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(承前)

惑星シュクールダール。
その大気圏を航行する観測船『ラブレン』で発生した異常事態を確認するために、クランクランが操縦するクアドラン・ローはラブレンに乗り込んだ。
ラブレンを統べる人工知能は異常無しの定期連絡をしていたが、乗員の姿が見当たらない。

巨人形態のクランクランは、狭所探索用プローブから転送されてきた船内の様子に警戒レベルを上げた。
乗員は、日常の業務を行っている最中に、どこかに消えてしまったようだ。争った形跡は無いので、自発的に船外へ移動したと思われる。
しかし、船内格納庫にある民生用VF-11や輸送機類に不足はない。
状況が指し示すのは、ラブレンの乗員達は、体一つで船外に移動した、ということだ。
地表2000m前後の高度を航行している観測船から、どこに移動できるというのか?
推理小説じみた状況に、クランは拳銃のグリップを握りしめ、銃口を上に向けた。人差し指は、まだトリガーにかけない。
「現在まで判明した状況を、運輸通信省へ送信せよ」
クァドランに搭載されたコンピュータへ、音声コマンドで命じた。データは、大気圏外で待機している母船ダンデライオン4930を経由して、フォールド通信で送られるはずだ。
「……もう少し、手がかりが欲しいな」
ラブレン船内はマイクローンサイズなので、巨人形態のクランが行動できる場所は限られている。
とりあえず、格納庫内部を調べてみることにした。
手順どおりに、きちんと固定されているVF-11の周囲をぐるりと回り、機体の下を覗き込む。
「あ」
そこにはビデオカメラが転がっていた。
観測機材の一つなのだろう。耐真空/高圧仕様の頑丈なモデルで、宇宙でも深海でも使用できるものだった。
クランは手を伸ばして拾い上げる。
ケーブルとコネクターがマイクローンサイズなので、少しばかり手間取ったが、パイロットスーツとカメラを接続した。
カメラのバッテリーは切れていたが、ケーブル経由で充電できる。
しばらくしてから、内部に残っている画像を再生させた。
「ふむ…」
ヘルメットのバイザーに投影させた画像は、シュクールダールの地表を空撮したものだった。
プロトカルチャーの影響を受けていない、見慣れぬ植物で覆われた森林地帯のようだ。
やがて、撮影者を乗せた機体は、森林地帯から海上へと飛行する。
青い海面に光の筋が浮かび上がる。先ほどクランも目撃した現象だった。
「…この星、特有の自然現象なのか?」
場面が切り替わった。
ラブレンに帰投した後らしい。背景は、この格納庫だった。
叫び声が記録されている。
“誰だっ!”“そんな……”“母さんなの?”
画像が震えていた。持っている人間の手が震えているらしい。カメラに備わっている手ブレ補正機能が追いつかないほどの震え。
「何が?」
クランは目をこらした。
画像には、この船の乗員たちが動揺している姿が映し出されていた。
呆然と立ちすくむ者。
手で顔を覆う者。
ふらふらと前に足を踏み出す者。
画像は撮影するアングルを変えようとしたところで、激しく揺れた。
撮影者がカメラを落としたのだ。
床に転がり、横向きに傾いた画像。
一瞬だけ映し出されたのは、そこにいる筈のない人々だった。
「誰だ?」
少なくともラブレンの乗員ではない。
ユニフォームを着ていない。
まるで統一の取れてない服装の老若男女。
普段着姿の者も居れば、軍服を着ている者も居る。しかも、その軍服は統合軍時代のものだ。現在の新統合軍に改組されてからの軍服とは違う、古めかしい形。
ここに居る筈の無い人々。
そこで、クランは視線を転じた。
映像ではなく、たった今、格納庫から外部を見るための観測窓から光が差し込むのを目にした。映像にも記録されていた、海中の発光現象と同じ色合いの光だ。
「何っ?」
クランの全身を悪寒にも似た感触が走り抜ける。
周囲に素早く目を配る。
背後から声がした。
「クラン」
反射的に振りかえり、拳銃を構えるクラン。
「!」
その姿勢のまま息を飲んだ。
「おいおい、そんな物騒な物しまえよ」
忘れもしない。ブロンド、眼鏡のレンズ越しに見える緑の瞳、笑顔。あの時のまま、美星学園の制服姿で。
「…ミシェル
呆然としたまま、彼の名前を呼ぶ。
「クラン」
こちらに足を踏み出してきた“ミシェル”に向って、クランはトリガーを引いた。
ミシェル”は素早く伏せて、VF-11の影に隠れた。
「何すんだよ!」
「お前はミシェルじゃない!」
クランは油断なく銃を構えながら、クァドランの方へ後退する。
この“ミシェル”はクランを守って戦死した時のままだったが、たったひとつ違うことがある。身体がゼントラーディサイズだ。
「俺はミシェルだっての……お前が望んだままの」
クランの足が止まった。
「どういう…ことだ」
食いしばった歯の隙間から、絞り出すように言った。
「言ったままだ。俺は、お前が望むように、ココに居る」
“ミシェル”の言葉が、クランの胸を切なく疼かせた。
幼馴染でありながら、クランとミシェルは最後の瞬間になるまで互いの気持ちを確かめられなかった。それにはいくつかの原因があるが、最も大きな障壁に二人の特異体質があった。
ゼントラーディサイズの時は年齢相応の女性の姿であっても、マイクローン化すれば幼い少女になってしまうクラン。
一方で、ミシェルは辺境惑星ゾラ先住民の血を引くという遺伝形質のために、ゼントラーディサイズになることはできない。
マイクローンの時でも、ミシェルの隣に寄り添うのに相応しい成熟した女性の姿でありたい――それはクランの切実な願いだった。
「ならば、消えろ。ミシェルの思い出を汚すな!」
「ひどい事を言うな」
苦笑いしながら、“ミシェル”は両手を上げて機体の影から出てきた。
「動くな!」
クランが構えた拳銃、その銃口は揺るがずに“ミシェル”の胸に向けられていた。続けて詰問する。
「答えろ、この…ラブレンの中で何が起こった? 映像に記録された人たちは誰だ?」
「彼らは、ここに居た人たちが会いたいと望んでいた者だよ」
“ミシェル”は意外にも素直に答えてくれた。
「会いたい…だと? どうやって、ここに来たんだ。人類が乗った船は、しばらくシュクールダールに立ち寄ってない」
“ミシェル”は、ふっと微笑んだ。
「最初からここに居たんだ。彼らが望むから見えるようになった」
「…最初から?」
そこで、クランは、ある可能性に思い至った。
「あの、海の発光現象と何か関係があるのか?」
“ミシェル”は眉をひそめた。
「発光? ああ…それは、ここが思索に集中している時に光るんだ。だから、関係があるとも、無いとも言える」
今度はクランが首をひねる番だった。
“ミシェル”は“ここ”という場所を示す代名詞を主語として使っている。人間であれば“こいつ”だろうし、人間と呼べない存在であれば“これ”と表現するだろう。
「質問を変えるぞ。ラブレンの乗組員は、どこに居るんだ?」
「ここさ。見えなくなっただけで、ここに居る」
“ミシェル”は両手を上げたまま、肩をすくめた。その表情は、クランがぞっとするほど、あの頃のミシェルにそっくりだった。
「生きているのか? それとも…」
「ここと合一している」
“ミシェル”の回答は謎めいていた。
「言葉を変えて言ってみろ」
「彼らは、彼らが会いたいと望んだ人と一緒に居る。自然なことじゃないか、そうだろう? だからクラン、俺と一緒に…」
“ミシェル”がそこまで言った瞬間、足元が揺れた。下りのエレベーターに乗った時のような加速度を感じる。
クランは、船を制御するコンピュータに呼びかけた。
「ラブレン・コントロール、高度が下がっているのか?」
機械音声が即答した。
「本船は巡航モードです。何も異常は有りません」
「だが、この加速度は何だ?」
体感する下向きのGは無くならない。ということは、ラブレンが下降する速度を増しているということだ。
「コンピュータも、会いたいと望んだ人々と一緒に居たいんだ」
“ミシェル”は足元を見て言った。彼の視線は、甲板よりもっと下を見つめているかのようだった。
「どういう……」
クランは詰問しようとして、一つの可能性を思いついた。
“ミシェル”を作り出した何者かは、ラブレン乗組員が会いたいと願った人を出現させた。
どうやって会いたい人を知ったのか、また、その人を出現させたのか、具体的な手段は不明だが、今、ここでクランが“ミシェル”と対峙しているのは事実だ。
では、コンピュータは、どうか。コンピュータにとっての理想、あるべきラブレンの姿は日常の業務を滞りなくこなしている状態ではないだろうか? だから乗組員はコンピュータのデータ上で居ることになっている。何者かによって、騙されている。あるいは、夢を見せられている。
「クラン、俺と一緒に来いよ」
“ミシェル”は上げていた手を、クランへ向けて差し伸べた。
拳銃の銃口が揺らぎ、徐々に下へ向いた。
「さあ」
“ミシェル”が促す。
再びクランは拳銃を構えた。呟きのような小さな声で言う。
「行けない。ミシェルは……自分を犠牲にして私を守ってくれたのだ。だから、そっちへは行けない」
惑星フロンティアで待っている人々の顔を思い浮かべる。
グラリとラブレン全体が揺れた。
クランは身をひるがえし、クァドランに搭乗する。
脱出しようとして、発着甲板へと出るエレベーターに駆け寄った。
「何っ」
ラブレンの傾斜がきつくなってきたためか、エレベーターはセイフティがかかって作動しない。
「クラン、こっちだ」
“ミシェル”は、非常用のハッチを解放する。
ラブレンの下側に大きく開いたハッチの向こうに、惑星シュクールダール特有の鮮やかに青い海面が見える。
みるみる内に海面が迫ってきている。
「何故だっ? 私も一緒に連れて行きたいのではないかっ?」
ハッチの縁をクァドランの機械腕で掴んだクランは、“ミシェル”を振り返った。
“ミシェル”は、屈託のない笑顔を見せた。
「俺はお前が望んだままのミシェルだよ」
グラリ。
今やラブレンは、船首を海面に向けて急降下していた。
傾斜した弾みに、クァドランが空へと放り出される。
「み…ミシェル! ミシェール!」
空中で姿勢を維持しながら、クランはラブレンを見つめた。
ラブレンは海面に激突した。白い飛沫が高く上がる。落下した地点を中心に、あの光のパターンが広がっていった。
「ミシェル……」
クランは視野がゆがむのを感じた。熱い涙が頬を濡らすが、ヘルメットを着用しているので拭えない。
「馬鹿……二度も私の前で……馬鹿……」

その後の調査で、惑星シュクールダール表面に広がる海洋は、それ自体が一個の知性体であることが判明した。
シュクールダールの海は、他知性の思考にダイレクトに割り込む。
人類はもちろん、コンピュータのような機械知性であっても、その能力を発揮する。思考に干渉し、最終的には取り込んでしまおうとする習性があった。
今は、それを防ぐ手段が無い。
幸いにして、シュクールダールの海は宇宙を移動する手段を持たない。
新統合政府は思考干渉を防ぐ手段ができるまで、惑星シュクールダールと周辺宙域の閉鎖を決定した。

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2009.11.21 
クランクランはクァドラン・ローの民生用モデルに搭乗し、二酸化炭素が多量に含まれた濃密な惑星大気の底で観察を続けていた。
「GST(銀河標準時)1815。発射が迫っている」
クァドランの光学センサーが、約30km向こうに聳え立つ塔状の構造物を画面中央に捉えている。同時に、静止衛星軌道に配置した無人観測機から見える上空からの映像も重ね合わせている。
ゼムリャー2は、標準的なサイズの地球型惑星だった。
ただし、大気中に大量の二酸化炭素と水蒸気を含んでいて、温室効果のため地上は湿気と熱気の地獄だった。
新統合政府は、将来的にテラフォーミング(惑星改造)して居住可能惑星にする計画を練っていたが、主にコストの問題から現状は無人観測網を設置するに留めていた。
クランが、この世界に降り立ったのは、圧力鍋の中のような世界で生息している生物を観察するためだ。
「ビックバレルに変化。液体酸素の注入が終わったらしい。センサーが拾っている振動が0に近くなった……点火を確認」
遠目には聳え立つ木製の塔に見えるビッグバレル、その高さは実に100mに近い。基部から白い煙が何箇所も噴出している。
「発射」
バレルのてっぺんから、やはり木製のような色合いの紡錘形の物体が飛び出した。最初は静々と、次第にスピードを上げて陽炎で揺らめく曇り空へと駆け上っていく。
「……発射体、上空で破壊。衝撃波を確認」
白い航跡を残しながら天へかけあがった紡錘形の発射体は大気との摩擦に耐え切れず、大量の燃料とともに爆発した。白い煙の花が咲き、大きな破片が燃えながら飛び散る。

クランが観察していたのは生体ロケットとも言うべき植物『ボストーク』だ。
銀河系の核恒星系から延びる射手座渦状腕に沿って分布していて、宇宙空間を漂流する種子をばら撒いている。
地球型惑星の地表に定着した種子は、光合成、化学合成など複数の手段を用いて芽吹き、成長する。
成長の過程で栄養分を生産し、蓄積する葉、種子を打ち上げるビッグバレル(巨大砲身)、打ち上げ燃料となる炭化水素系燃料を生み出す藻類を繁殖させる養殖池などに分化していく。
分化した器官の中には、宇宙空間に出た種子を加速する巨大なレーザー発振器さえもある。
十分に発育したボストークは、小さな町程度の面積に成長する。
ただ、ボストークの原産惑星は、ゼムリャー2に比べて大気が希薄だったようだ。打ち上げられる種子ロケットは、ゼムリャー2では大気との摩擦に耐え切れず、宇宙空間に出る前に破壊されてしまう。

「……」
何万年と繰り返されるボストークの試行錯誤を思って、クランはしばし異境の薄緑色に染まった空を見上げていた。
いつか、もっと強固な外殻を供えた種子が、打ち上げ時の燃焼をより精密に制御できるようになるまで、ボストークが宇宙に帰れる日は来ない。

彼等には人間のような形での知性は無い。バジュラのようなネットワーク知性とも異なる。
地球産の植物の中には、視覚が無いにも関わらず、受粉のため雄蕊をある種の昆虫の雌に擬態させるものもいる。
神経器官に依存しないタイプの知的行動が、生体宇宙基地と呼べるボストーク全体を統べていた。

「これより帰投する」
クァドラン・ローは衛星軌道まで上昇した。

静止衛星軌道で待機していた母船はゼントラーディ仕様の長距離偵察艇を改造した観測船ダンデライオン4930だ。
異星生物学の学位を持っているクランは、新統合政府運輸通信省の委託で、異星生態系無人定点観測拠点を巡回し、収集されたデータの検証を行っていた。
人手が圧倒的に足りないため、単独航行の単調な任務だったが、ゼムリャー2が終われば、惑星フロンティアに戻れる。
クァドランから降りてブリッジに行くと、メッセージが入っていた。
差出人は直接の上司だ。
「シュークルダールで……?」
他星系の有人観測拠点で異常が発生したらしい。
クランが最寄りの場所に居るため、フロンティアに帰還する途中で寄って様子を見て欲しいとの依頼だった。
メッセージに添付されていたレポートによると、シュクールダールに設置された有人観測拠点と連絡が途絶したというものだった。
奇妙なのは、観測拠点のメインコンピュータから送信される定時通信では異状無しと報せてきている事だ。
しかし、肝心の観測員とは連絡が取れない状態が24時間以上続いている。
危険も予想されるので、外部から観察するだけでもかまわない。
事態究明の為に、新統合軍が艦艇を派遣しているが到着は2日先になる。
一方、クランが急行すれば、36時間の行程。半日ほど先行できる。
クランは少し考えた。依頼を断ってフロンティアに帰還しても咎められない。
しかし、船乗りのモラルに従って、シュクールダールに行くことにした。
「了解……と」
クランは返信すると、ダンデライオン4930をフォールドさせる準備に取り掛かった。

シュクールダール、フランス語で飴細工の名前を持つ地球型惑星は、まるでデコレーションケーキのような外見だった。
白い大地と、鮮やかに青い海洋。植物は透明感のある緑色。全体に彩度が高い色彩が、衛星軌道上からも確認できる。
プロトカルチャーの影響を受けていない、独自の生態系を持つ惑星で、将来的な植民の可能性を探るために有人探査基地が設置されていた。

クァドラン・ローに乗って、大気圏内を飛行するクラン。
目指す拠点を目視で確認。
高空で浮遊する白く巨大な双胴飛行船だった。
メテオラ級観測船『ラブレン』、全長1200m、全幅200m、全高100m。
反応炉で暖めた大気を気嚢に詰め込んだ飛行船で、惑星の大気圏内では、ほぼ無限の航続距離を持つ。
気嚢を折りたためば宇宙船としてフォールド航行も可能。
生態圏が確認された惑星では、環境に与える負荷を可能な限り少なくするために、このタイプの観測船を基地として活用していた。
まるで絵の具を溶いたように鮮やかな青の海面に、光の筋が走った。
反射的にクランは周囲を警戒したが、危険な兆候は見られない。
海面に浮かび上がった光のパターンは同心円や放射状の直線が組み合わされていて、まるで集積回路のように見える。
(シュクールダール特有の自然現象なのだろうか?)
クランは気を取り直して、ラブレンに通信を試みた。
「こちら、クランクラン。新統合政府の依頼で、貴船と乗員の安否を確認に来た。誰か居ないか?」
クランはスピーカーの伝える音に耳を澄ませた。
“こちら、ラブレン・コントロール。クランクラン、あなたの来訪を歓迎します”
すぐに返事が来たが、音声は人工のものだった。おそらくはラブレンをコントロールする人工知能が応答したのだろう。
「ラブレン・コントロール、乗員の消息は? 誰でも良い、直接しゃべりたいのだが」
“乗員は全員健在です。しかし、多忙のため、手が離せません”
「こちらは待ってもかまわないぞ。どれぐらい待てば手が空く?」
“……”
人工知能が返事をしない。明らかにおかしい。
「そちらへ行く」
“歓迎します”
今度は人工知能が反応した。
ラブレンの飛行甲板へ、慎重にアプローチする。

「人の気配が……」
パイロットスーツ姿のクランは、ヘルメットを着用したままクァドラン・ローから降り立ち、周囲を見渡した。
民生用のVF-11や、ティルトローター機が並んでいる。いずれもマイクローンサイズだった。
クランはクァドランの物入れから護身用の拳銃を取り出す。
スーツの腰につけた環境センサーは、何の異常も検知していない。酸素分圧の低下も、有害なガスも、細菌類も無い。
「誰か!」
スーツに内蔵されたスピーカーを使って叫んでみたが、応えは無かった。
格納庫の隅にある端末にアクセスする。
端末はすぐに反応した。
「乗組員の所在を」
クランの音声コマンドを受け、ラブレンの見取り図と乗員の姿を示した光点を重ねて表示する。
「全員居る筈……なんだな」
船内はマイクローン規格なので、この姿のまま探し回るわけには行かない。
クランは再びクァドランの物入れを覗き込み、直径30センチほどの球体を5個取り出した。
スイッチを入れて起動させると、球体は浮かび上がった。
狭所探索用のプローブだ。これで、内部の通路を撮影する。
「よし、いけるぞ……」
プローブの一つが、この船のブリッジに接近する。
端末の表示によれば、乗組員二人がそこにいるはずだ。
「むっ!」
ブリッジに入って、周囲を撮影するプローブ。
パイロットスーツのバイザーに表示させた画像に、クランは驚いた。
誰も居ない。
誰かが居た形跡はある。
飲みかけのコーヒーカップが、コンソールの上にあった。
プローブが中を覗き込むと、干からびた褐色の物質が底にこびり付いているのが判る。おそらくは、水分が蒸発したコーヒーの成れの果て。
椅子にブラケットがかけてあった。
「誰か居ないのか?」
乗員が居る筈の場所、全てを確認したが、誰も居なかった。そこに居た形跡は残っている。
眠っていた形跡のあるベッド。
出しっぱなしのシャワー。
争った様子はない。ごく平穏な業務をこなしていたのだろう。
まるで、乗員だけが消えてしまったかのようだ。
「これは…ケアドウル・マグドミラ222333だな」
ゼントラーディの間で語り継がれている怪談めいた話を思い出した。
宇宙を漂流していた友軍艦を捜索したところ、ついさっきまで乗組員が居た形跡があるのに、全員が消えてしまっていたという話だ。宇宙服も艦載機も定数が揃っていて、エアロックも使用した形跡は無い。どうやって乗組員が消えたのか、今もって謎とされる。
地球人ならマリー・セレステ号の事件を思い出すだろう。
クランは拳銃のグリップを握りなおした。

(続く)

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2009.08.11 
ミハエル・ブランの病室に、医師、看護師が集まっていた。
クランは固唾を飲んで医師の処置を見守った。
看護師がミシェルの目から包帯を取り去ると、医師が呼びかけた。
「ブランさん、見えますか? 指を何本立ててますか?」
「2本…」
「これは」
「5本です」
「結構です。今から、視力と色覚を測定する機械を目に当てます。眩しい光が出ますが、目を閉じないように、視線を動かさないようにお願いします」
医師は双眼鏡のような形の機械をミシェルの目に当てた。
「視力は左右1.0、色覚は弱いですね。今後、徐々に回復していくと思います。体力が戻ったら、精密検査をしますので、お大事に」
医師と看護師は器具を片づけて病室を出た。

アイランド1に侵入した第2形態バジュラ群との戦闘で、クランを守って重傷を負ったミシェルは、奇跡的に救助されていた。
しかし、バジュラとの戦闘による創傷、流血によるショック症状、バジュラの体液を浴びたことによる感染症、真空被曝、宇宙線被曝、いずれを取っても即死してもおかしくないほどのダメージを身体に与えている。
救助された時は四肢の先端が壊死し、視覚・聴覚・嗅覚・味覚を失っていた。
病院に収容された当初は、意思の疎通さえも不自由だったので、医療用インプラントを脳に埋め込んでコミュニケーションをとっていた。
長い時間をかけて器官の再生、移植を繰り返し、ようやく視力を取り戻すところにまで至った。

スイッチを操作してベッドの高さを調節し、上半身を起こしたミシェルはしわがれた声で言った。
「やあ、クラン
クランは、幼い息子の手を引いてベッドに駆け寄った。ミシェルの頬に手を当てる。
「見えるのか、見えるのかっ、ミシェル?」
「ああ、よく見える……クランが相変わらず美人なのもよく見える」
ミシェルは手をのばして、クランの顔に触れた。視覚を奪われていた間、触れることでクランを確かめていたように指を這わせ、触覚と視覚のギャップを埋めるように見つめている。
「こいつ、その調子でナースも口説いていたんだろう。懲りない奴だ」
クランは目に涙をためながらも、笑顔を見せた。
「いつも世話になっているから、お愛想ぐらい言ってもバチは当たらないだろ」
笑ってみせるミシェルの顔は、左頬から頭にかけて大きな放射線焼けのケロイドが残っている。いずれは手術で消す予定だが、まだ他に優先しなければならない重要な器官が残っている。
「ミシェル、この子の顔も見てやってくれ」
クランは4歳になる息子・ガンツァを抱き上げた。
ガンツァがミシェルを見る目には、怯えが含まれていた。目を開いた父親の顔を見るのは、今日が初めてだった。
「ガンツァか……髪は青か。目は……緑、か? でもクランの目の色に近いな」
驚かさないように、ゆっくりと息子の頬に指を触れさせた。柔らかい幼児の肌に目を細める。
「ほら、ミシェルに抱っこしてもらうんだ」
クランが息子をミシェルに抱かせる。ミシェルの腕の中で、ガンツァは一瞬体を硬くしたが、幼いなりに血のつながりを感じたのか、そっと体を預けた。
ためらいがちに話しかける。
「お、おとうさん?」
「ああ。お前のお父さんだよ」

ガンツァはゼントラーディ語で戦利品を意味する。
現在でもミシェルの体は正常な性交はできない。
クランの強い希望で、ためらうミシェルを説得し、体細胞から生殖細胞を作り、体外受精で授かった子供だった。
人工子宮での出産もできたが、受精卵はクランの胎内に納められ自然分娩で誕生した。
生存という激しい闘争の末に、ミシェルとクランがようやくの思いで勝ち取った宝だ。

「お前、色が判るのか?」
クランは少し驚いた。先ほどの診断では、色覚は回復していないと言われたのだ。視力も10を超えていたものが、1.0にまで落ちている。
「世の中はモノトーンだ……でも、お前の髪と瞳の色を忘れるわけはないだろ」
「ミシェル…」
クランはベッドにこしかけ、ガンツァの体を間にはさんで、強く抱き合った。

しばらくしてから、アルトシェリルが子供を連れて見舞いにきた。
「お前、老けたなぁ」
ミシェルの言葉にアルトは苦笑した。
「のっけからそれかよ」
シェリルは綺麗になった。昔い……いや、前と変わらず」
ミシェルは傍らのクランを意識して、言葉を濁す。
クランの眉毛がピクリと動いたが、この場では突っ込まないことにしたようだ。
「ふふっ、目が開いたら、以前と同じ調子なんだから。見えなかった間は、ナースをどうやって口説いていたの?」
シェリルの質問にミシェルはウィンクを一つした。
「主に声を誉めてたな。あとはシャンプーの香りとか。職業柄、香水は付けない人たちだか…ら……」
クランの眉がピクピクと反応している。
「ああ、口説いてたんじゃなくて、お愛想、お世辞だって」
クランに向かって弁解するミシェル。
アルトは、その様子をニヤニヤと見ながら5歳になった男女の双子・悟郎とメロディに言った。
「さあ、ミシェルおじさんに挨拶してこい」
“おじさん”の発音を、少しばかり強調した。
二人は声をそろえてミシェルに挨拶した。
「こんにちは、ミシェルおじさん。お加減はいかがですか?」
「こんにちは。今日は皆の顔が見れたおかげて、気分が良いよ。できれば、おじさんを外してくれると、もっと気分が良くなる」
ニッコリ笑ったミシェルは、アルトシェリルの方を向いた。
「悟郎がシェリル似で、メロディはアルト似なんだな。話は聞いていたけど」
「ええ、そうよ。性格はね、外見と反対かも」
シェリルとミシェルが話している横で、アルトはガンツァ、悟郎、メロディに折り紙を渡した。折り鶴の作り方を実演し、子供達も真似して折り始める。
「そうだ、ルカ君、地球から帰ってくるみたいよ。もう立派なエグゼクティブになっているわ」
シェリルの話す友人たちの消息に、ミシェルは流れた時間を実感した。
「それは見たいな。あのルカがね」
「ランカちゃんはゾラで公演。これから、みんなにミシェルの事を伝えようと思うんだけど、何か付け加えたいことある?」
「そうだな……最近、ようやく摂食機能が回復したから、土産で美味いもの持ってきてくれると嬉しい」
「判ったわ」
「早く回復しないとな、倅とキャッチボールもしたい」
子供たちは、でき上がった折り鶴を糸に通して、すでにベッドの横に吊るしてある千羽鶴に新しい仲間を付け加えた。

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2008.08.26 
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2008.07.08 
惑星キムリ5近傍宙域での戦闘は苛烈を極めていた。
バジュラと新統合軍、双方の戦力が混淆して戦う様は魔女の大釜と呼ぶに相応しい。
SMSに所属する戦力も小隊さえ維持できないほどの乱戦に陥っていた。
「くそっ……スカル1、どこですかっ?」
ミシェルはコックピットで叫んだが、濃密な戦闘ノイズに阻まれてオズマとの通信さえ確保できない。
小型のバジュラがミシェル機後方に貼りついた、という警報が鳴る。
「くっ」
直ちに急旋回して振り切ろうとするが、高い運動性能を持つ小型バジュラは、なかなか振り切れない。
果てしなく続くかと思われた回避運動は、突然終わりを告げた。
「大丈夫か、ミシェル!」
真紅のクァドラン・レアが小型バジュラを撃墜した。
「サンキュー、クラン。ネネやララミアは?」
「はぐれた。小隊長失格だ」
ミシェルは、クランクランが歯を食いしばっている表情が目に浮かんだ。
「いや、こっちもスカル1とはぐれた。この状況じゃ……一旦建て直さないと」
と言っている間に、クァドラン・レアの後方から迫る新たな敵影。
クラン!」
クァドラン・レアと、ミシェルのVF-25は散開。敵はクァドラン・レアを追った。
「二本角か…」
新たな敵は、赤い外殻に四本の腕・二本の脚・尻尾を持つバジュラだが、最近になって登場した新型だった。背中に背負っているビーム砲が2門あるところから、通称・二本角と呼ばれている。
クァドラン・レアは巧みに回避しているが、大型の割に反応速度の速い二本角を撃退するのは難しそうだ。
ミシェルは二本角の後方についた。照準を合わせようとするが、敵は乱数加速で的を絞らせない。
クランからの通信が入った。
「ミシェル。合図したら2秒だけ慣性飛行する」
それだけでミシェルにはクランの作戦が伝わった。
慣性飛行は軌道を単純な等速運動にする。二本角が狙いを付けるために主砲にエネルギーをチャージする瞬間、二本角もまた極端な加速は行えない。
クランを囮に、ミシェルのロングレンジライフルで撃破しようと言うのだ。
「1秒でかまわない」
その程度の自信はあった。
何よりクランを危険にさらす時間を短縮したかった。
「ふっ、外したら、オマエのハズかしい秘密をアルトにばらしてやる」
「ガキの頃をネタに脅すのは止めろっての」
馬鹿話をしているようで、二人の機体は15Gを超える加速で軌道を変更していた。
「いくぞ、3、2、1」
クァドラン・レアが一瞬、加減速を停止した。
追う二本角。背負っている2門の主砲がエネルギーチャージの電光を放つ。
ミシェルのスコープがロックのサインを表示した瞬間、ためらわずに発砲。
同時にいくつかのことが起こった。
二本角のチャージが予想よりも早く、発砲。強力なビームがクラン機を掠めた。
スピン状態に陥るクラン機。
ミシェルのライフル弾は二本角の航宙器官を射抜いた。二本角も姿勢を制御できなくなる。
そして、二本角は後方についたミシェル機に向かってミサイルを発射。
追尾タイプではなくて、破片を撒き散らし濃密な爆散同心円で標的を包み込むタイプだった。
ミシェルは最も破片が濃密な部分は回避したものの、いくつかが機体に命中。
やはり姿勢制御が不可能になった。
クラン・二本角・ミシェルの三者は、惑星キムリ5の重力に引かれて落ちてゆく。

ミシェルはVF-25に揚力を生み出す翼があって良かったと心の底から思った。
推進機関にダメージを受けたクァドランが、かろうじて姿勢を制御しながら大気圏突入した時に、VF-25の優れた空力特性のおかげで追尾することができた。
ガウォーク形態のVF-25を操りながら、不時着したクラン機の近くへと舞い降りる。こちらもノズルにダメージを受けているので、騙し騙しの操縦だ。
「クラン!」
通信機に呼びかけると応答があった。
「泣くなミシェル」
キムリ5の地表に仰向けでハードランディングしたクァドラン・レアのメイン・ハッチが開いた。スーツを身につけたクランが顔を出す。
「泣いてないってーの。とりあえず無事で良かった……機体の状況は?」
「酷いものだ。かろうじて着陸できたが、推進剤は使い果たしているし、エンジンも出力が6割減だ。この惑星の第一宇宙速度にも到達できない」
「こっちも似たようなもんだ。エンジン自体は無事だが、ノズルが破壊され、推進剤が漏れてる。キムリ5からの自力脱出は無理だな」
VF-25は辛うじて自立しているが、飛び立つのは難しい状態だ。
「バジュラは?」
「判らない。しかし、大気圏突入で燃え尽きているわけではなさそうだ」
「ふむ。最悪の事態を想定しておいた方がよさそうだな」
「ああ」
二人ともバジュラのタフさを知っている。高度な神経系が無いため、基幹部にダメージを負っても平気で攻撃してくる。生物的な表現を用いると、痛覚が極端に鈍い。
ミシェルは自分の状況を再度チェックした。

キムリ5の大きさは火星ほど。
二酸化炭素が主成分の大気を持っているが気圧は地表面で地球大気の10分の1と低い。
惑星表面は酸化銅が豊富で青、緑、黒、藍など、カラフルに染め分けられている。

「武装は……ライフルが残弾10発。ミサイルは射耗。あとはサバイバルキットの拳銃と自動小銃か」
ミシェルが装備の状態を報告すると、クランも残された物を読み上げた。
「両腕に残弾が3000発。だが、機体の脚が着陸時に破損して、射界が著しく狭められている。ミサイルは、こちらも射耗している」
その時、ミシェルの機体に備わっている振動センサーが反応した。
「これは?」
「どうした、ミシェル」
「センサーが振動を拾っている。人間には感知できないレベルだが」
本来、機体の異常を検知するためのセンサーだったが、今は地面を伝わってくる振動に反応している。
「地震か? この惑星での地殻変動は極めて稀と聞いているが」
クランは首をひねった。
「いや規則正しい振動だ……これは二本角の足音?」
「方角は?」
「おおよそ南南東」
ミシェルはそちらの方角を見た。断崖がせりあがっていて、視界が遮られている。
不時着場所は浅くて広いクレーターの底だった。周囲の見通しは最悪に近い。
「ちっ、マズいな」
ミシェルは舌打ちした。
二人とも徒歩以外に、この場から移動する手段がない。
徒歩で移動すればバジュラ相手には丸腰だ。

「振動センサーによると、二本角はこちらに接近しているようだ。機体が発信した救難信号でも感知したのか……頼むぞ、クラン」
「任せておけ」
EXギアを装着したミシェルが、パイロットスーツ姿のクランの肩に乗っている。
二人は作戦を立てた。
EXギアの飛行機能で飛び上がり、バジュラの位置を確認する。可能であれば、遠隔操作でミシェル機のロングレンジライフルを使う。
ただし、キムリ5の大気は薄過ぎるので、EXギアの翼では十分な揚力が得られない。推進剤を多く使うことになる。推進剤を節約するためにクランの手で投げ上げてもらうのだ。
「私がさらに遠くを見ることができたとしたら、それは単に私が巨人の肩に乗っていたからです……か」
笑いを含んだミシェルの言葉にクランが小首をかしげた。
「何だ、それは?」
「アイザック・ニュートンの言葉だ。今の状況にぴったりだと思わないか?」
ゼントラーディ・サイズのクランは、平均的な人類の5倍のスケールだ。
「ニュートン……? それは、まあ、そうだな。用意はいいぞ」
クランは両手を組み合わせて掌を上に向けた。
ミシェルは、EXギアの翼を折り畳んだ状態で掌の上に立つ。
「クラン、お前、もうちょっと眉を整えた方がいいぞ」
「なんだと」
クランがムッとした顔になる。
「怒った方が力が出るだろ」
「こいつっ……思いっきり投げてやる。3、2、1」
クランのカウントダウンは早かった。真上に向かって両腕を振り上げる。
ミシェルは回転しながら投げ上げられた。EXギアの翼を展開して、姿勢を制御する。
「あっ!」
二本角バジュラは思いがけず近くにいた。今、まさにクレーターの縁を乗り越えようとしている。
ヘルメットに装備されている視線照準システムがバジュラを捉えた。トリガーを引くと、VF-25に無線でその動きが伝わりロングレンジライフルが残弾を速射する。
同時に二本角も外腕に装備している機関砲でミシェルを攻撃。
「ミシェルっ!」
クランの叫びが聞こえた。
機関砲弾の衝撃で意識が吹き飛ぶ。

ミシェルが意識を取り戻した時、周囲は真っ暗だった。そして暖かい物に包まれている。
「クラン……?」
「目覚めたかっ」
喜びをにじませた声が頭上から降ってきた。同時に体全体に震動が伝わる。
「俺は……どうなったんだ? ここは」
「至近弾がかすめて、EXスーツが壊れた。落下したお前を受け止めたんだが、スーツの気密も破れたので、ワタシのスーツの中にいる」
「え?」
ミシェルはクランの言葉を頭の中で繰り返した。
(クランのスーツの中?)
と言うことは……ミシェルはアンダーウェア姿でクランの豊かな乳房の間に挟まっていた。
「暑くて狭苦しいだろうが、我慢してくれ。緊急事態だった」
「あ、ああ……」
「二本角はライフル弾の直撃で撃破されたぞ」
「そ、そうか。良かった」
ミシェルの心臓の鼓動は早鐘のようだ。顔も熱くなっている。多分、赤面しているはずだ。
「クラン……お前は大丈夫なのか? 俺を入れる時にスーツを開いたんだろ?」
「心配するな。ゼントラーディは、真空被曝に耐性がある事ぐらい知っているだろう? ここは辛うじて大気があるしな。それより、お前が二酸化炭素中毒にならなくて良かった」
「助かった」
「うん……救援が早く来るといいな」
クランは何かにもたれかかっているようだ。上体が、やや上を向いている。素肌から伝わる体温が、熱く感じられるが、同時に心地よくもあった。
「できれば、アルトやオズマ以外だと良い」
クランの言葉にミシェルが首をかしげた。
「なんでだ?」
「ワタシの胸に抱かれているなんて、きっと向こう一年はからかわれ続けるだろう」
「ああ、なるほど……俺は、からかわれてもかまわない」
「そうか?」
「もうちょっと、この時間が続いても……」
そう言いかけたところで、クァドラン・レアの通信機が救難チームからの信号を拾った。
「……残念」
呟いたクランも気持ちは同じだったようだ。

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2008.06.28 
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