2ntブログ
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久しぶりにオフが揃った日の朝。
ベッドで横たわっていた早乙女アルトは、瞼に光が当たるのを感じた。
まだ重い瞼をこじ開けると、寝室の窓からカーテン越しに入ってくる日の光が見えた。良い天気になりそうだ。
傍らを見ると、シェリル・ノームは既に起きていて、仰臥したままパッドを見ていた。
パッドはA4サイズぐらいのスクリーンで、タッチパネルと音声で直感的な操作ができる情報機器だ。
アルトはベッドから抜け出して、キッチンへ行こうとしたところ、シーツの下でシェリルが素足を絡めてきた。
アルトが横目で妻を見ると、シェリルはパッドに視線を向けたまま言った。
「まだ朝食には早いわ。子供たちも寝てるし」
上半身は仰向けでパッドを持っているが、伸びやかな両足がアルトの右足を挟んで引き寄せている。
器用なことだと感心しながら、アルトシェリルに寄り添った。右腕を伸ばして抱き寄せる。
頬を寄せて、シェリルがのぞき込んでいるパッドの画面を見た。
「ベム星系…?」
ペルセウス座スパイラルアームにある星系だ。居住可能惑星は無いが、都市がいくつかある。
アルトはベム星系に関するニュースを思い出そうと、記憶を探った。
プロトカルチャーが50万年前に築いた遺跡があることで有名だった。
遺跡の発掘と観光が主要産業のはずだ。交通の便が良くないので観光地としてはあまり人気は無い。
「ふふっ」
シェリルはパッドを胸の上に置くと、アルトを見て微笑んだ。
「バカンスに、ここへ行ってみない?」
シーツの下では、シェリルの素足が膝でアルトの太ももを撫でた。
アルトが腕枕をすると、猫がそうするように頭をアルトの肩口にこすりつける。
「何か面白いものでもあるのか?」
水を向けると、シェリルはパッドを取り上げて記録していたサイトを画面に表示させた。
「ライムマスターですって」
画面に映し出されたのは、個人のブログのようだ。
ざっと斜め読みしたところ、ベム星系ではライムと呼ばれる即興詩を即興の音楽に乗せて歌い、戦っているらしい。戦うと言っても流血沙汰ではなく、より多くの聴衆の支持を集めた方がリスペクトされる、ぐらいの意味だ。
「ヒップホップみたいなものか?」
「ラップが近いわ」
シェリルはブログのページに埋め込まれた動画を再生させた。
独特のリズムと、脚韻を踏んだ言い回しのライムが流れ出した。歌手は男らしい。
ライムに別のライムがかぶさってくる。女性のものらしい声が歯切れよく、早口のライムをぶつけてくる。
次第に女の声だけが残り、オーディエンスの歓声も女に唱和してリズムを揃えている。
「へぇ、他ではあまり聴かないな」
アルトはパッドに手を伸ばして、別のページも見てみた。
「でしょ? レコーディングの時にね、スタッフの若いコに教えてもらったのよ。一部で、ちょっとブームだって」
シェリルは唇をアルトの耳に寄せた。甘い声音で囁くと、リップノイズを立てて耳にキスした。
くすぐったそうに首をすくめるアルト。
次のバカンスシーズンは、高校生になった子供たちが、それぞれの都合で惑星フロンティアを離れる。
美星学園の芸能科に入学した息子の悟郎は、プロミュージシャンとしてマクロス11船団でアルバム制作に打ち込む予定だ。
美星学園の航宙科に進んだメロディは、航宙実習で往復2週間かけて近隣の植民惑星へと向かう。
アルトとシェリルは久しぶりに夫婦水入らずで旅行するつもりだった。
「変わった旅先を見つけてきたな」
アルトはからかうように言った。
「ご不満?」
シェリルは掌でアルトの胸板を撫でた。
「いや……子供連れのバカンスじゃ行けそうにない所だし、いいんじゃないか?」
「良かった。じゃ、そのセンでプラン立ててよ」
シェリルがそこまで言った時、彼女のお腹がグーと鳴った。
「朝飯にするか。パンとご飯、どっちだ?」
アルトは名残惜しさを感じながら、シェリルの腕から抜け出す。
「今朝は、ご飯が良いわ」

2010.02.17 


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