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リゾート艦アイランド3。気候は常夏に設定されている。
青い海と空が美しい都市型宇宙船は、シェリルのドキュメンタリー『銀河の妖精、故郷のために銃をとる』のロケ地として選ばれていた。
シェリルバルキリーの操縦に挑戦している様子を、紺碧の海原を背景に撮影しようというのだ。

「なあ、ちょっと寄り道していいか?」
VF-25Tのコクピット、タンデム配列の前席で操縦桿を握っているアルトが後席のシェリルに話しかけた。
「ええ。大丈夫よ」
この日の飛行計画は消化しているので、少しの道草は構わないだろう。シェリルは頷いた。
アルトは管制に航路の変更を申告してから、機体をガウォーク形態に変更。
マヤン島の緑濃い密林の上空をゆっくり航過した。
「何かあるの?」
シェリルは周囲を見渡した。
「右……3時方向に崖が見えるだろ?」
アルトの言葉に従って視線を動かすと断崖が見える。
「あれが?」
「ちょっと待ってろ」
アルトは高度を下げて、川のほとり、岩盤がむき出しになった部分に着陸した。
ガンカメラが捉えた動画をシェリルの座っている後席のモニターに表示させた。
「これ、さっきの絶壁ね……あ」
映像が拡大されると、崖の窪みに鳥の巣が見える。鋭いくちばしを持つ親鳥が巣にとまると、待ち構えている雛が首を伸ばして迎えた。
画像がもう一段階拡大されると、灰色の羽毛に包まれた雛の姿がはっきり見えた。大きく口を開いて餌をねだる。
「可愛い……これ、なんて言う鳥?」
「詳しくはないが、鷹だと思う。ルカが、こういうの好きなんだ。後で教えてやろうと思ってさ」
「いつ見つけたの?」
アルトはちゃんと録画されたかどうか記録を確かめながら返事した。
「バレルロールの時」
シェリルは驚いた。激しい空中機動をしている最中にあんなに小さな鳥の姿を発見したなんて。
「よし、良く撮れている……おわっ」
シェリルがキャノピーを開け、前席と後席の仕切りを乗り越えてアルトの膝の上に収まった。
「なんだよっ、後席のモニターにも表示させただろ?」
「前席のほうが見やすいの」
「どっちでも同じだ……わざわざ狭苦しい所をくぐってこなくても」
シェリルは画面をのぞいてから、キャノピー越しに断崖を眺めた。
「砂粒ほどの大きさにも見えないのに……」
「実戦だと、あれぐらいの大きさの敵から攻撃が来る」
シェリルはアルトの言葉に耳を傾けた。
「オズマ隊長が言ってた。新米パイロットに、砂粒ほどの敵が放つ殺意を感じ取らせるのが難しいって」
「アルトは……それ、感じ取れるようになったの?」
「ああ」
アルトの返事は淡々としていた。
「だから生き残っている」
その言葉の響きから、シェリルは絶対温度3度の虚無と相対しているパイロットたちの孤独を感じ取った。
ヘルメットを脱ぐと、アルトにキスした。
「なっ……お前なぁ」
「キスなんて大したことないんでしょ。何回したって、大したことないわ」
シェリルが屈託なく笑ってみせる。
(なんで、こいつの行動で毎回こんなにドキドキしなきゃならんのだ)
「さっさと後席に……」
戻れ、と続けようとして、アルトは目を細めた。
ジャングルの形作る森林線、密生した枝の作る暗がりで光るものを見つけた。
(レンズの反射?)
アルトは外部スピーカーで呼びかけた。
「誰かいるのか?」
もう一度、光った。暗がりから男が飛び出してくる。手には望遠レンズを装着したカメラを持っていた。
「パパラッチ! 今の……撮られた?!」
シェリルが声を上げた。
「たぶんな。適当なところつかまってろ」
アルトはガウォーク形態のまま緊急上昇を開始。
シェリルはアルトにしがみついた。
パパラッチは近くの道路に止めていた小型車に乗り込む。
「シェリル、携帯見てみろ。電波は?」
「圏外だわ」
リゾート地の雰囲気を作り出すために、携帯端末は通常、市街地と特定の建物内をのぞいては使用不可となっている。例外になっているのは警察やレスキューへの緊急通報で、どこからでも可能だ。
「サービス圏内に入るまでになんとかしないと」
シェリルは唇を引き結んだ。アルトとのキスは何ら後ろめたいことではないが、意図しない形でプライベートの情報がマスコミに流れるのは願い下げだ。
「スカル3、応答せよ。こちらスカル4」
スピーカーからルカの声が飛び出した。
「どうしました、アルト先輩?」
「ピンポイントECMの支援を要請!」
「ピンポイント?」
「パパラッチがシェリルの画像データを持って逃走中。これを阻止したい」
「今は……携帯端末の圏外なんですね」
ルカも地図を確認しているらしい。
パパラッチは撮影したての画像を、まだ他所に送ってはいないと思われる。その証拠に、小型車は法律違反のスピードで、市街地へ、通信端末のサービスエリアへ向かっていた。
「街に逃げ込まれる前に勝負をつけたい」
アルトの言葉に、ルカは打てば響くような返事をした。
「了解。これから、レーダーの制御ソフトを送信します。インストールしてください。使用法はロックオンして、トリガーの5番。レーダーを使って、人体に影響の出ない程度の指向性電磁パルスを撃ち出します。これで敵の通信機器が潰せるはずです」
「了解」
バルキリー機載コンピュータにルカからのデータ通信が入った。瞬時にインストールが終了。
「ね、アルト……私にさせて」
シェリルが言った。
「よし」
シェリルの手を取り、操縦桿を握らせた。その上からアルトの手が包む。
「いくぞ。トリガーはこのボタン」
「イエス・サー」
アルトの視線照準で小型車をロックオン。前後に他車両がいないのを確認。
「いけっ」
シェリルの指がボタンを押し込んだ。
小型車のスピードがガクンと落ちる。フラフラになって路肩に停車した。車載コンピュータが電磁パルスで破壊されたらしい。
運転席のドアが開くと、パパラッチがカメラを振り回して飛び出した。何か怒鳴っているようだ。
「あ」
シェリルが小さく声を上げた。
カメラから煙が立ち上っている。
「ビンゴ」
アルトが親指を立てた。シェリルもサムアップサインで応える。
「帰るか」
「ええ」
VF-25Tは帰路に就いた。

アルトは、シェリルから紹介されたカメラマンを、どこかで見たような気がすると思った。
「今度、スタッフに加わったの」
「おい、あいつは…」
シェリルはにっこり笑った。
「この前のパパラッチ。雇ってあげたの……もちろん、きちんと契約書にサインして、ね」
「口封じ……というわけか」
「そんな怖い言い方しないの。スマートなビジネスよ」
シェリルは指で拳銃の形を作った。
「契約違反したら、心おきなく社会的に抹殺してあげられるわ」


★あとがき★
おかげさまで、拍手が300を突破しました。
次にメッセージいただいた方、先着一名様に限り、ご希望のネタでお話を書いてみます。連絡先を添えて、ご応募ください。

電磁パルス攻撃、マクロス・ギャラクシー船団だと使えないテクニックだなーと思いました。
きっとインプラントした通信機器がイカれてしまいます。

★おまけ・ルカの日記★
アルト先輩とシェリルさんがパパラッチに撮影されるようなことをしていたらしい。
やるなぁ。

2008.07.20 


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