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アルトは目覚めた。
まだ周囲は暗い。仄かに発光している時計の文字盤をみると夜明け前だ。
(なんでこんな時間に…)
いぶかしく思っていると、腕の中にその原因がいた。
シェリルが何かをつぶやいている。
「いか…で……いかな…いで」
寝言らしい。昼間のシェリルとは違う、いとけない口調だ。アルトの裸の胸に頬を押し当てている。
アルトはシェリルの体に腕をまわし、そっと、しかし力をこめて抱き寄せた。
「……」
寝言は止まった。かと思うと、瞼がぴくっと動いた。うっすらと眼をあける。
「悪い、起しちまったか」
アルトの囁きに、シェリルは首を横に振った。
「ね……携帯取って」
寝起きのかすれ声で言う。
「自分で取れよ、それぐらい」
「いやよ、手がふさがっているもの」
シェリルの腕はアルトの首に回され、しっかりと抱きついていた。
「ったく……」
アルトは温もりから離れたくないと思いながらも、シェリルの体から手を離した。ベッドサイドのテーブルに置いてある携帯端末を手探りする。
探り当てた携帯を渡すと、シェリルは寝ぼけ眼のままでほほ笑んだ。
「夢の中で、歌ができたの」
アルトの腕の中で、くるりと体の向きを変える。シェリルの背中がアルトの胸にぴったりと押しつけられた。
シェリルは小さく息を吸うと、先ほどとは違う、艶のある声で歌い始めた。
時さえも凍てつく闇の中
銀の翼に乗る
暖かいものを
輝けるものを
軌道の彼方に置き去りにして
手にしたのは剣
戦い傷ついて
得られたものは何?
腕の中に残る
最後のものなりたい
時間と空間の隔たりは
残酷なまでに深遠
祈りさえ届かないスピードで
銀の翼は星座を駆ける
忘れない忘れない
あなたがここにいたことを
忘れない忘れない
あなたと過ごした時間を
私が彼方へ行くその日が来ても
私が彼方へ行くその日が来ても
シェリルの体から、声に合わせて強いビートが伝わってくる。
(体中を使って歌うって、こういうことか……)
腕の中のぬくもりを抱きしめながら感動する。
携帯端末に記録された即興の歌をシェリルは聴いて確かめた。メロディーは平易なもので、誰でも声を合わせて歌えそうなものだった。軽くため息をつく。
「ダメね…」
「ダメって?」
「使えないわ……シェリル・ノームのイメージじゃないもの」
「そうか? 俺は、悪くないと思う」
「そう? でもね、今の時期には発表できない……もっと勢いのいい曲じゃないと」
「バジュラ、か」
「そう」
異質な敵との戦いの時代では、人々を元気づける曲が求められている。
「なんか、もったいないな」
シェリルが再び体の向きを変えて、アルトに向かい合った。
「ふふっ。私を誰だと思っているの? 曲はいくらでも作れるわ。今までもたくさん作って、厳選した曲だけを発表してきたんだから」
「そうなのか……それでも、惜しいな」
「うーん」
シェリルは眉を寄せた。
「そう言われると、どこかに出したくなってくるわ。そうだ、匿名でネットに流したらどうかしら?」
「それでいいのか? それはそれで……」
「ちょっと遊んでみたいの。シェリルの名前抜きで、どこまで広がるかなぁって……」
語尾が不明瞭になったので顔をのぞきこむと、シェリルは再び眠りにおちていた。先ほどとは違って、安らいだ表情でアルトの胸に頬を寄せている。
まだ、夜明け前だ。
もう一眠りしようと、アルトも目を閉じた。
まだ周囲は暗い。仄かに発光している時計の文字盤をみると夜明け前だ。
(なんでこんな時間に…)
いぶかしく思っていると、腕の中にその原因がいた。
シェリルが何かをつぶやいている。
「いか…で……いかな…いで」
寝言らしい。昼間のシェリルとは違う、いとけない口調だ。アルトの裸の胸に頬を押し当てている。
アルトはシェリルの体に腕をまわし、そっと、しかし力をこめて抱き寄せた。
「……」
寝言は止まった。かと思うと、瞼がぴくっと動いた。うっすらと眼をあける。
「悪い、起しちまったか」
アルトの囁きに、シェリルは首を横に振った。
「ね……携帯取って」
寝起きのかすれ声で言う。
「自分で取れよ、それぐらい」
「いやよ、手がふさがっているもの」
シェリルの腕はアルトの首に回され、しっかりと抱きついていた。
「ったく……」
アルトは温もりから離れたくないと思いながらも、シェリルの体から手を離した。ベッドサイドのテーブルに置いてある携帯端末を手探りする。
探り当てた携帯を渡すと、シェリルは寝ぼけ眼のままでほほ笑んだ。
「夢の中で、歌ができたの」
アルトの腕の中で、くるりと体の向きを変える。シェリルの背中がアルトの胸にぴったりと押しつけられた。
シェリルは小さく息を吸うと、先ほどとは違う、艶のある声で歌い始めた。
時さえも凍てつく闇の中
銀の翼に乗る
暖かいものを
輝けるものを
軌道の彼方に置き去りにして
手にしたのは剣
戦い傷ついて
得られたものは何?
腕の中に残る
最後のものなりたい
時間と空間の隔たりは
残酷なまでに深遠
祈りさえ届かないスピードで
銀の翼は星座を駆ける
忘れない忘れない
あなたがここにいたことを
忘れない忘れない
あなたと過ごした時間を
私が彼方へ行くその日が来ても
私が彼方へ行くその日が来ても
シェリルの体から、声に合わせて強いビートが伝わってくる。
(体中を使って歌うって、こういうことか……)
腕の中のぬくもりを抱きしめながら感動する。
携帯端末に記録された即興の歌をシェリルは聴いて確かめた。メロディーは平易なもので、誰でも声を合わせて歌えそうなものだった。軽くため息をつく。
「ダメね…」
「ダメって?」
「使えないわ……シェリル・ノームのイメージじゃないもの」
「そうか? 俺は、悪くないと思う」
「そう? でもね、今の時期には発表できない……もっと勢いのいい曲じゃないと」
「バジュラ、か」
「そう」
異質な敵との戦いの時代では、人々を元気づける曲が求められている。
「なんか、もったいないな」
シェリルが再び体の向きを変えて、アルトに向かい合った。
「ふふっ。私を誰だと思っているの? 曲はいくらでも作れるわ。今までもたくさん作って、厳選した曲だけを発表してきたんだから」
「そうなのか……それでも、惜しいな」
「うーん」
シェリルは眉を寄せた。
「そう言われると、どこかに出したくなってくるわ。そうだ、匿名でネットに流したらどうかしら?」
「それでいいのか? それはそれで……」
「ちょっと遊んでみたいの。シェリルの名前抜きで、どこまで広がるかなぁって……」
語尾が不明瞭になったので顔をのぞきこむと、シェリルは再び眠りにおちていた。先ほどとは違って、安らいだ表情でアルトの胸に頬を寄せている。
まだ、夜明け前だ。
もう一眠りしようと、アルトも目を閉じた。
“銀の翼/曲名。作詞作曲者不詳。遠方へ行く友人・知己との別れの歌として広く知られている。歌詞の「あなた」を名前に置き換えて歌うのが一般的。”
エンサイクロペディカ・ギャラクティカ2200年度版より抜粋
2008.06.04 ▲
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