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悟郎とメロディが11歳のクリスマスイブ。
二人は、父親・早乙女アルトの帰宅を心待ちにしていた。
ストロベリーブロンドと青い瞳をシェリル・ノームから受け継いだ悟郎は、玄関脇の窓に張り付いていた。
既に日は暮れていて、黄昏時の薄闇が辺りを覆っていた。
見覚えのあるヘッドライトの輝きを見つけて、悟郎は振り返った。
「来たよ!」
叫ぶとリビングから小走りにやってくる足音。
黒髪と琥珀色の瞳をアルトから受け継いだ女の子メロディがやってきた。
車が車庫に入ると、双子は待ち切れずに玄関のドアから駈け出した。
「おかえんなさい、父さん!」
「お帰りなさい」
アルトは笑って車のトランクを開けた。運転席から降りて車のリアに回る。
「ただいま。さあ、こっちおいで」
トランクの中から、自走コンテナを二つ取り出した。それぞれ、早乙女悟郎とメロディ・ノームのネームプレートがついている。
「わあ、開けていい?」
悟郎が目を輝かせる。
「もう暗いから、家の中で開けよう」
アルトは悟郎の肩にポンと手を置くと、メロディを振り返って玄関へと向かった。

広い居間で、双子はコンテナを開いた。
現れたのは子供用のEXギア。装具類や、消耗部品、メンテナンスキットがセットになって入っている。
「これ、ひょっとして新型?」
メロディの質問には悟郎が答えた。
「最新型だよ。今年の冬モデル」
一部の学校ではジュニアハイスクールぐらいの学年から、EXギアによる飛行実習が行われているが、悟郎とメロディは両親に少しでも早く触れたいとねだった。
二人とも、ほんの赤ん坊の時分から空を飛ぶ両親を見て育ってきたので、人一倍憧れが強い。
「ありがとう、お父さん!」
メロディがアルトの頬にキスする。
「明日は運動公園で練習しよう。基本動作のな」
「うん」
メロディが頷いた。
悟郎がさっそくヘッドギアを取り出してかぶってみている。
キッチンからシェリルの声がした。
アルトー、ちょっと手伝って。ケーキのデコーレション」
「おう」
アルトはメロディの頭を撫でて立ち上がった。
「お母さん、私も手伝う」
メロディも続いた。
「あ、僕も僕も」
悟郎がヘッドギアを脱いで、コンテナに仕舞った。

運動公園のEXギア用フィールドは、スケートリンクのような構造になっている。
平らなフィールドと、それを囲む胸ほどの高さのフェンス。
予約して借り切っているので、使用しているのは早乙女アルト一家だけだった。
EXギア装備のアルトが悟郎のEXギアをチェックしている。
「よし、ちゃんとロックしてるな。ロックを忘れない様に。普通はアンロック状態だと、EXギアは起動しないが、半端にロックされている状態で起動してしまうことがある」
そこでアルトは意味ありげな視線でシェリルを見た。
やはりEXギアを装備しているシェリルはメロディのEXギアを点検している。
「ええ、いいわ。ロックが外れると、EXギアから操縦者が放り出されたりするからね。気をつけて」
そこでアルトからの視線に気づく。唇だけを動かして“なによー”と言った。
アルトは軽く肩をすくめると、EXギアの足についているローラーによる走行と停止の動作を教えた。
「脳波コントロール併用しているから、考えるだけで基本動作はできる。EXギアの反応速度は早い。ほとんど日常の動作と同じスピードでできる。だが、倍力機構のおかげで力はアップしているから、全ての動きを注意深くしないと、他人を怪我させるぞ。さあ、走ってみせろ」
子供達は最初は恐々と、次第になめらかに滑走し始めた。
慣れてくると、三角コーンを置いてスラローム(ジグザグ)走行させて、素早い方向転換に慣れさせる。
「いいぞ、膝の方向を揃えろ。ガニ股になると、方向転換に手間取るからな」
アルトが予想していた以上に、子供達の上達は早い。
「上手いものね、あの子たち」
シェリルも感心していた。
「ああ。今日は基本動作だけにしようかと思ってたが、この分だと、あれをさせてもいいかな」
「あれ?」
シェリルが小首を傾げた。
「卵掴みさ」
「お昼休憩したら、買ってくるわ、生卵」

アルトお手製のコールドチキンサンドイッチ(ディナーの残り物)で昼食を済ませると、シェリルが近場のスーパーマーケットに走って生卵を買い占めてきた。
「お前、そんなにたくさん……」
アルトが絶句する量の生卵をカートに乗せてきたシェリル。
「二人分だと、これぐらいでしょ?」
シェリルは試しに卵を1ダース並べて置いた。
ワクワクしている双子に向って、お手本を見せる。
「いい? EXギアで卵を割らずに掴めるようになって一人前なのよ」
「舞台の上から落っこちた母さんをキャッチするのに重要なテクニックだよね?」
悟郎の質問にアルトは吹き出した。
子供達は、アルトとシェリルが出会ったフロンティア・ファーストライブの一部始終を記録映像で見せていた。
「そういうこと」
シェリルがウィンクしたところで、グチャっと湿った音がした。EXギアのマニピュレータで掴んだ卵の殻が砕けていた。
「あ、ちょ、ちょっと失敗ね。久し振りだから」
言い訳しながら、もう一個掴んでみせるシェリル。今度は成功して、なんとか面目を保った。
子供達も真似してみる。
「そうよ……卵に触れる3mm前で指を止めるぐらいのつもりでね。上手よ」
子供達の飲み込みは早かった。半ダースほどの卵を割ると、後は確実に掴めるようになった。
「だから多過ぎるって言っただろ?」
ニヤニヤするアルトに、シェリルは唇をへの字にした。
「こんだけ、どうしようかな、卵。卵油でも作るかな」
アルトは腕を組んで考え込んだ。
生卵は、まだカートの中に山盛りになっている。

帰りの車の中で、子供達は体に残ったEXギアの疾走感を何度も確かめていた。
「お父さん、空飛べるのはいつ?」
メロディが運転席のアルトに尋ねた。
「そうだな、毎週、こんな風にEXギアの練習して、1か月ぐらいしたらシミュレーターで飛行の訓練を始めよう。あとは進み具合にもよるが、3か月ほどしたら初飛行、かな」
アルトの頃は3か月で初飛行に漕ぎつけたら早い方だったが、今はEXギアの方も進歩している。
悟郎とメロディの覚えの早さなら、充分可能なスケジュールだ。
「家族で小隊組んで飛ぼう」
アルトの言葉にシェリルがニヤリと笑う。
「小隊長殿の命令には絶対服従。一人だけカッコつけて先走ると、大変なことになるわよ」
子供達もシェリルの言葉がファーストライブのことを指しているのが判った。
他の全員から見つめられたアルトは、咳払いをすると、アクセルを踏み込んで家路を急いだ。


★あとがき★
クリスマスシリーズ未来編ということで、アルトシェリルから子供たちへのプレゼントです。
EXギアの扱いは悟郎の方が上手くなるのですが、職業としてパイロットの道を選んだのはメロディ、みたいな未来図が筆者の頭の中にあります。
反対に悟郎はメロディの声質を羨んでいるんだけれども、ミュージシャンになったのは悟郎でした。

シェリルがフロンティアのファーストライブで落下し、アルトが受け止めた映像を子供達が見ているお話はこちらです。

11月15日の絵ちゃで、たくさんのヒント、インスピレーションをいただきました。参加者各位に、重ねて御礼申し上げます。

2008.11.17 


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