2ntブログ
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

--.--.-- 
「で、これはどういうことだ」
「たまには失敗するのよ」
シェリルはそっぽを向いているが、頬がほんのり染まっている。恥ずかしいらしい。
「途中で止めるとか思いつかなかったのか」
アルトはため息混じりにキッチンを見た。
焦げ付いた鍋はマロングラッセの成れの果て。
オーブンから煙が吹きだしている。
「その……子供たちから、ね。ママの作ったお菓子食べたいってリクエストがあって……」
「モンブランケーキなんて、いきなり難易度の高いものを作らなくても、もっと簡単なのもあるだろうが」
アルトは呆れ返った。パワーが余って空回り気味になるのがシェリルらしさとは言え、今回は被害が大きい。
焦げた鍋から立ち上る煙で火災報知機が作動し、消防車まで出動する騒ぎになった。

シェリル、料理と菓子の違いは?」
片付けたキッチンで、アルトは鬼軍曹のごとく重々しい声で質問した。
「お菓子の方が甘い」
シェリルの答えに間髪入れずに突っ込んだ。
「違う。ジンジャークッキーとか甘くない菓子もある。正解は計量だ」
「計量?」
「菓子は材料を正確に計量し、正確に調理しないとできない。料理は、わりと目分量でも出来る」
「なるほどね」
「そこで、お前の目指すべき菓子は、これだ」
アルトはプリントアウトしたレシピを差し出した。
「パウンドケーキ?」
「小麦粉、バター、砂糖、卵を1ポンドずつ、正確に計量して混ぜれば出来る」
「なんだ、簡単ね」
「作ってから言え」

「それじゃ、薄力粉は俺がふるっておくから」
「えーと、バターを常温に戻して…」
ボウルを抱え込んだシェリルは、アルトの監視下でレシピとにらめっこしている。
「砂糖を混ぜる、と」
けっこう力のいる作業で、シェリルの額にうっすらと汗が浮いた。
「次は卵だな」
シェリルに卵を渡すと、ぐちゃっと握りつぶしてしまう。
「お前……EXギアの訓練でやったろ?」
「卵を掴む練習はしたけど、割る練習はしなかったわ」
「掴めるようになるまでに、しこたま割ったじゃないか……カルシウムたっぷりなケーキが出来そうだな」
ボウルの中の白身と黄身から、菜箸で殻を取り除くアルト
「成長期の子供には必要な栄養素よ」

三つの型に出来上がった生地を流し込む。
「最初のはプレーンで、これはドライフルーツを入れて、そっちはココアパウダーを入れようか。ココアのは混ぜすぎるなよ」
「どうして?」
「混ぜすぎるとマーブル模様ができなくなる」
「なぁるほど」
160度のオーブンで50分。良い香りが漂ってくる。
「美味しそうな匂い」
シェリルが小鼻をひくつかせた。

出来上がったケーキは子供たちに好評だった。
「また作ってって言われたの」
シェリルは満面の笑顔でアルトに報告した。
「出来立てもいいが、残ったやつは取っておいて、冷蔵庫で寝かせておくと味が馴染んで美味くなるぞ」
「そうなの? 了解。ね、アルト」
「ん?」
「ありがとう。今夜、お礼がしたいわ」
「モンブランケーキは遠慮しとく」
「もう、そうじゃなくて……子供たちが寝てから、ね」

自家用バルキリーは、結婚祝いとしてルカから贈られたVF-25S。一応、民生用のデチューンモデルということになっていたが、軍用機に引けをとらないパワーがある。
タンデム配置の前席にアルト、後席にシェリルが乗って、子供たちが寝静まる深夜に自宅の格納庫から静々と飛び立った。
「どこに行くんだ?」
アルトの質問に、シェリルは座標を指定した。
「この前のロケで見つけた場所があるの」
銀河中心核に近い濃密な星空に照らされて、ガウォーク形態のVF-25Sは湖畔に着陸した。
「湖を見て」
ほぼ無風状態で、鏡のように澄み渡った湖面に銀河が映りこんでいる。天上の銀河と、地上の銀河。周囲に人工の光源が無いので神秘的な光景が出現していた。
「これは……」
アルトはキャノピーを開いて、眺めを肉眼で楽しむ。
「凄いでしょう?」
シェリルが後席から仕切りを乗り越えてきた。アルトの膝の上に座る。
「ああ、よく見つけたな」
湖を眺めているアルトの頬を両手で挟んで、シェリルは自分の方へ向けた。唇を合わせる。
キスをしながら、シェリルはアルトの手をパイロットスーツのジッパーに導いた。
「ん……」
アルトはジッパーを引き下ろした。唇を離すと、スーツの下に手を入れて脱がせる。
シェリルがゾクっと体を震わせた。
「寒いか?」
「ううん」
露になったシェリルの肌は星の光で青白く染められていた。
「アルトも…」
シェリルの手がアルトのスーツのジッパーを引き下ろす。胸板が現れると、乳房を押しあてた。
二人の体温が交換される。


★あとがき★
アルトシェリルが結婚して、子供たちが生まれている、という前提でのお話。
本編から10年後ぐらい?
シェリルは料理がド下手という雑誌の記事から着想。

2008.07.09 


Secret

  1. 無料アクセス解析