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シェリル、お前、誕生日はいつなんだ?」
「どうしたの?」
アルトは、照れくさそうにそっぽを向いた。
「プレゼント貰いっぱなしも気が引けるし、お返ししようかと」
「ありがとう。でも、私のバースデイって正確には分からないの」
シェリルの声は明るかったが、アルトは言葉に詰まった。
「あ……そうか。悪かったな」
以前、シェリルの生い立ちを聞かされていた。母親の顔さえ知らずにいたのだから、事情の複雑さは推して知るべし。
「ギャラクシーで市民登録した時に、暫定的に決めた日付はあるけど……あまりバースデイって感じがしないのよね」
「でも、考えようによっては良かったじゃないか」
シェリルは小首を傾げた。
「そう?」
「自分で好きな日を誕生日にしたらいい」
「なぁるほど」
「クリスマスと誕生日が重なって、損した気分になっているヤツもいるし……」
シェリルは、人差し指を顎に触れさせて、考えるふりをした。
「そうね……それじゃ、今年のは、今日にするわ」
「今年のって、来年は変えるつもりか?」
「そうよ、ダメかしら?」
「普通、日付を決めておくものだろ?」
「常識にとらわれてちゃダメよ。シェリル・ノームは人類史上初のフレキシブルなバースデイを持つことにしたの」
「なんか違うぞ、それ」
「毎月バースデイを決めた方が面白いかしら?」
「そんなに年を取りたいのか? 30超えたらオバサンって呼んでやる」
アルトはニヤニヤ笑った。
「それは、ちょっと……毎月のはナシ。とりあえず、今年の誕生日は今日にするわ。何をプレゼントしてくれるのかしら?」
アルトは、誕生日をでっち上げて客にプレゼントをねだる水商売のお姉様方みたいだ、と思いつつも、シェリルがこのアイディアを気に入っているようなので、突っ込むのは止めにした。
「EXギアを持って来いよ、一緒に飛ぼう」

アルトがシェリルを連れて来たのは、映画『Bird Human』を撮影した海洋リゾート艦マヤン
レジャー施設にEXギア用の滑走路とカタパルトも設置されていた。
「久しぶりね、ここに来るのも」
「ああ」
アルトは返事しながら、シェリルが装着したEXギアを点検する。
「よし、問題なし。俺が先に飛び立つから、ついてこいよ」
「判ったわ」
「この艦は鳥が飛んでいるから、バードストライク(鳥との空中衝突)に注意。あまり速度を出さないこと」
「OK」

シェリルはカタパルトから射出されると高度300mまで一気に上昇した。
先に飛び立ったアルトは、旋回して待っている。
ヘッドギアに内蔵されている通信機からアルトの声が出た。
「こちらアルト。船首方向へ2kmほど飛ぶ。海面の色が明るい青になったら、パワーパックの出力を絞ってくれ」
「こちら、シェリル。どうして?」
「行けば判るさ。以上」
艦内の大気層は安定していて、局所的な乱気流もほとんど発生しない。ものの15分ほどでアルトが指定した空域にたどり着いた。
シェリルは指示された通りにEXギアの出力を落とした。
「アルト、ここって……」
出力を落としたにも関わらず、高度が下がらない。顔に吹き付ける風の気温がわずかに上がったように感じる。
「サーマル(熱源)だ。海底の更に下、海水循環プラントがあって、そこから熱が出ているらしい」
「海の水が暖められて、上向きの気流が出来るのね」
「高度を落とすぞ」
アルトは風に乗って、緩降下した。シェリルも続く。
「あ、鳥が……」
カモメの群が白い翼を広げて、大きな輪を描いていた。
アルトとシェリルは群の仲間であるかのように、同じ速度でフワリと旋回する。
「どうだ、鳥のように空を飛んでいるだろ?」
「本当、まるで夢のワンシーンみたい……」
EXギアのパワーパックは、ギリギリまで出力を落としているので、噴射がカモメたちを驚かせることはない。
好奇心の強い一羽が、シェリルの翼と触れんばかりの至近距離を並行して飛んでいる。見慣れないヤツが来たと思うのか、時折、チラチラとシェリルの方を見た。
「可愛い」
上昇気流は直径200メートルほどの目に見えない円筒を形作っている。鳥たちは、その円筒の中を周回しつつ、海面に見える魚影を狙っていた。
「行き詰まると、ここで一緒に飛びながら鳥を観察する。それで風の捕まえ方を覚えた」
アルトの言葉にシェリルは微笑んだ。
「カモメが先生?」
「そうだな」
「らしいわ……ねえ、何か録音できるもの持ってない?」
シェリルの声が妙に切迫したものになった。
「どうした?」
「コードが…歌詞が……天から降ってきたの!」
「マイクに向かって歌え。フライトレコーダーを兼ねているから、記録できる」
「判った……ララララ……」
こうして、アルトはシェリルが次に発表するアルバムのタイトルチューンを最初に耳にしたオーディエンスになった。


★あとがき★
シェリルの誕生日、というネタをいただきまして、書いてみました。
二人で一緒にEXギアで飛ぶのは、以前、某掲示板で書いたネタをふくらませています。

2008.07.17 


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