2ntブログ
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シェリルはベッドに横たわって天井を見上げた。
(寝込むなんて、久し振りね)
単なる風邪と思っていたら、新型のインフルエンザらしい。
この宇宙時代まで生き延びているしぶとい感染症は、初期段階なら有効な治療薬があるが、発症してから二日を過ぎると、あとは栄養をとっておとなしくしているしかない。
インターフォンが来客を知らせた。
アルトだ。風邪ひきの顔を拝みに来てやったぞ」
シェリルはベッドの上に体を起して、音声コマンドでドアのロックを外した。
「開けて」
シェリルは自分の声を耳にして愕然とした。
(なんて酷い声)
こんな声をアルトに聞かせたくない、と思ってロックを戻そうとしたが、既に入ってしまった。
「調子はどうだ」
美星学園の制服姿のアルトは学校の帰りらしい。手に大きな紙袋を三つもぶら下げている。
シェリルは首を横にふった。酷い声を聞かせたくない。声が出せないとなると、強がりも口にできない。
「珍しく素直だな……ええとだな、これ、学校のファンクラブ一同からお見舞いの品。いろいろ入っているぞ。休んでいる間のノートとかも入っている。ノートは主にルカだがな」
アルトはベッドサイドに椅子を持ってくると、反対向きに跨って座り、背もたれに腕を乗せた。
紙袋から、さまざまな形の見舞いの品を取り出す。
シェリルは、それを見ると頷いた。
「……声出せないのか?」
アルトは眉をひそめた。そして、袋の底から大きなガラス瓶を取り出した。
「こんなこともあろうかと、いい物があるぞ」
ガラス瓶の中は、何かの果実を液体に漬け込んである。アルトは立ち上がってコップを取ってくると、ガラス瓶から液体を注いだ。お湯を足して、シェリルに渡す。
「熱いようなら、ちょっとずつ飲め」
かすかな湯気に乗って香るのは、蜂蜜と果物の匂い。シェリルが今まで嗅いだ事の無い芳香だ。
不安気な視線でアルトを見ると、アルトは頷いてみせた。
「実家に伝わる霊験あらたかな喉の薬だ。花梨の蜂蜜漬け……兄弟子から分けてもらった」
シェリルは目を見開いた。
(早乙女家から勘当されている筈なのに)
アルトは頭を下げて兄弟子とやらに頼んだのだろうか。
シェリルは目を閉じて一口飲んだ。
荒れた喉に温もりが心地良い。味は甘く、かすかに渋みがある。
ゆっくり時間をかけて、コップ一杯を飲んだ。
「これ、置いてくからな。今みたいにお湯で薄めて飲めよ。ビックリするぐらい効くぞ。ウチじゃ、喉に関しては薬要らずだったんだ」
アルトはシェリルが飲み干すのを見届けると、あっさり部屋を出た。
シェリルは呼び止めようとして果たせずに、その背中を見送る。

翌日。
アルトの携帯にシェリルからのコール。
「どうだ具合は?」
「順調に回復中よ。大事をとって、今日も寝ているけど、明日から学校と仕事に復帰するわ」
スピーカーから聞こえてくる声は、いつもと変わらない。
「声、戻ったな」
「ええ。本当に良く効いたわ。ありがとう……アルト、お願いがあるの」
「なんだ?」
「あなたも風邪とか、インフルエンザで寝込みなさい」
「はぁ?」
「お見舞いされっぱなしは性に合わないの。ちゃんと仕返ししないと」
「仕返しって言葉の使い方間違ってるぞ」
「まあ、なんでもいいから覚悟してなさい。借りはキッチリ返すんだから」
そこで通話が切れた。
「なんなんだ、全く」
アルトは、ひどく理不尽な言いがかりをつけられた気がした。
背筋に悪寒が走る。
「……今夜は早く寝るか」
シェリルに襲撃される隙を作る気は無い。


★あとがき★
12話を見て妄想スイッチon。
本編のような涙を誘うシェリルではなくて、学生らしい気軽なお見舞いの感じにしてみました。

2008.06.29 


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