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(承前)

バトルフロンティアへ帰投した第4中隊を待っていたのは、見慣れぬ顔の一団だった。
大尉の階級章を着けた将校と、付き従う陸戦装備の兵士たちが数名。
VF-171EXが格納庫へ納められると、大尉が呼びかけた。
「早乙女アルト少尉、ルカ・アンジェローニ主任、同行願う」
格納庫にいるパイロットや整備兵たちが見守る中、二人は、兵士たちに取り囲まれるようにして格納庫を出た。背筋を伸ばし、堂々とした足取りだ。
「おい、今の憲兵だぞ」
マルヤマ准尉が言った。
「SMSが脱走したんだ。事情聴取ぐらいはされるだろう」
ジュン准尉は、ことさらに平静さを装って言った。
「どうなるんだ。ランカちゃんも歌わないとか言ってただろ? 昼間の式典で」
昼間の式典とは、フロンティア大統領府が主催した慰霊式の事だ。
故ハワード・グラス大統領がバジュラ襲撃の混乱の最中に死亡し、その後を継いだレオン三島臨時大統領がフロンティア市民へ向けて、事態の鎮静化をアピールする場だった。
しかし、その場で鎮魂の歌を披露する筈だった希望の歌姫ランカ・リーは、カメラの前で泣き崩れ、これ以上歌わないと明言してしまった。
マスコミの反応は、衝撃的な事態に打ちのめされたランカ、と言うような同情的な表現が目立っていたが、フロンティア市民に不吉な印象を与えてしまった感は否めない。
「どうもならないさ。僕達の仕事は変わらない」
ジュンの単調な言葉に、マルヤマは反駁しようと口を開いたが、結局何も言わずに閉じた。

訓練のため、第4中隊のメンバーがブリーフィングルームに集まると、中隊長からの報告があった。
「これまでSMSからの出向と言う形で来ていた早乙女アルト少尉は、正式に新統合軍へと編入され中尉に昇進した、以後、第4小隊の小隊長となる。コールサインはサジタリウス1。ルカ・アンジェローニ主任も、軍属として共に闘う」
挨拶のために立ち上がったアルトは無表情のままに、よろしく、と頭を下げた。それから、サジタリウス小隊の僚機となるジュンマルヤマに向ってついてきてくれるように、自分もそれに全力で応えると抱負を語った。
格納庫では、SMS仕様のままのパイロットスーツを着用しているアルトは、周囲から微妙に浮き上がっていた。
「仲間を売って、昇進したのかい?」
どこからか揶揄が聞こえた。
アルトは振り返ったが、発言者が誰かは判らない。
少しだけ周囲を見渡してから、何事も無かったかのように自分の仕事に意識を向ける。
アルトしょ…中尉」
マルヤマが恐る恐る話しかけた。
「なんだ?」
アルトが振り返る。
無表情のままだったが、マルヤマは刃物の切っ先を突きつけられたような緊張感に掌が汗をかいているのを自覚した。
それでも勇気を奮って尋ねた。今、聞いておかなくてはならない。
「何があったんスか? 憲兵に尋問されたんスか?」
「任務遂行に関係ない質問は受け付けない」
アルトの返事は取り付くしまもなかった。
「関係ありまス。こんなんじゃ、訓練にも集中できません」
「集中しろ。それがお前の仕事だ」
マルヤマはカッとなった。アルトの胸倉を掴む。
「もっと信用してくださいよ、俺達を!」
その声に周囲の動きが止まった。
「そりゃ、空での腕は中尉のが、ずーっと上っスよ。敵わないっス。でも、俺だって、俺達だって戦ってるっス!」
アルトは無表情のまま、胸倉を掴んだ手を外すと、マルヤマの顎に掌底を叩き込んだ。
綺麗に決まった打撃にグラリとよろめいて、尻餅をつくマルヤマ。しかし、挑戦的な眼差しは、アルトにひたと据えられたままだった。
「終わったら、話す。ジュンも一緒に。訓練には集中しろ」

アイランド1内、軍人向けレクリエーション施設内にある喫茶店。
アクティブ遮音システムを作動させてから、アルトが切り出した。
「これは軍機に触れる内容だ。貴様達を信頼して話す。他言は無用だ。あの夜、SMSの秘匿回線でメッセージが届いた」
コーヒーを一口飲んで、アルトが話し始めた。
「大統領府に不審な動きがある、と書き出してあった。具体的には、ギャラクシー残存部隊の動きと、大統領府側が影で連動している。真意を確かめるために、フロンティア船団から離脱し、独自行動をとる、と」
「不審な動きって、具体的には?」
ジュンが尋ねた。
「ギャラクシー船団の生き残りって触れ込みのブレラ・スターン少佐……惑星ガリア4から飛び立ったバジュラ艦隊とフロンティア船団の遭遇戦の時に、フロンティア側で戦ったが、それ以前から船団の周囲で出没していた。一度ならず俺と交戦したんだ」
マルヤマは息を呑んだ。
「それって……報告はしているっスよね?」
「当たり前だ。ガンカメラの映像つきでレポートを上げている。艦隊司令部にもだ。それが、今じゃしゃあしゃあと味方でござい、って顔をしている」
「うーん、確かに釈然としませんね」
ジュンも、マルヤマと顔を合わせた。
「アイモ記念日の戦いで行方不明になっていたオズマ少佐が、マクロス・クォーターと合流したし、何か俺達の知らない所で事態が動いている。それは確かだ」
アルトは心の中で付け加えた。
(ランカにも置いていかれたしな)
ブレラのVF-27に乗り込んで、アイランド1の天蓋エアロックから外宇宙へと飛び出していったランカ。今は、どこに居るのだろう。
アルトの言葉に、マルヤマが付け足した。
「しかも、バジュラとの戦いに慎重派だったグラス大統領が死んで、主戦派の三島が臨時大統領に就任しているっス。偶然かも知れないけど、タイミングが…」
マルヤマは、出来すぎているという言葉を飲み込んだ。
アルトの視線はテーブルの上に注がれた。
「じゃあ、なんでアルト中尉は、それにアンジェローニ主任も……フロンティアに?」
「俺はフロンティアを守ると誓った。最後まで守ると。ルカも大勢の家族がいるしな」
ジュンは、アルトの誓いは誰に向けられたものだろう、と思った。
「ツラいっスね」
マルヤマがポツリと言った。
「え」
アルトは虚を突かれた。
「だって、オズマ少佐、アルト中尉の上官だったんしょ? 軍でも、歴戦のエースパイロット、頼りになる男として有名っス。その人に銃を向けて……」
「俺だけが辛いんじゃない。こうしている間にも死にゆく人、その人を看取るだけで何もできないでいる人が居る」
アルトの口調は静かだったが、断固とした覚悟を感じさせた。
ジュンは、マクロス・クォーター追撃戦でのオズマとの舌戦を思い出し、アルトが守ると誓った相手は恋人に違いない、と確信した。

一般の商業活動が停止された今、買い物好きの庶民の楽しみはガレージセールだ。
アイランド1の地下街区では、あちこちで不用品を並べ、物々交換している人たちがいる。
非番のマルヤマとジュンは連れ立って、露店を冷やかしていった。
「お目当ては何だい?」
ジュンの質問にマルヤマはウキウキとした調子で答えた。
シェリルグッズ。こないだなんか、ライブ会場でしか手に入らない特典ディスクがあってさー、配給切符と交換で買ったんだ」
「へぇ」
「ジュンは、何探してんだ?」
「別に、単に気分転換……あ」
「どうした?」
マルヤマがジュンの見ている先に視線を向けると、目立つ立ち姿。
アルトがいる。ジャケットにジーンズ姿と服装は平凡な組み合わせだったが、長い黒髪と背筋がまっすぐ伸びている様子は、人目を引く。肩に大きなトートバッグを下げているところを見ると、買い出しらしい。
「ア……」
呼びかけようとしたところで、マルヤマは言葉に詰まった。
「どうした?」
ジュンにも、その原因がわかった。
これもまた、目立つ女性が連れ立っていたのだ。
フードつきのゆったりしたジャージのトップスに、七分丈のスパッツ。フードをかぶっていて、人相は判らないが、遠目で見てもスタイルが良いのが判る。
「邪魔しちゃ悪いな」
ジュンは、そっとしておこうと相棒の肩に手をかけた。
シェリル
マルヤマが呟いた。
「え?」
「あれ、シェリルじゃないか?」
もう一度、ジュンはカップルを見た。
台所用品を買い揃えているようで、大き目の寸胴鍋をアルトが抱えている。
床の上、広げたシートの上にある小物類を良く見ようと女性がかがみこんだ。フードの下から、特徴的な赤みがかったブロンドがこぼれ出る。
「やっぱ、シェリル…」
衝撃で頭の中が真っ白になったマルヤマの手を引いて、アルトたちから離れてゆくジュン。

翌日、定期哨戒任務からフロンティア船団へと帰投するサジタリウス小隊。
ボロボロの船団を目にしたアルトに、マルヤマからの通信が入る。
「隊長、一つ質問があるんですが、いいでスか?」
「言ってみろ」
「隊長がシェリルと付き合ってるってのは、まじスか?」
「い、いきなり何を!?」
慌てたアルトの声にしてやったりと、ほくそ笑むマルヤマ。
「噂ですよぉ。SMSの脱走に加わらなかったのも、そのせいだって」
威厳を保とうと、アルトは重々しく言った。
「プライベートな質問は却下だ。バルキリー乗りのジンクスを知らないのか? 作戦中に女のことで人をからかうと、いきなり撃墜されるという……」
通信機越しの叫び声が聞こえた。
「うわあぁーっ!」
「マルヤマ!?」
何事かと、全周囲を警戒するアルト。
しかし、返ってきたのは、うっとりとした調子の声だ。
シェリルさん……」
「え?」
アイランド1の舷側から突き出した桟橋公園の展望台。
外出時の必需品である、つばの広い帽子を大きく振って、アルトにアピールしているのは、紛れも無くシェリルだった。
「なっ!」
「これはこれは」
ジュンもご馳走様と言わんばかりの合いの手を入れた。
「おぉ! 隊長、後でサインもらってください!」
感激に震えるマルヤマの声。
「はぁ……」
ため息をこぼすアルト。着艦したら、マルヤマの質問攻めが待っているに違いない。

「で、どこで知り合ったんスか?」
シャワールームでも追撃の手を緩めないマルヤマに、アルトは困った。
「顔を合わせたのはファーストライブの時で、俺がスタントのバイトとして入った。それが最初。何を考えたのか、シェリルが美星に転入してクラスメートになった。付き合ってるとか、そんなんじゃなくてだな、級友として、だな」
「でも、お似合いでしたよ。美男美女で」
アルトは、どうやって追求の矛先を逸らそうかと、筋立てを頭の中で組み立てた。
「それにだな、あいつ、ギャラクシー出身だろ? こっちには顔見知りも親戚も居ない。その上、生活能力ゼロだから……」
「なんで、生活能力ゼロって知ってるんスかぁ?」
「いや、普通に話してて、家事とか料理とか、全然知らないって判ったんだよ。お前が考えているような事は無い」
「はっ、なるほど」
マルヤマのニヤニヤ笑いは、止まらない。
シェリルのアパートに行ったら、夕食を作るついでに釘を刺しておかなくては、と思う。
「まあ、サインは交渉しておいてやるから……でも、あんまり期待するなよ。あいつ、サイン嫌いなんだから」
「誠にありがたく、ありまス」
マルヤマは、おどけた敬礼をして追及を止めることにしたらしい。
(今日のところはこれぐらいで勘弁してさしあげますよ)
と言いたげなニヤニヤ笑いに、アルトは軽いため息をついた。
ジュンも笑っている。
出来るだけ、些事でシェリルを煩わせたくない。
(後、どれだけこんな時間を過せるのだろう)
残された時間を心のどこかで常に意識しながら、今夜の献立を考える。
美星学園の同級生の伝手をたどって、今では希少になってしまった生鮮食料品が入手できた。
(思い切り腕を振るってみよう)


★あとがき★
22話の行間を埋めてみました。
マルヤマ、惜しい男を亡くした(ホロリ)。

最近、こんなところを発見しました。
海外の二次創作家さんたちの集まるサイトみたいですね。
中には日本語で執筆されている方も居ます。
機械翻訳便りに、ちょっと覗いてみましょうか。

2009.01.07 


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