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惑星エデン。
「はい、こちら民間軍事会社ファイヤーバーズです。いつもお世話になっております。はい、はい。ただいま確認しました。はい。ありがとうございます。では、そのように。後ほど、訓練計画書をお届けしますので、ご確認ください」
オフィスでオペレーターが大口の顧客(要するに新統合軍)からのコールを受け付けた。
「会長、会長の大好きなお仕事入ってますよ」
オペレーターがハードコピーを高々と差し上げて振った。
「んー、何々?」
ファイヤーバーズCEO(最高経営責任者)イサム・ダイソン退役中佐は、ハードコピーをひったくった。
「うひょ、DACT(異機種間戦闘訓練)じゃーん」
50代の入り口にさしかかったイサムは、訓練に参加する気満々だ。
「相手は…あんま聞いたことない部隊だな。アストライアー小隊……所属は惑星フロンティア第1艦隊。また、遠くから。こりゃー、腕によりをかけて歓迎しないとね。小隊長は、メロディ・ノーム中尉?」
そこまで読みあげると、オフィスがざわついた。
「え、あの、ノーム中尉が来るのかっ」
「マジ?」
「大マジ」
その中でイサムはキョトンとしていた。
「そんな有名人?」
「会長、この人っすよ」
若いスタッフが差し出したのは、新統合軍が出している広報誌だった。表紙を飾るのは、長く伸ばしたまっすぐな黒髪と、力のこもった琥珀色の瞳が印象的な女性士官だった。
「モデル?」
「違いますよ。現役パイロットですってば。まあ、モデルでも通用するルックスですけどね。なんせ、ほら、シェリル・ノームの娘だし」
「ああ!」
イサムの頭の中で情報と記憶が繋がった。
「早乙女アルト大尉の娘さんか。大きくなったなぁ」
言われてみれば、アルトの面影を強く受け継いでいる。
「こいつぁ、楽しみだ。親父さんの才能を受け継いでるなら、手強そうだ」
イサムは懐かしげに、かつてアルトと空戦の技を競った対抗演習を思い出していた。

民間軍事会社とは、軍隊の業務の一部を外注で請け負う営利企業だ。
惑星エデンのファイヤーバーズは、イサムが新統合軍から退役した後に起こした会社で、バルキリーパイロットの訓練を主要業務としている。
他にはイベントでの展示飛行やエア・レースへの参加、テストパイロットの派遣も行っていた。
使用する機体は主に統合軍払下げのVF-11やVF-19、VF-22。
殊に、イサムがアグレッサー(仮想敵)を勤めるDACTは、新統合軍の新米パイロットたちからは登竜門として人気があった。対戦を希望する者は多い。

ニューエドワーズ基地テストフライトセンターは、イサムにとってパイロットとしての半生を過ごした場所だ。ネズミの穴の数まで諳んじている。
駐機場に見慣れない機体が並んでいた。
かつてのVF-1バルキリーと比較して、全長で1.5倍はありそうな大型機だ。
惑星フロンティアで開発されたVF-31アルケー。所属はフロンティア第1艦隊。
「へぇ、コイツがね」
パイロットスーツ姿のイサムも初めて見る機体に興味津々だった。
全体のフォルムはVF-22に少し似ている。かなり厚みのある機体で、その内部に巨大な戦術コンピュータと動力源、冷却機が搭載されていた。
VF-31に随伴する無人機AIF-10Aエイドロンと連携し、戦うための装備だった。
長い機首に、大きな可変翼を広げた形は白鳥にも見える。そばには鏃のような形状のAIF-10Aが控えている。
1機のVF-31に対して、AIF-10Aは3機。一人のパイロットで、かつてのVF小隊並みの火力をコントロールすることになる。
「ますますもって、人間の戦いじゃなくなってきたなぁ」
イサムはAIF-10Aのボディを撫でながらため息をついた。黒く鏡面加工された無人機の装甲がイサムの顔を映し出す。
老いが皺を刻んでいる。
「お言葉ですが、ダイソン中佐」
女性の声に振り返ると、長い黒髪を後ろで結わえた女性士官が立っていた。
「最後に勝負を決めるのは人間の意志です。兵器だけで戦いは遂行できません」
凛とした声は耳に心地良い。ピシリと軍礼則通りの敬礼をする。
「歌手になった方が良かったんじゃないか? メロディ・ノーム中尉」
ニヤリと笑ってイサムは付け加えた。
「今は民間人だ。階級は要らないぜ」
「ダイソンCEO、とお呼びした方が?」
メロディの視線は挑戦的だった。気は強いらしい。
「いや、イサムでいいな。うん、それがいい」
その返答には意表を突かれたらしい。メロディは二の句を継げなかった。
「イサムって呼んでくれよ」
「え、では……イサム…さん」
さすがに呼び捨てにするのははばかられた。メロディは遠慮がちに、さん付けにした。
「大変よろしい」
イサムはVF-31を振り返った。
「メロディちゃんの言葉が本当かどうか、もうすぐ判る」
DACTが始まるまで、2時間ほどだ。

(続く)

2009.09.17 


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