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(承前)

対抗演習参加部隊は、脱走艦アルゲディの進路に最も近い。
VFたちを呉に収容すると模擬弾から実弾に換装、ただちに再出撃して事態の急変に備えた。
“人質の安否について確認中です。反乱部隊は第1841独立飛行中隊、通称スローター・フォース。特殊部隊でVF-27SFと呼ばれる特別仕様の機体を装備しています。高度サイボーグ兵を中心に編成されていて、長距離単独行動が可能です。敵地に浸透し、破壊工作を担当します”
フロンティア艦隊から派遣されている情報将校ソーニー・バサク中佐が報告した。
シェリル・ノームさんの所在は不明。確認作業中です。人質として拘束しているという声明は、ブラフではない可能性があります”
『秩序の回復』作戦司令部からの命令は単純明快そのものだった。曰く、いかなる手段を以てしても、アルゲディのフォールドを阻止せよ。撃沈も許可する。
「くっ…」
再出撃したVF-25の機上でアルトは歯を食いしばった。
人質を利用した犯罪が完遂されれば、ギャラクシーの内部で他にも類似事件が起こる可能性がある。未然に防ぐためには断固たる処置が必要。
アルトにも判っていた。だが納得はできない。
シェリル!)
自分と同い年なのに、幼くして両親を奪われ、心を許していたグレイス・オコナーにも裏切られ、故郷ギャラクシー船団から捨て駒にされ、惑星ガリア4では慣れ親しんだスタッフを失い、死病に冒されていたシェリル
ようやくの思いで勝ち取った生を、ここで奪わせるわけにはいかない。
“カタナ1より、スカル4へ。えらいことになったな”
「スカル4より、カタナ1へ。何としても助けたい……シェリルはっ、こんな目に遭っちゃいけない。あいつは…あいつは……っ」
言葉に成らない思いをイサムは通信機の向こうで聞いてくれた。
不幸中の幸いで、アルゲディは従来型のフォールド機関を積んでいるため、フォールド断層の位置関係から逆算し、安全圏まで1時間程度はかかる。
“俺も後味が悪いのは嫌だねぇ。そこで、だ、こう言うのはどうだい?”
イサムが提案したのは、付近を通過するギャラクシー船団の工場艦を利用して接敵する方法だった。
“今、ざっと計算したんだが。アルゲディから見て、現在停泊している星系の主恒星と工場艦の位置が重なる。恒星輻射の影に紛れて接近できるはずだ。チャンスは20秒ほど。加速の限界性能に挑戦することになるが、どうだ”
「行くぞ、スカル4」
オズマが背中を押してくれた。
スカル小隊とカタナ小隊は、即席の協働作戦を展開することとなった。

RVF-25の機上でルカ・アンジェローニは関係情報の収集に余念がなかった。
「スカル3より、スカル4へ」
「何だスカル3」
「先輩が把握しているシェリルさんのスケジュール、教えて下さい」
「ああ、今日は午前中に慈善団体を訪問して、それから……」
ルカアルトの情報を頼りに、ギャラクシー船団のネットワークにアクセスし検索をかける。
「ありがとうございます先輩。僕なりにシェリルさんの足取りを追跡してみます。何かのヒントになるかも」
「頼むルカ

アルゲディはデネブ改級に共通の双胴船体を主恒星の光に曝していた。
“いいか、時間は17秒、角度誤差は2秒以内。ちょっとでもズレたら捕捉されるからな”
「了解。飛び出した後は?」
アルトの質問にはオズマが答えを出した。
「メインエンジンから出る噴射ガスの影に隠れる、ですな。カタナ1」
“そういうことだ、スカル1”
メインエンジンの噴射の後ろは、宇宙船にとってセンサー類の死角だ。
通常なら、他の艦と行動しているので、この死角をカバーし合っている。
今回は反乱を起こして単独行動している艦だからこそ、有効な手段だ。
もちろん、噴射される超高温のプラズマに晒されるのだから、危険な手段でもある。
“3、2、1、Go!”
イサムの合図でアルトたちは4機で緊密な密集編隊を組み、工場艦の影で加速した。
「…ぐ」
EXギアでも中和しきれない加速度がアルトの体にのしかかる。
工場艦の影を出ると、探知を免れるためエンジンを停止。
主恒星の光に紛れてアルゲディの背後に遷移する。
アルゲディ側からの反応はない。

ルカは検索結果に目を丸くした。
「なんで、こんなことに?」
言ってから、理由はすぐに思いついた。
スラムの住人を除けば、“登録されているギャラクシー市民”の中で、唯一シェリル・ノームだけがインプラントを体に埋め込んでいない為に使えるトリックだったのだ。

“スカル3より、作戦参加各部隊へ”
アルゲディの影で息を潜めていたアルトは、ルカの声に耳をそばだてた。
“人質とされたシェリル・ノームさんは無事。今、司令部に向っています”
「え?」
軍の通信回線にシェリルの声が流れた。
“シェリル・ノームです。知らない内に、ややこしいことになっているみたいだけど、私は無事よ、アルト”
“行くぜ、スカル4”
イサムの声も弾んでいた。
くびきから解き放たれた戦う翼達は、潜伏場所から躍り出てアルゲディへの攻撃を開始した。

攻撃を受けたアルゲディは、対空砲火で応戦するもののフォールドはできなかった。
最後には連合艦隊の艦砲射撃を受けて撃沈された。
反乱部隊側の生存者はゼロだった。

宇宙空母『呉』のブリーフィングルーム。
「どうしてシェリルの居場所が?」
アルトの質問にルカが笑って答えた。
「映像で検索したら、ちゃんとシェリルさんが見つかったんですよ」
「しかしギャラクシー船団内のネットワークはシェリルを探すのに随分手間取っていたみたいだったぞ。どんな魔法を使ったんだ?」
ルカは鼻の頭をかいた。
「それは、ですね…」
ギャラクシー船団のネットワークでは個人の所在を体内にインプラントしている情報チップで認識していた。
インプラントを埋め込んでいないシェリルは、例外的に所持している身分証で位置確認している。身分証は生体認証タイプのものだから、シェリル自身が持ってないと活性化しない。
反乱部隊のサイボーグ兵は、秘かに接近し、シェリルの服に小さな情報チップをくっつけておいた。
「そのチップが、シェリルさんの身分証の情報に別の情報を上書きすることで、別人ということにしてしまったんです。体内にチップを埋め込んでいる人なら、こんな簡単な手段で別人にしてしまうのは不可能だったでしょう」
「実際は存在していても、船団ネットワークの中では、消息不明になったんだな」
アルトはため息をついた。
個人認証システムが便利になり過ぎたための死角なのだろう。
「だから、政府系ではない警備会社の監視カメラの画像で検索かけたら、割と簡単に見つかりましたよ。たぶん、反乱部隊側もVIP扱いのシェリルさんを本当に拘束するより、フォールド安全圏まで脱出する間の時間を稼ぎたかっただけなんじゃないでしょうか。メインランドから外部へ連れ出すとなれば、チェックはもっと厳しくなりますし」

呉がメインランドへ帰還すると、桟橋でシェリルが出迎えた。
「お帰りなさい、アルト」
「ただいま」
衆人環視の中で、この目立つカップルは抱き合って互いの無事を喜んだ。
「お熱いねぇ」
その声に振り返ると、イサムがおどけて敬礼をした。
アルトはシェリルの腕を振りほどくと、慌てて答礼した。上官から先に敬礼されるのは軍礼則に反する。
「いやぁ、メディアで見るより実物の方がいいねぇ。シェリル・ノームさんですね。イサム・ダイソン中佐です」
イサムはアルトの顔を見てからシェリルに話しかけた。
「ダイソン中佐、お話はアルトからうかがっています。伝説の戦闘機パイロットだと」
シェリルが華やかな笑みで応えた。
「それは随分と高く評価されたもンだなぁ。あ、そうそう。サイン入りディスクありがとう。ツレも喜びます。そのお返しと言ってはナンですが、これを」
イサムが差し出したのは情報チップだった。
「中身は何かしら?」
シェリルの質問にイサムは茶目っ気たっぷりのウィンクで応えた。
「音声データ。聴いてのお楽しみ」

アルトたちがマクロス・クォーターに乗り、ギャラクシー船団を離れる日。
客室で、シェリルは携帯端末を音楽プレイヤーとして使っていた。
耳にコードレスのイヤフォンを差し込んで頬を染めている。
「何を聞いているんだ?」
「ダイソン中佐からいただいたものよ」
そういえば、あの後のどさくさで、データの中身が何であるのか聞いてなかった事をアルトは思い出した。
「内容、何だった?」
「愛の告白……何度聞いてもいいものね」
「え?」
「ほら、聞いてみなさい」
シェリルが差し出したイヤフォンを耳に入れたアルトは、自分自身の声を聞いた。
“スカル4より、カタナ1へ。何としても助けたい……シェリルはっ、こんな目に遭っちゃいけない。あいつは…あいつは……っ”
救出作戦時のフライトレコーダーから取り出したデータだ。
アルトの顔が耳まで赤くなる。
「熱烈ね。でも、これぐらい情熱的な言葉、直接聞きたいわ。ね、言って」
シェリルがアルトの首に腕をからめて引き寄せた。
アルトは唇を長い長いキスでふさいだ。


★あとがき★
翼の楽園』の続編です。
このお話の次が『贖罪』になります。

模型専門誌『モデル・グラフィックス』の今月号が、マクロスF特集でした。
普段は関心がないのですが、塗装や、機体の種類などで、ちょこちょことネタにできそうな記事が乗っていたので喜んで購入し、今回の参考にしました。

対抗演習での組み分けは少し悩みましたが、実際問題として性能比較するためには同機種同士で運用した方が現実的かと思って作中のような形になりました。
どんな組み合わせが面白いか考えはしたんですけどね。

オズマ&ブレラで『シスコン・ファイターズ』とか。
イサムアルトで『ソンナニ空ガ好キナラ降リテコナクテイイワヨs』とか。
オズマイサムで『チョイ悪オヤジs』とか。オズマが、俺はまだ20代だ、って抗議するでしょうね。

リクエスト、たくさんいただきました。ありがとうございます。
お楽しみいただけたでしょうか?

2008.11.27 


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