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ルカは病院のベッドで目覚めた。
(生きている)
その感慨は喜びをもたらさずに、悔しさと焦燥感をもたらした。
(役に立てなかった……)
乗機を撃墜され宇宙空間に投げ出されたシェリルとミシェルを助けようとして、自分もバジュラに包囲されてしまった。
アルトが駆け付けなかったらルカも撃墜されていただろう。
その後の再出撃でも被弾して後退する羽目になった。
これでどうしてナナセの前に顔を出せるだろう?
これから、どうやって大切な人を守れるだろう?

退院してからのルカは、戦績の分析とシミュレーターによる訓練に没頭した。
(僕がオズマ隊長の境地に達するまで、どれぐらいかかるんだろう?)
オズマの強みは、豊富な実戦経験と予測の正確さだった。重いアーマードパックを装備していながら機体に振り回されないのは、常に十手ぐらいを先読みして操縦しているからだ。
ミシェル先輩、やっぱり凄いや)
アウトレンジ攻撃で優位に立つこともできるし、かといってドッグファイトが苦手なわけではない。制空任務も邀撃任務も、攻撃任務もこなせる万能型のパイロットだ。
アルト先輩も、タイプは違うけど)
典型的なアタッカータイプ。操縦の技量ではミシェルに僅かに遅れをとるが、状況が膠着しかけた時の突破力が素晴らしい。ミシェルでさえ二の足を踏むような時でも、果敢に攻撃する。
一言で言えば、自らが不利な時ほど攻撃的になる。直感的に戦闘における主導権の大切さを知っているにちがいない。
(僕はどんなタイプなんだろう)
今まで散々言われてきた。
ベテラン・テストパイロット並みの正確な操縦。
機体の限界まで性能を引き出せる。
ルカが機体を扱うとカタログスペックの二割増になると整備班に褒めてもらった。
(でも、闘志を評価されたことなんてない)
アルトの戦績を分析していると、自分に足りないのはそこだと思う。多少の性能差なんかより、強い意志が勝利を引き寄せる。主導権を奪えるほどの猛々しさ。

アルト先輩、シミュレーション付き合ってもらえませんか?」
「ああ、いいぞ……でも大丈夫か?」
アルトルカの顔をのぞきこんだ。
ルカの少年らしいふっくらした頬が削げている。
「大丈夫ですよ。こんな状況ですから、僕だって…」
「わかった。付き合おう」
条件は、共にノーマルのVF-25を使用。設定された宙域に反対方向から同じ加速度・相対速度で進入する反航同位戦の三本勝負。
「オラオラァ!」
アルトの攻撃は容赦無かった。
「うわぁ!」
(先輩の行動パターンは分析済みのはずなのに)
統計的に最もアルトが選択しやすい軌道をディスプレイに表示させているのだが、予測軌道が全くと言っていいほど的中しない。
(役立たず!)
ルカは心の中で罵りながら刻々と変化する予測を非表示にした。
アラートが鳴り響き、ルカが撃墜判定を受けた。
「くそっ!」
三本勝負で、ルカは一度もアルト機に勝てなかった。ルカの攻撃は、かすりさえしなかった。
シミュレーターの通信機を介してアルトが提案した。
「ルカ、次はいつも通りの装備でどうだ?」
「やらせてください!」
アルトはスーパーパック装備のVF-25に変更。
ルカはRVF-25と随伴無人機が3機。
指定宙域へ互いに反対側から同じ加速度・相対速度で進入する反航同位戦は変化なし。
(今度こそ!)
ルカは優位にある電子戦装備をフルに活用するつもりだ。シモン、ヨハネ、ペテロと命名されたゴースト3機の連携攻撃なら、簡単に撃墜されはしない。
ルカはRVF-25をステルスモードにした。ゴーストをデコイモードへ変更。これで、アルト機のレーダーには、ルカ機が3機に見えているはず。
「行きますよ、先輩!」
だが、アルト機は全く迷わなかった。見えないはずのルカ機に向かって、一直線に迫る。
「どうして?!」
ゴーストの連携に1~2発被弾しながらも、ものともせずにルカ機を射程に捉えた。
ルカ機も狙いを定め発砲。
その射線をかいくぐり、アルト機はマイクロミサイルを発射。
追尾するミサイルをかわしながら、ゴーストに攻撃させる。
アルト機が強い赤外線放射に包まれる。
(撃墜!)
しかし、それはアルト機から分離したスーパーパックが爆発したに過ぎなかった。
アルトが発砲。
ルカ機は撃墜判定を受けた。

シミュレーターから出ると、アルトはルカの質問攻めにあった。
「どうして…どうして僕の座標が判ったんです?」
「ああ、なんとなくな」
「なんとなくっ? そんな、理由があるはずでしょう?」
アルトは首をひねった。
「そうだな……こーゆーのはミシェルの方が教えるの上手いと思うんだが」
「僕はアルト先輩みたいになりたいんです」
「お前、びっくりするだろ、そんな事、突然言われたら」
力説されてアルトは頬を赤くした。
「先輩みたいに戦えたら……」
「馬鹿、俺みたいなのが二人いたら、オズマ隊長の寿命が縮んじまうぜ。お前は、お前らしくやれよ」
「でも……今までの僕じゃダメなんです。もっと、戦えるようにならないと大切なものを守れないんです」
「そうか」
迷いを抱えながら戦うのは自殺行為に等しい、とアルトは思った。
「じゃあ、カナリア中尉に稽古つけてもらえ」
「え? 稽古って、ジュードーの?」
「そうだ。すごく参考になるぞ」

SMSのジム、その一画に競技用の畳が敷き詰められていた。
「よし、ここで休憩を入れよう」
カナリアは投げ飛ばされてノビているルカの肩をポンと叩いた。
「あ、ありがとうございました」
フラフラと立ち上がって、礼をする。
「どうしたんだ、ルカ。ガムシャラになって」
カナリアはルカの体を医者の目で素早くチェックした。軽い打ち身をのぞけば、怪我は無い。
「実は…」
ルカは、実戦でもっと役に立てるようになりたいと打ち明けた。
「フム……どうしてバルキリー・パイロットの必須科目に柔道が取り入れられているか、知っているか?」
「それは……バトロイド形態の操縦時に重心移動が重要で、それを体感で覚えるため、ですよね」
ルカはバルキリー操縦教程の最初に習った事を思い出した。
「そうだ。バトロイド時のバルキリーは非常に運動性が高い。運動性が高いということは、重心位置が不安定である、という事と表裏一体だ」
「常に重心を意識した操縦が重要、ですね」
カナリアは出来の良い生徒を前にした教師の気分を味わった。
「では、柔道と、それまでの格闘術との違いは何だ?」
ルカは頭の中の知識を検索した。
「え、歴史の話ですか? それは……分かりません」
「それまで奥義の一つとして門外不出だった“崩し”の技法を体系化し、レッスンに取り込んだことだ」
「クズシ……相手の重心を不安定化させること、ですか?」
「そうだ。ひとつ、実験してみよう。私の前に立て」
ルカと相対すると、カナリアはルカの袖と襟を掴んだ。
「これから背負い投げをかける。投げられないように頑張れ」
「はいっ」
カナリアが素早く背負いの態勢に入るものの、ルカも重心を下げて背負われまいとする。
「分かったか? こうなっては私でも投げられない」
カナリアはルカから手を離した。
「攻撃が予測されると……対応されてしまう」
「そういうことだ」
「予測されづらい攻撃を……相手を不安定化させるために」
「ふふ、答えにたどりついたようだな」
「僕の……僕の動きは、意図が掴まれやすかったんですね」
分かってみれば、あっけないほど簡単な答えだった。そこからルカの頭の中で流麗なイメージが広がる。
「後は自分で工夫してみろ」
カナリアの言葉に、ルカは敬礼した。

「アルト先輩、シミュレーション、付き合ってください」
再戦の申し入れにアルトはニヤリと笑った。
「おう。何か思いついたか?」
「それはナイショです」
「思いついたみたいだな。だが、簡単に負けてやるわけには行かないぞ」
シミュレーションの条件は以前と同じ。
アルトはスーパーパック装備のVF-25。
ルカはRVF-25と随伴無人機が3機。
指定宙域へ互いに反対側から同じ加速度・相対速度で進入する反航同位戦。
アルトはレーダースクリーン上でルカ機の反応を捉えた。
「やけにクリアな反応だな……ジャミングしてないのか? しかも1機だけ……ゴーストはどこだ。それとも、この反応がゴーストなのか」
行けば判るとばかりに、アルトは誘いに乗った。
光学センサーがルカ機を捉えた。
「お、珍しい。本体じゃないか」
緑色のRVF-25がひたむきに迫ってくる。
まるで、中世ヨーロッパの騎士のように互いの機体は真っ向正面に相手を捉えていた。
「いくぞっ」
アルトが引き金を絞ろうとした瞬間、ルカ機がバトロイド・モードに変形。背後から3機のゴーストが展開、アルト機を追い込もうと包囲する動きを見せた。
「ちぃっ、視野角か!」
ルカはRVF-25の影に、ゴーストを隠していたのだ。
アルトも自機をバトロイドに変形。軌道を急激に変化させると、引き金を絞った。
ルカ機もゴーストと連携して発砲。
撃墜判定のブザーが鳴る。

「やるじゃないか、ルカ」
ミシェルの言葉にルカは鼻の下をこすった。
「でもアルト先輩と同時に撃墜判定ですから……そんな、まだまだです」
「不覚をとったぜ」
アルトはルカの額を軽く小突いた。
「あんな形でゴーストを隠すなんてな」
「この手は応用がききそうだ。イクリプス・フォーメーション……月食に例えたか」
ミシェルはシミュレーションの記録を閲覧しながら評価した。
「ありがとうございました」
ルカは頭を下げて礼を述べた。
「大切なもの、守れそうか?」
アルトの質問に、ルカは照れて笑った。
「まだまだですけど、成長してみせます」

後日、美星学園
ナナセさん、大事なお話があります」
ルカはキッパリとした口調でナナセに話しかけた。
「ちょうど良かった。私もルカ君に聞きたかったことがあるんです。こっちへ」
ナナセはルカの手を掴んで、人気のない美術室へ向かった。
ルカはナナセの行動にときめきながらついてゆく。
「これ、どうですか? 力作なんです」
「え、あ……ああ、素晴らしいです、ナナセさんっ!」
壁一面を占めるほど、大きな横断幕が貼りだされていた。
「これを、ランカさんのファーストライブで広げるんです。ファンクラブ活動の第一弾です」
「そっか。ファーストライブ延期になってましたもんね。早く見たいなぁ、ランカさんのステージ」
「そうですよ、ルカ君」
二人の様子を物陰から見守る三人組。
「あーあ、見事に気勢を削がれたな、ルカ」
ミシェルが肩を竦める。
「お前ら、お節介だな」
アルトが言うと、ランカが突っ込んだ。
「アルト君も一緒にのぞいているんだから共犯だね」
ルカとナナセは手を取り合って、どうやってライブを盛り上げるか、という話題で楽しそうに語っている。


★あとがき★
珍しくルカ君に着目。
14話で、バジュラに包囲されたシェリルとミシェルを助けようとして、自分もバジュラに包囲されてしまったルカを見て思いつきました。
あーゆー時は、横っ面をはたくみたいに、ゴーストを突っ込ませればいいのに。きっと操縦は上手くても、戦いの駆け引きとか、戦闘の呼吸みたいなのは不得意なのかなーと、受け取りました。

15話、歌うシェリルが久々に見れて、眼福でした。でも、OPは、まだトライアングラーだったなぁ。新OPは来週のお楽しみにとっておきます。

ちょこっと愚痴。
おのれ、fc2め。
著者の大切なモチベーションになっているブログ拍手がトラブっているなんて~(泣)!

2008.07.19 


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