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アルトシェリルの間に生まれた双子の悟郎とメロディも成人し、それぞれ独立してからは家族で食卓を囲む機会も減った。
久しぶりに、アルトシェリル、メロディの三人で夕食を共にしたある日のこと。
「報告したいことがあります」
食後のデザートを食べてから、メロディが切り出した。
アルトに似て、真っ直ぐな黒髪を長く伸ばしたメロディは、楚々とした所作で“大和なでしこ”という忘れられかけた形容がぴったりの女性に成長している。
「なぁに、改まって。彼氏でも紹介したいの?」
シェリルの言葉に、メロディは頷いた。
「お付き合いしている人がいます。結婚を考えていて……紹介したいの」
「どんな男なんだ?」
アルトは穏やかならぬ心中を隠して、平静を装った。
「彼は、会社の上司なんです。それで…」
続くメロディの説明に、アルトはあっけにとられた。
(俺と同い年だって? メロディと年の変わらない娘がいる? よりによって……)
衝撃のあまり、アルトの頭の中は真っ白になった。
「お父さん、食事でもしながら、って思うんだけど予定は?」
「あ、ああ。スケジュール確認しないと……今度返事する」
ようやくのことで、それだけを言うと、食堂を出て寝室に閉じこもった。
「お母さん……お父さん、怒っているの?」
メロディは不安そうにシェリルを見た。
「心配しなくていいわ」
「でも…」
「ちょっとショックを受けているだけよ。意外性が有り過ぎで。ひとつだけ、聞いておきたいのだけど」
シェリルはメロディの目を見た。
「年の差から考えて、いずれメロディが未亡人になるのよ。覚悟はできてる?」
メロディは微笑んだ。
「私は、お母さんの……シェリル・ノームの娘よ」
「なら、周りがどうこう言ってもしょうがないわね」
シェリルも微笑んだ。
「いいわ、アルトの事は私に任せて」
「お願い、お母さん」

「アルト」
シェリルが寝室へ行くと、アルトはベッドの上にうつ伏せになっていた。
「んー」
くぐもった唸り声みたいな返事が聞こえた。
「もう、ショックなのは判るけど」
シェリルはベッドに上がると、アルトの体を跨いだ。枕に顔を埋めたままのアルトの肩をゆっくり揉む。
「ん…」
アルトは呻いた。シェリルの指はほっそりした見かけに似合わず、力強い。
「メロディだって、勇気を振り絞って報告したんだと思うわ。会ってあげなさいよ」
「もちろん、会うさ……でも、心の準備をさせてくれ」
「バルキリーに乗ったら、どんな敵でも突っ込んでいった早乙女アルトが、どうしたのよ」
「まだ、バジュラ艦に突入した時の方が気が楽だ。だって、俺と同い年なんだぜ。どんな面して義理の息子に呼びかけたらいいんだ」
「出たとこ勝負でいいんじゃないの」
「お前な……シェリルは何とも思わないのか?」
「思うわよ。メロディに聞いたわ。あなた、未亡人になる覚悟はあるの、って」
「……シェリル・ノームの娘じゃ、周りの意見ぐらいでへこたれないか」
「判ってるじゃない」
シェリルはかがんで、アルトの首筋にキスした。
「それに、早乙女アルトの娘でもあるのよ」
シェリルは腕をまわして、アルトを抱きしめた。
「どっちに似ても頑固者か」
「ふふふ。慰めてあげるから、こっち向きなさい」

メロディが両親に恋人を紹介するのは、アルトの舞台が終わってから、ということになった。
演目は新作歌舞伎『オオナムチ』。
日本神話に取材したストーリーで、若き神オオナムチが、黄泉の国の王スサノヲの出す難題をクリアし、スサノヲの娘スセリヒメと結ばれる、という筋立てだった。
主役のオオナムチは悟郎、アルトはスサノヲの役で登場する。
メロディと恋人は、招待席で舞台を見守った。
オオナムチとスセリヒメはスサノヲの追撃を逃れ、共に手を取って国境を越えてゆく。
若い二人の背中に向かって、アルト演じるスサノヲが長く伸ばした髪とヒゲを振り乱しながら叫んだ。
「その弓と太刀で、国を統べよ。スセリを妻とし、太い柱と高い屋根の宮殿を建て、幸せに暮らすが良い、この奴(やっこ)!」
アルトの視線はメロディへ向けられていた。
(お父さん……)
思わず涙腺が緩くなり、恋人の手を握りしめる。恋人も力強く握り返してくれた。
どうして舞台を観るようにと招待券を渡されたのか、メロディはいぶかっていたが、この瞬間、アルトが伝えたかった事を受け取った。
「観てて思ったんだけど……何かテストがあるのか。メロディの夫として相応しいかどうか」
恋人の囁きに、メロディはウィンクした。
「お父さん、お母さんを助けにバルキリーで駆けつけたりしたから、それくらいは求められるかも」
「今からバルキリーの操縦免許取得しないとダメ?」
「そんな事ありません。でも、お母さんのノロケに付き合う覚悟と、お父さんの沈黙に付き合う覚悟は必要ですけど」
「雄々しく耐えてみせよう」
「がんばって、旦那様」


★あとがき★
新作歌舞伎『オオナムチ』は架空のお話ですが、三代目市川猿之助のスーパー歌舞伎っぽいものを想定しています。
今、ここまで書いておいてから、スーパー歌舞伎の演目に『オオクニヌシ』を発見(笑)。知らなかった。
オオナムチはオオクニヌシの数多い別名の一つです。記紀神話の中では、ドラマティックで、スサノヲが人間臭いところから、舞台にしやすいお話ではあります。
宝塚でも同じエピソードを元にした劇があったそうですし。
話中の『オオナムチ』は、きっとアルトが新しく書き起こした脚本なんでしょう^^

2008.07.22 


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