2ntブログ
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

--.--.-- 
シェリル・ノームのライブ『Sheryl Got the Gun』は天空門コンサートホールで開かれた。
アリーナ席には、優先的に新統合軍、SMSなど軍関係者が招かれている。
対バジュラ戦闘の慰労を兼ねた催しだった。

舞台の上にピンスポットライトの光条が一筋差し込む。
光に照らされたのは、古めかしい大ぶりなマイクスタンドと、黒で揃えられたソフト帽・サングラス・スーツを着たシェリル
軽快なベースの音とともにシェリルのMCから始まった。
「みんな、今夜は来てくれてありがとう。新統合軍と関係者の皆さん、どうぞ楽しんでいって」
帽子を客席に向かって飛ばすと、ストロベリーブロンドの長い髪が光をまき散らしながらシェリルの背中に流れ落ちた。
「生きている限り、誰もが誰かを必要としているの。あなたも、私も、みんなも。誰もが…Everybody, everybody」
ホーンセクションが心浮き立つイントロを奏でる。
曲名は『Everybody Needs Somebody To Love』。



I need you you you の歌声とともに、会場の各所を指さすシェリル
指で示されたブロックの観客が歓声で応える。
招待者席で見ていたアルトは、シェリルと目線が合ってドキっとした。
「私には、あなたが必要なの。そして、他の誰かも、あなたを必要としているわ。それを忘れないで」
歌が終わり、シェリルのMCで舞台が暗転した。
「ここからは、いつも通り最大戦速(マクロスピード)で! ボヤボヤしていると置いていくわよ。私の歌を聴けぇ!」
眩しい光の中へシェリルのシルエットが溶け込む。
光が徐々に消えるのにかぶさって『射手座☆午後九時Don't be late』が始まる

シェリル・ノームのオリジナル・ナンバーが続き、トリは『ダイアモンド・クレバス』。
最後の一音、その余韻が終わらない内にアンコールが始まる。いつまでも拍手が鳴り止まなずに、やがて会場全体で揃った手拍子になる。
再び、舞台にシェリルが登場。
深い青のイブニングドレスに合わせ、髪の色も青に置き換わっている。
「アンコール、ありがとう。星の海を航海する全ての人に贈る歌……みんな、お願い。声を合わせて歌って」
オーケストラの音と共に、歌い上げるのは『Sailing』。



ステージ各所のスクリーンで、青い海原と羽ばたく白い鳥の映像の上に歌詞が表示される。

 I am sailing
 I am sailing home again 'cross the sea.

平易な歌詞と旋律が、うねりのように会場を満たしてゆく。
フロンティアの市民は皆、人類の生存と未来に賭けて星の海を渡る航海者。
普段は強固に思えるアイランド1の大地も、虚無の大海に浮かぶ一片の落ち葉にも等しい。
薄い外壁の向こうは過酷な宇宙空間。
だが、不安に打ちのめされることなく先駆者の誇りを胸に前進する。

 我は空を往く
 我は空を往く 鳥のごとく天の高みへ
 我は空を往く 高き雲をつき抜け
 汝の元へ
 自由を求め

 我が声は届くや
 我が声は届くや ぬばたまの闇夜を抜け
 我は死にゆかん
 永久に汝と共にあらんと
 願いは聞き届けらるるや

声の波に身を任せ、自分も声を合わせているうちに、アルトは自分が舞台で演じていた頃の高揚感を思い出していた。

ライブが終わり、スタッフへの挨拶を済ませると、シェリルは楽屋を飛び出した。
準備させておいた目立たないセダンに乗り込む。車内マイクに向かって命じる。
「出して」
前後の座席を仕切る遮音壁の向こうで、心得顔のドライバーは車を滑らかに発進させた。
後部座席でシェリルは携帯端末を取り出し、アルトの端末にコール。
呼び出し音が鳴っている内に、アルトの後姿が歩道の上に見えた。
「止めて」
ドライバーは路肩に車を寄せた。
「…シェリルか? もしもし?」
窓の向こうのアルトは携帯端末を耳にあてていた。その声が、手元の端末から聞こえてくる。
「車で迎えに行くわ。グレーのセダン」
通話ボタンを押すと、アルトは笑いを含んだ声で判ったと応えた。周囲をぐるりと見渡してセダンを見つける。
シェリルはドアを開けて、アルトを迎え入れる。
「うまい言葉が見つからないが……すごかった」
アルトはシートに座るなり言った。
「と、当然でしょ。私はシェリルなんだもの」
皮肉屋のアルトからストレートな賛辞が出てきて、シェリルは少し驚いた。
「よく考えたら、今まで客席からライブを見たことないんだよな。最初はスタントだったし、サヨナラ・ライブは出撃していたし。正直、流行歌って馬鹿にしていたところもあった」
「考えは変わった?」
「ああ、大いに変わった。今度、ダウンロードする」
「欲しかったら手配するのに」
「きちんと対価を支払いたいんだ」
アルトからのリスペクトの表明は、シェリルを心地よくさせる。
「あれだけのステージ、どうやって作り上げているんだ?」
「そうね、たくさんのスタッフが関わっているけど、最初は会議でネタ出しして、3Dシミュレーションを作るところから、かしら。ハコによっても細部は変わるし、優秀な舞台監督を捕まえるのが重要よね。興味あるなら、バックステージに来る?」
「ああ……いや、止めておく」
アルトの表情が硬くなった。芝居への未練が自覚されて、軽い自己嫌悪に陥る。兄弟子はアルトの中にある演劇への渇望を“呪い”と表現したが、この上なく相応しい言葉に思えた。
シェリルはその横顔を見つめてから、シートに深く身を沈めた。
「その気になったら、いつでも言って。……ね、衣装どれが良かった」
「うーん、そうだな…」
「射手座のチューブトップは?」
「舞台の上だと、かっこいいな。近くだと目のやり場に困る」
「なんで困るの?」
アルトはジロリと横目でシェリルを見た。
「お前、分かってて聞いてるだろ?」
「わかんないわ。どうして? どうして?」
シェリルが顔をのぞきこむと、アルトは頬を赤らめて視線を逸らした。ついでに話題も逸らす。
「アンコールの……ドレス、良かった」
「ああいうのが好み?」
無難なところを挙げてきたわね、とシェリルは思った。ここから、どうやってからかってやろう。
「ああ。……シェリル、疲れているんじゃないか?」
「ええ、そうね」
ライブ直後で、手足には火照りに似た疲れが感じられる。
「でも、無理言って、これを借りてきたの。明日には返さないといけないから、今夜の内に見せたくて」
シェリルが取り出したのは大容量のデータディスク。
「それは?」
「今、話していた衣装よ」

セダンが向かったのは、小さなスタジオだった。
「このスタジオで、衣装のテストをするのよ。今は貸し切ってもらってるわ」
案内しながら、シェリルが言った。
アルトとシェリルは更衣室で体のラインにピッタリとした特殊スーツに着替える。
「なんか、パイロットスーツみたいだな、これ」
アルトは自分の手足を見た。手首と足首に組み込まれた超小型のエアコンプレッサーで体にフィットさせる。耐Gスーツにも似た着心地だった。
「基本構造は似たようなものね」
シェリルは持参したディスクをスタジオに備え付けのコンソールに差し込んだ。
「手のひらのスイッチを押してみて」
指先まで覆う構造のスーツ、両方の掌には1から0までのボタンがある。
アルトは適当に1を押してみた。
かすかな通電音とともにスーツが発光する。光が収まると、褐色のローブをまとっていた。
「なんの衣装だこれは?」
手を見ると、短い金属製の棒を握っている。棒の側面にある突起を押すと、先端から光の刃が伸びる。
「ライトセーバー?」
「ふふっ、面白いでしょ」
シェリルも同じような衣装に、ライトセーバーを手に持っている。
「いざ、参る」
アルトがふざけて斬りかかると、シェリルも合わせて刃をかざした。
ライトセーバーがぶつかると、スーツにフィードバックがあり、軽い手ごたえを感じる。もちろん、虚像なのでぶつかっても痛みはない。
「このスーツ、よく出来ているな」
「今、セットしたのがステージ衣装……このデータはシェリルのオリジナルだから、他では手に入らないわ」
軍服をイメージした『射手座☆午後九時Don't be late』の衣装に切り替わる。掌のスイッチで、光の粒子がシェリルを覆うと、ブロンドの髪が青に変わり、黒のチューブトップとホットパンツにロングブーツ。赤いサスペンダーの挑発的なスタイルに切り替わった。
「ほーら、困る?」
シェリルは腕を組んで、アルトに迫った。
豊かな胸が強調され、谷間に目が吸い寄せられるアルト。
「お前なぁ……」
視線を逸らすと、シェリルが回り込む。
「困ってる、困ってるっ」

「他のデータも試してみましょう……やっぱりアルトには和服が似合うわね」
アルトの衣装は侍になっていた。羽織の袖には特徴的な白と黒のだんだら模様。
「新撰組か…」
抜刀して構える。
「御用である。宿を改めさせてもらおう」
シェリルが拍手する。
「素敵」

ビクトリア朝のスカートがフワリと広がったドレス姿のシェリルに、ひじを差し出す燕尾服のアルト。
「このドレス、ホログラフだからいいけど、動きづらそうね」
「高い所から落ちたら、パラシュート効果があるんじゃないか?」
「ほんと?」
「知らない」

「アラビアンナイト、ね。シェラザードとシェリルって、名前の響きが似てるかも」
ゆったりしたズボンにボレロ、臍出しのピッタリしたシャツ。頭からヴェールをかぶる。
腰に付けたスカーフはキラキラと輝くコインが縫いつけられていて、シェリルの動きに合わせてゆれている。
「俺はシンドバットか」
アルトは素肌に丈の短いチョッキを着ていた。幅広の帯にはジャンビア(短剣)が差し込んである。足元は幅広のズボン。

「今度はカンフー?」
赤いチャイナドレスのシェリルに、青い唐服のアルト。
「ちょっと時代が違う気もするが、ハッ」
アルトはハイキックしてみせた。高々とつま先が上がる。

白いサマードレスに日傘をさしたシェリル。
「このスタイルだと、ロケーションも変えたいわね」
コンソールに入力すると、スタジオ内部が白樺林に変わった。
「俺のかっこうは……これは書生か何かか? 明治とか?」
袴に袷。袷の下にはシャツ。足元は下駄。
「ええと、この設定をいじるとどうなるのかしら?」
シェリルはフワリとドレスの裾が延び、シルエットが変化する。
「あら、これ?」
日傘がブーケに変化した。
サマードレスからウェディングドレスに変わる。
「こんな動きもするのね」
ブーケを手に、くるりと回るシェリル。
その様子に、一瞬、見とれるアルト。
手を差し伸べるシェリル。思わず手をとるアルト。
「俺がこの格好だと、結婚式場から花嫁さらって、駆け落ちしているみたいだな」
「ドラマチックね。悪くないけど、352番押してみて」
アルトは指定された番号を入力した。書生スタイルが白いタキシードに変わる。
シェリルの左手をとって、薬指に指輪を嵌めるしぐさをすると、動きに合わせて指輪のホログラフが輝いた。
その輝きに目を丸くして、顔を見合わせる二人。そのまま見詰め合う。
目を閉じて、そっと唇を合わせた。
「アルト」
唇を離してから、シェリルが囁く。
「ん?」
「ハネムーンはどこ?」
「バルキリーで飛んで行ける所」
「らしい答え、ね」


★あとがき★
ガンガンに歌うシェリルが見たい。早くシェリルの新曲を聴きたいと、妄想してみました。
一日艦隊司令』の続編。
タイトルはNOKKOの曲から。
ホログラフで衣装が変わるのは、マクロス(劇場版?)で輝とミンメイがデートで入ったアトラクションで見たような覚えがあります。

2008.07.16 


Secret

  1. 無料アクセス解析