2ntブログ
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待ち合わせのホテルのロビーで、シェリルは何度も時計を見た。
あと15分。
時間には正確なあの子のことだから、とエントランスを眺めていると、すらりとした女性士官がこちらに向かってやってくる。
シェリルが軽く手を振ると、士官は足早にやってきた。長く伸ばした真っ直ぐな黒髪が、歩みに合わせて揺れている。
「時間ぴったりね、メロディ・ノーム少尉」
メロディは敬礼をしてから、微笑んだ。白を基調とした真新しい新統合軍の制服は、あつらえたように似合っている。
「お待たせ。行きましょう、お母さん」
二人連れ立って、予約してあったレストランへと向かう。

メロディは学校を卒業後、新統合軍へ入隊。バルキリーパイロットの道を選んだ。
今夜は初めての俸給が出て、シェリルをディナーに招待していた。
本来はアルトも招待していたのだが、仕事の関係で来れなかった。

予約席は街の夜景が見える窓際のシートだった。
イブニングドレス姿のシェリルが食前酒のグラスを傾けた。
「もう乗ってるの? 最新型のバルキリー」
「ええ。今、実機で訓練しているところ。これ、見て」
メロディは軍服の胸に着けている徽章を外してシェリルに渡した。
金色のバルキリー徽章は、パイロットの有資格者であることを示している。形はバルキリーをモチーフにしたもので、発行された時点での最新型をモデルにするのが慣わしだった。
「ふぅん」
シェリルはじっくりと眺めてから、徽章をメロディーに返した。
「どう? 操縦していて」
「素直ないい子よ。人工知能も大幅に性能アップしてて、単座機でも複座みたいな感じ」
メロディーは徽章を胸元につけなおしながら言った。
「おしゃべりできるの?」
「自然言語で会話するわけじゃないから、ジョークは苦手ね。独特の機械語で意思表示するの」
「仕事、充実しているのね」
「すごく楽しいわ。お母さんの方はどう?」
「相変わらず、よ。レコーディングが終わったところで、もうしばらくしたらツアーの準備を始めるわ」
「今度は、どっちの方面?」
「エデン、地球」
「長期のツアーなのね。お父さん、寂しがるわ」
「そう?」
シェリルは片方の眉を上げた。
「お母さん、ツアーに行っている間のお父さんのこと、あまり知らないでしょ?」
「まあ、電話とかメールはするけど」
「私も悟郎も、子供の時は家で暮らしていたから、お父さんの様子が変わるのが判ったわ」
メロディは思い出しながら話す。
「時々ね、上の空になるの。考えていることが顔に出るタイプじゃないから、ぱっと見には判らないけど……お仕事が忙しい時は、打ち込んでまぎらわせているの。暇な時は、お母さんに似合う和服を考えたりしてたわ。それで、お祖父様の所に出入りしている業者さんに、染めとか、織りを発注して……」
「あれ……既製品じゃないの?」
シェリルはツアーから帰るたびにワードローブが充実していくのは判っていたが、出入りの業者に薦められ付き合いで購入した、というアルトの説明を鵜呑みにしていた。
「既製品もあるけど、一点ものも多いわ……お母さんが羨ましい」
メロディの頬が染まっているのは、食前酒のためばかりではなさそうだ。
「知らなかったわ。これで、またからかうネタができたわね。ありがとう、メロディ」
「もう、お母さんたら……ねえ、聞いていい?」
「いいわよ。何?」
そこで、コースの料理が運ばれてきて、会話は中断した。

フロンティア船団が、この星に持ち込んだ豊かな食材は今も受け継がれていて、コースに彩(いろどり)を与えていた。
コースも最後の方になり、デザートとコーヒーが出てくる頃、メロディーはかねてから聞きたかったことをシェリルに尋ねた。
「お母さん、お父さんからプレゼントされたもので、一番嬉しかったのは何?」
言われてシェリルの脳裏に、美星学園の屋上でアルトが言った言葉が浮かんだ。
(嘘はつくなよ、シェリル)
あの言葉で銀河の妖精は再び立ち上がった。どんな宝石よりも煌いていた瞬間。でも、今、それをメロディに説明して上手く伝えられるだろうか?
シェリルは少しだけ考えて、分かりやすいものを選んだ。
「そうね……アルトから初めて贈られた和服かしら。美与さんの…メロディから見てお祖母さんにあたる方ね…形見を仕立て直したものなんだけど、選んだ理由がね…」
「うん」
メロディは瞳を輝かせて、先を促した。
「アルトったら、一番最初にデートした時の服を、よーく覚えていたのよ。色味が同じだから、この髪に似合うはずだって」
シェリルは自分のストロベリーブロンドをひと房指に絡めた。
「お父さんらしい……すごく色彩のセンスが鋭いものね」
「そうね、それは認める。去年、メロディに贈った振袖……山吹色の色無地なんか、すごいって思ったもの。あんなにシンプルなのに、どこのパーティーでもメロディが一番目立って、綺麗だったわ」
嬉しそうに頷くメロディ。心の中で誓った。
(お父さんみたいなプレゼントを贈ってくれる恋人を見つけなきゃ)


★あとがき★
mittin様のリクエストにお応えしてメロディ編です。
メロディにとって、両親は理想のカップルのようです。でも、恋人の条件はハードルが高すぎると思います^^
本編はシリアスにクライマックスへ向けて驀進中です。
願わくば、こんな明るい未来が描けるエンディングであるように。

2008.08.29 


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