2ntブログ
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アルトの誕生日。グリフィス・パークから戻ってきたランカは、落ち込みながらでも仕事をこなし、帰宅した。
(なんで、アルト君、ミシェル君をよこしたのかな? 留守電にでも入れておいてくれたらいいのに)
ベッドに入って、ため息をつく。
誕生日プレゼントを渡すつもりで向かった公園では、ミシェルが待っていた。アルトの代わりで来たと言う。アルトの行動の意味をはかりかねて、ランカは落ち着かない気分だった。
携帯君を見ると、音声メッセージの着信がある。相手はアルトだ。
ボタンを押すとメッセージが流れ来た。
アルトだ。すまん、ギリギリになって仕事が入った。約束の時間にグリフィス・パークには行けない。戻ってくるのは半月先になってしまうが、その時で良かったら受け取る。あ、そうだな……ドジなランカのことだから、このメッセージ聞いてない可能性もあるな。ま、その場合は手を打っておく。それじゃ」
(迷惑に思われているわけじゃないんだ)
ランカは胸の中で固まっていたものが溶けてゆくような気分を味わった。
(なんでかな。アルト君の言葉でこんなに……喜んだり落ち込んだりするなんて)
ナナセだったら、すぱっと答えを教えてくれそうな気がする。
でも、その答えを受け入れるにはためらいがある。
(次に会えるとしても2週間後……長いな。お仕事、忙しいといいな。2週間が長く感じられないぐらいに)
ランカは携帯君のスイッチを切って、目を閉じた。
ひとつだけ良い事があるのに気づいた。
(クッキー作りなおせるよね)
初めて作ったクッキーは失敗作で、あまりにも苦かったから。

ランカちゃんのプレゼント、どうなったのかしら?)
シェリルは気になった。
携帯端末を取り上げて通話しようとしたところ、乗っているライナー(快速客船)がフォールドに突入の警告を発した。
座席に深く腰掛け、フォールドのショックに耐える。
今は体調が良くない。元々フォールド酔いしやすい体質なので、憂鬱な気分になった。

予定通りのフォールドアウト。
アルトはコクピットから右方向を眺めた。そこにはデフォールドの残光をまとわりつかせているライナーの姿があった。
直後に通信が入った。
「アルト、聞きたいことがあるんだけど」
シェリルだ。
「なんだ、いきなり?」
アルトの手は自然に動いて、フォールド・フェイズ終了の処理をしていた。
前方には、ガリア4の輝きが見えている。
「ランカちゃんのプレゼント、受け取った?」
「いや、タイミングが合わなかったから、フロンティアに帰ってから、ってメッセージ残しておいた」
「そう」

ライナーの客席では、シェリルが窓からアルトのVF-25の姿を眺めていた。
(悪いことしちゃったかしら…)
ランカにアルトへのプレゼントを奨めておいて、結果的にそのチャンスをシェリルが奪った形になってしまった。
(何か埋め合わせしてあげないと)
「大丈夫か?」
携帯端末からアルトの声。
「何が?」
「体調……調子良くないんだろ? その上でフォールドはけっこうキツいんじゃないか?」
「体調管理はショービズじゃ初歩中の初歩よ」
とは言ってみたものの、シェリルは胸の中が温かくなるのを感じた。確かにベストなコンディションではなかったが、不思議とフォールド酔いしていない。
「さすがはシェリル様……おっと」
「どうしたの?」
「ガリア4の管制から地上の気象情報が来ている。面白いぞ」
「何が?」
「見てみろよ。そっちに回すから」
シェリルの客席についているディスプレイの画面に着信のマーク。
受信すると、アルトが見ているものと同じガリア4の情報が表示された。
「公転周期と自転周期が同じ?」
シェリルの質問にアルトが答えた。
「そうさ。そうだな、地球の月と一緒さ。主恒星のガリア1に対して、常に同じ面を見せている」
「そういうことは…」
シェリルはパイロットコースで習った惑星物理学の授業を思い出していた。
「昼の面と夜の面は、すごい温度差になるわね」
「ああ、そのせいで気流が面白いことになっている」
「これね……このボレアスって何?」
管制からボレアス警報というのが発令されていた。ギリシャ神話の北風を意味する名前に、暴冷風という漢字が併記されている。
「夜の面から、大規模な寒気団が昼の面に流れ込む現象らしい。ものすごい勢いの……反応弾の爆風並みの下降気流が発生するから、注意しろって」
「ええと…」
シェリルは頭の中にガリア4の気象をイメージした。
「昼の面は常に恒星の光を受けて温められているから、常に高気圧状態よね? 夜の面は冷やされて、やっぱり高気圧。対流が起こらないから、夜と昼の間で風が吹くことってないんじゃないの?」
「そうだな。自転周期もゆっくりだから、コリオリの力も弱い」
アルトが頷く。
コリオリの力は惑星の自転によって発生する力で、地球の貿易風が西へ傾く偏西風とも呼ばれる原因となっている。
「それでも自転軸のズレや摂動…惑星同士の干渉で昼夜の境界面が揺れ動くことがあるんだ。それで、夜の寒気団が昼の面の高空へとこぼれ出して……」
「風の流れを読むのが好きなだけはあるわね、アルト」
惑星物理学にそれほど興味はないが、アルトが楽しそうに語っている声の響きは好きだ。誕生日プレゼントとして、この旅に誘ったかいがあった。
「本機は、これよりガリア4周回軌道へと進入します」
ライナーの機長からアナウンスがあった。


★あとがき★
11話で、アルトの代わりにミシェルが待ってたのを見て
「そりゃねーだろ、アルト!」
とか思ったので、脳内で行間を埋めてみました。
妄想とも言いますが。

惑星物理学関係の話は、ちょー適当ですので真に受けないで下さい。

2008.06.23 


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