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アルトは夢を見た。
久しぶりに見た、母の夢。

部屋の隅で膝を抱えている幼い日のアルト
「どうしたのアルトさん? また、お稽古でつまずいたの?」
和服姿の母が優しい声で話しかけた。
「とおさまにしかられた」
母はたしなめた。
「お稽古場では、父さまではなくて、先生でしょう?」
「はい」
「何を叱られたのかしら?」
「てらこやのだんで、しかられたの。なにがわるいのか、よくわかんない」
「寺子屋ね……」
母は頬に手を当てて、考える素振りをした。
子供のアルトの目から見ても、母親は美しい人だった。そして、目を離した隙に消えてしまいそうに儚い女性だった。
「たぶん、先生はこうおっしゃりたかったのよ。アルトさんの声は、とても良く通る素敵な声だけど、時々、他の人と合わせないといけないところで、目立ちすぎてしまうのね」
「……めだつのがやくしゃでしょ?」
「まあ、それも正しいのだけれど……アルトさん、これから教える通りに歌ってみて」
母はアルトの背中に掌を当てて、ポンと叩きながらテンポを伝えた。
「レー・ミー・ファー・ファ・ソ・ファ・ミ・ミ・レ・ド・ラ・レー……さあ、真似して」
アルトは頷くと、それに続いて歌った。
「れーみーふぁー……」
「シーラーシー……」
母は違うメロディーを歌って重ねた。
全く違う音なのに、アルトの声と重なって、とても綺麗に聞こえる。今のアルトなら、それがハーモニーであると判るだろう。
「良く出来ました。さあ、アルトさん、もう一度同じように歌って」
「はい、かあさま……れーみーふぁー……」
今度も母は声を合わせるが、なんだか気持が悪い。声が高すぎる。
「どうだった、今の?」
母はアルトの顔を覗き込んだ。
「なんかヘン。きれいじゃない」
「そうね。でも、お母さんの声は良く聞こえたでしょう?」
「うん。たかくなってた」
「先生がおっしゃりたかったことって、こういうことだと思うの。一人が目立ちすぎると、綺麗じゃなくなる時もあるの」
「……うーん」
「周りの声を良く聞いて、動きを良く見ろって、おっしゃっているのよ。きっと」
「そうかな」
「お母さんが考えただけだから、先生のお考えと同じかどうか判らないけど。次のお稽古で試してごらんなさい」
「まわりのうごきをよくみる」
「ええ。さあ、おやつの用意ができたわ。いらっしゃい」
アルトは母に促されて立ち上がった……。

目覚めると、そこはSMSマクロス・クォーターの寝台の上だった。
部屋に備え付けのテレビから、シェリルの歌が流れてくる。
「よぉ、お目覚めかい、姫」
ミシェルが部屋のドアを開けて室内を覗き込んだ。
「そろそろ、当直の交代か」
寝台から抜け出すと、アルトは衣服を整えた。
「ああ、そうだ。アルト……寝言で歌を歌うなんて器用だな」
アルトはギクっとしたが、無表情を保つことに成功した。
「お前こそ、寝言で元カノの名前なんて出してるんじゃないか?」
ミシェルは軽く肩をすくめた。
「心配ご無用。そういう名前の飼い猫がいる、って設定にしているんだ」
「ぬかせ」
アルトは部屋を出て、当直士官の詰め所に向かった。


★あとがき★
このお話は、Linz(ttp://linz.hannnari.com)様のイラストからインスピレーションをいただきました。
淡い色使いが素敵なイラスト・サイトさんです。

アルト母が病弱そうなのは、小説版で早くに亡くなっているとの設定が登場していたので取り入れてみました。
きっと、いいところのお嬢さんで、大学では幼児教育の課程をとっていたんじゃないかな、と妄想。体が弱くて、梨園の妻として危ぶまれたが、熱愛の末に嵐蔵と結婚とか、妄想が止まらなーい。



★おまけ・早乙女家の伝統★
早乙女家に招かれて、アルトの祖母からアルバムを見せてもらうシェリル。幼いアルトの姿に、天使みたいとほほ笑む。
「この女性は……アルトのお母様? アルトに良く似ていて美しい方」
シェリルの質問に祖母は頷いた。
「早乙女の男は昔から面食いなのよ」
シェリルの目がキラーンと光った。
(お祖母様、今、さりげなく自分も美人だと主張しましたね?)

2008.06.30 


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