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地球型惑星インティ7は、厳しい乾燥と極端な気温変動で植民には向かないとされているが、極めて純度の高い黄金の露頭鉱床があるため、資源採掘拠点として有望視されている。
現在この惑星には、ガリンペイロ社とフォーティナイナーズ社の2社が入り、採掘プラントの設置と試掘を行っていた。

フロンティア艦隊から派遣されてた治安維持任務群の旗艦サドガシマ艦上。
「公演は中止だ」
今回の艦隊派遣で予備役から呼集され、少佐に昇進の上、現役復帰した早乙女アルトは妻に告げた。
「冗談でしょ? 私はやるわ」
銀河系音楽チャートの最上位、ユニバーサルボードで不動の地位を築いているディーバ、シェリル・ノームは首を横に振った。
「連中、発破用の反応弾まで持ち出している」
インティ7の地上では、採掘会社に雇用されているゼントラーディの巨人たちが、待遇改善を求めて物騒な労働争議を繰り広げていた。
背後には、星系外から反政府勢力の工作があるとされるが、詳細は分かってない。
「やると決めたら、やるのよ」
シェリルは頑なだった。
インティ7行政府は、ゼントラーディ用の懐柔策として、トップアーティストによる公演をフロンティア行政府に依頼した。一方で、治安維持部隊の派遣も要請している。
フロンティアがゼントラーディと地球人類の共存に関して実績と経験があるための判断だった。
娯楽の乏しい辺境の鉱山惑星で、ゼントラーディを過半を占める住人たちの緊張を緩和するには、最も効果的なのがコンサートというわけだ。今回は、フロンティア在住のトップアーティストとして、シェリル・ノームに白羽の矢が立てられた。
「それだけは絶対に譲れない。バルキリー分捕ってでも降りていくわ」
柳眉を逆立てたシェリル、その眼差しは力に満ちて美しい。
「お前一人ならそれでいい。バルキリーは俺が操縦してやる……だが、悟郎やメロディも居るんだ」
30代後半になったアルトシェリルには、成人した息子・悟郎と娘・メロディが居る。
悟郎はギタリストとして、メロディはバルキリーのパイロットとして今回の作戦に参加していた。
シェリルが無茶をしたら、子供達も黙っては居ないだろう。
「絶対、お前を守るためにやってくる。そういう子達だ」
アルトは言葉に重みを込めて言った。
もし、命令を無視するなら確実に犯罪者になってしまう。特にメロディは新統合軍での昇進の道を閉ざされる。
シェリルは不機嫌に黙ると、ディスプレイを見た。
褐色の大地に僅かな青い海、更に僅かな白い雲。インティ7のリアルタイム映像だ。
今この瞬間、バルキリーに乗ったメロディが偵察に大気圏内へと降下している。
「ガリア4か」
アルトの言葉に、シェリルは振り返った。
「違うわよ……アーティストとしてのポリシー」
言い返したが、言葉に勢いが無い。
「まだ治安維持部隊がインティ7を離れると決定したわけじゃないんだ。チャンスはある」
アルトはシェリルの肩を抱きしめた。

メロディ・ノーム少尉は、インティ7の政府機能が集中しているマイダス・シティの上空をVF-31に乗って偵察飛行をしていた。
主翼にぶら下げたセンサーポッドが情報を収集している。
「ここからでも見えるな。ドンパチやってるの……なんてこった」
タンデム配置の後席に座っているのは早乙女悟郎。流される血を思って吐き捨てた。
ゼントラーディサイズを前提に作られた巨人街のあちこちで、銃火や、火災の黒い煙、発炎筒の白い煙が見られる。
行政府の警察部隊が鎮圧に出ているが、作業用のパワードスーツ(クァドラン・ローやヌーデジャル・ガーの民生型)まで持ち出している暴徒に対して、旗色が悪そうだ。
「暴徒は対空火器を持ってないと思うけど、油断しないでよ」
センサーポッドから流れ込んでくる情報をモニターしながら、メロディが言った。
本来は民間人がこのような事態で軍用機に便乗できる筈は無かったが、今回の作戦ではシェリルと並ぶVIPという立場を利用して、悟郎はメロディ機に同乗した。
「何か打つ手はある?」
必要な偵察飛行を終えると、メロディは機を上昇させた。
軌道上で待つサドガシマを目指す。
「戦場が広過ぎる……たとえばVF-31にスピーカーを積み込んで鳴らしても、戦場全域に曲を響かせるなんて難しいな」
悟郎は野外ライブの経験から考えた。広過ぎる会場では音を隅々まで行き渡らせるのは難しい。
「ねえ」
メロディが言った。
「何だ?」
「お母さん、様子が変じゃなかった?」
「ヘン?」
悟郎は重力を振り切って加速するVF-31のパワーを感じながら答えた。
「上手く言えないけど……ものすごく力が入っているみたい」
メロディは自動巡航モードに切り替えて、操縦桿を握っている手を緩めた。
「多分、ガリア4のこと、思い出しているんじゃないか?」
悟郎はアーティストとして、シェリル・ノームのディスコグラフィを調べていた。
「ガリア4?」
「シェリル・ノームが唯一、体調不良で公演を取りやめた星だよ。それで、自治派のゼントラーディ兵が反乱起こしたって言う」
「あ」
メロディの中で記憶が繋がった。
2059年、メロディたちが生まれる前の事件だ。
反乱部隊はシェリルとスタッフ(アルトを含む)を人質にして新統合政府に自分たちの宇宙船を要求したと言う。
「ランカさんの……」
反乱はランカ・リーの歌声で鎮圧された。あまりに劇的な展開は、超時空シンデレラ・ランカの名声を、この上なく高めた。
「きっと、すげー悔しかったんじゃないか。ランカちゃん、プライベートじゃ母さんの友達だし、今でも仲良いし……でもな。知ってるだろ?」
悟郎は惑星からの光を浴びて浮かび上がるサドガシマや他の艦艇の姿を眺めた。
メロディは無言だったが、悟郎の意見には賛成している。
歌うために行ったのに歌えなかった。
反乱を鎮めたのは他人の歌だった。
「誇りを取り戻すため……?」
歌手としての自分に強烈な自負心を抱いているシェリルを幼い頃から見てきたメロディは、母親に憧れと反発を同時に感じていた。
「絶対、歌わずにはいられないだろうな。賭けたっていい」
悟郎は覚悟を決めていた。
「親子公演は、大荒れになりそうだ」
シェリルと同じ舞台に立つのは、9歳でデビューしたての頃以来だ。

任務群の司令官は早乙女家の面々や、主要メンバーを集め、急変する状況に合わせて作戦の変更を検討した。
副官の中佐は、惑星全体図と、最も大きな騒乱が起きているマイダス・シティの地図を表示させた。
「現在、マイダス市域で10万人規模の暴動が発生しています。問題なのは、デモのような形で団体行動するのではなく、散発的に各地で小競り合いが間断なく起きています。この為、地元の警察部隊も勢力を分散させなければなりません」
司令官が顎に手をやった。
「どうも、事前にかなり準備をしたようだな……反統合勢力による組織的な関与があるのではないか?」
「はい。これに関しては行政府の情報部門も認めています」
副官は当初の作戦案をディスプレイに表示した。
「シェリル・ノームさんのライブを開き、沈静化したところで、我々の海兵部隊で武装解除、兵力の引き離しをする予定でした。しかし、この状態ではライブを開いても、耳を傾ける者は少ないでしょうし、アーティスト、スタッフの安全も保障できません」
「私の安全に関しては、考慮していただなくてけっこうです」
シェリルが断言した。
隣に座っているアルトは苦笑気味に唇をゆがめたが、会議卓の下でシェリルの手を握って励ました。
シェリルも握り返す。
ブリーフィングルームにどよめきが広がった。
「お気持ちは、ありがたくお受けします。しかし、命をかけるのは軍人の職分。民間人の協力者を危険に晒すのは、軍人としてのモラルに反します」
司令官が敬礼した。
「この状況では、暴徒をどこかへ誘導するか、都市全体に同時に効果を発揮する手段を用いなければなりません。現状では、高濃度の沈静化ガスの使用も検討されていますが、事故や後遺症を考えると望ましくありません」
副官は状況を総括した。
「発言してもよろしいですか?」
手を上げたのは悟郎だった。
「どうぞ」
副官が促す。
「ええと……これは、野外コンサート用の機材として持ってきたサウンドボールです」
立ち上がった悟郎は、サッカーボールよりやや大きめの白い球体を手に持っていた。
母親似のストロベリーブロンドと青い瞳の青年は、そこにいるだけで注目を集める。
「球形のスピーカーで空中に浮かべて使います」
手を離すと、サウンドボールはテーブルの上で浮遊した。ボール全体が小刻みに振動してロックのビートが流れ出す。
「ゼントラ用の野外コンサートということで、かなりの数を持ってきてるんです。これを市内に飛行機から投下してはどうですか?」
本来の用途は、広い会場の野外コンサートでメインのスピーカーを補助する機材だった。音速の性質で、会場の端と端で聞こえる音に時差が生じるような会場では、普通に使用されている。
「悟郎……」
シェリルは息子の横顔を見上げた。
「曲は、こんな感じで流します」
悟郎は携帯音楽プレイヤーを操作し、サウンドボール経由で別の曲を鳴らしてみた。
バスドラの重低音が響き渡る。
そこにベースの響きが重なり、甲高いギターの音色がかぶさる。
聞く者に期待感を抱かせる音。
「サウンドボールの表面に文字もディスプレイできます」

無政府状態に陥って3日目の夜。
暴徒となったゼントラーディ達は、低空を降下するVF-31の編隊飛行を目撃した。
VF-31が航過すると、空から白いボールが降ってくる。サッカーボールからアドバルーン並みの大きなものまで、さまざまなサイズのサウンドボールから音楽が流れ出す。
バスドラとベースの重低音に重なって、ギターの高音が雄弁に語りだす。
サウンドボールには矢印が表示され、一部の市民がそれに釣られてマイダス・シティ中央に広がるセントラル・パークへと誘導された。
サウンドボールが赤く輝いて、ここから立ち入り禁止の文字を表示する。
天空から轟音。
何事かと空を見上げる者。
うずくまる者。
遮蔽物を探す者。
舞い降りてきたのは、頑丈を形にしたかのような機体VB-6ケーニッヒモンスター。
公園の中央に着陸すると、ケーニッヒモンスターの広い背面の上に立つ人影が現れた。
早乙女悟郎が超絶のテクニックでギターをかき鳴らす。
曲は『突撃ラブハート』。
上空からVF-31が翼下に下げたスポットライトで照らす。
光条が交差する箇所にシェリル・ノームが登場した。

 LET'S GO つきぬけようぜ
 夢でみた夜明けへ
 まだまだ遠いけど
 MAYBEどーにかなるのさ
 愛があればいつだって

可変爆撃機の上を即席の舞台にして、ディーバの歌声が響き渡る。
立体映像の投影システムが、拡大したシェリルと悟郎の姿を乾いた夜空に映し出した。

 夜空を駆けるラブハート
 燃える想いをのせて
 悲しみと憎しみを
 撃ち落としてゆけ
 お前の胸にもラブハート
 まっすぐ受け止めてデスティニー
 何億光年の彼方へも
 突撃ラブハート

サビは二人のコーラスだ。
背中合わせで歌う姿に、戸惑っていたゼントラーディ達も拳を振り、足を踏み鳴らして曲に乗る。
「メロディ、スモーク・オン」
“ラジャー”
コンサート会場上空をアルトとメロディの操る機体が、背中合わせでコークスクリュー回転を繰り広げる。
蛍光を発するスモークが夜空に描くラインに、歓声がひときわ大きくなった。
VF-31が航過すると、轟音の後に沈黙が訪れる。
夜気を震わせてギターがコードを奏でる。

 耳をすませば
 かすかに聞こえるだろ
 ほら あの声
 言葉なんかじゃ
 伝えられない何か
 いつも感じる
 あれは天使の声

静寂に響き渡るスローナンバー。
熱気バサラのヒット曲を知っている者も多く、声を合わせて歌う者も増えてきた。
ゼントラーディの巨体から生み出される声の響きが街に広がってゆく。

 耳をすませば
 いつも聞こえるだろう?
 ほら あの声
 あれは天使の声

最後のフレーズの余韻が消えると、シェリルが大きく手を振った。
「ようこそ、シェリル・ノームのライブへ!」
トップスはビキニの上に、フライトジャケット。ボトムはデニムのホットパンツで衰えを知らない脚線美を惜しげもなくさらす。スポットライトの中でジャケットに縫い込まれた発光素子がキラキラと輝いた。
「今夜は、リスペクトしている熱気バサラのカバーから……聞こえたかしら、あなたの天使からの声?」
マイクをオーディエンスに向ける。
歓声が応えた。
「OK、じゃあ、次の曲は……判ってるわよね? うちのギター馬鹿クン」
黒のジャケットにジーンズ姿の悟郎は苦笑すると、ギターを鳴らし、高音を強く歪ませた。
「私の歌を聴けぇ!」
『射手座☆午後九時Don't be late』が始まる。

“暴徒が所持していた反応弾、無力化に成功しました”
“扇動者を摘発”
この機に乗じて、地元警察部隊が暴動をコントロールしていた組織を制圧にかかった。

 持ってけ 流星散らしてデイト
 ココで希有なファイト
 エクスタシー焦がしてよ
 飛んでけ 君の胸にsweet
 おまかせしなさい
 もっとよくしてあげる アゲル
 射手座☆午後九時Don't be late

アルトは、マイダス・シティの一画から急上昇するVF-19Cを発見。
「メロディ、不審な機体を発見。押さえるぞ」
2機のVF-31は挟撃するべく急行した。
特徴的な前進翼を持つVF-19Cは、気圏内で高い機動性能を誇る。
アルトからの警告にも関わらず、強引に飛び続けた。
パイロットはよほど技量に自信があるのか、それとも破れかぶれになっているのか。
“行きます!”
メロディが叫ぶ。父親譲りの琥珀色の瞳に輝きを宿す。
VF-31の大推力にものを言わせ、VF-19Cの頭を塞ぐように遷移。
回避しようとしたVF-19Cの行く手をアルト機が抑えた。
演習モードに設定して出力を落としたレーザー機銃が、VF-19Cの機体を撃つ。
慌てて逃れようとしても、メロディからのレーザー機銃が照準されて、逃げようが無い。
2機のVF-31に挟まれて、VF-19Cはマイダス宙港へと誘導されていく。
後に判明したことだが、パイロットはガリンペイロ社やフォーティナイナー社とはライバル関係にある企業が派遣した工作員だった。

夜明け前。
アルトはVF-31の後席にシェリルを乗せて惑星インティ7の高緯度地帯を飛行していた。
「どこへ向かってるの」
ライブの余韻に頬を火照らせながらシェリルが言った。
「観光スポット……ここの行政府の人に教えてもらった」
座標を確認しながらアルトが言った。
「3時方向……右を見てろよ」
地平線からキラリと曙光が見える。
その光が地上で反射した。
「何、これ?」
シェリルの青い瞳を黄金の輝きが染めた。
「この星で、最大の金露頭鉱床」
直径10kmを超えるクレーターの底に、鏡のような黄金の平原が広がっている。
そこに主恒星の光が反射して、滅多に見られない光の競演が現れる。
さすがのシェリルも言葉を失った。
「よくやったな、シェリル」
アルトは黄金の平原がよく見えるようにと、機体を傾けた。
「でっかい金メダルみたいだ」
アルトが言うと、シェリルはくすっと笑った。
「首に下げるには大きすぎるわ」
「ああ」
アルトもひとしきり笑った。
笑い合ったあと、シェリルがポツリと呟くように言った。
「……一人前になったのね」
悟郎のことを言っているのだろう。
シェリルが行き詰まった時に、解決策を出してくれた。
「ああ」
アルトもメロディの働きを思い返してうなずいた。
「ちょっと寂しいわ」
子供達が手を離れたのを実感するシェリル。
「いいさ、また二人きりになったって思えば……それとも、もう一人ぐらい作るか?」
「それもいいわね」
シェリルはこちらを肩越しに見つめているアルトに投げキスを送った。
「その前に、もっとデートするわよ。素敵なコース考えなさい」
「了解」
VF-31は翼を翻し、軌道上の母艦へとコースを変更した。


★あとがき★
もとこ様のリクエストをいただいて、書いてみました。
タイトルは「一か八か」の意味です。
アルトシェリルがケンカするシチュエーションは、こちらでも書いているので、今回はどんなシチュエーションを用意しようか楽しく悩ませていただきました^^

2008.10.29 


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