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「ね、これと、これ、どっちが良い?」
シェリルはワードローブの中身を盛大に広げている。その内、真紅のマーメイドラインのドレスと、黒のワンショルダーのドレスを手にとって、アルトを振り返った。
「それともこっちかしら?」
淡いクリーム色のシフォンを多用したドレスを肩にかけて見せる。
「あ、ああ」
生返事にアルトの方を向くと、紙飛行機を折っている。
「早乙女アルト
フルネームを呼ばれて、ようやくアルトは顔を上げた。
シェリルの視線が冷ややかだ。
アルト、私が今、何を質問したのか判ってる?」
「わ、判ってるさ。今度のパーティーに着ていくドレスがどれがいいか、だろ?」
「判ってるなら、こっち見なさい」
シェリルが両手でアルトの頬を挟んだ。
「どうせ、何出しても気に入らずに、新しいのオーダーするんだろ」
アルトの指摘は図星だったようで、シェリルはぐっと言葉に詰まった。
「あのね、そうだとしても、こっちを見るのが礼儀ってものでしょ」
シェリルはアルトの頬をつねった。
「判った判った……ええと、今のところ、そのパープルのドレスにするつもりなんだろう。髪留めは、蝶の形のやつで。明日には、考えを変える…のが、いつものパターンだな」
アルトの予想はことごとく的中していた。ドレスの並べ方に一定の傾向がある。一般に右にあるものほど評価が高い。
「ふん」
シェリルはドレスを散らかしたまま、憤然と居間を出ていった。
「俺が片付けるのもいつものパターンだな」
アルトは小さなため息をもらすと、立ち上がった。

翌日。
ショッピングモールの高級品を扱う店が並んでいる一角に、早乙女家が懇意にしている悉皆屋(しっかいや)があった。
悉皆屋とは、和服の洗い張り、染め直し、仕立て直しなど、手入れに関することを引き受けてくれる業者だ。
「こちらがご依頼いただいていた反物です」
アルトは受け取った反物を広げてみた。鮮やかな花紺に染めあがっている。
歌舞伎の衣装は通常、専門の係がいるが、今回の衣裳に限ってはアルト自身が染めを細かく指定している。
舞台の照明でどのように色が映えるのかをイメージしながら、角度を変えて見た。
「けっこうです」
アルトは反物を巻き取った。これを仕立てたら、どんな衣装になるだろう。心が浮きたつ。
「それから…こちらが仕立て直しでお預かりしたものです。丈を出しておきました。背の高い方ですね」
差し出された夏物と反物をまとめて風呂敷に包むと、アルトはあいまいな笑顔でうなずいた。
「ああ、まあ」

悉皆屋を出てショウウィンドウを眺めていると、ガラスに見覚えのある顔が映った。
アルトがあいさつしようかと振り向いて、思わず動きを止めた。
「シェリル?」
連れの女性はつばの広い帽子と大きなサングラスで目元を隠しているが、アルトには判った。
二人は笑いながらオーダーメイドのドレスを扱う店に入った。
ショウウィンドウ越しに店内の様子をうかがう。
シェリルとミシェルはパンフレットを見ながらマネキンドロイドがホログラフで表示しているドレスを次々に切り替えて、ああでもない、こうでもないと論評をしているようだ。
話し声は聞こえないが、いつ果てるともなく続くマネキンの着替えに、ミシェルは一言ずつ評価を口にしていた。
シェリルも笑顔で、時々真剣な表情になってミシェルの言葉に耳を傾けている。
アルトの胸が騒いだ。二人の様子を隠れて眺めている自分が、ひどくカッコ悪く思えた。
(知るか!)
心の中で吐き捨てると、その場から離れた。

それでもショッピングモールを出なかったのは、ミシェルとシェリルが気になっているからだろう。
アルトはため息をついた。
(グズグズしているぐらいなら、さっき直接本人に聞けばよかったじゃないか)
アクセサリーが並んでいる区画で、宝石や貴金属のきらめきをうつろに眺めながら、なぜ自分はここに来たのかと自問した。
(ああ、この先で着物に合う小物を見繕うつもりだった)
顔を上げたところで、またミシェルとシェリルを見つけた。今度は指輪をめぐって話している。シェリルの意見にミシェルが耳を傾けている。
一瞬、二人を避けようかと思ったが、ばかばかしくなったので大またで歩いていった。
「よ、アルト」
ミシェルがこちらに気づいて手を軽く上げた。
「あら」
シェリルもこちらを見た。
「アルト、こっち、これ見て」
その様子は屈託がない。
「何やってるんだ、二人して」
アルトはシェリルの指が示した先を見た。
婚約指輪が並んでいる。
「決心がついた」
ミシェルの言葉はシリアスだった。
「お祝いしなくちゃね、アルト」
シェリルの言葉で、アルトもようやく理解できた。
クランにプロポーズしたのか?」
「これからだ。指輪を選んでいるんだけど、クランのやつ、俺が選んだのなら何でもいいとか言いそうなんで、シェリルにアドバイスしてもらったんだ」
「そうか……そうだったんだ。遊び相手なら、そつなくプレゼントを選ぶ癖に、本気の相手だと、とことん気弱になってやがるな」
アルトの指摘に、ミシェルが苦笑した。
「珍しく、アルト先生が鋭いところを突いてくれるね」
「どっかの誰かにも、その気弱さを見習って欲しいわ」
シェリルは含み笑いした。

その後、アルトとシェリルはミシェルと別れて、部屋に戻った。
荷物を解いてから、アルトは携帯端末の振動に気づいた。ミシェルからのメールが入っている。
“忠告:女性の相談は結論や解決策が欲しいのではない。共感が欲しいのだ”
「女たらしめ、余計なことを……」
シェリルと話していて、ミシェルは何か感づいたのだろう。口に出した言葉とは裏腹に、勘の良さに感心する。
(いきなり結論を言い当てるんじゃなくて、同調してやったら良かったってことか)
居間の壁に衣文掛けをぶらさげて、持ち帰った紗の訪問着の袖を通す。涼しげな淡い緑に、花籠の柄。白の袋帯も出しておく。
「お芝居の衣装?」
部屋着に着替えたシェリルが声をかけた。
「いや、お前の」
「え?」
「母さんのものだけど、仕立て直してもらった。嫌じゃなければ、着てみるか? 和服は手入れが良ければ100年だって使える」
「そんな……いいの? 大切なもの」
「訪問着だからフォーマルな場にだって着て行けるぜ。柄もオーソドックスだから、流行に左右されない」
シェリルの部屋着の上から、ふわりと訪問着をかける。
姿見の前に立たせて、シェリルのストロベリーブロンドと色が調和するかどうかを確かめる。
「良かった、この髪に合ってる」
「本当。素敵なプレゼント、ありがとう」
上質な生地の肌触りを指先で確かめながらシェリルが言った。
「あの時の、フォルモに行った時、着てた服と同系の色味だから、いけると思った」
「そんな事、まだ覚えてたの?」
「衣装にはこだわりがある。だから、ドレスだって予想できた」
「もう」
昨日の口げんかを思い出して、シェリルは唇を引き結んだ。しかし、すぐに蕾がほころびるように笑みに変わる。
「目がいいのね、アルト。褒めてつかわす」
「恐悦至極」
シェリルはアルトの頬を両手で挟むと、少し背伸びして瞼にキスした。


★あとがき★
本編の後日談。
アルトシェリルは同じ部屋に暮らしています。
KUNI様と、あまなつ様のリクエストを組み合わせてみました。
楽しんでいただければ幸いです。

★おまけ・ミシェルのプロポーズ★
クラン、結婚してください」
改まったミシェルの口調に、マイクローンサイズのクランの顔から表情が消えた。
「今、なんと言った」
「結婚してください」
「本当か?」
「本気で申し込んでいる」
「本当に本当か?」
「ああ」
「本当の本当のほんっとーに?」
「真面目に、心底、真剣に、この上なくシリアスに」
クランの表情が崩れた。泣きたいような、嬉しいような、何と形容していいか難しい顔。
やおら自分で自分の頬を抓った。
「な、なんら……いひゃくないぞ…やっぱり夢か……ミシェル、お前も抓れ」
「いくぞ」
ミシェルクランの尖った耳を引っ張った。
「い、痛いっ……夢じゃ、ない?」
「夢じゃない」
ミシェルは耳を放して、そこにキスした。
「ひゃぅ」
クランは首を竦めた。
「受けていただけますか?」
クランミシェルの胸に飛び込んだ。涙で湿った声で告げる。
「子供はバスケット・チームぐらいの人数でいいか? サッカーがしたいなら、考えないでもないぞ」
「いきなり、そこまで飛ぶか」

★17話感想★
未放映地域の方は、ご注意ください。





オープニングは、意表をついて『星間飛行』バージョン。これはこれで可愛くて良し。でも、『ライオン』のオープニング早く見たいです。
7/27の超時空ライブをごらんになった方は、もう見てるんですよね。
楽しみ楽しみ。

オズマ隊長、死亡フラグをジャングルみたいな密度で立てまくっておいて、軒並みぶっ壊しまくり。
てか、監督か脚本が判ってて、視聴者をからかっているだろう、これ。
腹筋がよじれました。
キャシーとの復縁フラグ成立。

ランカの部屋に忍び込んだアルトとランカの距離感が微笑ましいです。
シェリルを自分の部屋に運び込んだアルトシェリルの距離感(密着感?)を比較すると深いです。

ミシェル君、ガリア4で拾ったドラッグ『639 WITCH CRAFT』の調査をクランの伝手で独自に調査開始します。
カナリアさん辺りに依頼しなかったのは、ギャラクシー御一行様のハッキングを警戒しているから?

2008.08.01 


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