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珍しくアルトからかけてきたコールだった。
「一応、親父の初孫だしな。報告しておく」
「そうか。分かった」
携帯端末の通話は、それで切れた。
「師匠、何か良い報せでしたか?」
声をかけてきたのは内弟子の一人だ。
「ん?」
十八世早乙女嵐蔵は、自分の顔を手のひらで撫でた。多少、ニヤついているかも知れない。
「孫がな、できた」
早乙女家の所有する稽古場を眺めながら、短く言った。この時間は子役たちが練習している。
アルトに稽古をつけていた頃を思い出しながら、まだ見ぬ孫の面影を重ねて見る。
「それは……おめでとうございます。アルト君の所の?」
「ドラ息子にしては、でかした、と言っていいだろう」
「先生には初のお孫さんですね」
「ん、こうしてはいられないな」
嵐蔵は携帯端末で番号を呼び出した。相手は芝居で使う小道具類を扱っている大松屋。
「もしもし、いつもお世話になっています、早乙女です。ええ、実はたってのお願いがありましてな。五月飾りを作っていただけないかと」
フロンティアには、日系の伝統文化を担う企業や個人商店、家系が乗り組んでいるおかげで、比較的古い風習が保たれている。
電話の向こう、大松屋の若旦那は祝意を表してから、尋ねた。
「で、意匠はどうなさいますか? ええ、お孫さんの初節句ときたら、腕によりをかけますんで。オーソドックスなところですと、判官か、楠公ですかね」
「ううん」
嵐蔵は五月飾りの甲冑のデザインで悩んだ。
「そうですな……宇宙で歌舞伎を演じるご時世だ。何か工夫が欲しい」
「それでしたら、伊達政宗公はいかがですか? 三日月の飾りですからね、天体ですし、宇宙時代にぴったりかと」
「ふむ、しばらく考えさせてください」
「データが残っているものでしたら、信玄や信長、秀吉なんかでもお造りできますんで。ええ……では」
通話を切ったところで、はた、と嵐蔵は思い当った。孫は男と決めつけていたが、アルトは性別までは明言していなかった。
「こうしてはいられん」
次にコールしたのは、浄瑠璃人形の制作・補修を請け負っている工房・村辻堂。
「もしもし、ご無沙汰しております、早乙女です。ええ、実はたってのお願いがありましてな。ひな飾りを作っていただけないかと。もちろん、三人官女も、他のも揃えて」
かくして、嵐蔵の初孫・初節句プロジェクトは、フロンティア船内の伝統工芸家たちを巻き込んで、大々的に始まった。


★あとがき★
アルトと( )が結婚したら……という未来予想図です。
( )の中は、シェリルでもランカでも好きなのをお入れ下さい。
嵐蔵先生、浮足立っておりますw

2008.06.07 


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