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(承前)

アルト達が乗った脱出ボートはマクロス・クォーターに収容された。
格納庫でボートが固定され、整備班が外からハッチを開けた。
「救助、感謝する」
振袖姿のアルトが敬礼すると、いくつもの可変戦闘機が並んだ、ものものしい空間に不似合いな華やかさに、周囲がざわめいた。
「あーあ、見つかっちゃった」
メイド服姿の少女がペロリと舌を出して苦笑いした。海兵によって武装解除とボディチェックされている。
海兵の一人が、エプロンのポケットから保護容器に入った情報チップを取り出した。
「それが、バーソロミューの遺産か?」
アルトの質問に、少女が頷く。
「まあね。そんなところ」
後の取り調べで判明したのだが、情報チップの中身は、海賊版『白タグ』の原版データだった。
この時代、農産物から工業製品まで、あらゆる商品に取り付けられる小さな情報チップを『タグ』と呼ぶ。製品の製造工程・履歴を遡るトレーサビリティを確保するために必要不可欠な品だ。
偽造品を流通させるためには『タグ』の偽造も欠かせない。情報が記載されていない、まっさらな偽造タグが『白タグ』と呼ばれている。
バーソロミュー船団の海賊版業界を隠れ蓑にして続いてきた『白タグ』を製造してきたマフィアは、今回のイベントを機に別の組織に原版データを売り渡して商売替えを目論んでいたのだ。
データを少女が横取りしようとしたのが、今回の騒ぎの発端となった。
「大儲けは諦めろ。命があるだけマシだ」
「そう考えておくことにする……あっ、シェリルだ!」
艦内用のコミュニケーターに乗って、イブニングドレス姿のシェリルが現れた。強い意志を感じさせる眉が逆立っている。
アルトは覚悟を決めた。
シェリルはコミュニケーターから飛び降りると、格納庫内の低重力をものともせずに大きなストライドで歩いてくる。
アルトの前に立つと繊手が閃いた。掌底が鮮やかに顎を突き上げる。
ガツンという打撃音に、居合わせた面々は顔を顰めた。
「普通、平手打ちとかにするだろ…」
顎をさすりながらアルトが呻いた。
無言のまま、シェリルはアルトの首に両手を絡めると、熱烈なキスをする。
「あらー……おじさんの奥さんって、シェリルだったの!?」
少女がヒュゥと口笛を吹いた。
「公演控えてるから顔は勘弁してあげるわ。こんなに心配させて……何かあったら、子供達に何て言い訳するつもりっ?」
アルトはシェリルを抱きすくめて耳元で囁いた。
「済まん」
「セットリストは、まだ半分よ。行きなさい」
シェリルが、アルトの体に回した腕をそっと解いた。
アルトは敬礼すると、更衣室へ向かった。

セットリスト後半は『インフィニティ』から始まった。
イントロに乗せて、アルトが搭乗したVF-25がカタパルトから飛び立つ。
エディ・ベルシュタイン中尉のVF-25と組んで、バーティカルキューピッドで宇宙空間にハートマークを描く。
続いて、直進するエディ機の周囲をアルト機がバレルロールを描く。
派手な機動を繰り広げながら、アルトはレーダースクリーンを見た。
少女を追っていたマフィアらしき船が、すごすごと引き返していく様子が確認できた。
「ケリがついたか……っ」
一瞬、安堵しかけたが、別の船が高加速で接近するのが見えた。
「何っ?」
レーダーの反応からバルキリーぐらいのサイズらしい。
“アンノウン(所属不明機)接近。単機です!”
マクロス・クォーターのオペレーターが報告するのが聞こえる。
“アンノウンに向けて警告、対空戦闘用意……いや、待て、これはっ”
オズマが戦闘準備を発令しかけて、戸惑った様子だ。
“派手にやってやがんなぁ!”
オープンの回線に不明機パイロットの声が入る。どこかで聞いたことがある。
“俺の歌も聴けぇ!”
不明機は機体サイズに似合わない大出力の発振でサウンドウェーブを全周囲に放射した。
オズマが呼応する。
“ファイアーバルキリー! 熱気バサラ!”
不明機の外見が光学センサーで捕捉できるほどの距離になった。真紅のVF-19改はバトロイドモードに変形。人面を模した頭部が確認できた。
サウンドウェーブに乗って流れる歌はDynamite Explosionだ。

 歌い始めた頃の 鼓動揺さぶる想い
 何故かいつか どこかに置き忘れていた

マクロス7船団のファイヤーボンバー、メインボーカルの熱気バサラ。音楽に関わっている者なら知らない者はいない。そして、彼の放浪癖も知れ渡っている。
「本物っ?」
マクロス・クォーター艦内の特設ステージでシェリルはファイアーバルキリーを見上げた。
「大したアドリブだ」
アルトは操縦桿を握り直した。
「推参なり!」
VF-25に装備された格闘戦用コンバットナイフを抜き放った。カメラの位置を意識して、ギラリと輝かせる。
「さあ、どう捌く?」
ナイフを振りかざしながら、ファイアーバルキリーに突進する。殺陣の動きで斬りかかった。
真紅のバトロイドは、演奏を続けながら、ヒラリ、ヒラリと刃を避ける。
「どうやら、本物みたいだな。面白い」

「バルキリーのチャンバラか。くそっ…」
オズマは艦長席のアームレストを握り締めた。
艦長としての職務がなければ、自分もあの場へとバルキリーに乗って駆け付けたい。

曲が間奏に入ると、特設ステージのシェリルが呼びかけた。
「ハイ、バサラ! 聞こえてる?」
“たまたま寄港したら、久しぶりに燃えるステージを見せてもらったんでな。血が滾ったぜ!”
ファイアーバルキリーは、ひどく人間臭い仕草で手を振った。
「私のステージングに割り込んでくるなんて、良い度胸だわ。1曲付き合いなさい」
“おう!”
「じゃあ、突撃ラブハート。イケるわよね?」
シェリルの挑発的な言い方に、打てば響くような返事が来た。
“誰に向って言ってるンだよっ”
ギターがイントロを奏で、ドラムが重低音のビートを刻む。

 夜空を駆けるラブハート 燃える想いをのせて
 悲しみと憎しみを 撃ち落としてゆけ

アルトのVF-25とファイアーバルキリーが背中合わせになって、スピンする。
アルト機が構えたガンポッドから真空用の花火が撃ち出され、空間を彩った。
前代未聞のパフォーマンスに、バーソロミュー船団が震えた。
これは比喩ではない。ライブを見ているオーディエンスの足踏みで、各艦の軌道が微妙にズレたのが、市政庁運行本部によって記録されている。

“楽しかったぜ、またな”
ファイアーバルキリーはファイター形態にシフトし、背負式にドッキングしたブースターでフォールドして行った。
「私もよ」
ドレス姿のシェリルは、ファイアーバルキリーの光る航跡に向けて手を振って、ステージを降りた。
パイロットスーツ姿のアルトがバックステージで出迎える。
「いい動きだったわよ、エースパイロットさん」
シェリルは大きく手を広げてアルトを抱きしめた。
「ああ、ご見物も大満足だろう」
アルトもシェリルの体に腕を回す。
「そうよ。こんなサービス滅多にないんだから……」
アルトを見上げる空色の瞳が、はっと曇った。
「どうした?」
「バ……バサラにサイン貰うの忘れてた!」
「は?」
「ねえ、アルト、追いかけて。今ならフォールドの航跡を……!」
アルトの腕を掴んで訴えるシェリル。
「馬鹿言うな、お前も俺も、この後スケジュールがギチギチなんだぞ」
「だって…だって、こんな機会、滅多に無いのよ」
アルトは、目に涙を溜めたシェリルを抱きしめて背中を擦る。
「お前の大事なファンが待ってるぜ……公演、終わったら探しに行こう。どこまでもつきあってやるから」

SMSマクロス・クォーターはアルトとシェリルを乗せて、バーソロミュー船団への帰還軌道へ遷移した。



★あとがき★
このお話は、May'nさんのライブDVD『May'n Act』から着想しました。
ツアーの福岡ライブで、福山芳樹(マクロス7で、主人公・熱気バサラの歌を担当)さんがゲスト出演し、突撃ラブハートを熱唱してました。
マクロスFの作中では明示されていませんでしたが、シェリルはきっとバサラのファンなのだと思ってます。ライブで「私の歌を聴けぇ!」と叫ぶところなんか、フォロワーであると自負しているのではないでしょうか。
バサラシェリルを邂逅させるためだけに、4話もかけてしまいました(笑)。

もうひとつ、書きながら考えていたのが、シェリルアルトを助けに駆けつける話を作ってみたかった、ということです。
アルトがピンチに陥ったシェリルを助けにバルキリーで駆けつける話は既に書いたので、シェリルのかっこいい所もお見せしたかったんです。
私の目論見は成功したでしょうか?

何はともあれ、お楽しみいただければ、幸いです。

2009.05.31 


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