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新統合軍のVF-171が4機、緊密なダイヤモンド編隊を組んで登場。
そのうち、右翼を占める1機が急上昇をかけて、編隊から離脱。
残る3機は右翼を空けたまま、アイランド1の傍を航過した。
ミッシングマン・フォーメーション。
天駆ける戦士たちが、戦友の死を悼む編隊飛行。
離脱した機体は、戦死者の魂が天に召される様子を象徴している。

大規模なバジュラ艦隊との遭遇戦は、フロンティア船団存亡の危機と言って良かった。
対バジュラ戦術の確立と反応弾使用で辛くも乗り切ったが、犠牲もまた小さくなかった。

軍用通信回線では戦死者の名簿が読み上げられている。
「ダフネ・デュメルシ、ランディ・ブラックスミス、サイード・フセイン・ハサン、ララミア・レレミア……」
マクロス・クォーターの艦橋で葬送飛行を見守っていたオズマ・リー少佐は驚いた。SMS隊員は戦死者にカウントされないはずなのに。
「お父様が……どうしても、って名簿に入れたの」
キャサリン・グラス中尉がポツリと言った。
彼女の父ハワード・グラス大統領は、今回の遭遇戦を乗り切ったことで、フロンティア市民の人望を集めている。
キャシー、お前が…」
キャシーは首を横に振った。
「いいえ、私は何も」

クァドラン・レアに搭乗したクランクラン大尉は敬礼をして、ミッシングマン・フォーメーションを見送った。
受信のサインが出て、カナリア・ベルシュタイン中尉の顔が表示された。
クラン
クランは冗談めかした口調で言った。
「ちょっとばかりスーツを脱いで、真空被曝を試してみたい気分だ」
「健康に良くないぞ。いくら、耐性のあるゼントラーディとは言え」
クランは唇を噛んだ。それから、おもむろに口を開く。
「地球の伝説にヴァルハラ、というのがあるそうだな」
「ああ、北ヨーロッパの神話だな……勇者の魂が来るべき最終戦争に備えて憩う場所だ」
「地球人は面白いことを考える。死ねば何も残らないと思っていた」
「そうだな、死ねば何も残らない。残された生者が心の安寧のために作り出した考えだ、死後の世界は」
「身も蓋も無いな。ララミアとヴァルハラでの再会を楽しみにしていたのだが」
「済まなかった」
「気にするな。戦いの中に産まれ、戦いの中に生き、戦いの中で死ぬ。ゼントラーディの理想だ……それに」
クランはアイランド1を振り返った。
「そう簡単にヴァルハラに召されるわけにもいかない」
ミシェルは意識不明のまま、病院に収容されている。

「らしくねぇな、ミシェル」
アルトは検疫用の隔離病室で呟いた。
ガラス窓の向こうではミシェルの容体を報告しに来たシェリルがうつむいている。
「私……」
ミシェルはバジュラ艦のフォールドに便乗してフロンティアに戻ってきたが、デフォールド時の衝撃で頭部を強打して意識不明だった。
シェリル、うつむくな。お前は良くやった。あのままバジュラ艦にしがみついていれば、バジュラからは攻撃されなかったかもしれないが、軍の反応弾攻撃で蒸発してた。お前の判断は、あの時のベストだ」
アルト……」
シェリルはガラス窓に両手をついた。今頃になって震えが止まらない。
アルトも、手を合わせるようにガラス窓に掌を押しあてる。冷たいガラス越しに、シェリルの体温が伝わるような気がした。
本当は力の限り抱きしめたい。
アルトは出来る限り、顔を窓に近づけた。
シェリルも顔を寄せてきた。
しばらく見つめあい、どちらからともなくキスをする。
ガラス越しの冷たいキス。
ためらいがちに唇を離して、シェリルは囁いた。
「また、来るわ……」
「ああ。また」


★あとがき★
14話と15話の間ぐらいをイメージしています。
ミッシングマン・フォーメーションの基本編隊は、調べてみた限り、決まりがないそうなのでイメージしやすさを優先しました。

2008.07.12 


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