょ」というキャッチコピーが添えられています。シニカルな雰囲気ですので、シェリルのファンには胃の痛い展開が待っていそうですね(汗)。

■ささやかな感動
この前、ご紹介した『CONTHINUE』の菅野よう子特集で、感動したお話。
ホンダのステップワゴンのコマーシャル(↓参照)で、アレンジを担当したのが菅野さんだとか。



歌手が私の好きなユッスー・ンドゥールさんで、ビートルズのオブラディ・オブラダをカヴァー! 印象に残っていました。
このアレンジ、チェックがものすごく厳しいビートルズの著作権の管理者から、一発OKが取れたそうです。
ご本人曰く「ビートルズのアレンジは超得意!」だとか。
天才っているのねぇ。
何を今更言ってるのかってハナシですが(笑)。
やっぱり、すごい。

■ささやかな感動2
先日、仕事先でお迎えしたお客様の携帯が鳴りだしました。着メロが射手座で、思わずニヤリ。
ささやかな萌え補給です。

■マクロスA 2号
マンガ雑誌のマクロスA、今回の注目はドラマCD『娘ドラ1』の第1話『アルト・ミーツ・スカイ』の漫画化です。ジュリエット姿のアルト、素敵ですよ~。
そして、中等部の頃のアルトは、きっとブリーフ派(メモをつけながら)。

2009.06.28 
12歳になったメロディ・ノームは早乙女嵐蔵邸の玄関に立った。
「お邪魔します。メロディです」
格子の引き戸を開けると、呼び鈴代わりにぶら下げられた明珍の火箸が涼しげな音を立てる。
「時間ぴったりだな」
廊下の角から顔を出したのは、メロディと同い年、双子の片割れである早乙女悟郎だ。ピンクブロンドの髪と空色の瞳は、母親のシェリル・ノームに似ている。
歌舞伎の稽古が終わったところらしく、和服姿だ。
「お、来たな。ここで渡しておこう」
悟郎の後ろから顔を出したのは、やはり和服姿のアルトだった。
懐から封筒を取り出して、メロディに差し出す。
「座敷で待ってろ、直に先生が来る。頼んだぞ」
アルトは小さな声で素早く喋った。
「はい、お父さん」
メロディはニッコリうなずいて受け取った。

嵐蔵は、稽古用の和服から、外出用の紬の着流しに着替えて座敷の襖を開けた。
待っているメロディに声をかけようとして、一瞬あっけにとられた。
嵐蔵を見て、微笑みかけるメロディは、長く真っ直ぐな黒髪をポニーテールにし、涼しげな淡いパープルのワンピースを着ている。正座した膝をふわりと覆う裾。ノースリーブの白い腕が眩しい。
(まるで……これは……)
孫娘の姿は、亡妻の美与の生き写しだ。
「どうかしました? お祖父様」
メロディの声に、嵐蔵ははっと我に帰った。
「あ、いや……そうしていると、お前のお祖母さんそっくりだなあ」
座卓を挟んで、差し向かいに座る。
「矢三郎さんも、そう言ってました。嬉しい」
「そうか」
「とっても綺麗な方ですもの」
「メロディの方が、元気が良い」
日本舞踊と剣道、歌を習っているメロディは、身体を動かすのが好きだ。休日になれば、悟郎と一緒にEXギアで空を飛ぶ。
「どうせ、ガサツで頑丈ですよーだ」
メロディは、ちょっと頬を膨らませた。
「この前も、EXギアで不時着して、頬っぺた、ちょっとすりむいちゃったんです。お母さんに、涙目で怒られちゃいました」
嵐蔵は、ぎょっとしてメロディの顔を見つめた。肌理の細かい白い頬は滑らかだった。
「傷は残ってないようだな」
「ええ。お医者様もびっくりしてました。治りが早いって……あ、そろそろ出かけないと」
メロディは腕時計を見てから、ハンドバッグに入れておいた封筒を取り出した。アルトから渡された封筒の中身は、ミュージカルのペアチケットだ。
「出ようか」
「はい」

ここ数年、父の日の習慣として、アルト嵐蔵にメロディとのデートをセッティングしていた。
最初のうちは悟郎も一緒に出かけていたが、悟郎が正式に早乙女一門に加わった頃からメロディだけが来るようになった。
アルトはプレゼントの内容を毎回悩まなくて良いし、メロディはアルトから新しい服を買ってもらえて、美味しい物を嵐蔵にご馳走になる。嵐蔵は、孫娘とゆっくり過ごせる。
三方良し、というわけだ。

嵐蔵が贔屓にしている寿司屋で夕食を済ませてから、劇場に足を運ぶ。
マクロス11船団から来た劇団による『ウェストサイドストーリー』が今夜の演目だった。
指定席に座って、開演を待つ。
「ミュージカル、初めてなんです」
メロディは、まだ幕が下りている舞台の上を眺めながら言った。
「ロミオとジュリエットは見たことないかな?」
期待に目を輝かせている孫娘に目を細めた嵐蔵が尋ねた。
「ええと、小説と映画でなら」
「ウェストサイドストーリーは、ロミオとジュリエットを20世紀アメリカを舞台に翻案したものだよ」
「あ……それで筋立てが似てるんですね」
メロディはパンフレットのページを開いて、あらすじを読んだ。
「日舞や歌舞伎とは、体の使い方が違うから、それも面白いだろう」
メロディは嵐蔵の言葉に耳を傾けながら、パンフレットを読み込んでいた。
しばらく、二人の間には沈黙があった。
「お祖父様」
メロディはパンフレットに視線を向けたまま、ぽつり、と言った。
「何だい?」
「あの……歌、止めようと思うんです。レッスン」
「ほう」
嵐蔵の片眉が持ち上がった。
「その……やりたいことが出てきて。時間が足りないから」
母親のシェリルや、双子の片割れの悟郎はプロのミュージシャンとして活動している。二人の影響でメロディも歌のレッスンを幼い頃から続けている。
「でも、お母さんに、何か言い出しづらくて」
「優しい子だね」
メロディはクスッと笑った。
嵐蔵にも分かっている。
シェリルが娘にメロディの名前を与えたのは、歌への思い入れがあるからだ。シェリルは、はっきり歌手になれと言ったわけではないが、メロディは無言の期待を感じ取っていた。
歌の才能が皆無なら期待もされないのだろうが、メロディの声は“すごいタフな喉だ”と悟郎が羨ましがるほどだ。
「何がやりたいんだい?」
「パイロットに、軍に入りたいんです」
嵐蔵は、ひどく切ない気持ちになった。
美与とアルトが持っていた空への憧れを、この子が受け継いでいる。
そう思うと、メロディがとてつもなく遠くへ行こうとしているように感じた。
「美星学園の航宙科の入学案内、取り寄せて……お母さんに言い出そうって思ってるんですけど、何かきっかけが見つからなくて」
メロディの視線はパンフレットに向けられたままだったが、もっと遠くを見ている。
「今夜帰ったら言ってごらん」
「え? 今夜…」
メロディは嵐蔵の横顔を見た。
「きっと、お母さんは、メロディの気持ちに気がついている」
「そうなんですか?」
「メロディのお母さんだからな。あれで、子供の事は、よく見ている。言いづらかったら、最初にお父さんに言ってみるとか」
「はい」
「そういえば、シェリルも航宙科のOGだったなぁ」
「芸能科じゃなかったんですか?」
メロディは目を丸くした。
「アルトと出会った時には、既に銀河系のトップアーティストだったんだよ。そんな生徒に何を教えられようか?」
嵐蔵は、茶目っ気たっぷりに、節回しをつけていった。
「知らなかったぁ」
「だから、メロディの空への気持ちも判るはず」
「はい」
メロディが明るい表情で頷いた。
開演のブザーが鳴り、幕が上がった。

2009.06.27 
■業務連絡
6/17に携帯から拍手をいただいた方。ご指定のxxne.jpドメインのアドレスへ送信しようとするのですが、不達になります。他のドメインのアドレスをご指定いただけないでしょうか? hotmailのメールが受信できるアドレスでお願いします。

■今月の『CONTINUE』
大人向けのアニメ雑誌『CONTINUE Vol.46』は菅野よう子さんの特集ということで、表紙を見て購入しました。
内容は、けっこう充実していて、目を引いたのは、菅野さんと松本隆さん(『星間飛行』の作詞家)の対談に、May'nさんと中島愛さんから見た菅野さんについてのトークなど。
直近の参加作品としてマクロスFに触れていました。
マクロスFのファンなら読んで損はないと思います。

ついでに、この夏に公開のヱヴァンゲリヲンに向けて、シンジ役の緒方恵美さんの対談記事も面白かったですね~。
シンジが自慰するシーンのアフレコで、ゲンドウ役の立木文彦さんに、緒方さんがシンジ君の声で、
「父さん、初めてだから、うまくできるかわらかないんだ。間違ってたら間違ってるって教えてね」
と言ったそうです(笑)。
収録後、
「どうだった、父さん?」
と立木さんに聞いたら
「よくやったシンジ」
「やった、父さんにほめられた!」
というやり取りがあったとか。該当するシーンを見たら、噴き出しちゃいそうだなぁ。

2009.06.20 
(承前)

ルカが審判用のブースに入った。マイクを握ると、校舎の壁面に掲げられた巨大なモニターと、電光掲示板にスイッチが入った。電光掲示板には50mと表示されている。
ギャラリーから歓声が上がった。
「あー、テス、テス……では、ご覧の皆様、ゲームのルールをご案内しまーす」
ルカは手際よく愛想良く、しかし今ひとつやる気の無い声でルールを説明した。
「バトロイドモードで、竜鳥の卵をキャッチボールします。距離は50mから。双方がキャッチに成功すると、25mずつ距離を離してゆきます。受け止めた時に卵が割れたら、受け止めた側の負け。相手がキャッチできない所に投げたり、スピードが速すぎたりしたら、投げた方の負け。卵にはセンサーが取り付けてあるので、微妙なジャッジはこれで判定しまーす……と、こんなところです。では、コイントスどっちか決めてくださいね~」
「私は『表』よっ!!」
やる気に満ちたシェリルの声がグラウンドに響く。
「……じゃ、『裏』で」
アルトの言葉を合図に、ルカが投射機のスイッチを押す。グラウンドに落下したコインは、表が上になっている。
「はい、それではシェリルさんが先攻ということでさくっと終わらせてください」
「うふふ、やはり天は私に味方しているようね!」
フォークリフトに乗せられた巨大な卵をバトロイドの手で持ち上げると、感覚的にはバスケットボールぐらいの比率になる。
「私の用意したチケット、絶対受け取ってもらうわよアルトっ!!」
シェリルのRVF-25は両手で卵を保持すると、アンダースローでそっと投げた。
アルトの操縦するVF-25Fは胸の辺りに構えた両手で難なく卵をキャッチした。
「お前なぁ……ここまでするかフツー!?」
アルト機は25m下がって、投げ返した。
シェリル機も、しっかり受け止める。
「ここまでさせたのはアルトでしょ!?」
口喧嘩を挟みながら、電光掲示板に表示される数字を50m、75mと伸ばしてゆく。
125mになったところで、シェリルが投げそこなって、思わず叫んだ。
「あっ!」
右方向へ逸れる卵の軌跡を眼で追う。
「よっ、と!」
アルトが右腕を伸ばして、危うくワンハンドで受け止めた。
「ナイスキャッチ!」
シェリルの声に、アルトは笑った。
「いいのかよ、勝ち負けがかかってるんだぜ」
「そう言うアンタも、今の見逃せば勝てたじゃない」
「そんなセコい手使えるかよ。ほら、いくぜ」
シェリルが身構えたのを確認して、アルトは卵を投げ返した。
距離が100mを超えると、かなり勢いをつけて投げなければ相手に届かなくなる。受け取る方も、今までより大きな動きで慣性を吸収しないと、卵を壊してしまう。
二人の動きは期せずして、呼吸を合わせるようになった。
それと共に、口喧嘩も微妙にトーンが変わってきた。
「大体、包丁は使うなって言っただろ? 怪我でもしたらどーすんだよ」
アルトが投げると、シェリルはキャッチしてから拗ねた
「だって、いつもやってもらってばかりで悪いじゃない。ちょっとは手伝おうと思ったのよ」
(包丁? 他にも喧嘩の原因があったのかな?)
ルカは呆れながら、電光掲示板の数字を125mから150mに増やした。
VF-25Fはシェリルが投げた卵を受け止め、膝を大きく屈伸させながら勢いを吸収する。
「オレが好きでやってるんだからいいんだよ」
「……あ、アルトだって素直にたい焼きの頭受け取ればよかったのに。私はしっぽのカリカリも、ホントに好きなのよ?」
「や、それは……美味い方をお前にやるのは男として当然だろ」
(そういうやり取りは、二人きりの時にしてください、先輩)
ルカは距離を150mから175mに増やした。
メサイアのサーボモーターが関節を駆動する音と、巨大な卵が風を切る音が聞こえる。
無事にキャッチする度に、ギャラリーの溜息がグラウンドに響く。
225mで、シェリル機が卵をキャッチした勢いを吸収しきれずに、グラウンドに尻もちをついた。
大地が揺れる。
「おい、大丈夫か!?」
ギャラリーがあげる悲鳴の中で、アルトが叫んだ。
「平気よっ!」
シェリルは右掌に卵を乗せて高々と掲げた。
「私を誰だと思ってるの?」
ゆっくりRVF-25が立ち上がる。
「ふっ…」
アルトは唇を綻ばせた。
「お前の、そういう、なんでも一生懸命なところ、嫌いじゃないぜ」
そこで、シェリルが投げ返した卵を両手で受け止めた。慣性を吸収するため、右足を軸にしてクルリと一回転する。
「記録更新だぜっ」
距離は250mになっていた。
アルトが卵を投げ返そうとして、あっけにとられた。
シェリル機がガウォークに変形していたのだ。
「なっ、シェリル!?」
しかし、このタイミングでは歴戦のエースパイロットであるアルトも、勢いのついた腕を止められない。
卵は宙を飛んだ。
RVF-25のキャノピーが跳ね上がり、EXギアの翼を広げたシェリルが射出される。
同時にいくつかのことが起こった。
シェリルの動きを見てとったアルトは、自分の機体もガウォークにしてキャノピーを開いた。EXギアを装備して射出されたアルトの腕の中に翼を空中で分離したシェリルが飛び込んできた。
竜鳥の卵は、空になったRVF-25のコクピット辺りに命中。盛大に中身をまき散らした。
「なに考えてんだよ! 新記録達せ――」
驚いたアルトの唇をキスでふさぐシェリル。
「記録なんてどうでもいいわ。それより、今のもう一度言って」
「な、何をっ」
「『嫌いじゃない』って……。もっとわかりやすい言葉で言いなさい」
「そんなこと、この場で言えるか」
「ケチ!」
「それより、いいのかよ? ゲームはオレの勝ちってことになるぜ」
「いいわ、勝ちは譲ってあげる。そのかわり……後で必ず言うのよ」
シェリルの晴れやかな笑顔を見て、アルトもぷっと噴き出した。
「なんか、俺も、どーでもよくなってきた。判った。今回はお前のチケット受け取る」
「ホント?」
「でも、次からは2階席にしてくれよ。ファンを大切にな」
「わかったわ。ホーント、アルトったら頑固なんだもの」
シェリルとアルトは仲直りのキスをした。
ギャラリーから歓声と悲鳴と、冷やかしの声が入り混じったどよめきが起きる。
傍目も気にせず、いちゃついているカップルを視界の隅で見ながら、ルカは愛機の惨状を見てブースから飛び出た。グラウンドに両手をついて、がっくりとした。
(この事態だけは避けたかったのにぃ)
「貧乏くじだったな」
クランがルカの肩をポンと叩いた。
考えてみれば、シェリルがルカのRVF-25を持ち出すのを提案したのはクランのはずだ。クラン本人は、都合良く忘れ去っているようだが。
「いえ、いいんです。だいたい予測はしてましたし」
苦笑いのルカは立ち上がって膝から砂埃を払うと、卵白と卵黄にまみれたコクピットの清掃をどうやったら手早く確実に済ませられるのか、頭の中で素早く算段を始めていた。
「今夜の夕食はアルトとシェリルの奢りだ。うーんといっぱい注文してやれ」
クランはニカっと笑った。

「シェリルさんっ! ……大胆なんだー」
ランカは思わず両手で顔を覆ったが、指の間からしっかり空中キスシーンを見ていた。
「本当に。でも、賭けはどうなるんです?」
ナナセが首を傾げた。
「うーん、ゲーム不成立じゃない? 当事者はどうでも良くなっちゃったみたいだし。ワリカンでケーキバイキング行こ」
明るい声で言うランカをぎゅっと抱きしめて、ナナセは言った。
「いいんですよ、週末に、私のオゴリで行きましょう」
「ナナちゃん……ありがと」
ランカは、胸の中の小さなチクチクがナナセが抱きしめてくれたお陰で和らいだのを感じていた。
(あたしって、諦めが悪いかなぁ)
豊かな胸にギュッと顔を埋めれば、ちょっぴりこぼれた涙もごまかせるはず。

翌日の午後。美星学園、航宙科用の駐機スペース。
「やっぱり、こびりついている……タンパク質だし」
整備用のツナギを着たルカは、愛機のコックピットの中にホースを引き込んで水洗いをしていた。
ガウォーク形態のRVF-25の掌に乗って、コクピット周りを洗剤をつけたブラシでこする。
元々、真空中でも問題なく使用できる機器類なので、動作に支障はない。
だが、卵白や卵黄が残っていると匂ってくるし、今回のような遊びで整備班の手を煩わせるのも申し訳ない。
「こんなところかな」
頬に飛んだ泡を指で拭い取りながら、ルカは地上に降り立った。
「ルカくーん」
声に振り返るとナナセが紙袋を持って、手を振っている。
「早乙女君とシェリルさんが、今夜、お家で晩御飯どうですかって」
「わあ」
アルトが腕を振るった食事は玄人はだしの出来栄えなので楽しみだったが、あいにくと今日は、この後の予定がある。
「……あ、でも、用事があるので遠慮しておきます」
「そうですか。じゃあ、ちょっとお茶しません? シェリルさんから鯛焼きを預かってきてるんですよ。ルカ君にって」
ナナセはペットボトルのお茶と、『たつみや』のロゴが入った紙袋を肩の高さに持ち上げた。
「遠慮なくいただきます!」
ルカは濡れてしまったツナギの上半身を脱いで、腰の辺りに袖を巻きつけた。
「はい、どうぞ」
ナナセが差し出してくれた鯛焼きは、時間が経っていて少し湿っていたが、今まで食べた鯛焼きの内で一番甘かった。バルキリーの水洗いで体を使ったので、一層美味しい。
「ルカ君、陰で大活躍でしたね」
「被害を最小限に食い止めたまでです」
謙遜してみたものの、褒め言葉は素直に嬉しかった。
「色んな意味で、シェリルさんと早乙女君は、学園の伝説になりますよね」
ナナセも鯛焼きをパク付いた。
「バジュラ戦役の英雄と、銀河の歌姫。まさかこんなコトしているなんて、外の人には想像もできないんじゃないですか?」
ルカの愚痴に、ナナセはクスクス笑った。
「みーんな巻き込まれちゃいますよね」
「そう。シェリルさんって、普通の人なら無意識にかかる歯止めが、最初っから無いんですよ」
とは言いながら、食事に招いてくれたり、労ってくれる部分もある。
かつては人との関わりを避けていたアルトも、そういうシェリルの影響を受けて変わってきたように思う。
「アクセルだけでブレーキが無いんですね。でも、ルカ君が居るから、ブレーキを踏まずに済むんじゃないですか?」
「え、そうなんですか?」
ナナセの指摘は、ルカにとって意外だった。
「そうですよ。シェリルさんって、無茶したりするけど、けっこう周囲に気を使う人ですよ。芸能界で揉まれた経験なんじゃないかと思うんですけど」
今、こうやって食べている鯛焼きも列に並ばないと買えないという評判の人気店のものだ。多分、並んだのはアルトだろうが。
「そうかも知れませんね」
「早乙女君だって、ぶっきらぼうでニヒリストみたいに思われてたけど、困っている人には手を差し伸べずにはいられない人だし」
「じゃあ、僕はお二人のエアバッグですか?」
「そうかも」
ナナセは口元を押さえて笑った。
「なんだかなぁ……」
「でも、頼りにされて、手際よく片づけられるのって素敵だと思います。私は、そういうのグズグズ考え込んじゃう方だし」
万事控え目なナナセの言葉にルカはハッとさせられた。少し、気持ちが上向いて来た。

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2009.06.19 
アイランド1が惑星フロンティアに定着し、宇宙船から都市へと機能を変えつつある頃。
プロジェクト・リンドバーグは新統合軍フロンティア艦隊の装備開発部門が推進する計画だ。VF-25用気圏内追加装備の開発とテストが主要な任務だ。
さほど緊急度の高い課題ではないので、現場の空気はノンビリしている。
幕僚本部は、バジュラ戦役中に苛烈な戦闘を経験した部隊を、この任務に割り当てていた。休暇に準じる扱いだ。
早乙女アルト大尉の操るVF-25Fはコンフォーマルタンク(機体と一体になるように成型されたタンク)の装着テストを終えてバトルフロンティアの格納庫に戻ってきた。
「先輩、どうでした?」
ルカ・アンジェローニ主任が、コックピットを覗き込む。
「重心位置がよく設計されていて、相当激しい機動をしても不安定な感じはしなかったな。低速では、少し振り回される感じがした」
ヘルメットを外したアルトは、手の甲で額の汗を軽くぬぐった。
「そうですか。明日はタンクを片方だけ装着した状態をテストしてみましょう……って、あれ?」
「どうした?」
ルカは、VF-25Fのコンピュータに手持ちのノートパソコンを接続して、飛行記録をチェックしていた。
「先輩、テスト項目ひとつ飛ばしてます」
「何っ?」
ルカが見せてくれた画面には、確かに完遂していない項目が表示されていた。
「まいったな……弛んでるな、俺」
アルトは両方の頬を掌でパンと叩いた。
「僕も気づかなかったのが悪いんです。これは明日に回しましょう。でも、先輩、弛んでいるんじゃなくて、気になる事があるんじゃないですか?」
ルカがにこやかに言った。
「え…何が?」
アルトは素知らぬふりをしてみたものの、ルカがこんな言い方をする時は何か掴んでいる事が多い。
「見たんですよ。シェリルさん、クラン大尉捕まえてカフェで愚痴ってましたから、また、ケンカでもしたんじゃないかと」
「う」
アルトは言い返せなかった。
「図星、ですね。今度は何がきっかけなんですか?」
「あー……鯛焼き、かな」
「鯛焼き?」
「鯛焼きが1個しかなくて、半分コするのに頭を食べるのか尻尾の方を食べるのかで揉めて。アイツ甘いの好きだから、餡子タップリの頭を勧めたら、私は尻尾の方がいい、とか言い張って」
(うわー、予想以上にクダラナイ原因だぁ)
ルカは人畜無害な笑顔のまま呆れていた。
「大変ですねぇ、先輩」
「その次は、あいつがコンサートのアリーナチケットを寄越してきたんだ」
「仲直りのサインですね」
「チケット突っ返したら…」
さすがにルカも驚いた。アルトは仲直りしたくないのだろうか?
「なんで、そこで突っ返すんですか!? シェリルさんのプラチナチケットですよ」
アルトは口ごもった。
「その……なんだ。ちょっとビックリしたんだよ。アイツのプロ意識は完璧だと思ってたから。身内よりご見物を優先するべきだろ、フツー」
「早乙女家の家訓ですか」
ルカは腕を組んだ。ただでさえ意地っ張りのアルトとシェリルの喧嘩がここまでこじれたら、周囲に影響が広がるのは必至。
「アルト先輩にとって、シェリルさんは、すっかり身内なんですね」
アルトの頬が染まった。
「ばっ……まあ、ほら一緒に暮らしているし。親父も気に入ってるし……」
「お父様も気に入ってるし?」
ルカが先を促すと、アルトは言葉を濁した。
「いずれは……まあ、なんだ。そんな感じだ」
「そんな感じなんですね……さっさと仲直りしてください。お二人が喧嘩すると、周囲に与える影響が大き過ぎます」
「う」
アルトにも自覚はあったらしく、絶句した。
しかし、事態はルカの予想より早く展開していた。アルトとシェリルの広げる波紋は、ルカも容赦なく巻き込んでいく。

後日。
美星学園、航宙科の必須課目・航宙法規の授業が終わって、アルトとルカは一息ついた。
教室にシェリル・ノームが現れた。彼女は、今までEXギアの実習で飛んでいたはずだ。シャワールームで汗を流してきたらしく、微かなボディソープの香りを漂わせている。
アルトは片方の眉をヒクリと動かしたが、何気ない風を装って話しかけた。
「どうだった、実習は……」
そんなアルトに、シェリルはあでやかな笑みを見せた。
一瞬にして、教室中の視線がシェリルに集まる。
次の瞬間、無言のままでアルトにつきつけたのは、古風な蝋封を施した封筒だった。
制服のスカートをひるがえして、シェリルは教室を出た。
「何だこりゃ?」
シェリルが出て行った教室の出入り口と封筒を交互に見ながらアルトが言った。
「さあ?」
ルカは封筒を観察した。羊皮紙風の紙は、地球時代ヨーロッパの貴族が使っていた書簡の体裁を模しているらしい。
「凝ってるなぁ、シェリルさん」
「感心している場合か」
アルトは憤然と封を開いた。やはり凝った飾りと罫線の入った便箋に記された文面は次のようなものだ。
『挑戦状……明日19時、バルキリー卵投げデスマッチで決着をつけましょう』
末尾に流れるような筆記体でSherylの署名が入っている。
「バルキリーで卵投げぇ? クラン大尉の入れ知恵かよ」
ルカも頷いた。
「そうでしょうね。巨大竜鳥の卵を使った卵投げゲームって、ゼントラーディのゲームだって聞いたことが……がんばってくださいねアルト先輩! それじゃ、僕はこの辺で…」
そそくさとその場を去ろうとしたルカに、アルトが声をかけた。
「続きがあるぞ……追伸、ルカ・アンジェローニ殿のバルキリーを拝借いたします。そちらは好きな機体を選んで下さい……だとさ」
「えぇっ!? そんなぁ~!!」
ルカの脳裏に、シェリルが初めて美星学園に来た時の騒動が蘇った。あの時、ルカのEXギアで暴れまわったシェリルの後始末でしばらくハンガーにこもりきりだったのだ。
「ルカの機体が一番、器用にカスタマイズされているのに目を付けたか……なかなか侮れないな、こりゃ」
アルトはもう一度、挑戦状に視線を戻した。他に読みとれる情報は無いだろうか。
呆然とするルカをよそに、聞き耳を立てていた他の生徒たちが盛り上がっていた。
「早乙女とシェリルが決闘だってよ」
「シェリルさん、男前だわ」
「痴話喧嘩も派手だね、ドーモ」
「スケールが大きい…」
「どっちが勝つ?」
「賭けるぅ?」
「ブックメーカー、誰かやってくれよ」
この噂は学園の隅々まで光の速度で広まった。

(主よ、変えられないものを受け入れる心の静けさと、変えられるものを変える勇気と、その両者を見分ける英知を私に与えて下さい)
ルカは、心の中で20世紀アメリカの神学者ラインホルド・ニーバーの言葉を唱えた。ニーバーはプロテスタントだが、カソリックのルカにとっても宗派の違いを超えて今の気分にぴったりな祈りの言葉だ。
どうもアルトとシェリルの喧嘩には、常に巻き込まれる位置に居るようだ。
避けられない運命ならば、向かい合って切り拓くのみ。
ある意味、悲壮な決意を以って、ルカは卵投げデスマッチのために手配りした。
美星学園の理事長と交渉してグラウンドの使用許可を取り、放送部にかけあって電光掲示板や実況放送の段取りをつける。
ルカ本人は勝負の審判役を務めるため、ルールの把握に努めた。
そんな様子を見て、アルトが声をかけた。
「何だ? やけに協力的だな」
ルカは諦念をにじませた笑みを浮かべる。
「僕は学習したんです。その気になったシェリルさんを半端に思い留まらせようとしたら、却って被害が大きくなるって。こうなったら、コトがスムーズに運ぶよう審判でも何でもしますよ」
「う……、す、スマン」
「できれば、次は回避して下さると嬉しいです、先輩」

卵投げゲーム当日。
19時になるとナイター用の照明にスイッチが入った。
美星学園校舎には正面に大きな階段がある。グラウンドで何かの競技がある時は、即席の観客席になる。
ランカ・リーと松浦ナナセは、並んで座って観戦モードだ。
「すっごい集まったね」
ランカは階段を埋め尽くした生徒たちを見渡して言った。
校舎の窓から、文字通り高みの見物と洒落こんでいる講師もいるようだ。
「お祭り好きはうちの伝統ですから……ランカさんは、どっちに賭けます?」
「うーん……バルキリーはアルト君の方が上だと思うけど、シェリルさんも本番に強いし。今日は意外性でシェリルさん! ナナちゃんは?」
ランカさんが、シェリルさんに賭けるなら私も……」
「ダメだよ。それじゃゲームにならないじゃない」
「そうですね」
ナナセはバトロイド形態で屈伸運動している緑色のRVF-25を眺めた。
シェリルが搭乗している機体は、イージスパックを外されているので、通常は背負っている巨大なレドームが無い。とても身軽に見えた。
一方で、アルトが乗るVF-25Fは白を基調に赤と黒の鋭いラインが走っている。
「じゃあ、付き合いの長さで早乙女君に賭けます」
「そうこなくっちゃ。負けたら、ケーキバイキング、オゴリだからね」
「ええ」

ルカはクランクランが用意してくれたエデン原産・巨大竜鳥の卵のぐるりにテープ状のセンサーを張り付けていた。割れたり、微妙なジャッジになった場合の判定用だ。
「おー、ルカ。御苦労さんだな」
台車をガラガラと押して来たのは、マイクローンサイズのクランだった。
クラン大尉も、あんまりシェリルさん焚きつけないで下さい」
「放っておくと、もっと暴走するぞ。この程度で良かったと思うんだな」
そう言っているクランは事態を楽しんでいるようだ。額には必勝の二文字が入った鉢巻を絞めている。
ルカは胸の中で溜息をつきながら、微笑んで見せた。
「ところで、その台車に乗っけているものは何ですか?」
台車の上にはジャッキのような形の機械が載っている。機械の上には、マンホールの蓋ぐらいの大きさの金属製円盤が乗っていた。わずかに青味を帯びたチタン製のプレートには、第1次星間大戦を終結に導いたゼントラーディ側指揮官ブリタイ・クリダニクの肖像が刻まれている。
「ああ、先攻後攻を決めるコイントス用のマシンだ」
「ええっ……そんなものまで持ち込むんですか? じゃあ、これ、ゼントラサイズのコイン?」
ルカの記憶に引っかかるものがあった。
「ひょっとして、第1次星間大戦終結記念メダルですか?」
ゼントラーディ側が地球人類との和解と文化を取り戻した記念として発行したメダルだった。
しかし、終結後、統合政府に対するゼントラーディの大規模な反乱が生じた。反乱制圧後、統合政府は全ゼントラーディのマイクローン化を定めたため、残っているのはごく少数の筈だ。マイクローンサイズで持ち歩くわけにはいかないサイズであり、重量だった。
「ああ、母から貰ったんだ」
「そんな貴重品、いいんですか? こんな夫婦喧嘩に使ったりして」
クランは胸を張った。
「戦いに尊卑は無い!」
「あー、そうですか」
今後はアルトとシェリルが揉めた時は、クランの動向にも気を配っておこうと、ルカは肝に銘じた。

(続く)

2009.06.19 
■とある挫折
くっ、iPodを3台も持ってるから、iPhoneだけは手にするまいと思ってたのに……機能やらバッテリーのもちやらを検討して、結局iPhoneなのかーorz
iPhone用のSafari、けっこう出来が良いです。通勤時間中にサイトをチェックしてます。

■とある実験
密かに悪だくみ進行中。
近く、形にしてお目にかけられると思います。
開けてみてのオタノシミ。

■蛍の季節
我が家の近くでは、蛍が飛び交っています。
河川の付け替え工事やっているから、今年は無理かな、と思ってたのですが、ささやかな数ながら、フワフワと飛んでいるのが見えます。
浴衣のアルトとシェリルが蛍狩りなんてのも、風情があってよろしいですよね^^

2009.06.10 
「お母さん、えほん、よんで」
シェリル・ノームは3歳になる娘のメロディから渡された絵本の表紙を見た。
柔らかい水彩画のタッチで子狐が描かれている。
「あら、可愛い。ごんぎつね……」
初めて見る本だった。アルトが買い与えたのだろうか?
「いいわ。悟郎もベッドに入って」
「はーい」
男女の双子、悟郎とメロディは仲良く一つのベッドに入った。
シェリルは子供部屋の照明を落とし、ベッドサイドのシェードランプの明かりで朗読し始めた。

早乙女アルトはリビングでニュース番組を見ながら、ジントニックのグラスを傾けた。
子供達を寝かしつけたら、シェリルもナイトキャップを飲みにくるだろうと空のグラスも用意してある。
背後から聞き慣れた足音がした。
「寝たか?」
言いながら振り向いて、アルトはギョッとした。
ネグリジェ姿のシェリルは、空色の瞳を潤ませていた。アルトの顔を見ると、それまでこらえていたものを一息に吐き出した。
「可哀そう!」
「子供に何か…」
「ちゃんと寝かしつけたわよ……でも、きつねが!」
「き、きつね?」
アルトシェリルが手に持っている物に気づいた。
「まさか……絵本を読んで泣いているのか?」
「悪いっ?」
涙を湛えた青い眼がキッと睨む。
「い、いや」
「よくも、このシェリル・ノームを悲しくさせたわねっ……出版社にかけあってハッピーエンドに書き直させる!」
「ま、待て……」
アルトは立ち上がると、戸惑いながらもシェリルの肩を抱いた。ソファに並んで座る。
「だって、ひどいじゃない……ごんは…ごんは、一生懸命謝ろう、償おうとしてたのよ? そりゃ、兵十にいたずらしたのは悪かったけど、野生の子なんだもん。兵十だって可愛そう。鉄砲で撃った後で、ごんが償おうとしてたのを知ったら兵十だって……悲しすぎるじゃない。なんで、こんな救いの無い話、子供向けの絵本なんかにするのよ」
アルトは肩に顔を埋めるようにしたシェリルの髪を撫でながら、パジャマの肩に熱い涙の滴が染み込むのを感じた。
「ねぇっ、どうしてよっ」
顔を上げたシェリルが至近距離からアルトを見つめた。長いブロンドの睫に涙の滴が煌めいている。
(お前の子供時代の方が、童話なんかよりずーっとハードだったじゃないか)
そう思いながら、アルトはシェリルの頬を伝い落ちる滴を指でぬぐった。
「音楽だって、イケイケのアッパーチューンばっかりってわけにはいかないだろ?」
「そうだけど……でも…」
「絵本の子狐のために泣いてやるお前は、嫌いじゃないぜ」
シェリルは白い頬を染め、ついと目線をそらした。
「もうっ……いつの間に、そんなセリフ言えるようになったのよ」
アルトは淡いピンクの頬にキスした。
「お前と付き合うようになってから」
シェリルはくすぐったそうに片目を瞑った。アルトの両頬を掌で挟む。
「生意気」
囁くと、唇を合わせた。

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2009.06.04 
■娘ドラ3げとー
アルトのチャイナドレス姿っ。どうして、どうしてビジュアルで表現してくれなかったのかっ(血涙)。
グレイスとシェリルの出会いから18話までのグレイスさんの回想では、これ、新録で新曲? もしかして、ピンク・モンスーン? 早くちゃんと聞きたいっ!
オペレータ三人娘、必要以上にキャラが立ってますナ

■少し悩んでみたり
娘ドラ3で露出したグレイスとシェリルの出会いのエピソードを受けて、過去のエピソードも、改訂するかなー(悶々)?

2009.06.03 
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