2ntブログ
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戦闘機パイロットというものは戦っていれば良い、というわけにはいかない。
マクロス・ギャラクシー艦隊所属のカイトス、ダルフィム救出作戦を終えてフロンティアに帰還したアルトは、レポートの作成に忙殺されていた。
特にバジュラの大型艦内部に突入した部分の情報は新統合軍のトップや、フロンティア大統領府も強い関心を寄せていて、徹底的な事情聴取が行われた。
バジュラとの接触は、なんらかの感染症をもたらすのか、隔離病棟での検疫を受ける羽目にもなっていた。
(レポート作成の時間が十分にとれるのはありがたいんだがな)
アルトはノートパソコンを閉じて首を回した。ゴキっと音がする。
「いい加減、飛ばせてもらえないかな。腕がなまっちまう」
周囲を見回せば、独房の様な隔離病室。部屋の扉はエアロックになっていて簡単には開かない。
部屋に作りつけになっている情報端末から呼び出し音が響いた。
「はい」
アルトが返事をすると受信状態になり、画面にキャサリン・グラス中尉の顔が表示された。
敬礼すると、キャシーも答礼した。
「具合はいかが? アルト准尉」
「健康そのものです。早くここから出たい」
「そうね。できるだけ早く出られるように努力するわ。それから、レポートありがとう。フロンティア指導部の中では、あなたのレポート、ちょっとしたベストセラーよ」
「恐縮です」
「さて、良いニュースと悪いニュースがあるのだけど、どっちから聞きたい?」
アルトは少し考えた。
「悪いニュースから」
「OK、大統領府から早乙女アルト准尉に対して勲章の授与を検討してたんだけど、作戦中の強引な行動で取りやめになったわ」
(勲章をもらうために飛んでいるわけじゃない)
アルトにとってはどうでもいい情報だった。
「良いニュースは、本日現時刻を以て、早乙女アルト准尉の情報封鎖を解除。もちろん、軍機に関わることはダメだけど、電話するぐらいはできるようになったわ。ご家族やお友達に声を聞かせてあげてね」
アルトは敬礼をした。

いちばん最初は誰に電話しよう。
キャシーとの通話を終えてから、しばし悩んでいた。
「決まっているだろ」
自分を励ますように、ひとりごとを呟く。
(あいつの大切な物を借りたんだ)
しかし、気が重い。やむを得ないこととは言え、宇宙で愛機のVF-25と共に爆散させてしまったのだ。
病室の端末からコールする。
呼び出し音の後、現在電話には出られないとの音声メッセージが流れてきた。
「あー、早乙女アルトだ。今、フロンティアの病院から電話している」
そこでスピーカーからカチとクリック音が聞こえた。
「もしもしっ、アルト?」
シェリルの声がした。いつもより早口だ。
「ああ」
「病院って、どこか怪我でも?」
「いや、検査入院で、どこも怪我してない」
「そうなの…」
スピーカーからの声は安堵の響きを帯びていた。
「イヤリング、お前の幸運のお守りのおかげだなきっと。でも、そのイヤリング……宇宙で無くしてしまった」
「えっ」
「俺、自分の機体を失ってしまって…」
「撃墜?」
「いや、そういうのとはちょっと違うんだが……すまん、約束を守れなかった」
「撃墜じゃなくても、かなりきわどい状況だったのね?」
「あ、ああ。そうだな。詳しいことは、軍事機密になるんで話せないんだが、コンマ一秒以下を争う状況だったんだ」
「私がお守りを貸してあげて正解だったわね。アルトったら、危なっかしいんだもの」
「……すまん」
シェリルのフロンティア・ファースト・ライブでアクロバット飛行の事故でシェリルを舞台から落下させてしまった。危ういところで、アルト自身が空中で受け止めたが、シェリルの機転で演出のように見せかけることに成功した。
それを思い出して、アルトはぐうの音も出ない。
「でも、約束は約束よ。破ったんだから、アルトは私の奴隷になりなさい」
「なっ…」
「次に会う時が楽しみだわ」
「ちょっと待て、シェリルっ…」
そこで通話が切られた。
ため息をつくアルト。

シェリルの部屋。
携帯端末の切ボタンを押したシェリルは、ソファに深くこしかけて天井を見上げた。
あふれる涙が頬を濡らしている。
電話を切ったのは、これ以上話したら泣いているのをアルトに気取られそうだったから。
(良かった……無事だった……)
右の耳に残ったイヤリングに触れる。
(ありがとう。守ってくれて)
シェリルは顔も知らない母に向かって、心の底から感謝した。


★あとがき★
7話と8話の間のお話です。
アルトシェリルにイヤリングを喪失したことを報告するシーンが本編では削られているのが、非常にもったいない気がしました。
そこで、妄想で補完することに^^

2008.06.08 


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