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“アストライアー1、現在位置を報せよ”
新統合軍フロンティア艦隊に所属するパイロットのメロディ・ノーム中尉はスロットルを開き、愛機を加速させた。
「エンジェル・エンジェル、こちらアストライアー1。ガスジャイアントの向こう側に回りこんでいます。目標を追尾中」
メロディは、資源輸送航路を荒らす海賊船を単機で追撃していた。
司令部へ精密な現在位置を送信すると、装甲キャノピー越しに海賊船を見つめる。
未だ命名されてない、土星型ガスジャイアント惑星の近傍宙域は、惑星を囲む氷の輪や、衛星の軌道が絡み合う複雑な空間構成だ。
海賊船は、この惑星を知り尽くしているらしく、コース取りに迷いが無い。
加速性能では遥かに優越している筈のVF-31でさえ、微小天体に阻まれて距離を詰められずにいる。
「エンジェル・エンジェル、目標はガスジャイアント大気圏に突入する模様。こちらも突入して、追撃を続行します!」
“待て、アストライアー1。VF-31と言えど、ガスジャイアントの大気中で長時間の追撃は無理だ。増援を待て”
「今まで目標を取り逃がしてきたのは、この惑星に隠れてたからです。ここで逃すわけにはいきません。可能な限り追尾しますので、増援の手配を願います」
VF-31は可変翼を折りたたみ、大気圏内での高揚力飛翔モードになる。
海賊船は、ひと足先に褐色の雲の下へと潜り込んでいった。
メロディもためらわずに続く。

ガスジャイアント惑星の大気は、ほどんどが水素ガスだった。次にヘリウムが多く含まれ、メタンなどの炭化水素、水も含有している。
惑星の直径は地球の10倍ほどもあるのに、自転周期は10時間。
高速で回転しているため、大気圏も荒荒しい気流に支配されている。

「くっ……視界が…悪い」
メロディは薄暗い大気圏内で、10Gの重力に耐えていた。
可視光ではほとんど見通せないので、キャノピーには赤外線映像を表示させている。
大気の化学反応と惑星自身が生み出す熱量で、視覚的に前方を見通せるようになった。
「海賊船は…?」
水素とヘリウムの雲、早い気流が生み出す大規模な落雷、そういったものに阻まれて、敵の姿を見失っていた。
「何か痕跡が……」
目を凝らしていると、警報が鳴り響いた。
「どこからっ?」
後ろ上方から、ミサイルの熱源反応。
メロディはミサイルの狙いをそらすために、フレアを三発射出。高重力と強風に悩まされつつ、回避行動をとる。
フレアは高熱と赤外線をふりまきながら、メタンの風に流されていく。
ミサイルはフレアに命中。
その瞬間、後方に海賊船の反応をキャッチ。
「そこっ…」
インメルマンターンを決めて、海賊船に機首を向けるが、逆風で思ったように速度が出ない。
その間に海賊船は水素の積乱雲の中に紛れてしまった。
「ガスジャイアント大気圏内用の探査船をベースにしているのね…」
海賊船は特殊な環境に適応し、活用していた。戦意も十分なようだ。
メロディは、積乱雲の周囲を旋回して海賊船の航跡を探す。
VF-31の今の装備では、吹き荒れる積乱雲に突入できない。主要な武器の一つ、マイクロミサイルもこの大気圏内では性能を発揮しきれない。
再び警報。
今度は下方からミサイル攻撃。
「くっ…ぅ」
バレルロールしながら、レーザー機銃で迎撃した。
続けざまの警報。
次は上方からミサイル。
メロディは、残ったフレアを全弾発射して回避した。
「ミサイルも、この星専用…ね」
海賊船は、惑星近傍の宙域だけではなく、気流も知悉している。
VF-31が装備している最新鋭のレーダーや、センサーも通用しない。
「敵は、どうやってこちらを見つけているの?」
この環境で通用するセンサー、どんなものだろうか。
いつ、次の攻撃が来るかも知れない状況で、メロディは打開策を模索し続けていた。
(お父さんなら…イサムさんなら、どうするのかしら?)
メロディにとって尊敬するエースパイロット達――父親である早乙女アルト、伝説の撃墜王イサム・ダイソンだったら、どんな風に行動するのか想像してみた。

「どうやってこちらを発見していたのですか? レーダーも利かない、深い渓谷の底に隠れていらっしゃったのに」
メロディは、惑星エデンで行われたDACT(異機種間戦闘訓練)の後でイサム・ダイソンに質問した。
「そこはベテランの勘ってヤツさ……って、これは冗談。ホントはね、耳で見つけたのさ」
イサムは少しばかり自慢げに答えてくれた。
「耳?」
「ああ。普段、音なんて気にしないだろ? 宇宙じゃ無音だし、大気圏内も音速でぶっ飛んでるからね。それでも、バトロイドモードで遮蔽物に隠れている時は、けっこう頼りになる」
「耳を澄ませて待ち伏せしてらっしゃったんですね」
メロディに向けて、イサムはウィンクした。
「時々、空に居る時も、エンジン止めて風の音に耳を澄ましてみるといいぜ。下から反射してくる音の時間で、上空と下の気温差が判ったりね。そんな僅かな違いを知っているかどうかで、生死が分かれることもある」

メロディはイサムの言葉を思い出し、VF-31に音声コマンドで命じた。
「音響センサー、敵船の推進音を識別できる?」
「ポジティブ」
「良い子ね。推進音を探して。予想進路を図示」
「ラジャー」
キャノピーの内側に、赤外線映像に重ねて音響センサーが拾った音源の位置を重ねて表示させる。
「これはっ?」
反応は七つ。積乱雲の向こうから回り込むようにしてVF-31を目指している。
「仲間? それとも、さっきのミサイル? 外部音をコクピット内で再生。自然の音はマスキングして」
スピーカーから、微かな噴射音が聞こえてくる。
七つの音源を聞き分けようと、メロディは必死に耳を澄ませた。僅かに低い音を出している目標がある。
「ターゲットNo.3を敵船と仮定。最適の迎撃機動を計算してちょうだい」
「ラジャー。マニューバー、スタート」
機体をバトロイドに変形させ、振り返る。
積乱雲の中から飛び出してきたミサイル群を迎撃。
少しずれたタイミングで雲の中から飛び出してきた海賊船は、メロディの手際の良さに戸惑ったようだ。
ファイター形態にシフトしたVF-31は海賊船の後ろ上方に遷移。ガンポッドの狙いを定める。
「抵抗は無意味だ! こちらの誘導に従い、大気圏外へ向いなさい!」

母艦に帰投したメロディは、自室で戦闘詳報をしたためた。
「これで良し、と」
書きあげて上官へと軍用ネットワーク経由で提出し、ふぅと背伸びする。
海賊船は増援部隊によって無事に拿捕された。
戦闘詳報を読み返しながら、ふと考える。
(こんなに一生懸命、音を聴いたのは、いつ以来なのかしら?)
回想しているうちに、子供の頃に母親であるシェリル・ノームが弾くピアノで和音を当てるゲームをしたことを思い出す。
シェリルは、メロディは音感が良いと褒めてくれた。
(お母さんのお陰ね)
部屋に備え付けられた情報端末のカレンダーに目をとめると、今日は銀河標準時で11月23日。シェリルの誕生日だ。
慌てて携帯端末を取り出し、メールをしたためる。
“お誕生日おめでとう。詳しくは書けないけど、一仕事やり遂げました。お母さんの娘に生まれて良かった。メロディより”
一度、文面を読み返して送信。
ゼロタイム・フォールド通信網が発達しているから、シェリルの元に届くまで、それほど時間はかからないだろう。
「プレゼント、探しておかないと」


★あとがき★
シェリルの誕生日企画ということで、こんなお話を書いてみました。
きっと、他のサイトさんではプレゼントに悩むアルト君がたくさん登場しているのではないかと思います。
こちらは、ちょっとヒネって娘から母へのハッピーバースディ。
お楽しみいただければ幸いです。
メロディとイサムが出会ったお話はこちらです。

2009.11.23 


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