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「どうした、アルト。集中しろ」
定期訓練の後、オズマが話しかけてきた。
「はっ」
アルトは敬礼した。
「眠れないのか?」
オズマの言葉にアルトは驚いた。
「どうして…っ?」
「お前にとっては初体験だったな」
軍隊での初体験には二つの意味がある。一つは性的なもの。もう一つは敵を目視できる距離で殺害すること。相手はバジュラではない。曲がりなりにも言葉が通じるゼントラーディだった。
「ガリア4での戦闘詳報は読ませてもらった。口頭での警告、攻撃されてから自己防衛のための反撃。お前の行動は誰が見ても適法だ」
「はっ」
「ふっ…こんなことを言ってもお前には何の慰めにもならんだろうな。カナリアんところに行ってカウンセリングを受けて来い。これは命令だ」
「イエッサー」
「それと、だ。これは上官ではなく兄貴として言わせてもらう。ランカを守ってくれてありがとう。この次、一杯おごらせろ」
「ヒュゥ~」
思いがけない場所から口笛が響いた。
アルトが振り返るとミシェルがいた。
「隊長のおごりがでたぜ。やったな、アルト
アルトは今ごろになって達成感が静かに身の内を満たすのを感じた。

「至って正常だ。お前は」
カナリアは睡眠導入剤を処方した。
「お前にとってはゼントラーディも同胞なんだ。武器を向けられたとは言え、同胞を殺したら、心が傷つく。今はその傷が癒えようとしている過程」
「後悔なんかしてない」
アルトを見るカナリアの目が優しくなった。
「理性は割り切っても、感情はそうはいかない。自分の内なる声に耳を澄ませて折り合ってゆくんだ。しばらく三日おきにカウンセリングに来い」
「しばらくって、いつまで?」
「私が良いと言うまでだ」
「はっ」
アルトは敬礼した。カナリアの言葉を聞いて、思いついた質問をぶつけてみる。
「あの、俺たちはカナリア中尉にケアしてもらってるんですが、中尉は誰にケアしてもらうんですか?」
ケーニッヒ・モンスターという絶大な破壊力を持つ戦略兵器を操り、一方でクルーの治療を司る。極端な二面性は、カナリアの中で、どんな風に折り合いをつけているのだろう。
「マクロス乗り組みの軍医は、私一人ではないぞ」
「そうか、そうだよな。余計なことを聞きました」
「いや、良い兆候だ。心が傷ついた人間は他人に関心を持てなくなるからな。下がってよろしい」
「はっ」

「あんたは偉業を成し遂げたのよ。誇りに思いなさい」
その夜シェリルに電話すると、のっけから決めつけられた。
「い、偉業」
「そうよ、銀河の妖精と超時空シンデレラが同時に失われたら、銀河の音楽史にとって巨大な損失になるところだったのよ」
「そうか、すごい事したんだな、俺は」
「自覚を持ちなさい。だから、眠れなくなるほど悩む必要はないわ」
「悩んでいるわけじゃないんだけどな」
「眠れないんでしょう? 軍医に薬をもらうぐらい」
「それはそうだが」
「今からベッドに入りなさい」
シェリルの声が穏やかになった。
「入ったぞ」
「薬は飲んだ?」
「今、飲む。…飲んだぞ」
「携帯耳の所につけて」
スピーカーの向うからアメージング・グレイスの歌声が聞こえてくる。
アルトはシェリルの子守歌に耳を傾けている内に、穏やかな悪夢の無い眠りに落ちていった。


★あとがき★
拍手でメッセージをいただいた『心優しい名無しさん』に贈ります。
私の考えるアルトはこんな人です。
ガリア4から帰還した後のお話です。

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2008.07.01 


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