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バジュラ戦役の原因は、マクロス・ギャラクシー船団による謀略。
銀河系の人類社会を駆け巡ったこのニュースは、大きな衝撃を伴って受け止められた。
異星人、異類との闘争ならいざ知らず、移民船団が別の移民船団を犠牲にして銀河の覇権を握ろうとしたのだ。
“人類の敵は人類”という箴言が久しぶりにクローズアップされた。

新統合政府はSMSマクロス・クォーターからの情報を得て、ギャラクシー船団の接収解体を決定。
議会でも全会一致で承認された。
ギャラクシー船団は小国家並みの人口と戦力を誇る。接収するとなれば、これを上回る戦力の担保が必要だった。
新統合政府は必要とされる戦力を所属する植民惑星政府並びに移民船団から抽出したいと要請した。
多くの政府が要請に応じ、臨時の連合艦隊が編成された。
かくして新統合政府/新統合軍発足以来最大の作戦『秩序の回復』が発動した。

マクロス・ギャラクシー船団旗艦メインランド・第一飛行甲板。
旗艦内部に設けられた戦闘機運用施設のため、慣例で“甲板”と呼ばれているが、規模の面から考えると惑星上にあれば小規模な基地と呼んで差し支えない。
今、ここには新統合政府の版図に含まれる各地から可変戦闘機部隊が集まり、ちょっとしたエアショウの趣きだった。
ルカ・アンジェローニは、ギャラクシー艦隊からフロンティア艦隊へと譲渡されるVF-27ルシファー・1個大隊分56機のチェックをしていた。
「機体シリアルナンバー良し、エンジンシリアルナンバー良し……申告書通りですね」
一方で早乙女アルト大尉はブレラ・スターン少佐と一緒にVF-27のコクピットをのぞきこんでいた。
「中のレイアウトはあまり変わってないんだな」
アルトはシートに座って、操縦桿やスロットルを手にし、足をフットペダルに乗せた。
「だが、操縦に関してはダイレクト・コネクトによる思考コントロールが中心だ。操縦桿のようなインターフェイスは補助的なものに過ぎない」
ブレラはシートに付属している接続端子類を示して言った。
アルトは唸った。
「ダイレクト・コネクトってことは、乗ってなくても操縦できる?」
「そうだ」
「それでパイロットって言えるのか」
アルトは操縦桿を軽く動かしてみた。動力は入ってないので、機体が反応を見せるわけではないが、握った感触が固い気がした。
使用を前提にしてないので、作りが荒いのかもしれない。
「リモートコントロールで飛ばすのは、非常手段だ。通常は搭乗するのだが、この機を操縦する時の爽快感はちょっと説明できない」
淡々としたブレラの口調だが、どこか誇らしげな響きがある。
「サイボーグであるが故の利点か」
アルトブレラを見た。端正な顔立ちに表情は無い。
「代償も大きい。与えられた力が大きい故に、強制モードという形で自由意思を拘束される場合もある。その上、ギャラクシー艦隊に記憶を人質を取られているようなものだ」
アルトは眉をしかめた。
「人質?」
「サイボーグ兵は個人的な記憶を封印し、艦隊司令部に預けなければならない。除隊して、義体を民生用に換装する時に返還される」
記憶を奪われた者は、自己の存在を全面的にギャラクシー艦隊に依存するようになる。忠誠心を高める制度なのだろう。
「まるで……機械部品だな」
アルトは呻いた。
軍隊とは非情を許容する組織だ。部隊編制は、構成人員の3割が戦死しても機能するように作られている。
だが、ギャラクシー艦隊のサイボーグ兵に対する拘束は、全く別の次元だった。
「確かに効率は良いのだろうが……銀河に情報の帝国を作り出そうと発想は、そういう部分から生み出されたんだな」
ため息交じりにアルトが呟いた言葉に、ブレラが頷いた。
「ああ。記憶を取り戻してみて、本当にそう思う」
ブレラは相変わらず無表情だったが、ずらりと並んだVF-27の列を眺めている横顔は胸の中に去来する様々な思いを抑えているように見えた。
「アルト、こっちへ来い。もっと先鋭的な機体がある」

ブレラの案内で格納庫に足を踏み入れたアルト。
そこにあるVF-27は、確かに通常の機体とは異なっていた。
「コクピットが無い?」
通常、コクピットがあるべき場所に、それらしい膨らみが無かった。
「無人機か?」
「いや」
ブレラは機体の後方へとアルトを誘った。
タラップを踏んで機体上面へ上がる。
左右のメインエンジンの間に頑丈そうなハッチが開いていた。その中には、何か複雑な形状の物体をはめ込むソケットがあった。
「これは?」
「プラグインシステム」
通常、プラグインと呼ばれるのはコンピュータソフトに後から追加される補助的なソフトウェアのことだ。
この場合は、機体へ本当に差し込まれるプラグ(栓)のような形状の物体があるのだろう。
「おい、まさか……脳ミソを、ここに?」
「そうだ」
ブレラは頷いた。
脳髄を最低限の生命維持システムがセットされたカプセルに封入し、そのカプセルをこの開口部に差し込む。
「人型のサイボーグボディも無駄、という設計思想か」
「YF-27J、通称ジェイムスン型」
ブレラは機体から飛び降りた。
生身よりは耐性の高いサイボーグボディとは言え、過大な加速度に晒されれば損傷は免れないし、脳や一部の臓器は生身だ。慣性制御システムで保護する必要がある。
この機体は、それをさらに一歩進めて脳髄だけを機体に組み込む。保護用の慣性制御装置に使用するエネルギーを節約し、被弾する確率を低下させようとの観点だ。
「この機体と対抗演習をやったことがある。VF-27でな。キルレシオ、1対2で負けた」
YF-27Jを1機撃墜するのに通常型VF-27が2機撃墜されるという比率だ。
アルトはぞっとした。VF-27にでさえ分が悪いのに、こんな機体と戦うはめになればどうなるだろう。
YF-27Jを作り上げるギャラクシー船団の思想がそれ以上に恐ろしかった。
(シェリル、お前の故郷はこんな場所だったんだな)
華やかなギャラクシー船団が抱える暗部、スラム街とは反対の方向に暴走した結果がここにある。
アルトは疑問を抱いた。
「でも、そうなるとパイロットはどうするんだ? 形がどうだろうと人間である以上、24時間服務するわけにもいかないだろう?」
「セカンド・ギャラクシーで休暇を過ごすことになる」
「セカンド?」
「仮想空間だ。現実空間のギャラクシーにある娯楽サービスのほとんどが利用可能だ。場合によっては現実以上のサービスも利用できる」
「ったく……ギャラクシーって所は」
アルトは空を見上げた。
フロンティア船団の天蓋は高度2000mだったが、収容効率を優先するギャラクシーの空はもっと低い。目測で30mほどか。
好きになれそうにない。

オズマ・リー少佐は第一飛行甲板の駐機スペースを散歩していた。
根っからのバルキリー好きの彼にとって、エアショウ並みに様々な機体がズラリと一望できる絶好の機会だ。
「ん?」
マクロス7船団のマークをつけた機体が1個小隊4機並んでいた。
VF-22SシュトゥルムフォーゲルⅡだ。
ゼントラーディ系列のパワードスーツ技術を取り入れていて、バトロイド形態での戦闘能力の高さには定評がある。
「おお」
オズマが軍のパイロットとしてVF-171ナイトメアプラスの初期量産機を操縦していた頃に、憧れの高性能機だった。現在でも地道なアップデートを続けて、第一線で活躍している。
尾翼に書き込まれた部隊記号はガーネットフォース。
「シュトゥルムフォーゲルⅡはお好き?」
右手から声がかかった。
振り向くと、ブルネットの美女が機体にもたれかかっていた。制服はマクロス7艦隊、階級章は大尉、胸元にバルキリー徽章を付けているパイロット有資格者だ。
「ああ、好きな機体だ。あいにく、操縦桿を握るチャンスは無かったが」
「そう……見ないユニフォームね」
「正規軍じゃない。民間軍事プロバイダーSMS所属、オズマ・リー少佐だ」
上官と判って女性パイロットは敬礼した。
「マクロス7艦隊、ガーネットフォース所属ハンナ・ツィーグラー大尉」
オズマも答礼する。
「へえ、エトランゼ(傭兵)、なのね?」
鮮やかに赤い唇を歪めてハンナが言った。
「そういう言い方をすれば、因果な商売もロマンティックに聞こえるな」
オズマは肩を竦めた。
「何を飛ばしているの?」
「VF-25だ」
「メサイア? 今、一番ホットな機体。どう?」
北ヨーロッパ系の明るい水色の瞳がきらめいた。
「いい機体だ。EXギア・システムも熟成されきて信頼性が高くなったしな」
「へぇ、見せてもらってもいいかしら?」
「ああ、メーカーの担当者がデモンストレーションしている。FF32ブロックへ行けばいい」
「感謝します、少佐殿」
そこで、ハンナの目がオズマの後ろを見て、あら、という表情になった。
オズマが振り返ると、キャサリン・グラス中尉がコミューター(小型電気自動車)に乗って、こちらに向かってくる。
停車させると、運転席から降り、オズマとハンナに向って敬礼する。
「オズマ少佐、そろそろお時間です」
「お、そうか。では、失礼する、ツィーグラー大尉」
コミューターの助手席に乗り込むと、キャシーは車を出した。
「誰、あの人?」
「マクロス7のパイロットだ。VF-22……パイロットなりたての頃に憧れの機体だったんだ」
懐かしそうにバックミラーの中で小さくなっていく機体を見るオズマ。
怪訝な表情でキャシーの横顔へ振り向いた。
「どうした?」
「ああいうタイプ、ちょっとね」
キャシーはツィーグラー大尉が気に入らない。
「LAIのいいお客様だぜ。VF-25に興味を持ってたし」
フロンティア船団と先端企業LAIにとっては、今回はVF-25系列の売り込みにちょうど良い機会だった。ルカ・アンジェローニは抜け目なく、広報とデモンストレーションのチームも同行させていた。
サイボーグやインプラント技術を用いない在来型可変戦闘機として、苛烈なバジュラ戦役を戦い抜いたVF-25とEXギアシステムは、他移民船団から熱い視線を注がれている。
移民惑星を根拠地としている部隊と異なり、生産設備・資源・人員に制約の多い移民船団護衛部隊には独自のニーズがあった。
「営業活動ってこと?」
「ああ」
「でも、あの人の興味はオズマの方に向いてたんじゃない?」
キャシーはからかう様に言った。
「そうか? 俺も捨てたもんじゃないな」
顎に手を当てるオズマ。
「もう、真に受けないで」
キャシーは、やや乱暴にハンドルを切った。その左手薬指にエンゲージリングがきらめいている。

アルトは駐機スペースを歩き回っていて、奇妙な機体を発見した。正確には機体ではなくて、奇妙な装備と言うべきものだ。
バトロイドモードで立っているバルキリーが手に巨大サイズの日本刀のような装備を持っていた。
「なんだ、こりゃ」
機体は前進翼が特徴的なVF-19系列のものらしい。主翼のパイロン(吊り下げ架)に長大なケースらしいものが装備されていて、それが刀の鞘と思われた。
「カッコイイだろ? ん?」
目の前のバルキリーから声が降ってきた。キャノピーが開いていて、パイロットがこちらを覗きこんでいる。
「この機体は?」
「母星以外では初公開の最新鋭機VF-26マサムネ。惑星エデン、ニューエドワーズ基地所属、新撰組だ」
主翼の後縁に特徴的なだんだら模様がマーキングされている。
「まあ、見てろ」
キャノピーが閉じられると、VF-26が手に持っている刀を主翼のケース(鞘と言うべきか)にしまった。
「抜刀!」
スピーカー越しに聞こえる掛声と共に鞘が開き、刀がポップアップする。
機械腕が柄を握り締め、構えるとピンポイントバリアの光が刀身を輝かせた。
「無駄に凄い……な」
アルトは呆れて見得を切るVF-26を見上げた。
つい先日、試験機のナンバーであるYがとれたばかりの新鋭機だ。雑誌などの報道で型番と外観は発表されていたが、まさか、こんな装備も開発していたとは。
『新撰組』という部隊の名称も聞き覚えがあった。演習時に敵役を務めるアグレッサー(仮想敵)部隊としてエースパイロットばかりを集めたのだと言われている。
抜刀術の型を披露すると、また鞘に刀を納めた。
キャノピーが開いて、パイロットが降りてくる。
「無駄ってわけじゃないぜ。バトロイド同士の近接格闘戦だと、有効な装備だ」
「はあ」
「あンた、早乙女アルト大尉かい? なるほど目立つわけだ」
ヘルメットを脱いだ男性パイロット、階級章は中佐だった。褐色の髪と鋭角的な顎の線に特徴がある。
「新撰組で中佐って……イサム・ダイソン中佐?」
アルトは慌てて敬礼した。
この時代のパイロットにとっての最高の殊勲を表すロイ・フォッカー勲章を受賞6回、剥奪5回という前代未聞のレコードを持つ名物男。中年の年頃にさしかかっても、尚、どこか稚気を残した眼差し。
地上に降り立つとアルトに向けて答礼した。
「ひとつ頼みがあるんだ」
ポンと気安くアルトの肩を抱いた。
「な、何でしょうか?」
「ツレがさ、あンたの彼女のファンなのさ」
「彼女って」
「トボけなくてもいいだろ? シェリルさ。決戦の映像記録、軍の中じゃけっこう出回ってるんだぜ。ほら、お前さンが撃墜された時に“アルトー!”って彼女が叫んだだろ。イイねぇ」
「あ、あれは……」
赤面するアルト。
(この分だと、銀河中に広まってるんじゃないか!?)
今更ながら、その可能性に思い当って動揺している。
「でさ、シェリルのサイン貰えないかな? ツレも歌手やってて、ローカルネットで歌ってるんだ」
「は、はいっ」
思わず承諾してしまった。
「そうかい、ありがとよ。ところで、そっちのVF-25はどうなんだい?」
「はっ、信頼できる相棒です」
「そうか、信頼できるのはVF-26もなんだが、コンバットプローブンはまだだからな」
VF-26は未だ戦闘を経験していない。実戦経験豊富な軍人たちは、戦闘による信頼性の証明コンバットプローブンを重んじてきた。。
「後で模擬戦でもどうだい? どうせ何処の部隊も腕っこきを派遣してるんだろ。やったら、みんな喜ぶぜぇ。俺の方から上にナシつけるからさ」
「ええ、ぜひお手合せ願います」
頷いてからアルトはイサム機に描かれているパーソナルマークに目を止めた。
「中佐殿」
「何だい、大尉?」
「このパーソナルマーク、炎の鳥の由来ってなんですか? 一度うかがってみたかったんですが」
赤い炎をまとったエデン原産の竜鳥が翼を広げている図柄だった。
「ああ、これは」
イサムの目が遥か彼方に向けられた。
「ダチとの思い出なんだ」
(その友人は故人なのだろう)
アルトの直観が囁いた。そしてミシェルを思い出す。
(勝ち逃げしやがって)
喪失の痛みを、最近になって漸く冷静に振り返れるようになった。
イサム・ダイソンも、同じような気持を味わったことがあるのだろうか。
VF-26についてイサムと話が盛り上がったが、アルトは疑問を口にできなかった。

(続く)


★あとがき★
なんだかANAの機内誌『翼の王国』みたいなタイトルになりました。

銀河のあちこちから、いろんなバルキリーが集まってたら面白いな、というのが発想の原点です。
以前の絵ちゃで、KUNI様からアルトイサム・ダイソン(マクロスプラスの主人公)が邂逅する話なんか面白いのでは、というアイディアを目にして、インスパイア(笑)されてみました。
シェリルが最終決戦で「アルトー!」と叫んだのが知れ渡っているというのは、ケイ氏の示唆によるものです。
お二人に感謝を捧げます。

イサムが口にした“ダチの思い出”は、幼馴染でライバルだったガルドのことを示しています。
ジュニアハイスクール時代に、巨大な竜鳥を見つけようと探検したというエピソードと、マクロスプラスのラストでYF-21が空気抵抗の限界を突破して火だるまになりながら無人機ゴーストを破壊したシーンを重ね合わせたイメージです。

VF-26の設定は、こちらのオリジナルです。

キャシーがハンナ・ツィーグラーを気に入らないのは、ハンナが美人で、尚且つパイロットな為でしょう。
これが、美人でもパイロットでなかったら、それほど気にしないのでは、と考えています。

時系列としては『帰郷』や『小さな海』の続きに当たります。

2008.11.25 


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