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アルトは一人静かに、脚本を読み込んでいた。
「ハイ、アルト」
声に視線を上げると、シェリルの姿。
「何を読んでいるの?」
黙って、脚本の表紙を見せる。
「映画のホン?」
「スタントを引き受けたんだ」
「学生だったり、軍人だったり、忙しいのね。見せて」
シェリルは有無を言わせずアルトから脚本を取り上げて、ページを開いた。
「ふーん、付箋がついているのがアルトの出番ね」
軽やかな動作でアルトの隣に座る。
「なにこれ、キスシーンがあるじゃない」
「えっ」
そこまで脚本を読み進めていなかったアルトは、少し驚いてシェリルの手元を見た。
「相手の女優は誰?」
「ランカ……そうか、それで顔を赤くしてたんだ」
「かわいい」
シェリルはくすっと笑って、顔を赤らめているランカを思い浮かべた。
そして、じろりとアルトの横顔を見る。
「ちゃんと、できるの?」
からかうようなシェリルの声に憮然と答えるアルト。
「できるさ、キスぐらい」
「だめね、判ってないわ」
処置無しとばかりに首を横に振るシェリル。
「何が?」
「心配なのはランカちゃんよ。
アルトは舞台経験もあるし、無神経だから心配してないけど。
ランカちゃんにしてみたら仕事だけど、仮にもアルトとのキスよ。きっとガチガチになるわ」
「俺とランカはなんでもない」
アルトが言い返すと、間髪入れずにシェリルに頬をつねられた。
「アルトの気持ちを聞いてるんじゃなくて、ランカちゃんの気持ちが問題なのよ。
もう、運動神経いいし、顔もいいけど、絶望的なまでに無神経なんだから」
「無神経無神経って連呼するな」
「じゃあ、鈍感って言ってあげるわ。キスって、いろいろあるでしょ?
子供同士の無邪気なキスとか、家族同士のキスとか、初恋の相手とぎこちないキス、大人同士の求め合うキス。
相手の気持ちをわかった上で、引っ込み思案のランカちゃんをリードしてあげないといけないのよ。ただ、唇をくっつければいい、って言う訳にはいかないわ」
「くっ…」
アルトは唸った。
(そう言えば、親父に怒鳴られたことがあったな。舞台は自分一人で成り立ってるんじゃない。もっと相方の動きを見ろって…)
「ようやく分かってきたみたいね」
シェリルは微笑んでアルトの顔を見た。指導教官のように、重々しく言い渡す。
「練習しなさい」
「練習って……」
「ここに練習相手がいるわよ、銀河で最高の」
「!……お前、マジかよ?」
「お仕事の話は、いつだって真面目よ。ほら」
シェリルが顔をアルトに向け、瞼を閉じた。
アルトは、手の込んだやり方でからかわれているんじゃないかと一瞬いぶかったが、つややかな唇に引き寄せられるように目を閉じて口づけた。
「…ん」
吐息が妖精の唇から漏れる。
しっとりとした柔らかい肌。
甘い香り。
アルトは、ためらいがちに唇を離した。
「今のキスは、どんなキス?」
うっすらと瞼を開いたシェリルの声は、いつも以上に体の深い場所に響く。
「ファーストキス、かな」
「ふふっ、いいわ、合格にしてあげる。じゃ、次は家族同士の挨拶のキス」
指示されると、かつて舞台の上で味わった緊張感を思い出した。
想像力をかき立て、今までの経験の中からふさわしいシーンを頭に思い描く。
朝のダイニング。朝食を食べて、行ってきますのキス。
アルトは心持ち上体を離した。首だけをのばして、唇を合わせ、すぐに離す。
「……さすがに役に入り込むのが早いわ」
批評するシェリルの頬が上気している。
「次はどんなシチュエーションにしようかしら?」
「大人のキス」
短くつぶやいて、アルトは手を延ばしシェリルの細い腰を抱き寄せた。
「…っ」
驚きの声を上げようとする唇を唇で塞ぐ。
シェリルの手のひらがアルトの胸に当てられ、反射的に突き放そうとする。
その力に逆らって、唇を合わせながら顔の角度を変えて、濃厚な口づけを求める。
「あ…」
くぐもった声を漏らしたシェリルの唇。その隙間に舌を滑り込ませる。
舌先がシェリルの舌に触れると、一瞬シェリルの体が固くなる。
固くなった体がほどけたと思ったら、シェリルは腕をアルトの首にまわして引き寄せた。
「……んんぅっ」
積極的に舌を絡め始めるシェリル。
胸を合わせ、ため息と温もりを交換する。
どれほどの時間が過ぎただろうか。
どちらからともなく唇を離して、見つめ合う。
「今日は…ここまで……よ」
息をわずかに弾ませてシェリルが告げた。
「合格か?」
アルトの言葉に、シェリルは立ち上がってから少しだけ振り返った。
「ナイショ」
そしてその場を後にした。。
アルトから見えなくなったところで、そっと指で唇に触れる。
微笑みの形になっていた。
「お先に、ランカちゃん」
「ハイ、アルト」
声に視線を上げると、シェリルの姿。
「何を読んでいるの?」
黙って、脚本の表紙を見せる。
「映画のホン?」
「スタントを引き受けたんだ」
「学生だったり、軍人だったり、忙しいのね。見せて」
シェリルは有無を言わせずアルトから脚本を取り上げて、ページを開いた。
「ふーん、付箋がついているのがアルトの出番ね」
軽やかな動作でアルトの隣に座る。
「なにこれ、キスシーンがあるじゃない」
「えっ」
そこまで脚本を読み進めていなかったアルトは、少し驚いてシェリルの手元を見た。
「相手の女優は誰?」
「ランカ……そうか、それで顔を赤くしてたんだ」
「かわいい」
シェリルはくすっと笑って、顔を赤らめているランカを思い浮かべた。
そして、じろりとアルトの横顔を見る。
「ちゃんと、できるの?」
からかうようなシェリルの声に憮然と答えるアルト。
「できるさ、キスぐらい」
「だめね、判ってないわ」
処置無しとばかりに首を横に振るシェリル。
「何が?」
「心配なのはランカちゃんよ。
アルトは舞台経験もあるし、無神経だから心配してないけど。
ランカちゃんにしてみたら仕事だけど、仮にもアルトとのキスよ。きっとガチガチになるわ」
「俺とランカはなんでもない」
アルトが言い返すと、間髪入れずにシェリルに頬をつねられた。
「アルトの気持ちを聞いてるんじゃなくて、ランカちゃんの気持ちが問題なのよ。
もう、運動神経いいし、顔もいいけど、絶望的なまでに無神経なんだから」
「無神経無神経って連呼するな」
「じゃあ、鈍感って言ってあげるわ。キスって、いろいろあるでしょ?
子供同士の無邪気なキスとか、家族同士のキスとか、初恋の相手とぎこちないキス、大人同士の求め合うキス。
相手の気持ちをわかった上で、引っ込み思案のランカちゃんをリードしてあげないといけないのよ。ただ、唇をくっつければいい、って言う訳にはいかないわ」
「くっ…」
アルトは唸った。
(そう言えば、親父に怒鳴られたことがあったな。舞台は自分一人で成り立ってるんじゃない。もっと相方の動きを見ろって…)
「ようやく分かってきたみたいね」
シェリルは微笑んでアルトの顔を見た。指導教官のように、重々しく言い渡す。
「練習しなさい」
「練習って……」
「ここに練習相手がいるわよ、銀河で最高の」
「!……お前、マジかよ?」
「お仕事の話は、いつだって真面目よ。ほら」
シェリルが顔をアルトに向け、瞼を閉じた。
アルトは、手の込んだやり方でからかわれているんじゃないかと一瞬いぶかったが、つややかな唇に引き寄せられるように目を閉じて口づけた。
「…ん」
吐息が妖精の唇から漏れる。
しっとりとした柔らかい肌。
甘い香り。
アルトは、ためらいがちに唇を離した。
「今のキスは、どんなキス?」
うっすらと瞼を開いたシェリルの声は、いつも以上に体の深い場所に響く。
「ファーストキス、かな」
「ふふっ、いいわ、合格にしてあげる。じゃ、次は家族同士の挨拶のキス」
指示されると、かつて舞台の上で味わった緊張感を思い出した。
想像力をかき立て、今までの経験の中からふさわしいシーンを頭に思い描く。
朝のダイニング。朝食を食べて、行ってきますのキス。
アルトは心持ち上体を離した。首だけをのばして、唇を合わせ、すぐに離す。
「……さすがに役に入り込むのが早いわ」
批評するシェリルの頬が上気している。
「次はどんなシチュエーションにしようかしら?」
「大人のキス」
短くつぶやいて、アルトは手を延ばしシェリルの細い腰を抱き寄せた。
「…っ」
驚きの声を上げようとする唇を唇で塞ぐ。
シェリルの手のひらがアルトの胸に当てられ、反射的に突き放そうとする。
その力に逆らって、唇を合わせながら顔の角度を変えて、濃厚な口づけを求める。
「あ…」
くぐもった声を漏らしたシェリルの唇。その隙間に舌を滑り込ませる。
舌先がシェリルの舌に触れると、一瞬シェリルの体が固くなる。
固くなった体がほどけたと思ったら、シェリルは腕をアルトの首にまわして引き寄せた。
「……んんぅっ」
積極的に舌を絡め始めるシェリル。
胸を合わせ、ため息と温もりを交換する。
どれほどの時間が過ぎただろうか。
どちらからともなく唇を離して、見つめ合う。
「今日は…ここまで……よ」
息をわずかに弾ませてシェリルが告げた。
「合格か?」
アルトの言葉に、シェリルは立ち上がってから少しだけ振り返った。
「ナイショ」
そしてその場を後にした。。
アルトから見えなくなったところで、そっと指で唇に触れる。
微笑みの形になっていた。
「お先に、ランカちゃん」
★あとがき★
2chのキャラクター個別掲示板・シェリルのスレッドで、「やきもちをやいているシェリルが見たい」との書き込みがあって、書いてみました。
女王様らしく、相手に恩を着せながらキスさせるところがポイントです^^
雑誌に掲載されていた10話の予告を見て、こんなシーンがあったらな、という妄想が私の物書きスイッチをONにしたようです。
実際の10話を見たのですが、予想は、けっこういいセン行ってたと思います。筆者が、それだけアルトとシェリルのキャラクターを把握できてる証明、だといいなぁ。
2008.05.13 ▲
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