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「妊娠なさってます」
産婦人科医の言葉に、シェリルは静かな感動というべきものが心を満たしていくのを感じた。喜び、期待、不安、いくつもの感情がない交ぜになったものが、こみあげてくる。
「いくつか検査がありますので、次回のご予約をとっておきましょうか?」
「お願いします」
シェリルは携帯端末でスケジュールを表示させた。
「双子で、性別も既に判別可能ですが…」
シェリルは微笑んで首を横に振った。
「性別は産んだ後の楽しみにしておくわ」

シェリルが診察室から出ると、廊下で懐かしい人に会った。
「おや、珍しい所で会うな」
白衣を着た、赤毛に褐色の肌の女性。カナリア・ベルシュタインだ。
「お久しぶり。お元気そうね」
「ああ……そっちは」
シェリルは自分の腹部を撫でて見せた。
「楽しみだな、それは」
「ええ」
「経産婦の立場からアドバイスすると、他にもあるぞ。楽しみは」
「それは何?」
カナリアは、ふっと唇の端をつり上げた。
「妊娠したと報告する時と、出産に立ち会う時の男の顔は見ものだ。間抜けこの上ない」
「そういうものなの?」
「男は部外者だからな、妊娠・出産に関しては。オロオロするケースが多い」
「ふぅん」
シェリルはうろたえているアルトを想像してみた。
「それは、楽しみね」

その日の夕食はアルトが準備した。
鰆の塩焼き、ホウレン草のおひたし、味噌汁、カボチャの煮物と純和風の献立が食卓に並ぶ。
その席で、シェリルはアルトに話を切り出した。
アルト、報告したいことがあるの」
「うん」
「子供ができたの」
アルトの箸がピタリと止まった。
「そうか」
「双子よ」
アルトはちょっとの間黙ってから、味噌汁を飲んだ。
「双子……親父にも知らせてやらないと。喜ぶぞ、きっと」
アルトの顔から表情が消えていた。
今までの付き合いで驚いているらしいと判るが、シェリルは少しばかり失望した。
(もうちょっとリアクションがあると面白いんだけど)
「アルトはどうなの?」
「ど、どうって……嬉しいに決まっているじゃないか」
「見える形で表現しなさいよ」
シェリルは唇をへの字にした。
「ごちそうさま」
箸を置くと、アルトはシェリルの背後にまわって、ぎゅっと抱きしめた。
「どうしたの?」
シェリルはアルトの肩に頭をもたせかけた。
「こうしていると、お前と子供を一緒に抱きしめていることになるんだな、って」
アルトの声は優しかった。
「ちょっとっ、アルトの癖に気の利いたこと言わないでよ」
「なんでだよ」
「……こっちがビックリするじゃない」
シェリルは頭をグリグリと押し付けた。


★あとがき★
サリー様のリクエストにお応えして、お話仕立ててみました。
タイトルはMISIAのヒット曲から。

この時代、プロトカルチャーの遺産であるゼントラーディの生産システムを応用して人工子宮ぐらいはありそうですが、シェリルはV型感染症の後遺症などの理由がないかぎり、自然妊娠・出産を選びそうな気がします。

2008.08.31 


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