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放課後の屋上。
シェリルさん、教えてください」
「なぁに? ランカちゃん」
ランカはありったけの勇気を振り絞って言った。
アルト君のこと、どう思っているんですか?」
シェリルは一瞬だけ目を見開いた。その目が微笑みに変わる。
「そうね……無意味に偉そうで、ムカつく男。でも、期待している答えは、これじゃないわね?」
「友達なんですか? それとも……」
「好きよ」
シェリルはきっぱりと言い切った。
その勢いの良さに、にランカは姿勢を正した。
「ムカつくのに?」
「そう。いつもケンカばっかりしているけど……私って変かしら?」
「変じゃないです。ケンカするほど仲がいいって言いますから」
「そうね」
頷いたシェリルの目もとに、寂しげな色が漂った。
シェリルは自分の言葉で、シェリル自身がどれだけ孤独な場所にいるのかを気づかされた。
現在の場所に上り詰めてから、アルトの他にはケンカする相手さえ居ない。
そして、孤独の影を振り切るように、シェリルはランカの瞳をまっすぐに見た。
「あなたは私のライバル?」
言葉は質問の形だったが、意味は断定だった。
ランカは黙っていた。
「苦労するわよ、ものすごく鈍感だから」
「鈍感なんかじゃないです」
ランカは言い返した。
「知ってるわ」
シェリルは頷いた。
二人とも、アルトの心に隠された傷を知っている。
「勝てるものなんて何一つ持ってないけど、これだけは負けません」
ランカの言葉は宣戦布告。
「相手がランカで良かった」
シェリルはランカの横を通り過ぎながら言った。
「どんな結果になったとしても私たちには歌があるわ。歌がある限り、あなたと私の絆は切れない……自分でも上手く説明できないけど、それが嬉しい」
ランカはシェリルの背中を見送った。
「手加減なしで行くわ」
「負けません」

その夜、ランカは作戦を立てた。
(敵を知り、己を知れば百戦危うからず……だっけ?)
携帯君を手にとりアルトの番号を呼び出す。
どうやって話を切り出そうか、頭の中でシミュレーションする。
深呼吸一つするとコールボタンを押した。
「はい…」
アルトはすぐに電話に出た。
「こんばんは、アルト君。芸能科にいた時、演劇概論とってた?」
事前に想定したシナリオどおりの言葉を一気にしゃべった。
「ああ、あれは芸能科だと必修だろ?」
アルトは担当講師の名前と顔を思い出した。歌舞伎ファンで、何かというとアルトに話をふってきたので、うっとうしい授業だった。
「今日の授業で、ええとなんだっけ? ……チ、チカマトゥ?」
ここまで筋書きどおり話を進めてきたのに、度忘れした。ランカは焦った。
「近松門左衛門だろ? 曾根崎心中でも出たか」
「そ、そう。それそれ」
ランカはほっとした。アルトのおかげで、事前のシナリオに戻れた。
「あの話、いまいちピンとこないんだ。なんで二人は死ぬことを選んだの?」
「正直、俺にも判らない。逃げちまえばいいんだ」
「アルト君もそう思う?」
「ああ、心中モノって好きにはなれない。心中は自殺が二つじゃなくて、殺人が二つだ」
「あ、同じこと考えてた」
「芝居だと美しく演出しているけどな」
アルトの脳裏に曾根崎心中・天神森の段の一節が浮かんだ。
(この世の名残、夜も名残。死にに往く身をたとふれば、あだしが原の道の霜。ひと足づつに消えてゆく。夢の夢こそ哀れなれ……やっぱり歌舞伎は嫌いになれないな)
「ずーっと一緒に居たい気持ちはよく判るよ」
「まあな。でも、その気持ちをこえて、離れていても思いが通じる方が好きだな」
ランカは心の中でガッツポーズを作った。
(やったー! アルト君に恋バナさせるのに成功!)
名付けて『授業の話にかこつけて恋バナに引きずり込もう作戦』は佳境に入りつつあった。

シェリルは作戦を立てた。
「敵を知り、己を知れば百戦危うからずって言うものね」
シェリルの部屋には、どこから運び込まれたのかホワイトボードが設置されていた。
「この私、シェリル・ノームに関しては知り尽くしているから、敵を調べないと」
ボードの上には、アルトに関連する報道やゴシップ、果てはネット内の匿名掲示板の書き込みまでが、ハードコピーの形で張り付けられている。
また、アルトに関係する人物の画像・情報も張り出され、本格的なソシオグラム(人物関係図)が完成していた。
もちろん、情報の大半はグレイスが検索能力を駆使して集めたものだった。
「ちょっと、おとな気無いんじゃありません?」
かたわらのグレイスが苦笑気味に言った。
ホワイトボードの周りは、昔の刑事ドラマに出てくる捜査本部のようだった。
「ライオンはウサギを狩るのにも全力を尽くすの」
グレイスの頭の中でウサギ姿のランカがネコ耳をつけたシェリルに追いまわされるマンガが思い浮かんだ。
「やっぱり、狙いはここね!」
シェリルの手入れが行き届いたネイルがびしっと指し示したのは十八世早乙女嵐蔵の写真だった。
「名付けて、アルトとお父さんを和解させてポイントを挙げよう作戦!」
そんな回りくどいことをしなくても……グレイスは軽いため息をついた。

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2008.05.28 
美星学園芸能科の講師陣が出した課題は好きな曲のプロモーションビデオを制作せよ、というものだった。
使用曲は既存のものでも良いし、自作曲でもかまわない。
「いくわよ、アルト!」
「何でお前が張り切ってるんだ。航宙科なのに」
EXギアのトランクと撮影機材の入った自走コンテナを引きずりながらアルトがボヤいた。
先頭を行くシェリルが振り返った。
「一度、撮られる側から撮る側に回ってみたかったの。それに友達の課題を手伝うのも素敵じゃない」
シェリルの傍らでランカが表情を明るくした。
シェリルさん…ありがとうございます!」
「いいのよ。学校じゃ、お友達」
場所はフロンティア船団の農業リゾート艦・イーハトーヴ。
緑深い森の中の道を行く三人組。
課題を出されているのは芸能科所属のランカ
プロモーションビデオの監督兼カメラマンのシェリル
アルトは荷物持ち兼空撮担当。
「なんで俺まで引っ張り出すんだ。シェリルもEXギア手に入れたんだろ?」
「ご、ゴメンね、アルト君」
ランカが謝った。
ランカが悪いんじゃない。友達だからな、頼まれたら課題を手伝うぐらいはいいんだ」
「友達……」
ランカは繰り返した。素直に嬉しくもあり、ちょっぴり寂しくもある言葉。
「問題は、俺もお前もいつの間にかあいつに振り回されていることだ」
シェリルは澄ました顔で返事した。
「今日の私は監督だから、女優と連携がとりやすいように地上にいる必要があるの」
シェリルとアルト美星学園の制服、本日の主演たるランカは白いサマードレスに麦わら帽子、編み上げのサンダルという組み合わせ。
夜の内に降った人工降雨のおかげで、午前中の光の中、空気は澄み渡り、木々や草花はみずみずしさを増していた。
絶好の撮影コンディションと言えるだろう。
「この道の先に草原と丘、湖があるはずよ」
シェリルは携帯端末の画面に地図を表示させた。
その時、強い風が吹いた。ざぁっと葉擦れの音がして、大粒の水滴が大量に降ってきた。時間こそ短いが、スコールのようだ。
「きゃぁ!」
「ヤダ!」
ランカとシェリルが同時に悲鳴をあげた。
頭上を覆う大木の葉に昨夜の雨が残っていたようだ。
びしょ濡れになってしまう。
「大丈夫か?」
二人に遅れていたアルトは濡れずに済んだ。
「もう、油断できないわねっ」
シェリルは額に張り付いた髪をかきあげてアルトを見た。服が乾いているのを見てとると、アルトに向かって手のひらを上にして手を差し出した。
「なっ?……ああ、そうかよ」
アルトは諦め顔で制服のシャツを脱ぐ。

「覗いたらどうなるか判っているわね?」
シェリルが凄みきかせて言ってから、濡れた服を茂みの向うから投げてよこした。
「心配すんな」
上半身裸のアルトは服を受け止めると、手ごろな枝にそれをかけた。EXギアのパワーパックから炎を噴き出させ温風で乾かす。
「ゴメンね、アルト君」
ランカも服を投げてよこした。
「俺のパワーパックは乾燥機かよ」
ランカと初めて会った時のことを思い出した。

茂みの向うでは男子制服のシャツを下着の上に直接まとっているシェリルに、アルトが下着代わりに着ていたタンクトップを着ているランカがいた。
二人とも素足が大胆に見えている。
「シェリルさん、すごく……」
ランカがシェリルの姿を見て、頬を染めた。
「なあに、すごく…何なのかしら?」
シェリルは太い木の根に座って足をぶらぶらさせている。
「その……すっごくセクシーです」
女性としては長身のシェリルがアルトのシャツを着ると、男性にとってある種の夢を具現化したようなものだ。
「ああ、そうね、この格好。こういうのも面白いかも」
シェリルは立ち上がって、くるりと回って見せた。
「私、ずーっと歌のお仕事ばっかりだったから、グラビア撮影みたいなのも興味は、あったのよね」
こうかしら、と言いながら胸のボタンを一つ二つ外して、ランカに向けて前屈みになって見せた。
「わぁ……」
ランカはオズマが持っている雑誌のグラビアページを思い出した。シャツの合わせ目から胸の谷間がのぞく。
「ランカちゃんも、ポーズとってみて」
「ええっ……えーと、こう、ですか?」
木の幹に寄り掛かり、右足の足裏を木につけて、膝を上げる。タンクトップの裾がずり上がる。
「素敵だわ、男のハート揺らしまくりよ!」

「何やってんだ」
茂みの向こうが賑やかなのが、気になるアルト。

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2008.05.24 
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