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美星学園の昼下がり。
「アールート、こっち向いて」
シェリル・ノームの声に早乙女アルトが振り向くと、シャッター音がした。
「うぉっ」
シェリルの顔があるべき場所に、大きくて無機質なレンズがあった。
「面白い顔が撮れたわ」
カメラを構えたシェリルが笑った。
「何だ、それ?」
アルトが尋ねると、シェリルは笑った。
「あら、カメラよ。見て判らない?」
「そんなのは判る。俺が聞いているのは…」
「買ったの」
シェリルはこともなげに言ったが、見るからにプロ仕様の高価そうなカメラだ。
惑星フロンティアの人類社会は先頃、ようやく戦時統制モードから、第1次統制モードへと規制が緩められたところだった。
商業活動が復活し、人々は買い物の楽しさを取り返しつつある。
議会ではフロンティアの体制を移民船団の法制から、植民惑星のモードに切り替える時期について議論されていた。
「そんな趣味あったのか?」
「昨日から始めたのよ」
ポスターの撮影現場でカメラマンから借りたカメラでスナップを撮影していたら、出来が良くて褒められたのだと言う。
「お世辞を真に受けてるんじゃねーよ」
シェリル・ノームの多彩な才能に嫉妬する気持ち、判るわ」
レンズの向こう側から艶やかに微笑むシェリルに、アルトは苦笑するしかなかった。
「そんなモノ、学校に持ち込んで、何を撮るんだ?」
「んー」
シェリルはカメラのモニターに今まで写した画像を表示させた。
「あんまり考えてないわ。目に付いたものを片っ端から撮りまくってるの」
アルトもシェリルの手元をのぞきこんだ。
サムネイル表示された画像は、美星学園の生徒たちのスナップショットが多かった。ランカや、ルカ、ナナセと言った顔見知りも写っている。
他は、木漏れ日を透かして見上げる惑星の青空、通学路の途中で見かける塀の上で大あくびをした猫、接写モードで写したユリの花びらには、雫が煌いている。
「これなんか、いいな」
アルトが拡大表示させたのは、母猫が3匹の子猫に乳を与えている写真だった。
「可愛いでしょ。でも、コレ、何してるの?」
アルトは一瞬、あっけにとられた。
「何って、乳を吸わせてるんだろ」
「あ、ああ……オッパイあげてるのね」
シェリルは頷いて、画面に視線を戻した。
マクロス・ギャラクシー船団で育ったためか、グレイス・オコナーによる英才教育のせいか、シェリルの知識には時々大きな欠落がある。
「乳の位置が人間と同じだと、四本足で歩く動物には不便だろ」
アルトの言葉にシェリルは小首を傾げた。
「そうねぇ」
言ってから、美星学園の制服に包まれた胸を両掌で寄せた。
ただでさえ豊かなバストがくぃっと持ち上がる。
手を離すと、ゆさっと揺れて元の場所に落ち着いた。
「人類が直立歩行のために獲得した重要な形質なのねっ」
「何を大げさな事を」
アルトは笑いながらファインダーから目を外した。カメラのモニターに、たった今、撮影したばかりの連続写真を表示させる。
「アンタ、なんて写真撮ってるのよ!」
「スナップショットだよ、単なる」
シェリルは憤然として、カメラを取り上げた。
「デリートするのかよ。銀河の妖精の新たな一面としてファンに紹介してやりたいだけどな」
アルトの言葉に耳を貸さずに、シェリルは消去のボタンを押した。

撮影スタジオ。
マクロス11船団から来た中年男性のカメラマンはスキンヘッドの頭を撫でながら、撮影した画像を空間に投影した。
さまざまな表情、アングルのシェリルがカメラマンを囲むように半円筒形に並ぶ。
「なんじゃ、こりゃ?」
撮影した覚えのない写真が混じっている。学生や、猫、風景を切り取ったスナップショットは、水平や垂直のアングルもしっかりとれてないような素人丸出しの画像だ。
「どうしたの?」
撮影衣装のローブデコルテ風ドレスをまとったシェリルが尋ねた。
「いや、撮影した覚えのない絵が…」
「あ、これ、私の!」
シェリルは目を丸くした。
「やだ、こんなのまで」
アルトが撮影した、シェリルの連続写真もある。ちゃんと削除できなかったようだ。
「俺と同じ機種を買ったのかい? それでアシスタントが間違ったんだな」
カメラマンはヒュゥと口笛を吹いた。
「これ、恋人が撮ったんだねぇ」
美星学園の制服を着たシェリルが胸を寄せて、ぱっと放す。次の瞬間には、撮影者に向って怒鳴っている表情が捉えられている。
「そんなの判るの?」
「お、否定しないね。そうさ、写真はウソをつかないから」
カメラマンは怒鳴っているシェリルの写真を拡大した。
「じゃあ、誰が私を撮ったのか、このデータの中から判る?」
「判るよぉ。この髪の長い男の子でしょ?」
カメラマンは、あっさりとアルトを割り出した。
「どうして判るの?」
シェリルは二つの写真を見比べたが、友人たちのスナップショットと違いを見つけられなかった。
「説明は難しいなぁ。でも、判るんだよ。視線が優しいんだ…」
「カメラの視線?」
「いっぱい撮影すると映像から読みとれるようになる。撮影者と被写体の関係が、ね」

「ねぇ、アルト、こっち向いてってば」
二人が暮らすアパートにシェリルの声が響き渡った。
「お前、朝飯作ってるんだから、邪魔すんなっての。時間無いっ」
アルトはフライパンを操りながら、シェリルに背中を向けた。
「いいから、協力してよ。私もカメラの視線が判るようになりたいんだからっ!」
「ったく、こり始めると、トコトンこるんだから。あー、ちょっと待て、プレーンオムレツがいい具合にふんわりできたんだから。皿出して、皿」

2009.07.07 


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